第7話 天才と秀才
ジョンが出立してからというもの、メグのケントへの溺愛ぶりがより顕著になった。
ほとんど一人の時間は無くなったと言って良い。
今日も庭先で日向ぼっこを一緒にさせられている。
(参りましたね。一歳になる前には魔法を使い始めたかったのですが。)
ケントは愛する家族を守る為の力を欲していた。
父が不在の時に獣が襲ってくる可能性もあるし、なんなら父よりも強い獣が存在する可能性もある。
いざという時に母や姉を守れるのはケントだけだ。
まあ、一歳にも満たない赤ん坊に守られるのは2人とも想定していないのだが。
(この間、メグには共にいる約束をしてしまいましたからね…これはやはり…)
「メグは魔法が使えるのですか?」
ケントはメグと共に魔法の訓練をすると決めた。
メグから離れられない以上、やむを得ないと判断したのだ。
「使えるよー!ほら!」
メグが手をかざすと、そこに生えていた茂みが一瞬で燃え尽きた。
これにはさすがのケントも目を丸くした。
(威力が強いですね。それに無詠唱…ジョンもそうでしたが、メグももしや大人物になるのでは?)
「凄いですね、メグは。僕にも魔法の使い方を教えてくださいよ。」
「良いけど、ナイショだよ?この間も勝手に魔法を使って怒られたばっかりだからね!」
なぜか胸を張るメグだったが、ケントは状況を把握した。
(確かに先程の魔法はこの歳で使うにはいささか威力が強すぎる。目の届く範囲でないと心配ではありますね。まあ、都合よく今のメグは私にべったりですから、ある程度は制御できるでしょう。)
「ありがとうございます。
魔法とはどう発動するのですか?」
「えっとねー、お腹にグッてして、エイってやるとボッてなるの!」
(マリーナそっくりですね…)
苦戦の予感がケントを襲った。
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それからケントとメグは親の目を盗んで魔法の練習に没頭した。
(なるほど、お腹にグッというのは体内の魔力に集中する事を指し、エイっというのは具体的な事象をイメージする事を指すようですね。これは既成概念に囚われる前の幼児期だからこその自由な想像力が生きているようです。メグは幼い女の子らしく好奇心も旺盛ですし、活発な子ですから、それだけでも魔法の素養があったのでしょう。)
ケントは一月ほどをかけて、ようやく難解なメグの方法論を言語化する事に成功した。
お陰でようやく少しずつではあるが魔法を発動させる事ができるようになっていた。
「ケントはやっぱり天才ね!
こんなに小さいのにもう魔法を使えるんだから!」
「メグの教え方が良かったんですよ。」
このケントの言葉にはメグを気分良くさせる目論見があるのだが、もちろんまだ幼いメグには気づく事はできない。
「むふ。メグすごい?」
「ええ、メグは凄いです。いつか偉大な魔法使いになるでしょう。」
とはいえ、過大評価でもない。
これはまだケントも知らぬ事だが、この世界の魔法使いは魔法の発動時、詠唱を必要とする。
メグはマリーナのふわっとした物語を聞いて幼児期特有の想像力と天性の才能から魔法を発動していた為、詠唱が必要である事など考えもしなかったのだ。
無詠唱での魔法は一部の上位層にしか使えない為、この時点で既にケントとメグは世界でも珍しい無詠唱の魔法使いとなっていたのだった。
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