第27話 悪ってなんだ
1回目の定期テストが終わった。
ケント、マイト、ファム、イルマの成績優秀者は特段変わったところも無いが、セレサは机にベタッと倒れ込んでおり、レードルフも珍しく静かに座っていた。
そんななんとも言えない空気を切り裂くように、ミレーネ先生が声を上げた。
「みんな、お疲れ様ー!今回の結果は明日には魔法掲示板で確認できるから確認しておいてね!
今回のテストもそうだけど、今までの課外活動の結果も踏まえてランキングも更新されるからね!」
ミレーネ先生はそう言ってクラスを見回して苦笑いをすると、事務連絡を続ける。
「一応、対抗戦に向けて実施される模擬戦に参加したい人は希望を聞きますよー!ランキングを見てから決めたいって人もいると思うから、明日また聞くので考えておいてね!」
そう言うと、教壇から降りトコトコと教室から出て行った。
先生が教室から出て行くと、隣の席のマイトがケントに話しかけてきた。
「ケントくんは立候補するのかい?」
「一応しておこうかと考えています。今のところ序列は高くありませんが、模擬戦を経験しておく事も先を考えると良いかと。」
ケントが答えると、マイトは満足そうに頷いた。
「さすがケントくんだ!それを聞いて安心したよ!僕も立候補するつもりなんだ!楽しみだね!!」
相変わらず模範的なマイトにケントが感心していると、ファムもこちらに歩み寄ってきた。
「私も立候補するわよ。今回は見直しもしっかりできたから、学力テストでミスも無いはずだしね。」
「おお、ファムさんも!共に頑張ろう!!」
「え、ええ…」
変わらず熱血のマイトに、さすがのファムもたじたじだ。
「セレサはどうするんですか?」
ケントは後ろを振り返り、相変わらず机にべったりのセレサに問うた。
「私は…ここまでのようです…」
「そうですか…イルマはどうされますか?」
セレサは初めて会った時のような掠れ声だったので、切り替えるようにイルマに問い掛けた。
「僕も今回は…そもそも一年生ってほとんど選ばれないんだよね?」
「イルマ、そんな弱気ではダメだ!僕と一緒に対抗戦出場を目指そう!」
「マイト、無理強いはダメよ。本人の為にならないわ。」
イルマ、マイト、ファムの言い分はどれも正しいと思えるが、ケントはまた別の切り口を与えたかった。
「イルマ、将来的には対抗戦に出たい気持ちはありますか?」
「それは…やっぱりあるよ。対抗戦のメンバーは全校生徒の憧れの的だし…」
「では、挑戦してみてはいかがでしょうか。可能性は低いかもしれませんが、次の機会であれば可能性が上がるという保証もありません。イルマに対抗戦のメンバーになりたいという意志があるのなら、挑戦できる機会は全て活用する方が良いでしょう。」
「………」
イルマはケントの意見に一理あると感じたのか、押し黙って考え込み始めた。
「とはいえ強制するものでもありません。検討してみてください。さて。」
ケントはイルマに柔らかく声を掛けると席を立ち、教室の後方へと向かった。
「レードルフさんはどうされるのですか?」
「「「……!!??」」」
ケントがレードルフに声を掛けると、教室内の空気が凍った。
「テメエには関係ねえだろ。」
「確かにそうなのですが、気になりまして。」
レードルフがギロッとケントを睨みつけるが、ケントは動じない。
「学力テストはどうでした?」
「チッ!………」
ケントが話しかけ続けるのを辞めないと悟ったのか、レードルフは舌打ちして無視を決め込んだ。
「あまり良い出来では無さそうですね。勿体ない。」
「………」
「貴方程の方を眠らせておくのは惜しいのですが…私が座学のコツでも…」
「テメエには関係ねえ。近寄ってくんじゃねえよ。」
レードルフはそう言うとガタンッと席を立ち、教室から出て行った。
教室の雰囲気が弛緩していく中、ケントは目を瞑り嘆いていた。
(あれだけの逸材を眠らせておくのは本当に惜しいのですが、上手く心を開いてもらえませんね。何かきっかけでも作れないものでしょうか…)
瞑目したケントに、セレサが声を掛ける。
「ケントさんはレードルフさんが怖くないんですか?」
「怖くは無いですね。彼は悪ではありませんから。」
ケントは当然のように答えるが、セレサには上手く伝わらなかったようだ。
「悪では無い…?どういう事ですか?」
「あくまで私の視点になりますが、彼は授業を欠席もしませんし苦手な学力テストにも臨んでいます。
戦闘の訓練も相当積んでいるようなので、努力家でもあるでしょう。
その点から、彼は何か高い目標に向かって邁進している人です。
私はそのような人を悪人とは思えません。」
その言葉はしんとしていたクラスの中に染み渡った。
ケントの言葉で、クラスメイトのレードルフへの見方がその時から確かに変わっていった。
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