第11話 ヤネンを歩く
いざこざはあったものの無事ヤネンの街に入れたケントは、また今回も情報収集を始めた。
(軽装の住民が多いので、やはり平和であることを示していますね。
それを担保しているのは、比率が高すぎる冒険者。
…なるほど、流石は商業の中心地。
商人が仕入れなどで街を出る際の護衛の任務も多いでしょうから、それで冒険者が集まった。
集まった冒険者の数が安心感に繋がり、その結果がこの栄えた街なのですね。冒険者達もお金を落としていくでしょうし。
実に良い循環を回していると言えます。)
そんな分析をしながらキョロキョロ街を見渡していたケントだったが、急に立ち止まる。
「どうしたんだい?
急に立ち止まったりして。」
そう、先程の背の高い男がついてくるのだ。
「いえ、貴方はどこまでついてくるのかと。先程はお陰で暴力を振るわれずに済みましたが、貴方はここの領主でしょう?お忙しいのでは?」
「あれ、私は名乗っていない筈だが?どこかでお会いしたかな?」
背の高い男、このヤネンの領主が不思議そうな顔で問い掛ける。
「いえ。お会いするのは初めてですが、係員の態度と胸元のバッチで判断させて頂きました。
また、両親から簡単にではありますが、領主様の外見的特徴を聞いておりましたので。」
「なるほど。それで君はもしかしてドリスとマリーナの息子かい?」
「はい。ドリスとマリーナが次男、ケントと申します。」
それを聞いた領主は相好を崩してケントを抱き上げた。
「おお!やっぱりか!!
その整い過ぎている顔と綺麗な黒髪はそうじゃないかな、と思っていたんだ!2人は元気かい?」
「2人とも息災ですが、領主様は両親をご存知なのですか?」
「あれ?聞いてない?
僕はこの街の領主、コレア=ヤネン。
僕たちは元々一緒に冒険者をやっていたんだ。」
ケントを地面に下ろしながら領主は答えた。
「そうでしたか。領主様はさぞバランス感覚に優れているのでしょうね。」
「コレアで良いよ。しかし、それはどういう事だい?」
「私の両親は適性が偏っています。恐らく父が前衛で索敵と攪乱、母が後衛で移動砲台のような分担になるでしょう。
中衛はそれを取り持つだけでも大変なのに、なにせあの母ですからね。さぞ苦労した事でしょう。」
「そうだね。ただマリーナの制御は途中で諦めたけど。」
「それが賢明ですね。
また、バランス感覚は街の経営にも生きているかと。」
このケントの発言にはコレアが目を光らせた。
「ほう?」
続きを促す素振りを見せたので、続きを語り始める。
「ではまず、経済。
現在では商会が多く呼び込めたので税収が増えたでしょう。
また商会の増加・発展により冒険者も比例して増加し、税収も街での売上も上昇している。
この冒険者の増加は街の防衛力としても機能しているため、安全な街としてさらに人が増える。
そして実際安全なので、防衛費も抑えられている。
この全てが貴方のバランス感覚の賜物なのでは、と思ったのです。」
話の途中からコレアは口をあんぐりと開けて驚愕していた。
「…これは驚いた…街の概要をこんな小さな子が街に入って直ぐに把握するとは…」
「性分ですからお気になさらず。
それではコレア様、私はこれで。
先程は庇って頂きありがとうございました。」
「ああ、またねケントくん。」
そう言ってコレアと別れ、改めてケントはひとり、街道を進んで行った。
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