第15話 美味しいお食事
朝食後は身の回りを整え、街を散策していたケントは昨日出来なかった街の分析を再開する。
(ふむ。やはり冒険者の数が多いですね。ただこうして良く見ると冒険者の中でもかなり貧富の差がありそうです。
あまり冒険者の事は分かりませんが、彼らの装備はサラリーマンにとってのスーツや革靴と同様。クライアントに信用を与える商売道具なのですから、見てわかるほどにみすぼらしい格好をしている方々はあまり仕事に恵まれていないのでしょう。
そうなると、ファムさんに話したベッドタウンの件は上手くすれば簡単に軌道に乗りそうですね。)
そう考えながら歩いていると、見覚えのある背の高い男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「やあ、ケントくん。」
「こんにちは、コレアさん。
昨日の今日で街歩きとは、随分フットワークが軽いですね。」
「ハハ、書類仕事は苦手でね。」
昨日も遭遇したヤネン領主、コレア=ヤネンが、また護衛もつけずに現れた。
(昨日も検問の列に並んでいましたし、本当にフットワークが軽いですね。
現場を把握している、自分達の仕事を見てくれている、という実感は部下からしたらそれだけでモチベーションになりますから、この人はかなり有能なのでしょう。
このヤネンの街の繁栄も納得ですね。)
「とはいえ、今日は目的もあってね。」
ケントが内心でコレアを称賛していると、少し真面目な表情になりながらコレアがケントを見つめる。
「そんな事を私に話しても宜しいのでしょうか。」
「ああ、構わないよ。僕の目的は君を見つける事だから。」
「私を、ですか。」
ケントは前世を思い出していた。
仕事が順調に進められるようになった頃、他部署の役職者がコレアと似たような事を言っていたのだ。
「でしたら、私からもコレアさんに報告したい事があります。」
「そうか。じゃあ昼食でもとりながら少し話そうか。
美味しい所を知ってるんだ。」
大都市の領主にも関わらず友達の親のような雰囲気でケントに語り掛けるコレアはそう言うと、道を指し示し前を歩き始めた。
少しして大衆食堂に到着した2人は、その店の名物だという肉野菜炒めを注文し席についた。
「少し意外ですね。レストランのような所に入るのかとばかり思っていました。」
「ここは知り合いの経営する店でね。何度か来た事があるんだが味付けが最高なんだ。
さて、早速だがまずは君の用件を聞こうか。」
本当に嬉しそうな表情を見せる領主に、ケントは報告を始める。
「では、手短に。昨日セアナ領主の娘ファムに、セアナの経営改善の指南を行いました。ヤネンにも多少の影響を及ぼす可能性がありますので、報告したいと思いまして。」
「そんな事を。ファムっていうのは、昨日検問で会ったあの娘だね?」
「はい。昨日コレアさんと別れた後に少し話しまして。
セアナは宿場町としてヤネンから溢れた冒険者を受け入れるのに適しているという話をしました。
ヤネンの宿泊客が一部セアナに流れる可能性があるので、コレアさんにも話を通しておくべきかと。」
コレアがケントからの報告を聞いて少し目を見開いたところで、食卓に料理が届けられた。
「お待たせしましたー肉野菜炒め2つです。」
「ああ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「さて、続きは食べながら話そうか。冷めるとこの美味しさが半減してしまう。」
と言って、コレアはケントを促す。
言われるがままにケントは料理に手をつけるが、すぐに手を止めた。
(これは…胡椒が使われている?この世界に来てからは塩での味付けしか無かったのに…それに肉は柔らかく、野菜は味が染みているのにシャキッとした歯応えがある。…このお店は覚えておく事にしましょう。)
「どうやら満足してもらえたようだね。」
料理に夢中になっていたケントが顔を上げると、コレアがニヤニヤしながらこちらを眺めていた。
「失礼しました。」
「良いんだ。私も紹介した店が気に入ってもらえたようで何よりだよ。やはり話の続きは食べ終わってからにしようか。」
そう言ってコレアが料理に手をつけたので、全く異論のないケントも黙って食事を再開した。
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