第32話 クセ

いよいよ対抗戦のメンバー発表の日が訪れた。


学校中に張り詰めた空気が立ち込めており、ケントはなんとなく前世のコンペや株主総会の日を思い出していた。


(そうそう、こんな空気でしたね。やはり緊張感は人生のスパイスです。心地良いですね。)


そもそもメンバー選考の鍵となる学力テストと模擬戦は終了している為緊張しても仕方なく、ケントはリラックスした心持ちであった。


(さて、どうなりましたかね。)


「はい、ホームルームを始めま…ってそんな空気じゃないねー…じゃあ早速だけど、皆さんお待ちかね、対抗戦のメンバーを発表します!」


一気にクラス内の緊張感が増す。


「では、こちら!」


ミレーネ先生は魔法板に手を翳した。


板書しなくて良いのはタイムロスが無くて本当に便利そうだ。


ケントがそんな悠長な事を考えていると、前方の魔法板に種目と出場メンバーが表示された。


【闘技部門】

ジョン

メグ

フリック

キーン

ケント


【学術部門】

マール

ギーク

スティーブ

ファム

ヨハン




「はい!という訳で、今回このクラスからは2名が選出されました!凄いことよ!みんな拍手!!」


教室内が熱狂に包まれた。


一年生で選出される事自体が稀なのに、同じクラスから2名。


落胆する者もいるが、立候補していない大多数のクラスメイトは同じクラスから選出された2人を誇らしく思っていた。


そんな熱狂の中心にいるケントだが、頭の中は先の事でいっぱいだった。


(ひとまず選ばれたのは僥倖。ただ知らない名前も多いですね。

特に学術部門のヨハン。

恐らく学年順に記載されたこのメンバー表でファムの後ろに名前があるという事は同級生でしょうか?

他のクラスの事はあまり聞いた事が無かったのですが、早くお会いしてみたいですね。)


ミレーネ先生はクラス内が落ち着くのを待っていたのか少し間を開けて、

「じゃあ選ばれたケントくん、ファムさんは今日の放課後、会議室に集合だよ!よろしくねー!はい、ホームルーム終わり!」


と言って今日も今日とてトコトコ出て行った。



————————————————



放課後、会議室。


他の先生方が立ち並ぶ中、学院長を頂点として代表者10名が長テーブルに並んで座っていた。


沈黙が支配するその部屋で、口火を切ったのはやはりベアムース学院長だった。


「それでは、まずはおめでとう。君達は選ばれた。

ワシも模擬戦の様子は見ていたが、今年は例年以上に実力も伯仲しておった。今年こそ、我が校の悲願である優勝を勝ち取ってきて欲しい。

それができるメンバーを選んだつもりじゃ。」


(そういえば去年までの実績を知りませんね。悲願という事は、少なくとも近年は優勝していない、もしくは優勝経験が無いのでしょうか。)


「とはいえ、初対面のメンバーも多いじゃろう。ひとまず自己紹介といこう。闘技部門のジョンからじゃ。」



端的に済ませたジョン、溌剌としたメグに続いたのは、ケントの知らない男だ。


見た目は柔らかい金髪で痩身の優男風なのだが、目が妙に力強い。


「5年2組のフリックです。メグ様に優勝を捧げる為に命を差し出す覚悟です。宜しくお願い致します。」




なんというか、アレだった。


しかもメグと同学年らしい。


ファンクラブがあると聞いてはいたが、こんな場所で出くわすとは思っていなかったケントは呆然としている。


続けて隣に座っている大柄な男が立ち上がり、突然深く頭を下げた。


「ワシはジョンさんに憧れてここまで来れた。ジョンさんと一緒に戦えるこの機会、必ず学院の勝利に貢献してみせまする!」


ジョンは何をしたのだろうか。


そして名前が分からないままだ。


「キーン、自己紹介をしろ。」


「ハッ!ワシは4年2組のキーンだ。必ずジョンさんに優勝を捧げるとここに誓わせてもらおう!」


力強い挨拶だが、ケントは不安が増していった。


(これは大丈夫なんでしょうか…なんというか弟の私も含めてジョンとメグを崇拝するチームになってしまっていますが…)


ケントのそんな堂々巡りの思考を、ベアムースが断ち切ってくれた。


「では、最後はケントじゃな。」


「はい。1年1組のケントです。至らない点も多いかと思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します。」


すんなり終わった筈だったのだが、そうはいかなかった。


「君がメグ様の弟君か!大いに面影があるな!私の事はお兄様と呼んで良いのだよ!」

「流石はジョンさんの弟、体つきがジョンさんそっくりじゃ!ワシと一緒にジョンさんに勝利を捧げようぞ!」


闘技チームの自己紹介は波乱の予感を漂わせながらも、なんとか終了したのだった。

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