第21話 勧誘を躱して
授業初日が終わりケント達が校舎から出ると、そこにはとてつもない人だかりが出来ていた。
「え、何これ!?」
近況を話しながらケントと共に下校中だったセレサも、驚きの声を上げる。
「フットボールに興味はありませんかー!?」
「男は黙って拳闘部!」
「いや、漢なら剣道だ!」
「そこのあなた可愛いわね!チア部なんてどう?」
「筋肉愛好会で筋肉について語り明かそう!」
「魔法陣作り隊、絶賛募集中!」
妙な団体もあるようだが、部活動の呼び込みのようだ。
「そういえばこの学院は部活動が盛んなんですよね。にしてもこの盛り上がりは…」
セレサは少しうんざりしたように言うが、ケントは意外と好意的に受け止めていた。
(これは大学に入った時を思い出しますね。サークルの勧誘チラシで入学式の帰りはカバンがぎっしり埋まっていたのが懐かしいです。さて、経営コンサル部とかありませんかね。あれば即入部なのですが…)
ケントがどこか悠長な事を考えていると、聞き慣れた声に耳を奪われた。
「ケントはこっちだよー!
ほら、こっちこっちー!」
「メグ?何か用でしょうか?」
「メグ様!?」
セレサが何か変な事を口走ったような気がするが、ケントは気にしない事にして人だかりから逃げるようにメグへと近づいていった。
「メグ、何か御用ですか?」
「えー?勧誘に決まってるじゃん!私と一緒に決まってるでしょ?」
ケントとメグの親密なやりとりにセレサが横で目を輝かせているが、これもケントは気づかないフリをした。
「決まってはいないですが…メグは何部に所属しているんですか?」
「部じゃないよ?生徒会!
お兄ちゃんと一緒だよ!」
ケントは衝撃を受けた。
「え…?メグが生徒会役員なのですか?」
「そうだよー?知らなかった?」
この学院大丈夫だろうかとケントは心配になったが、流石はケント。
顔にも口にも出さなかった。
「そうですか。しかし生徒会とは勧誘で入れるものなのですか?
私はまだ一年生ですし、問題があるのでは?」
「そんな事は無いと思うけど…細かい話はお兄ちゃんに聞いて!」
ウキウキした声のメグに、久しぶりに温かい気分になっていたケントは、とりあえずジョンの所に行って話を聞いてみる事にした。
「それではジョンの所に…」
「あ、あの!」
ケントが気づかないフリをしてきたセレサが、そこにはいた。
「あのあの、ケントくんとメグ様はどんなご関係で…?」
「えー?聞いちゃう?それ聞いちゃう?」
「姉弟です。」
「え…」
「あーもう、ケント!なんですぐ言っちゃうかなあ!もう少し色々匂わせてからバラすつもりだったのに!」
「それは失礼しました。どうも結論をすぐに言う癖がついてしまっているようで。」
ケントとメグが戯れている間にも、セレサが身体を震わせていた。
「わ、わた…」
「え、なーに?」
口籠るセレサに、メグが優しく聞き返す。
「わ、私も生徒会に連れて行ってください!!」
セレサが真っ赤な顔で言い放った言葉に、ケントとメグは目を見合わせるのだった。
————————————————
メグに連れられて入った生徒会室では、ジョンが出迎えてくれた。
「よく来たな、ケント。…そちらは?」
「ひゃい!ケントくんと同じクラスの、セレサです!よろしくお願いします!」
「そうか。俺はジョンだ。メグ、これは一体?」
「なんか連れてってーって言われたからとりあえず連れてきちゃった!あとはお兄ちゃんよろしくね!」
軽く言い放つメグに、ジョンが嘆息する。
「お前は…まあ良い。2人とも、そこに座ってくれ。茶でも出そう。」
クッションが柔らかいソファに腰掛けると、セレサが小声で話しかけてきた。
(ケントくんケントくん、もしかしてジョン生徒会長もご兄弟なんですか!?)
(ええ。しかしジョンには様付けしないんですね。)
(メグ様は私の憧れの人なんです!明るくて元気でお綺麗で…それに魔法も無詠唱で使える超凄腕!憧れない方がおかしいですよ!)
想定以上に高いメグの評価にケントは驚いたが、もう一つ気になった点があった。
しかしそれを聞こうとしたタイミングで、ジョンが紅茶を持って帰ってきた。
「この紅茶はジョンが?」
「ああ、いつもやってくれるやつが今はいないからな。」
「お兄ちゃん、私もできるよ?」
「お前は…まあ良い。それでケント、本題だ。生徒会に入らないか?」
なんとなくメグの家事レベルが想像できるケントはジョンに感謝しつつ、ジョンに返答した。
「私としては構いません。ですが先程メグにも話しましたが、生徒会は新入生が勧誘で入れるようなものなのですか?」
「そこは大丈夫だ。というより、学院長からは何としてでも引き込めと言われている。」
「そうでしたか…では安心ですね。良いでしょう。私は生徒会に入らせて頂きます。」
ケントはジョンとメグのいるこの部屋を既に愛しく思い始めており、ジョンの誘いに二つ返事で了承した。
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