第37話 視線の理由
キーンの試合が始まり少しして、ケントは唖然としていた。
キーンが第三学院の力自慢を力で圧倒している。
ケントが想定していた通り力対力なのでどちらに転ぶかは確かに読めなかったが、いざ試合が始まってしまえば単純な話だ。
力対力なら、力が強い方が勝つ。
しかもこの2人は魔法の力はほとんど同じで、かつ使用する魔法もほとんどが身体を強化する魔法だ。
互いに消耗戦になるかと思われたが、徐々にキーンが押し合いなどで優位を保てるようになり、やがてその時が訪れる。
中央で取っ組み合いをしていた2人だったが、息を合わせたように両者距離を取った。
しかし、その距離がこの試合の勝敗を決定した。
「ぬうぅ…我が右腕に集まれ、空の気よ!」
「なに!?ここで詠唱だと!?」
既に動き出している対戦相手はもう止まれない。彼は息をつく為に距離を取ったのだろうが、キーンはこの詠唱をする為に、距離を取った。
その違いが勝負を分けた。
「これで終いじゃ!!」
キーンがとんでもない速度で右の掌を前方に突き出した。
「…は、花びらの応用!!」
相手は避けきれず、直撃。
先鋒と同じようにくの字になってフィールドの端まで飛んでいったのを見送り、コールがされた。
「第一学院の勝利!!
第一学院が3勝した為、第一試合は第一学院の勝ち抜けとする!!」
歓声が大き過ぎて声がもはや耳に入らない。そんな雰囲気の中、キーンが帰ってきた。
「ふぃー、疲れたわい。ケントの真似させてもらっておいて正解じゃった。」
「お疲れ様でした。見事な花びらの応用でしたよ。」
試合後の興奮冷めやらぬままにケントに話しかけたキーンだったが、近寄ってきた人物を見て佇まいを整えた。
「名前には抵抗あるんじゃがな…まあええか。…ッ!!ジョンさん!!お、俺の戦いは…」
「ああ、立派だった。
キーン、お前がいて良かった。」
健闘を讃えるジョンの言葉に、キーンの大きな体がぶるっと震えた。
「…ック…ワ、ワシはやれたのか…ジョンさんの力に…ぅ…うおおおおおあああああ!!!!!」
キーンは泣き叫びながらその場で蹲り、大きな岩のようにフィールドに貼り付いてしまった。
————————————————
結局戦後の挨拶までにフリックとキーンは復帰できず、ケントと今回は出番の無かったジョン、メグの3人で挨拶をした。
戦後は基本的にノーサイド。相手と親睦を深める時間になるのだが、ケントはここで思い切って踏み込んだ。
「あの。少し宜しいですか?」
先鋒で対戦した男に声を掛ける。
「ああ、お前か。とんでもない強さだったな、お前。構わないぞ。なんだ?」
「少し近くへ…」
と手招きをして他のメンバーから離れた所で問う。
「試合前にメグを睨んでいらっしゃいましたよね?何か因縁でもお有りなのですか?」
「!?勘付かれたか…。い、因縁などは無い…」
この言葉に、ケントは納得しない。
「本当ですか?メグを害そうとするのなら…」
と、また魔法を発動させるような素振りを見せる。
「ほ、本当だ!因縁などは無い!!誤解なんだ!!」
「誤解…?ですか…。なにが誤解だと…?」
ケントが更に聞くと、相手は苦渋の表情を見せる。余程話しにくい事情なのだろう。しかし最終的には決意したのか、ケントへ更に近づき、小声で話し出した。
(本当に因縁なんてものはない。むしろ欲しいぐらいなんだ。)
(…?それはどういう…)
(…ハァ…第三学院の代表メンバーの中に、女子がいただろ。見たか?)
(はい。凛とした雰囲気でしたね。)
(凛とした!…まあ良い。
ウチの女子はみんなああなんだよ。
それに比べてお前らのチームも他の学院も…女子のレベルが高過ぎんだろ!!
あんな女子とワイワイキャッキャしてる奴らに負けてたまるかって気持ちにもなるだろう!?)
(ああ、そういう…)
想定を遥かに下回るレベルの感情だった。
(特にメグ様は光り輝く宝石のようなお方。そんなお方と同じチームのお前らには絶対負けたくないと思っていたんだがな…)
そう言うと若干悔しさを滲ませた。
「とにかく事情が分かって安心しました。ありがとうございます。」
「誰にも言うなよ?恥ずかしいからな。」
「わかりました。では、今日はお疲れ様でした。」
そう言ってチームの輪に戻っていったケント。
笑顔でケントに話し掛けるメグの姿を遠巻きに見て、男は溜息をつき、肩を落としながら第三学院の集合場所へとぼとぼ歩いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます