第28話 脱皮
定期テスト翌日、ケントはごった返す人混みの手前で魔法掲示板を確認していた。
(こういう時、視力強化は便利ですよね。本当は浮遊して人混みの上から見られれば良いのですが。
えーっと…一位はジョン、276ptですか。流石ですね。2位はマールさん、3位は…え?私ですか?235ptと書いてありますが、何が加点されたんでしょうか…?)
このランキングはあまりにケントにとって都合が良いので、何か身びいきのようなものがないか逆に不安になっていた。
「ケントくん、すごいねー!」
そんな時現れたのは、叔母でもあるミレーネ先生だ。切り出すタイミングがつかめず、呼び名は先生で通している。
「先生、さすがにこれはおかしいのでは?私が序列3位は流石に異常では無いかと思いますが。」
「そーお?多分そうでも無いわよ?ケントくん、セアナの街が急に栄え出したのに何か絡んでるんだよね?」
「まあ、多少は…」
構想をファムに伝えただけであるが、関係がないとは言い難い。
「はい、50pt。
あとなんか不要な施設を再利用して家を無くした子供達引き取ったって聞いたよ?」
「…は、はい。」
「はい、それで合計80pt。で、定期テストの順位は?」
「1番です…」
「はい、それで100pt。合計は?」
「230pt…なるほど。想定よりも学力テストのウエイトが多いのですね。」
まだ納得はできていないが、なんとなくの内訳が見えて来た。
恐らくセアナのベッドタウン化が軌道に乗り始めた事とシルバ達を連れてきた事、定期テストのタイミングが近しかった事で急激にポイントを集めてしまったのだろう。
(これなら模擬戦次第ではありますが、対抗戦出場はもちろん特別補講も視野に入ってきましたね。嬉しい誤算です。)
とはいえ今回はたまたまタイミングが合っただけであり、今後も同様の実績を積み上げられる訳ではない。
(ジョンと一緒に対抗戦に臨めるのも今年が最後ですし、この機会は必ず生かさなければなりませんね。)
そう、ジョンは最高学年なので今年度が終われば卒業してしまう。
2人が揃って対抗戦に出場できるのは、今回が最初で最後の機会だった。
「ケントくん、すごいじゃないか!僕もますます頑張らなくては!」
ケントが対抗戦への意欲を強めているところに、マイトとイルマがやってきた。
「一年生でもこんな事ってあるんだね…」
イルマは衝撃が大きかったらしく、呆然としていた。
「まあ、今回はたまたまです。とはいえこの機会を逃すつもりはありません。」
「そっか、そうだよね…」
イルマはそう呟くと少し俯き考え込んでいた。
————————————————
「はい、それじゃあ昨日言ってた通り、対抗戦出場メンバーを決める模擬戦の立候補を受け付けますよー!
立候補する子は手を挙げてね!」
ミレーネ先生がそう言うと、まばらに手が挙がった。
「はい、ケントくん、マイトくん、ファムさん、セレサさんね。他にはいないかなー?」
昨日は参加しないと言っていたセレサも手を挙げたようだ。
ケントが振り向くと、
「一晩経ったら強気になってきちゃいまして。ダメで元々かなって。」
と、舌を出して笑顔を見せてきた。
ちらっとセレサの隣に座るイルマを見ると、決然とした表情ではあるが手を挙げる素振りはない。
昨晩の間に何か決意したのだろう。
「良いかなー?じゃあ締め切りま…」
「待て。」
ミレーネ先生が立候補を締め切ろうとした時、教室後方から声が上がった。
「俺も出る。」
レードルフだ。ケントは嬉しそうに後ろを振り向くが、レードルフは窓の外に目をやり、目を合わせなかった。
「レードルフくんも参加ね。これで終わりかな?…はい、じゃあ締め切ります!」
ミレーネ先生はそう言い放ち、荷物をまとめ始めた。
「立候補したみんなには後日細かい話をしますねー!じゃあ今日のホームルームは終わりです!」
と言っていつも通り教壇を降り、トコトコと教室を出て行った。
先生が出て行った教室は、にわかに騒然とする。
「ファムさんすごいねー!立候補するなんて!」
「当たり前よ。みすみす機会を逃す手はないわ。」
「セレサさん出るんだね!頑張って!」
「えへへ、やればできるかなって!」
そんな中、ケントがイルマに声を掛けた。マイトも声を掛けようとしていたようだが、機先を制した格好だ。
「イルマ、結局立候補はしなかったのですね。」
「うん、そうだね。」
ケロッとした表情でイルマが答える。
「その割にはすっきりとした表情ですね。何かあったのですか?」
「何かあったって程じゃないんだけど…昨日の夜さ、考えたんだ。」
「考えたっていうのは何をだ!イルマ!」
我慢しきれなくなったのか、マイトが口を挟んできた。
「落ち着いてよマイト。昨日ケントくんの序列を見て、僕も挑戦しようかなって気持ちにはなったんだ。
でも考えた。
僕は対抗戦のメンバーになれるように全力を尽くしたのかって。
ケントくんもあの序列になったのは、何かをしたからなんでしょう?」
「まあ、そうですね。努力というと違うかもしれませんが、行動の結果ではあります。」
真剣な表情のイルマからの問いかけに、ケントも誠実に答える。
「僕は、対抗戦のメンバーになる事に憧れている。
でもそこに至るまでの自分にも、誇りを持ちたい。
今日までの僕の行動は、誰かの後ろに隠れているだけ。
こんな自分を変えたいと思ったんだ。」
そうキッパリと言い切るイルマに、いつの間にかクラス中が静かに注目していた。
「僕は今後、序列の上位にいるに相応しい人間になる。そうなっていない自分が今回立候補するのは、僕が決めた事に反する。だから今回は立候補しなかったんだ。」
そう言ったイルマの顔は、今まで見た事が無いほどに輝いていた。
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