第29話 驚異の洗濯機
イルマの決意を聞いた後、ケントは生徒会室にいた。
「やっぱりケントに抜かされちゃったよー!早いよ!」
「そんな事を言われても…今回は運が良かったんですよ。」
ケントはいじけるメグを宥めていた。
「序列上位はそんな簡単に行けるものではない!誇って良いぞ、ケント!ガッハッハ!!」
大きな声でケントに声を掛けてきたのは、一学年上のゲレラだ。
体格の良い彼は短髪で日に焼けており、一見するとボディビルダーのようだ。
「…ゲレラも上位には入った事ないもんな。」
書類を整理しながら呟くように毒を吐いたのは、2学年上のスティーブ。
ゲレラとは対照的に肌が白く身体も細い、文学少年といった雰囲気だ。
職人気質なのか会計の仕事に誇りを持って取り組んでおり、声を聞くのはかなり稀な事だ。
「スティさん、今日もきつい!」
「その呼び方はやめろ。」
2人は仲が良い。
ゲレラが一方的にスティーブに絡んでいくのが常だが、生徒会の中ではいつもの風景だ。
「しかしケントは凄いな!この時期に序列3位とは、史上初じゃないか!?」
「本当にたまたまです。色々な事が同時に起きただけですから。それにまだ模擬戦もあります。気を引き締めなくては。」
ゲレラの褒め言葉をかわしながら、ケントはチラッとジョンを見た。
メグはそれだけで何か察したらしく、嬉しそうな顔をした。
「そうだね!兄妹3人で対抗戦出ようね、ケント!」
「そうですね。それが理想です。」
気持ちのこもった妹、弟の言葉に、ジョンは誰もいない方向に顔を向けて微笑を浮かべるのであった。
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それから1週間の後、ケントは魔法グラウンドで模擬戦に臨んでいた。
相手はメグと同級の男子生徒。
体格はケントと同程度だが、魔法の腕が卓越していた。
風の魔法でケントが動きを制限された所に火の魔法が飛んでくる。
それを避けるとそこにも火の魔法が飛んでくるといった形で、学院で培ってきた対人経験が現れている。
(なるほど、風の魔法にはこういった使い方もあるのですね。やはり先輩方の戦い方は参考になります。もう少し学ばせて頂きましょう。)
しかし幼少期からメグや魔獣と戦闘を繰り返してきたケントにとって、脅威になる程の使い手では無かった。
「クソッ、全然当たらない!!」
逆に対戦相手は何をやっても攻撃魔法が当たらない為、焦りが出てきていた。
それから数分同じような応酬が続き、ケントは動き出す。
(そろそろ良いでしょう。敬意を込めて全力でいきます。)
ケントが天に手を掲げると周囲の地面が干からび、虚空に巨大な水の塊が浮かんだ。
対戦相手が呆然としている中、ケントが天に掲げた手を降ろすと、水の塊は回転しながら猛スピードで対戦相手を飲み込んだ。
回転し続ける水の中で対戦相手が意識を消失する直前、前方に向けた手をケントがグッと握ると、水の塊はざばっと割れ、対戦相手が地面に倒れ込んだ。
ケントの勝利である。
(よし、洗濯機の魔法も成功ですね。水をどこから持ってくるかが重要ですが、地面の上では大抵使えるでしょう。)
他と隔絶された魔法を使いながらも、ケントのネーミングセンスはイマイチなままであった。
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その後2度の模擬戦も順調に勝利したケントは、模擬戦の終了を言い渡される。
(さて、なんとか模擬戦も勝利できましたね。他の皆さんはどうでしょうか。)
周りを見渡すと、ほとんど全ての生徒が未だ模擬戦の最中であった。
既に終了しているのはケントの兄姉のみだったので、迷わず歩み寄った。
「お疲れ様でした。」
「ああ。お前も無事勝ち残ったか。」
「そのようです。メグも流石ですね。」
「私は同級生か下級生ばっかりだったからね!ケントの方こそスゴいよ!!」
体格とそれにあった魔法を使いこなすジョン、魔法に関しては右に出る者がいないメグ、一年生ながらメグ顔負けの魔法を駆使して戦いこなすケントはもはや、他生徒からは人外のように畏怖の対象となっていた。
こんな兄妹を産み出す両親にまで様々な憶測が飛び交っていたが、唯一の統一見解として、美形の両親だろうという見立てがされている事はドリス、マリーナはもちろんジョン、メグ、ケントの預かり知らぬところであった。
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