第9話 タケノコとカマイタチ
ジョンもメグも家を出て、すっかり静かになった一家。
やはりメグは一家の太陽だったようで、居なくなると影が差す。
そんな環境だがケントは活動的に行動していた。
(寂しくない…というのは嘘になるでしょうが、これで自由に行動ができますね。メグとの魔法の訓練も一定の成果が出ましたし、そろそろアウトプットも必要でしょう。)
今までの魔法の訓練はあくまで魔法の発現まで。対外的にどの程度の効果をもたらすのかの実験が必要だった。
(まだまだ鍛える余地はありそうですしね。)
そう、今でもマリーナの本読み会で分かったのだが、この世界には2種類の獣が存在する。
簡単に言えば野獣と魔獣だ。
(マムは「普通のヤツと悪いヤツよ!」と笑っていましたが、恐らく悪意の有無が野獣と魔獣を区別するのでしょう。魔獣は食欲とは無関係に人を襲っているようですし。)
ドリスの活動範囲は自宅からそう離れていない。
毎日夕方には帰宅するのがその証拠だ。
しかし、自宅周辺には草木や動植物も多く生息している為、襲う事でリスクのある知的生命体を狙うメリットは大きくない。
(家の近くに悪意を持った獣がうろついているのですから、自衛の手段は確保すべきでしょう。今日はその第一段階です。どこまで通用するのやら。)
思案に耽りながら歩いていると、開けた草原に出た。
周囲の見渡せる範囲には気配がしないが、ケントは標的を発見していた。
(本当に魔法は便利ですね。眼鏡無しでここまで視力を増強できるとは。)
魔法だ。
ケントは初めて魔法を発現したその日から、日常的に魔法を使用するようにしていた。
初めて発現した魔法は明かりを灯すものだったが、翌日にもう一度試したところ持続時間が伸びている事に気づいた。
筋力と違い筋肉疲労を休ませる必要も無いため、毎日魔法が出なくなるまで魔法を発現するようにしていた。
その結果、様々な魔法を習得したのだが、この視力増強もその一つだ。
(茂みの奥に、1、2…6匹ですか。最初にしては多いですが、まあ良いでしょう。)
茂みに潜みこちらの動向を窺っている獣は明らかに地球に生息していた獣と異なる気配だ。
豚を凶暴にしてたてがみをつけたような姿で、どう見ても魔獣だ。
「では、行きます。」
そう呟くと、ケントは猛スピードで滑るように地面を進んでいった。
背中に噴射機をつけたイメージで標的へ一直線に近づいていく。
魔獣達も慌てた様子を見せるが、逃亡を図る前にケントの腕が空を切る。
それだけで3匹の魔獣が茂みごとバラバラになった。
(ふむ、魔獣だから魔法が効かない、身体が硬いなどという事はないようですね。カマイタチの魔法で十分ですか。)
ケントが使ったのは風の魔法だ。
元の世界ではウインドカッターなどと呼ばれる事が多かったが、ケントはその界隈には疎かった。
(さて、次は…)
とケントは手を振り上げる。
すると魔獣達の足元の土が円錐状に盛り上がり、残りの魔獣を串刺しにした。
(タケノコの魔法もなかなか。これで魔獣とも戦えますね。)
…ケントは世間のファンタジーに疎かった。
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