第12話 難癖を楽しむ

コレアと別れたケントが街を歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「ちょっとアンタ」


振り返ると、金髪の美少女がそこにはいた。年齢はケントと同じくらいに見える。


「はい、私に何か御用でしょうか。」


「何か御用でしょうかじゃないわよ!よくもアタシに恥を掻かせてくれたわね!」


ケントは思い当たる節がなかったが、そういえば先程の検問で言いがかりをつけていた女の子に声が似ていると思い当たる。


ケントはあの時検問係の男にばかり目を向けていたので、割り込んだ女の子の事は良く見ていなかった。


「先程検問で割り込みをしようとされていた方でしょうか?恥を掻かせてしまったつもりはありませんでしたが。」


「アンタが検問係にケチをつけたせいで、アタシが悪者みたいになったでしょうが!どうしてくれるのよ!?」


「そうだとしたら、それはあなたの今後の取り組みで周囲の評価を上げれば良いのでは?」


「そうじゃない!今アンタに落とされた評判をどうしてくれんのって聞いてんの!!」


「短期的な評判よりも、長期的な視点を持つべきだと思いますが…」


一応言い返しはしたものの、ケントは思案にふける。


完全に難癖をつけられている状況なのだが、ケントはこの類の無茶振りを達成する事に喜びを覚える人間なのであった。


(ふむ、彼女は確か隣町セアナの領主の娘、ファムと名乗っていましたか。恐らく自分の愚行で父親であるセアナ領主の評判が落ちる事を恐れているのでしょう。セアナの評判を逆に上げるにはどうするべきか…検討するには情報が足りませんね。)


少し考え込んだ後、ケントは顔を上げファムに声を掛けた。


「ファムさん…で宜しいでしょうか。そこでお茶でも飲みながら、少しお話を聞かせて貰えませんか?」


「良いわ!全部アンタのせいなんだからね!」


ケントがすぐ側のカフェに足を向けると、ファムも鼻息荒くついてくるのだった。



————————————————



「そうなの!セアナはここから歩いてすぐなんだけどね、ご飯がすごく美味しいの!

でもお土産になるような物とかお店とかが少ないから、あんまり人が多くないの…」


カフェに入りココアとケーキを注文したファムは、ケントがここの支払いは任せて欲しいと伝えたところ、一気に心を開いた。


あんなに怒り狂っていたのに、とも思うが、この歳の女の子であれば仕方ないだろう。


注文したケーキを口に運んでからのファムは、とても饒舌だった。


特にセアナの話になると目を輝かせ、手を振り回して語るのだ。


余程セアナが好きなのだろう。


(なるほど、特産品がなく人が寄り付かない。人が寄り付かないから商店も出店してくれないし、そのせいで税収が取れないから特産品を作れない。このヤンナの街とは真逆の循環が起きていますね。長所は食事の質と、ヤンナに近い事、ですか…)


「…ベッドタウン…」


ケントは思考の欠片をつい口に出してしまった。


「え、何?」


「セアナの街はベッドタウンに向いていますね。」


「ベッドタウン?それ何?」


「大きな街の近くにある、宿場町の事です。大きな街の宿屋は割高になりがちなので、その近くにある街が宿場町となって、大きな街よりも少し割安で運営するのです。」


「ほえー、アンタよく知ってるわね。でもそれがなんでセアナに向いてるの?」


「まず、セアナはヤネンの街に近い。これだけでも十分なのですが、ファムさんは先程ご飯が美味しいとおっしゃっておられた。食事処は多いのではないですか?」


「良く分かるわね。そう、ご飯食べるところはいっぱいあるわよ!」


「でしたら、その食事処の2階を宿泊できるようにすれば、建物を新しく作る必要もありません。

やろうとすればすぐにでもできますし、食事の質が高い宿屋は人気が出ます。

それで、セアナはベッドタウンに向いてると考えました。」


「スゴいわ!すぐお父さんに教えてあげなくちゃ!」


そう言ってカフェから飛び出そうとしたが、ふと足を止めてケントの方に向き直った。


「そう言えば名前を聞いていなかったわね。アンタの名前は?」


「ケントと申します。」


「改めて、アタシはセアナ=ファムよ。ケント、覚えておくわ!またね!」


そう言い残すと、ファムは今度こそカフェから飛び出していった。

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