第25話 優しいヘンディPart.2

入学してから慌ただしい日々が続いていたが、ようやく休日が訪れた。


とはいえケントには約束がある為、学院から出て街へと向かう。


街に着き、メインの通りから脇道に逸れると、彼らはそこにいた。


「良かった。いなかったらどうしようかと思っていましたよ。」


「約束だからな。今日は魔法を教えてもらうぞ。」


そこには先日セレサがいざこざを起こした、シルバ達がいた。見た目の印象が悪いが、彼等は被害者側だ。


「その前に、移動をしましょう。」


「どこに行くんだ?」


「学院です。」



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シルバ達を連れて学院の片隅にある倉庫のような建物の前に着くと、ケントは唐突に振り返って言った。



「今日からここが貴方達の家です。」


「「「「「「「は?」」」」」」」


「そして、明日から学院の寮で働いてもらいます。」


「「「「「「「え?」」」」」」」


「これで魔法も教え易いですし、食糧も確保できます。やはり私は人に恵まれていますね。」


「ちょっと待て、ケント!何が何やらさっぱりだ!」


「わかりました。説明しましょう。少し長くなるかも知れませんが。」



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生徒会に入ったケントがまず実施したのは、敷地内の面積の計測と施設・設備の確認だった。


全体像を把握していないと課題も見えてこない、というのがケントの持論だ。


その結果、使われていない施設がいくつかあり、国からの補助金で定期的な清掃は行っているものの完全に無駄遣いになっている事が判明した。


そこでケントは、この使われていない施設をシルバ達に宛てがえないかとジョンに提案した。


治安悪化を防ぐ目的もあるとジョンには話したが、実際のところケントは時間と人材を無駄にしたくなかっただけだ。


ケントの提案が承認されたところで、次にケントは寮長のおばさん、ヘンディさんの所に交渉に行った。


「仕事の手伝い?そんなもん要らんよ。」


「そうですか?起床時間に生徒を起こしたり、就寝時間にちゃんと寝ているか確認したりされているという事は、かなり長時間労働されているのでは?

人を使えば、ヘンディさんが本を読む時間も確保できると思いますよ。」


ケントの的を射た指摘にヘンディ寮長も考え込む。


「働き手はどんなやつなんだい。」


「7人の、家と家族を失った子供達です。」


「それを先に言わねえか!さっさと連れてこい!!」


「では次の休日に連れて参ります。」


(やはりヘンディさんは優しいお方だ。)



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「とまあこんなやり取りがありまして。ヘンディさんは7人ぐらいどうって事ないと、朝昼晩の食事に加えて多少の給金も下さるそうです。」


話に夢中になっていたケントがシルバ達の方を見ると、全員が歯を食い縛っていた。


何か怒らせたかと考えると、冷静になればすぐ分かる事だ。


ケントは自分がやり過ぎたと悟った。


彼らも自分と同じ少年少女。


相談も無しに上から目線で一方的に施されるのが癇に障ったのだと思い当たった。


ケントは震えながら声を掛ける。


「シ、シルバ…?」


「ず、ずまないケンド…いまば…」


「え?」


ケントが聞き返すと、シルバは天を仰ぎ左手で目を覆った。良く見ると小刻みに肩が震えている。


「お、おれたぢずっど…ずっど取られて…奪われで…づ、づらがった!辛がったんだ…!!」


シルバは仲間達に泣き顔を見られないようにして泣いていた。


気づけば他の少年少女も泣いていた。崩れ落ちている者もいる。


ケントはハッとした。


いくら頭が回るとはいえ、相手は子供。


自分のように前世の記憶など無いのだ。


それが親を亡くし、家を無くして辛くない訳がない。


ケントは顧客第一主義を掲げていたつもりだったが、そんな事もわからない自分の未熟さを痛感し、穴があったら入りたいような気持ちになっていた。


それと同時に、覚悟が完了する。


この子供達を立派に育て、守り抜くという覚悟が。



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「すまないケント。取り乱した。」


「いえいえ。こちらこそ事前に相談も無しに話を進めてしまい、申し訳ありませんでした。」


「謝るな!!」


シルバが叫ぶ。


「謝るな、ケント。お前が謝る必要は無い。…いや、違うな。」


そう言うと、シルバはケントに向かって深々と頭を下げた。


「ありがとうございます!…この、この御恩は、一生忘れません!!」


「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」


「構いませんよ。さて、魔法の訓練を始めましょうか。」


ケロッとしたケントに脱力したシルバ達だったが、内心では密かにケントに対して忠誠を誓うのであった。

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