第5話 赤ん坊とは何か

月日は流れ、ケントが覚醒してから半年が経過した。



「マム、おむつを替えてください」



「はいはい。ケントは自分で言ってくれるから楽で良いわね!」



ケントは会話ができるようになっていた。


生後6ヶ月での言語習得は異常な事なのだが、この世界では情報が出回っていない。


その為ケントが生後3ヶ月足らずで簡単な単語を発し始めた際も、家族は驚きはしたものの、ケントは賢い子であるという認識をする程度に留まっていた。



「ありがとうございます。

 今日はなんの本を読んでくれるのですか?」



「ケントはホント物語が好きね!

ジョンでも最近やっと興味を持ち始めたばっかりなのに!」



また、家族と会話ができるようになったケントは、次なる目標としてこの世界の文字と環境を捉える事を設定していた。


そのため母の音読に合わせて文字を追っているのだが、これは難航していた。



「ここでね!魔法使いはドカーン!と魔獣を吹き飛ばすのよ!

 それで敵は全滅!はい、おしまい!」



マリーナが物語通りに朗読をしてくれるのは稀で、ほとんどの部分を彼女の言葉で語ってくれるのだ。


文脈は分かりやすいし文字が読めない子供に対してはむしろ素晴らしい気配りなのだが、ケントにとっては文字習得の妨げになっていた。



「ありがとうございます。今日のお話もとても楽しかったです。」



とはいえケントの為に善意でやってくれている事に口出しをするほど野暮ではないケントは、稀に起こるマリーナの朗読の機会をどう増やすかというところに着目していた。



(マムは読み慣れている物語の場合、大筋を既に知っているため掻い摘んで話してくれるようですね。

という事は、ジョンやメグが興味を持ちそうになく、かつ要約のしようもない学術書の類であれば、そのまま読み上げてくれる可能性は高くなるでしょう。)



そう分析したケントは、マリーナに新たな依頼をするのであった。

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