第46話 爛漫
「それでは副将戦を始める!」
審判の声に、メグが立ち上がる。
「じゃあ行ってこようかなー!みんな、応援しててね!」
「メグ、本当に気をつけて下さいね?」
ケントは今までの第四学院の戦いぶりから、心からメグを心配していた。
メグは能天気なところがあるので、そこを相手に突かれないか気掛かりなのだ。
「大丈夫大丈夫!すぐに終わらせて帰ってくるよ!」
「心配ですね…。相手に近づいてもいけないんですからね?」
「わかってるってば!ケントは心配しすぎだよ?
でも…わかった!じゃあホントにすぐ終わらせてくるよ!」
そう言うと、タタタッと走ってフィールド中央に立った。
やはりメグは人気らしく、第六学院大将のマテウスと比べても歓声の大きさに遜色が無い。
しかし対戦相手のマリソンはそんな声を浴びても一向に気にしない素振りを見せていた。
「両者、礼!」
礼をした2人は、そのまま距離を取って戦闘体制に入った。
「両者離れて!
始め!!」
お決まりの号令で副将戦が始まった。
メグは今大会の緒戦だ。
観衆は固唾を飲んで彼女の動向を見守ったが、数瞬後には呆気に取られて空を見上げた。
途方に暮れるほど巨大な石像が、メグの眼前に突如現れたのだ。
「ちょちょ、なにこれ!?」
第四学院副将のマリソンも、流石にこれには慌てたようだ。
「ケントに約束しちゃったからねー!行くよー!」
メグの声に呼応するように、巨大な石像が動き出した。
その巨躯にはそぐわない流麗な動きでマリソンに接近し、いわゆるサッカーボールキックを繰り出す。
マリソンは慌ててそれを避けたが、直撃は避けられたものの風圧で吹き飛ばされた。
「うわあああ!!!!」
「あれ?外れちゃった!」
何故か石像と同じく脚を振り抜いた体勢のメグが、次は逃すまいと次の攻撃に移る。
「じゃあ…これでどうだ!」
メグは足元を駆け回る蛙を捕らえるような動きで、地面に両手から飛び込んだ。
石像もコミカルに全く同じ動きをし、その両手にはマリソンをしっかりと捕らえた。
「ふふん、つかまえたよー!それ!たかいたかーい!」
メグが両手を天に突き上げた。
マリソンは哀れにも、石像により天高く投げ飛ばされる。
暫くして落下してきたマリソンを、メグが魔法で大きな泡を作り出し受け止めた。
「おかえりー!
じゃあ次は…あれ?」
魔法で作られた泡の中で、マリソンは股間を濡らし、気絶していた。
「……だ、第一学院の勝利!
3勝した為、第二回戦第二試合は、第一学院の勝利とする!!」
審判もコールを躊躇うような圧勝劇で、第二回戦は幕を閉じたのであった。
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メグはフィールド中央から戻りケントの前に来ると、両足を揃えて後ろで両手を組み、上目遣いに声を掛けてきた。
「ケント!すぐ終わらせたよ!」
「は、はあ。メグが無事で何よりです。」
ケントはまだ先程の試合の衝撃から立ち直っていなかった。
「なにそれー?ケントが心配だって言うからいきなり秘密兵器出したのにー!」
「ひ、秘密兵器ですか。あんなものいつから練習していたのですか?」
「ちっちゃい頃にね、ママが読んでくれた本の中にああいうおっきいのが出てきたの!この間ケントが入ってきた時に思い出して作ってみた!」
メグは胸を張り究極のドヤ顔を決めた。ケントはドヤ顔という概念は知らないものの、姉の様子を見て幼い頃の事を思い出していた。
「メグはやはり天才ですね。あんなものを作ろうとは、思った事もありませんでした。」
「えへへ!メグちゃん大勝利!!」
「すごいすごい。メグは本当にすごいですね。」
可愛らしくピースをするメグの頭を、ケントが撫でた。
メグは気持ち良さそうにしながら、満面の笑みだ。
「メグ、良くやった。」
「お兄ちゃん!えへへ…」
そこに、ジョンも加わった。
「これで決勝進出だ。ようやく…ようやくマテウスと決着をつけられる。」
ジョンは静かに闘志を燃やしながら、ケントに代わりメグの頭を力強く撫でた。
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「我が子たちは立派に育ったね。
誇らしいよ。」
「そうね!流石はドリスの子!
それにみんな強いわ!」
観客席で見守るドリスとマリーナは、瞳に涙を浮かべていた。
今日の試合ではジョンの出番は無かったものの、ケントは初出場にも関わらず大活躍し、メグは見た事も無い魔法で相手を圧倒した。
しかしそれ以上に2人を喜ばせたのは、今フィールドの端で集まっている、3人の子供たちの様子であった。
「あの子達は本当に仲が良いわね。小さな頃から変わらない。」
「ああ。兄妹仲良く健やかに過ごしてくれている。親としてこれ以上に喜ばしい事はない。」
「ホントね。あ!ジョン!あなた撫でるの強すぎよ!メグの頭が取れちゃう!!」
マリーナの声にドリスが目をやると、何か考え事をしながらメグの頭を撫でるジョンに、メグの身体が左右に揺れており、ケントがその横から慌てた様子で何か声を掛けていた。
「ハハハ、元気過ぎるのも考えものだね…。」
こうして両親も見守る中、第一学院はなんとか無事に翌日に控える決勝戦に、駒を進める事が出来たのであった。
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