第19話 ニヤニヤすな
白髪の老人はフッと笑うとケントに向き直った。
「改めて、初めましてケントくん。
ワシはベアムース。このヤネン第一学院の長をしている。」
「初めまして、学院長。私はケントと申します。」
ベアムースは好好爺としか言いようの無い表情でケントを見つめてくる。
「まあ初対面とは思えないんじゃがな。ジョンとメグから散々話を聞かされておるからのう。
さて、ケントくん。一応立場上、ワシは君に問わねばならぬ。
君はなぜワシが魔法で化けている事に気付いたのじゃ?」
「正確には、魔法を全身に発現している事までしか断定できていませんでした。私は魔力を見る事ができるので。」
「成程。ワシが全身に魔法を掛けている所までは分かったが、何の魔法かまでは特定できていなかったのか。」
ベアムースの言葉に、ケントは悔しそうな表情を見せる。
「次には特定できるよう、精進致します。」
「よいよい、十分じゃ。
ジョンですら、この学院に来てから魔法の原理を学んでおるのじゃ。
お主とメグは成長が早過ぎるぐらいじゃわい。」
自分よりもメグが褒められて無意識に顔が綻んだケントは、先程から抱いていた疑問を投げかけた。
「お気遣い、痛み入ります。
しかし、なぜ学院長が試験官を?
別の方でも良かったのでは?」
「それはそうなんじゃがな。あのドリスとマリーナの息子であり、ジョンとメグ、コレアからの報告と、これだけ面白そうな情報が揃ったら居ても立っても居られなかったわい。
ガーッハッハ!」
「コレアさんともお知り合いなのですか?」
「昔少し手ほどきをした事があってな。この間ワシの店に行ったと聞いたぞ?」
「コレアさんと共に訪れた店でしょうか?肉野菜炒めが名物の大衆食堂に行きましたが。」
「それがワシの経営しておる店じゃ!なかなかイケたじゃろ?」
嬉しそうに語るベアムースの言葉に、ケントは一つ得心がいった。
「私はかなり好みの味でした。
そういえば、コレアさんのお知り合いが経営していると仰っていました。あれはベアムース学院長の事だったのですね。」
「そうじゃろそうじゃろ。
あやつは昔から悪巧みが好きなやつじゃったからのう。
恐らくケントを驚かせようと思ったのじゃろ。」
「そうでしたか…。それでベアムース学院長。私はこれからどう致しましょうか。」
ケントから問われ、ベアムースは顎をさすりながら少し考えた後、秘密を共有する子供のような顔で言った。
「そうじゃな…もう魔法テストは不要じゃが、ワシは単純に君に興味がある。このホール内に傷をつけない程度に、なにか魔法を一つ見せてくれんか。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
(さて、なんの魔法にしましょうか…ホールを傷つけないという事は、攻撃系統はNG。また目に見えない物もインパクトに欠けますね。ふむ…ああ、テストでも無い事ですし、あれをやってみましょうか。)
ケントはどの魔法を行使するか決めたようだ。ベアムースと目を合わせ、小さく頷く。
「では、参ります。」
ケントはそう言うと、その場でくるっと一回転した。
「な、それは…しかも本当に無詠唱で…メグの言っておった事は本当じゃったか。なんとまあ…」
狼狽えるベアムースの前には、ケントの母、マリーナがいた。
「いかがでしょうか。変身は先程初めて見た魔法でしたので、イメージが十分かどうか…」
ケントはテストではないと言質を取った上で、先程ベアムースが使用した変身の魔法を使用した。
対象をマリーナにしたのは、生後最も長く時間を共にした為、イメージを一番明確にできると考えたのであった。
「完璧じゃよ。ワシの立つ瀬が無いわい。その姿も、ワシの知っておるマリーナそのものじゃ。」
「そういえば先程も私の両親をご存知のような言い回しをされていましたね。
ベアムース学院長は2人をご存知なのですか?」
「ご存知も何も、ドリス、コレア、マリーナはワシの元弟子じゃよ。」
顔には出さないが、ケントは衝撃を受けていた。
ベアムースが学院長をしている学院に入るというのに、3人ともその事を教えてくれなかったからだ。
ケントは自分の両親が、この事を知ってケントが驚く姿を想像して2人してニヤニヤしている事など、当然知る由もないのであった。
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