第41話 擬態

(マテウス…恐ろしい人ですね。圧勝とはこういう事を言うのでしょう。相手の方は気の毒ですが、何もさせてもらえませんでしたね。ん?)


ケントが第六学院の選手達に目をやると、何やら揉めているようだ。


ケントは当たり前のように聴覚を強化した。ケント曰くダンボの魔法だ。



「マテウス!まずは色々調整をしなさいって言ったでしょ!」


「対戦相手に失礼だ。俺はどんな時も全力で相手に当たる。」


「にしても限度があるでしょう!下手したら対抗戦の最速記録じゃない!」


「む…しかし俺は…」


「言い訳しない!私達はなんで順番を譲ってもらったのよ!」


「それは…明日の決勝戦に向けての調整の為だ。」


「そう!なのに一瞬で倒してどうするのよ!それだったらチェンバロとグライザが出ても一緒じゃない!」


「う…それは…そうだな。すまない。」


「まったく。天下のマテウス様が聞いて呆れるわよ。私がいなきゃ何もできないんだから。」


「そうだな。いつもありがとう、ナンナ。」


「んなっ!ま、まあ、今回はこの辺で許してあげるわよ!フフッ」


なんだかこれ以上はプライバシーの侵害に当たるような気がしたケントは、聴覚の強化を解いた。


(しかし、直ぐに決着してしまったので弱点という弱点を見つけられませんでしたね。そういう意味ではマテウスもあながち間違いでは無いんですが…)


マテウスとナンナの関係性は意外であったが、それはそれとして対策を練るケントであった。



————————————————



午前中に試合を行なっている両チームのためインターバルを置き、いよいよ第二回戦第二試合が始まろうとしていた。


(さて。第六学院の事ばかり考えていられませんね。まずは第四学院に集中しなければ。)


「今回は順番を入れ替える。

先鋒フリック、次鋒キーン、中堅ケント、副将メグ、大将ジョンじゃ。

相手は第四学院、危険な相手じゃ。

気を抜くでないぞ。」


ベアムース学院長の言葉に、この時ばかりは珍しく、メグも含め5人とも真剣な面持ちで頷いた。


「まずは僕が先陣を切るよ。メグ様、しっかりと僕の勇姿を見ていて下さいね!」


「うん!頑張ってね、フリック!」


メグはいつもの調子だ。


「さて、では行ってくるかな。」


フリックはそう言うと、颯爽とフィールド中央へと向かう。


フィールド中央で相手と向かい合うと、審判の号令で礼をしたところで対戦相手のジャカがフリックへと歩み寄った。


「フリックさん、宜しくお願いします。貴方のような有名な魔法使いと試合できるなんて、光栄です。」


一回戦において大魔法で相手を吹き飛ばしたとは思えないような笑顔でフリックに握手を求めて来た。


「いやいや、ジャカ君もなかなかの魔法使いじゃないか。今日は宜しく頼むよ。」


フリックは満更でもない顔をしながら握手に応じた。


「それでは、両者離れて。始め!」


審判の号令で第一試合が開始された。




序盤は戦前の予想通り、魔法使い同士で戦う場合ののセオリー通りに進んだ。


両者細かい動きを見せながら、相手との距離を取って小魔法での応酬が続いている。


しかし若干フリックが優勢だ。


フリックの方が魔法発動までの所要時間が短く、小手調べの応酬の中とはいえ、徐々にジャカを追い詰めていった。




そんな応酬の中、ジャカが突然大きく後退し、詠唱の構えを取った。


フリックは素早く動きながら大魔法を警戒する動きを見せている。


ジャカはフリックの動きを横目に、大魔法の詠唱を開始した。


「天から降り注ぐ陽の光よ、我が力となりて…」


その隙を狙っていたフリックが、接近して右掌をジャカに向ける。


「この時を待っていたんだ!隙だらけだよ!」


これで決着だと、誰もが思ったその時。




しかし、フリックは右掌を向けた状態で止まってしまった。


「なぜ…ッ!?」


「フリックさん!!」


「ケント…ッ!?」


ケントが珍しく泡を食ってフリックの名を呼んだ。


「…我が敵を討ち滅ぼせ!

 キヒヒ。あばよ。」


そう言うと、その場を離脱した。

大魔法の詠唱が完了したのだ。




頭上からはオレンジ色をしたとてつもない大きさと熱量の火球が落ちてきている。


フリックも逃れようとするが、足がもつれて上手く逃げられない。

ギリギリ逃げ切れるかどうかだ。



そして遂に、火球は地面へと着弾した。

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