第20話 渋滞
波乱の入学前テストが終わり、翌日には校内の魔法掲示板にクラス分けが表示されていた。
ケントは1組に名前があり、何の因果かファムとセレサも同じクラスになっていた。
ホームルーム教室へ向かうと、30ほどある席には名前が振られており、左前の席がケントの席として指定されていた。
ケントが着席すると、後ろの席に座っていたセレサが声を掛けてくる。
「ケントさん、同じクラスでしたね!これで借りを返せます!
授業中にケントさんが眠っていたら、こっそり起こしてあげますからね!」
「ありがとうございます、セレサ。
クラスメイトとして、これからよろしくお願いします。」
そんな話をしていると、教室の入口から大きな声が聞こえてきた。
「1組のみんな、おはよう!
今日も良い朝だね!
僕はマイトだ!
これからよろしく!!」
茶色く短い髪の男子が爽やかに入室してきた。
前世で言うところの体育会系だ。
後ろに小柄な男子を連れている。
「マイトくん、声大きいよぅ…みんなビックリしちゃってるよ?」
「何を言うんだ、イルマ!
最初が肝心と言うだろ?」
「そうだけどさぁ…」
と言いながらケント達の方へ向かってくる。
「やあ、隣の席だね!…ケントくんか!宜しく頼むよ!」
と言いながらマイトはケントの隣に座った。
後ろから
「よろしくお願いしますぅ…」
と小さな声が聞こえたかと思うと、セレサの隣にイルマが座るのが見えた。
ケントはこの機会を逃さない。
「マイトさん、イルマさん、よろしくお願いします。私はケントと申します。」
ケントの後にセレサも続く。
「私はセレサです!宜しくね!」
ドカッ!
マイト達の顔がぱあっと明るくなった時、後ろの席から大きな音がした。
振り返ってみると、金髪を刈り込んだ目つきの悪い男が机に両足の踵を乗せ、こちらを睨んでいた。
「あー、うるせえ。良い子ちゃんばっかでイライラするわ。ってなに見てんだコラ。潰すぞ。」
(学院にはこんな生徒もいるのですね。色々な生徒がいて非常に興味深いです。)
先程まで明るかったクラスが、一気に静まり返る。
そこに新しい足音が2つ聞こえてきた。
教室に入ってきたのはファムと、スーツを着た赤い髪の女の子だった。
ファムは右前の席に着き、スーツの女の子はなぜか教壇に立った。
「ハイ、ではホームルームを始めます!」
「「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」」
ケントは一瞬だけ、バラバラだったクラスが団結したような気がした。
————————————————
結果として、なんと驚くべき事に、スーツの女の子は、女の子では無く女性だった。
クラス担任のミレーネ先生。
こう見えても甥や姪がいるような歳だそうだ。
「ハイ、では次はみんなに自己紹介をしてもらいまーす!じゃあ学年主席のケントくんからいってみましょう!みなさん、拍手!!」
(この席は成績順だったのですね。と言う事は、失礼ですがファムとセレサが連番という事…まあテストの点は運の要素もありますしね。後でファムの事は慰めるとしましょう。)
などと本当に失礼な事を考えながら、ケントは席を立った。
「私はケントと申します。皆さんのご期待を裏切らないよう、精進して参ります。宜しくお願い致します。」
「ケントくん、よろしくー!ハイ、皆さん拍手拍手!」
ミレーネ先生のどこかのほほんとした声で、クラス内はなんとか明るくなり始めた。
そして順番に自己紹介をしていく。
後半になり、徐々にクラス内に不穏な空気が漂い始める。
そう、彼の順番が近づくにつれて…
そして、遂に例の威圧感のある彼の番が訪れた。
しかし誰も言葉を発しない。
ミレーネ先生が恐る恐る催促をする。
「あ、あれ〜?次の子は…レードルフくんかな?ど、どうしたの〜?」
「俺はパスだ。」
「パスとか無いですから!それと足を下ろしなさい!」
ミレーネ先生は身体的問題でレードルフが机に足を乗せている事に気づいていなかったようだ。
…教壇があまり高くなっていないので仕方ない。
「チッ…」
「あ、今舌打ちしましたね!レードルフくん、早く足を下ろして自己紹介して下さい!」
「うるせーな!わあったよ!!」
ガタンッ!
大きな声と音を立てて立ち上がったレードルフは、周囲を威圧しながら自己紹介をした。
「レードルフだ。宜しくするつもりはねえが、俺の邪魔だけはすんな。以上だ。」
それだけ言って椅子に座ると、目を瞑ってもう言う事はないと表明していた。
クラス内の空気が冷めたものになっている中、ミレーネ先生は顔をこわばらせて次の生徒の自己紹介を促した。
そんな中でケントはというと、レードルフに興味を持っていた。
(初対面でこれだけ人を威圧できるとは、使い方を工夫すればカリスマ的存在になれますね。それに周囲に左右されない意志の強さは為政者向きです。是非お近づきになりたいものですね。)
こうしてクラス内の人間関係が円滑には形成されないまま、授業初日は進んでいった。
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