第36話 白目
ケントは試合開始と同時に身体強化と障壁の魔法を使った。
(まずは様子見ですね。身体強化と障壁を使っておけば、大事には至らないでしょう。)
ケントがまずは様子見を決めこむ事にしたところで、対戦相手が両手を上げて猛スピードで突進してきた。
当たったらひとたまりもないが、ケントは更なる魔法を使用する。
(花びら!)
対戦相手の突進を、ケントは脱力した状態でひらりとかわす。
相手は逆上したのか、試合開始から間も無くにも関わらず突進を繰り返してきた。
それをケントがひょいひょいとかわす。
「おい、お前何かしやがったな!!」
対戦相手が叫ぶが、ケントは意に解さない。
実はこの魔法、事象を理解されなければ対物理攻撃における必殺の防御である。
その後もひょいひょいと躱し続け、対戦相手に疲労の色が見え始めた。
相手も馬鹿ではなく、一度距離を取って息を整えようとするが、ケントはその間を与えない。
「それでは、次はこちらの番ですね。」
そう言い放ち一瞬で相手に接近すると、両の掌を相手の腹部に向けて突き出した。
「花びらの応用!」
珍しくケントが声に出して叫ぶと、対戦相手はくの字に身体を曲げ、吹き飛んでいった。
吹き飛ばされた後で立ちあがろうとするが、ダメージが大きかったらしく立ち上がれず、そのまま地面とキスをした。
「第一学院の勝利!!」
審判の声に、会場は大きな歓声に包まれた。
「ふう、なんとか一仕事終えましたね。」
言いながらメンバーの待機場所に戻ったケントは、抱きついてきたメグを筆頭に揉みくちゃにされた。
「ケント凄い凄い!超強いね!カッコよかったよ!!」
「良くやった!弟よ!お前の勇姿はこの兄がしっかり見届けたぞ!」
「ケント!素晴らしかったぞ!ワシも負けてられんな!ガッハッハ!」
そんな中、ジョンが近づいて来た為3人はケントから離れる。
ケントは黙って右の拳を前に出した。
ゴッ!
「良くやった。」
ジョンはケントと拳を合わせると、言葉少なに健闘を讃え、ケントの頭を力強く撫でた。
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「さてさて、次はこの私か!メグ様に捧げるこの一勝!とくとご覧あれ!!」
フリックがフィールド中央へと足を進めた。
ここで勝てれば二回戦進出に向けて大きく前進する。
ケントは期待を込めてフリックへと視線を向けていた。
中央で向かい合い、審判の声で試合が始まった。
先鋒の試合とは違い、お互い近寄らずに様子見から入るようだ。
強い日差しが照りつける中、ジリジリと立ち位置を変え続ける2人。
なかなか動かない両選手に、会場が焦れ始め、異様な雰囲気になっている。
それはそうだ。
教師達は冷静なものの、万を超える観衆のうち、大半は学院生か観客である。
動きのある展開を好み、強者にしか分からない駆け引きなどでは興味を引くことができない。
そんな雰囲気に耐えきれなかったのか、先に動いたのは第三学院だった。
「我が身体よ、強大なる物に変化せよ!」
言いながらフリックへと向かっていく。
しかし、フリックのレベルになると、基本的には後出しジャンケンだ。
相手の動きを見てから対処しても充分間に合ってしまう。
相手もそれが分かっていた筈なのだが、やはりそこはホームの地の理か。
「残念だよ。君はなかなか面白い。
もう少し楽しみたかったのに。
疾く走れ、我が身体。」
フリックは呟き相手の攻撃を躱すと、相手の背後に回って背中に掌をつけた。
「どうする?まだやる?」
「………降参する。」
「第一学院の勝利!!」
再び会場が歓声に満たされる。
フリックは戻ってくるやいなや、
「メグ様!ご覧頂けましたか!?私の華麗な勝利を!」
「うん!フリック凄いね!」
無邪気なメグに笑顔で迎えられたフリックは、壮絶な表情を浮かべたかと思うと、そのまま白目を剥き仰向けに倒れていった。
「フリック!?フリックーー!!」
感情が極限に達したフリックは勝者にも関わらず、気絶して戦線離脱した。
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「フリックは相変わらずじゃのう。ではジョンさん、行って参ります!」
「ああ。頼んだ。」
そしてキーンの出番になったが、ケントはこの試合において、一番相性が悪いのはキーンだと考えていた。
(キーンさんは第三学院と噛み合いすぎる。
同じタイプの生徒同士では、どちらに転ぶか分かりませんからね。
私とフリックさんはキーンさん相手に訓練をしたので腕力で押す相手とのシミュレーションができましたが、キーンさんはそうではない。
第一試合においては、キーンさんのこの試合が唯一の不安要素です。)
そんなケントの不安を他所に、キーンの戦いが始まった。
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