第4話 ファーストキス

それから一ヶ月が経った。


言語もある程度把握し、周囲でどんな会話がされているのかも理解できるようになった。


父の名はドリス、母の名はマリーナだという事もわかり、これで一家の構成も理解した。


父ドリス、母マリーナ、兄ジョン、姉メグ、そしてケントの5人家族だ。


また、それぞれの個性もある程度把握している。


父のドリスは小柄な割に博識で、様々な事に精通しているようだ。


ただ家族への愛情がとても深く、母マリーナをとても甘やかしているように見えた。


母のマリーナはとても優しいが、意外とヤンチャな人のようで、いつもドリスを振り回している。


また母乳を与える時にケントの目が血走っているのに若干引いている。


兄のジョンは今年で5歳という歳の割に落ち着いた少年で、大きな声を出すところを見たことが無い。


ケントを見ると微笑みながら頭を撫でてくれる、優しい美少年だ。


姉のメグは今年で4歳になったようだが、ジョンとは対極の性格で恐らく母マリーナとそっくりだ。


いつも家の中を走り回っては大きな声で笑っており、ケントも何度か無理やり連れ出されそうになった事がある。


とはいえ嫌な感じは全くなく、むしろケントを溺愛している。


先日はいきなりファーストキスを奪われた。


一家の太陽のような女の子だ。


(こうして改めて見てみると、とても朗らかで好ましい家庭ですね。私も早くこの家庭を護れるようにならなくては。)


そう、家族の事とは別に分かったことがある。


この世界の獣は獰猛な上に生息圏が広い。


地球では人間と獣は棲み分けがある程度出来ていたが、この世界では人類の生息圏と獣の生息圏が重なり合っているようだ。


そのためたびたび獣の出没により住民の安全が脅かされており、父も討伐を主な仕事にしているようだ。


(こんな危険と隣り合わせな状況では、この素敵な家族が幸せに暮らせませんからね。とはいえまだ自立歩行も言葉を操る事も出来ないこの身体ではどうしようもありませんが。)


そう、ケントはまだ生まれて一月しか経っていない。


本来、言語と周囲の環境を把握している事自体が異常なのだが、本人は当たり前の事と捉えている。


(さて、6ヶ月先の目標は先に達成した事ですし、早めに家族との意思疎通を図れるよう鍛えていきましょうか。)


前倒しでタスクを達成したケントは、次なる目標に向けてあー、うー、と発声の練習を開始するのであった。

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