第34話 絆

顔合わせ後、予想外の事があった。



まず、ヨハンと担任のスニークが学院から消えた。


学院長も、スニークはともかくヨハンを学院から追い出すつもりはなかった為にこれは想定外だった。


そもそも対抗戦の代表者になったぐらいだ、優秀な生徒である。


それを追い出すような形になってしまったが、1年3組の生徒達はむしろイキイキとし始めた。


なんでも、今まで抑圧されていた感情や才能を解き放ち始めたとの事。


結果、誰にもお咎めなしで教師と生徒が1人ずつ減っただけ、というところに落ち着いた。



次に、いなくなったヨハンの代役のオーディションが急遽行われた。


これにはレードルフや生徒会のゲレラも参加したのだが、欠員が出たのが学術部門という事もあり、マイトが選出された。



最後に、ミレーネ先生の元気が無い。


なんでも、スニークにはいつも絡まれていて、なにかと目の敵にされていたそうだ。


同年代という事もあり、ライバル意識を持っていたのかもしれない。


そんな中ミレーネ先生が1組、スニークは3組の担任になった。


競争心が嫉妬心へと変わる。


そしてミレーネへの嫉妬心からスニークは暴走し、学院を去る事となった。


直接何かした訳では無いにしろ、スニーク退任の遠因となった事をミレーネ先生は気に病んでいた。




そんな中、対抗戦を翌日に控えたヤネンには、続々と他校の生徒が集まってきていた。


代表者だけでなく応援の生徒も訪れた為、ヤネンの街はお祭り騒ぎになっている。


そんな熱狂の中心地、ヤネン第一学院で、ケントは珍しくジョン、メグと3人で会っていた。



「街は大盛況ですね。毎年こうなのですか?」


「対抗戦の会場は持ち回りだ。経済効果が大きい為、独占はしないことになっている。」


「今年はホームだから楽だよねー!

他の学院遠いんだもん。着く頃には疲れちゃうんだよね。」


「それでケント、何の用だ。お前の事だ、ただ世間話をする為に呼んだ訳でもあるまい。」


ジョンが促すと、ケントは話し始めた。


「では早速。明日、父上と母上はいらっしゃるのでしょうか。」


「来るんじゃないかなー?お兄ちゃんの最後の対抗戦だし!」


「まあ、そうだな。それに次に第一学院で対抗戦が行われるのは6年後。俺達全員が卒業した後だ。遠出もなかなか大変だろうから、今年は観にくるだろう。」


メグとジョンの返答が自分の予想と同じ事に、ケントは頷く。


「そうですか。では、母上とミレーネ先生を引き合わせたいのですが、それは可能でしょうか?何か仲が悪いとかそう言ったことは無いのでしょうか?」


ケントが本題を切り出すと、2人は思案げな表情に変わる。


「うーん、できなくはない…かな?」


「実は俺達もあの2人の関係性を良く知らない。ミレーネ先生が俺達に辛く当たってくる事は無かったから、悪感情がある訳では無いのだろうが…」


やはりそうか、とケントは得心する。


ここまでの学院生活の中で、ミレーネ先生とは叔母と甥の関係で会話した事がない。


教師としての節度を守っていると言われればそれまでなのだが、あまりにも肉親の繋がりを感じさせなかった為、ケントはここ最近違和感を抱いていた。


そしてそれはケントに限らずジョン、メグも同様のようだ。


「わかりました。やるとしても慎重に進めるようにします。」


「ケントは本当に悪巧みが好きだねー!そんなんで明日は大丈夫なの?」


メグがニヤニヤしながらケントの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「初めてなのでどう転ぶかは分かりませんが、緊張はしていませんね。」


「むー。可愛くないんだから。ここはお姉ちゃん、こわいよーたすけてーって泣きつくとこだよ?」


「そんな弟は存在しません。そういえばジョン、今までの対抗戦では第一学院はどんな位置づけだったのですか?」


まだ膨れているメグをいなしたケントは、ジョンに問いを発した。


「少なくとも俺が入ってから優勝はしていない。昔には優勝した事があるらしいが、数十年は優勝から遠ざかっているそうだ。」


「そうでしたか。では今年は偉業を達成する事になりそうですね。」


「あれ、珍しーい!ケントが強気だ!」


メグが可笑しそうに笑うが、その目には熱がこもっていた。


「兄妹揃っての対抗戦は最初で最後ですからね。キーン先輩程ではないですが、私にもジョンの為に優勝したい気持ちはあります。」


ケントがそう言うと、ジョンは何も言わずにすっと右拳を前に差し出した。


それを見たメグとケントは顔を見合わせ、笑顔でジョンと同じように右の握り拳を前方に差し出す。


「勝つぞ。」

「私頑張っちゃうよー!」

「優勝しましょう。」


ゴッ!



強く握り拳をぶつけ合った3人は、小さな頃のように肩を寄せ合いながら寮の方角へと帰って行った。

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