第31話 女子は距離を詰めるのが早い
レードルフの件は無断でストーカー紛いの事をした引け目もあり、本人と話すまでには至っていなかった。
ケントは個人的に興味があったものの、ここ最近は思うところもあり、そっとしておく事にした。
(最近はイルマ、シルバと立て続けにその精神的成長に驚かされていますが、彼らは私が何かするまでもなく自分で考え、自ら立つようになった。人はそういった形の方が大きく成長するのでしょうね。
私は直接アドバイスをしたり提案する事には慣れていますが、自立した成長を促す事には慣れていない。今まではプレイヤーとして動く事しかありませんでしたからね。
いわゆるコーチングというものなのでしょう。今後は意識的に取り組んでいかなければ。)
そう、ケントは前世も含めて部下や同僚、同級生を成長させるという事はやってこなかった。
あくまで自分で動き、物事を解決してきたのだ。
しかしこの世界では、ケントは既に上位者にあたる。
本人が望もうと望むまいと、成長の手助けをする必要に駆られる機会は今後も多く訪れるだろう。
その時に備え、人の成長がどんな時にどんなきっかけで促されるのかを分析しておきたいと考えたのだった。
(シルバと話していて強く感じた事ですが、やはり施しを与え過ぎるのは良くありませんね。
また自立するには自ら考え、納得して行動に移す事が重要。
という事は、やはり今までのような直接的なアドバイスなどを行っていては自ら考えて行動する機会を奪ってしまいますから、極力避けなければなりませんね。
ああ、やはり課題を発見するのは非常に楽しいものです。)
ケントは気づいていないが、ケントの思考こそ正に自立したものであった。課題の発見を楽しみ、解決に頭を悩ませる。
その先にしか成長は無いのだが、頭を悩ませ始めたばかりのケントには未だ知る由もないのであった。
————————————————
一方その頃、同じヤネンの街に5人の少女が集結していた。
「セレサ、この子達は?」
「はい、ケントさんが学院で引き取った子達ですよ!私たちと同い年らしいのでお呼びしました!」
「先に言っときなさいよ…まあ良いけど。」
今日、ファムとセレサはケントという共通の友人がいる割にあまり話した事が無かった為、友好を深める為にお茶でもしようという事になっていた。
そこになぜかセレサが更に3人も、更にファムにとっては馴染みのない少女達を連れてきた事により、その場は混迷を極めていた。
「だって女の子だったら甘い物食べたいじゃないですか!食べて食べて食べ尽くしたいじゃないですか!」
「それはあんただけよ…」
お茶をすると言っているのに店のデザートを食べ尽くす勢いのセレサを見て、ファムは溜息をついた。
「良いわ。行きましょ。」
そう言って先を行くファムに、セレサ達4人は慌ててついていくのであった。
セレサはカフェの席に着くなり、ファムの隣で舐めるようにメニューを吟味し始めた。
ファムは呆れ顔だが、前を見ると少女3人組も身を寄せ合ってキャッキャしながら目を輝かせていた為、少数派だと分かったファムは黙り込む事にした。
長時間悩み抜いた末に、少女3人組はそれぞれ別のデザートを頼む事にしたが、セレサは結局デザート全てを注文した。
それを見たファムは何も言わず静かにケーキセットを注文した。
「そういえば、みんなのお名前聞いてなかったね!教えて教えて!」
ファムは名前も聞かずに連れてきたのかとは聞かない。
ただ静かにしていた。
「私はブランと申します。」
と淡い茶髪の少女が名乗ると、
「私、リュレー!」
「…ショコです。」
と三者三様の答えが返ってきた。
「ブラン、リュレー、ショコね。
これから宜しくね。ファムよ。」
「私もよろしくねー!セレサだよ!」
ようやく口を開いたファムとデザートが待ち遠しく高揚しているセレサが名乗ったところで、注文していたデザートが届いた。
一通り口をつけたところで、ブランがファムに問い掛ける。
「ファム様、少しお伺いしても宜しいでしょうか。」
「どうしたの?」
「先程注文の際にメニューをご覧になっていなかったようですが、このお店は行きつけなのでしょうか?」
「ああ、それはこの間ケントと一緒に来た時に…」
注文したのよ、と言おうとしたファムだったが、セレサが勢いよくファムに首を向けたので驚いて止まってしまった。
「ケントさんと来たんですか!?
なんですかそれ!?詳しく教えてください!!」
セレサの勢いに驚いたファムが前を見ると、ブラン、リュレー、ショコも目を輝かせて前のめりになっていた。
「そうね、あれはケントと初めて会った時だから…」
「お二人の出会い!気になります!気になり過ぎます!!」
セレサが猛烈に食いつき3人娘もブンブンと首を縦に振った。
ファムは仕方なく淡々と2人の出会いを話し始めるが、周りから見るとどう見ても楽しそうな女子会にしか見えない。
そうして女子5人はケントの話で盛り上がり、結果として当初の目的以上に仲を深めていくのであった。
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