第30話 サンカヨウとダンボ
模擬戦を終え、休日を迎えたケントは、いつも通りシルバ達の特訓に付き合っていた。
「はい、そこまで。一旦休憩にしましょう。」
ケントが声を掛けると、7人の少年少女はその場に崩れ落ちた。
「なんで、…ハァ、ハァ、魔法の、特訓で、ハァ、こんなに走らなきゃ、いけねーんだよ!ハァ、ハァ」
「全ての基本は体力です。例えばドラゴンと戦う際に魔法だけで勝てますか?その場合は走り回って撹乱したり、飛び回って頭部を攻撃したりする必要があります。」
「そんなもん、おとぎ話でしか出てこねえだろ!どこまで想定してやがんだ!」
「最悪の場合まで想定するのが当然です。異論を挟む余地はありません。」
シルバはケントの頑なな姿勢を見て諦めたのか、その場に寝転がり空を仰いだ。
「はぁ…このままで良いのか…?」
「なにか心配事でも?」
真剣な表情で呟いたシルバに、ケントが問い掛ける。
「俺達はお前に衣食住を与えてもらった。今も文句は言ったが、鍛えてもらってる立場だ。本来文句を言える立場じゃない。」
「それはセレサを許してもらった対価ですし、それ以外も私が好きでした事です。気にする必要はありませんよ。」
「それでもだ。俺達はこのままじゃいけねえ。与えられる物に甘えてそれが当たり前になったら、それは飼育されてる獣と同じだ。人として生まれた意味がねえ。」
「…」
シルバの人生観を表すような言葉に、ケントも暫し言葉を失った。
(やはりシルバは賢いですね。私も施し過ぎている自覚はありましたが、魔法と戦い方の習得を優先してしまった。もう少しバランスを取るべきでしたね。)
「それでは、これからどうしますか?魔法の訓練を止める事もできますが。」
「…もう少し考えさせてくれ。
これからどう生きるかまでお前に頼ったら、今後俺は自分で自分の事も決められなくなっちまうような気がする。
そんなクソッタレな人生は送りたくねえ。
虫の良い話だが、考えがまとまるまでは魔法の訓練は続けたい。」
「もちろん構いませんよ。ゆっくり考えて、納得のいく答えを見つけてください。こういった問題に正解はありませんから。」
そう言うと、こちらの話に耳を傾けていた6人に向かって呼び掛ける。
「はい、それでは訓練を再開します。お腹にグッとする所までは今日中に全員できるようになりましょう。」
この方が分かりやすいと判断してメグ式の魔法教育を開始するケントの背中に、誰にも届かないような小さな声でシルバは言った。
(それでも感謝はしてるんだぜ。)
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7人をしごき終え寮への帰路に着いたケントだったが、珍しい人影を見つけて足を止めた。
(あれは、レードルフ?どこへ行くんでしょう…)
ケントが見守る中、レードルフは校門を出て行った。
(ちょっと追いかけてみましょうか。彼が休日にどう過ごしているのか気になりますし。)
ストーカー紛いの事を考え、実際に実行に移したケントだが、その行動さの異常さに対して心中にはさざなみひとつ立てず、尾行を開始するのであった。
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校門を出た後少し街をぶらついたレードルフは、意外にも洋菓子を多少購入して真っ直ぐに歩いていた。
もちろんケントもついてきているのだが、透明化の魔法を使用している為全く気づかれていなかった。
(サンカヨウの魔法ももう慣れてきましたね。実用化しても全く問題なさそうです。)
そのまま後を追い続けると、レードルフは民家に入って行った。
(実家でしょうか?わりと近くなんですね。)
そのまま待つか帰るか迷ったケントだが、せっかくここまで来たのだから、と待つ事に決めた。
それから暫し時が経ち、レードルフが扉を開けて出てきたが、誰かと話している。
(ダンボの魔法!)
ケントが耳に集中すると、少し離れた所ではあるがレードルフと誰かのやり取りが聞こえてきた。
「お兄ちゃん、ちゃんと友達作るんだよ!それと対抗戦楽しみにしてるからね!!」
「うるせえな。俺の勝手だ。」
「もうっ。それとお菓子美味しかったよ!ありがとう。」
「だからお前の為に買ってきたわけじゃねえっつってんだろ。」
「はいはい。それと…」
「じゃあな、ルーシー。」
「…気をつけてね!応援してるから!」
そこでレードルフが通りに出てきた為、ケントは改めて身を隠す。
(妹さんですか。レードルフさんの妹にしては線が細かったですね。それに時々来られるとはいえ我が子の出立であれば、保護者の方がお見送りに来そうなものですが…)
レードルフの意外な側面を見て、さらに関心を深めるケントであった。
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