第38話 混沌
「ようやった!ようやったぞ!」
ベアムースが歓迎してくれた。
「今年はいけそうじゃな。」
「ええ。俺は何もしてませんが。」
ベアムースとジョンの会話に、ケントも顔が綻ぶ。
「しかしケント、あの防御術は見事じゃったな。しかもキーンに教授しておったとは。この一回戦はあの魔法で突破したようなものじゃぞ。」
「ええ。相手が第三学院の方々やキーンさんのようなタイプだと、極めて有効です。とはいえ他にも色々用意していましたが。」
「お主は末恐ろしいのう。ただ今は頼もしい。次からも頼むぞ!」
「ええ。」
ベアムースとケントが話しているうちに、次の第二学院対第四学院の試合が始まろうとしていた。
何気なく両校の代表者達に目をやったケントは、顎に手をやり思案に耽った。
(ふむ、成程…)
そんな中、審判の号令のもと第二学院対第四学院の試合が始まろうとしていた。
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(これは…なんとも…)
第二学院対第四学院の戦いは凄惨極まるものになっていた。
今は副将戦が行われているが、それも間もなく終わるだろう。
第二学院の副将が火の魔法を行使したが、第四学院の副将による水の魔法で相殺された。
「そんな魔法じゃあ僕らには届かないなあ。これぐらいじゃなきゃ。」
第四学院の副将はそう言うと、巨大な炎の塊を発現した。
第二学院副将は既にボロボロで、立ち上がるのがやっとの状態だ。
防ぐ手段を持ち合わせていないと判断した審判が慌てて試合を止めようとするが、それを知ってか知らずか第四学院副将は炎の塊を相手に向かって発動した。
「征け、炎よ。対する者を焼き尽くせ。」
ゴウ!と音を立てて猛スピードで迫る炎の塊に、第二学院副将は動けない。呆然と立ち尽くしていた。
(まずい!!)
ケントが立ちあがろうとするが、その前に炎を打ち消した者がいた。
「もう良いだろう。」
第二学院副将の前に、偉大なる兄が立っていた。
「あれ〜?他校の生徒が試合に介入するのは反則じゃない?そのへんどうなんですか?審判のセンセ?」
「君が炎の魔法を発動した時点で相手は既に戦意を喪失していた。試合終了後に何か介入があったとして、それは反則にはなり得ない。」
審判の毅然とした返答に、第四学院副将は渋々引き下がる。
「ちぇっ、ダメかあ。まあいっか。楽しみは後に取っておかないとね!」
と言って飄々とした態度で待機スペースへ歩みを進める。
「…第四学院の勝利。3勝した為、一回戦第二試合は第四学院の勝利とする。」
審判がコールするも、第一試合とは打って変わって会場内は異様な雰囲気に包まれていた。
歓喜に沸く第四学院陣営と、そこに今にも襲いかかりそうな第二学院陣営、それをなんとか止めようとする教師陣、沈黙の観客。
一回戦第二試合は、混沌としたまま決着を迎えたのだった。
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第二試合を終えての昼休憩の間、ケントは学術部門のマールやギース達と話していた。
「え…それはちょっと厳しいわね…」
「しかし、優勝するには避けられない道です。ご検討を。」
「そう言われたらやるしかないわね…よし、みんな!校舎に行くわよ!闘技部門のみんなは私達がいなくても勝ってくれるわ!」
マールの力強い言葉に、ギース、スティーブ、ファム、マイトは頷く。
「ケントくん、頑張ってくれよ!
さっきの試合が見納めだなんて寂しいからな!」
マイトが檄を飛ばし、ケントとハイタッチした。
「ホントよ。アンタのせいで今夜は長くなりそうだわ。明日の決勝に残らなかったら分かってるわよね?」
ファムもハイタッチしてくれた。
「ふん、どうせお前らは勝つ。明日は僕達が先に優勝して高みの見物だ。」
スティーブはケントの頭にポン、と手をやった。
「が、頑張ってくださいね…」
ギースは恐る恐る手を挙げ、ケントと優しくハイタッチをした。
(これで細工は流々。後は午後の試合に勝つだけですが…)
ケントは先程の第二試合を振り返っていた。
(第二学院の代表者も、決して実力がそこまで劣っている訳では無かったんですが…第四学院は残虐な面が強く出ていましたね。
先鋒は相手を大魔法で叩きのめし、次鋒は先鋒戦を見て腰が引けた相手を魔法でいたぶった挙句に宙吊りにした上で自ら棄権。
中堅は良い勝負でしたが急に相手が失速しその隙を突いてあわや致命傷のダメージを受け、副将戦は…介入が無ければ確実に死に至っていました。
彼等は何故ここまでするのでしょうか…)
考えても結論の出ない問いに、ケントは頭を悩ませるのであった。
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