第14話 優しいヘンディ
メグは色々な事を話してくれた。
友だちがたくさんできた事、
ジョンがとても人気がある事、
学院長先生が凄い人である事など。
ただ、ケントが一番驚いたのは、母マリーナの妹が講師としてこの学院に勤めているという話だった。
今よりも更に小さな頃に一度会ったきりだったので、どんな人だったのか全く思い出せない。
そうこうしているうちに、男子寮へとたどり着いた。
「メグ、案内してくれてありがとうございました。
久しぶりにお話ができて楽しかったです。」
「私も楽しかったよ!
またいっぱいお話しようね!!」
「はい、是非。ではまた。」
「バイバイ!」
メグは若干名残惜しそうな表情を浮かべたが、人の往来がある上にケントはこの学院に通うのだ。
ここで粘る必要は無い。
なにより、久しぶりに会った弟の前だ。
メグもケントの前では大人ぶりたいと考えていたので、男子寮へと入っていくケントを、静かに見送るのであった。
「あ、言うの忘れちゃった。」
ただし、メグらしい一言を添えて。
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男子寮に入ると、がっしりした体格の女性が立っていた。
傍らの机には本があったので、おそらく読書中に訪れてしまったのだろう。
「新入りかい?そこに部屋割り表と寮内の見取り図があるから、そのまま部屋へお行き。」
「本日よりお世話になる、ケントと申します。よろしくお願いします。」
面倒そうにあしらわれはしたが、最初が肝心と考えているケントは、丁寧に挨拶をした。
「はいはい、アタシは寮長のヘンディだ。アンタらの世話なんてしないよ。そもそもホントにテストに受かるかなんて分かったもんじゃない。さっさと行きな。」
「はい、ありがとうございます。」
ケントが本当にさっさと部屋へ向かったので、ヘンディは逆に拍子抜けして少し棒立ちになった後、元いた場所へ腰を下ろしてまた読書に没頭するのであった。
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自室に着き、ケントはようやく一息ついた。
室内を見回すと、広くは無いものの子供の一人住まいとしては悪くない。
最低限のベッド、デスクが設置されており、シャワールームまである。
流石にケントといえど今日は若干の疲労を感じていた為、すぐにシャワーを浴びてベッドに横になる。
なにしろ両親との別れ、長時間の飛行、検問でのイザコザ、ヤネン領主との邂逅、ファムとの打ち合わせ、ジョン・メグとの再会、入学手続きと、これだけの事を1日でこなしたのだ。
とはいえ、ケントに倦怠感は感じられず、むしろその表情はツヤツヤしていた。
(さて、今日はミッションも多く充実した1日でしたね。これだけでも家を出た価値があったと言うものです。ひとまず明日はゆっくりして、明後日の入学前テストに備えましょうか。しかし、どんなテストをやるのやら。学院入学前では、読み書きを満足にできる人の方が少ないでしょう。もしかすると、魔法のテストの方がウエイトとしては大きいのかも知れませんね。)
そう想像を膨らませ、ケントは眠りに落ちた。
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昨晩早めに眠った為すっきりと早起きしていたケント。
(これだけ整った設備を入学が決まる前から受験生に使用させてくれるとは、学院はかなり気前が良いですね。それだけ学生を大事にしてくれているということだと良いんですが…)
ケントが起き抜けから考察を続けていると、静かな男子寮に突如大きな音に続いて寮長の声が響き渡った。
ガンガンガン!!!
「朝だよ!降りといで、クソガキども!!」
(どうやら毎朝生徒達を起こしてくれているようですね。優しい方だ。)
言葉ではなく行動で人を評価する癖がついているケントには、寮長がとても優しい人物に写っていた。
「ヘンディさん、おはようございます。」
「!?…あ、ああ…昨日の新入りか。食堂に食事の準備が出来てるよ。」
「ありがとうございます。頂いて参ります。」
「ふう…。オラ、朝だっつってんだろクソガキども!
起きろイルマ、またお前か!」
素直に礼を言われるのは珍しいらしく面食らっていたヘンディだったが、それも一瞬の事だった。
ケントが食堂へ歩き始めたのを見届けると、ヘンディはまた大きな声で子供達を起こし始めるのであった。
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