第4話 子宮攻防

まず、私は山下さんにラインを送り、一方的にもう2度と会わないと伝えました。


 そして子供の送り迎えや買い物など最低限の外出以外は一日中部屋に籠ってテレビを見たりなるべく時間をかけて凝った料理を作ったりして過ごしました。なるべく穏やかに、刺激の少ない生活を心がけました。子宮に刺激を与えないよう、テレビ番組もNHKや動物番組や子供向けアニメにチャンネルを合わせておきました。時々見ていたインスタグラムもやめて、スマホの動画でも、少女が花の精と交流するとか孤児の女の子が力強く生きていく女の子向けのアニメ、地球を救う宇宙戦艦の旅とかを選んで視聴しました。どういうわけか、この宇宙戦艦の大技だという破動砲のイメージだけが記憶に残りました。実は記憶ではなく子宮が反応したのですが、あとで思い知ることになるのをこの時はまだ知る由もありません。

 山下さんからの連絡もずっと無視を続けました。山下さんは一度家まで来てインターホンを押しましたが私は答えませんでした。

 日中はなんとか誤魔化しました。しかし、夜になると子宮の活動が活発になります。夕食を食べて、布団の中で寝付くまでが地獄タイムになるのです。

 子宮から脳へ絶えず信号が続き、私はお酒を飲んで強制的に就寝しました。

 ところが翌日になると子宮の信号はどんどん強くなり、子宮に対抗しようとする私の理性はだんだん追い詰められました。というより、理性の対抗力を1とすると子宮の支配力は7ほどもあり、ほとんど役に立ちませんでした。

 追い詰められた私は医者にかかることも考えました。しかし、内科なのか産婦人科なのか、あるいはまさか精神科か、それにどう説明すればいいのか…医者や薬では治せないだろうという直観が私にはありました。なぜならこの子宮はただの内臓のひとつではなく私の体内にありながら独立していたといっていいのです。意志を持つ有機的な生物としてビジョンや野望さえ持ち計画的に支配をはじめ戦略的に指揮命令しているのです。人格といってもいいでしょう。従ってどれだけ医学が発達してもあるいは科学が進歩しても人間が手を出せる領域とは思えないのです。

 たとえば、3日目を迎えそろそろ限界に来て弱っていた私は山下さんに連絡してドラッグストアへお使いを頼みました。生理用品だったか頭痛薬だったか、とにかく買ってきて、ポストに放り込んでくれ、とラインをしたのです。会いたいけど会えない、でもどこかで期待している切ない女心…ではありません。子宮が私を騙そうとしているのです。ストレートな「呼べ、やれ」、という命令では利かないため、段階を踏まそうとしているのです。私にも半ばそれはわかっていたのですが、体力と判断力の低下も伴って、指令どおりラインを入れてしまいました。そして薬を買ってきた山下さんはやはり一度インターホンを鳴らしました。私はなんとかこらえ、山下さんはポストに入れて帰りましたが、なにかモヤモヤした感じが残りました。お金でした、買ってこさせて代金を渡してない。何万もするわけでもないけど、一円も払わないというのも…まあいい、玄関で渡したらすぐ閉めればすむ。しかしここまで含めて子宮の作戦だったのです。もう一回来てくれという連絡に山下さんは近所で待機してたようにすぐやってきました。そして玄関を開けたとき、いえ開ける直前にドアスコープから拡大された山下さんの姿、スーツ姿の股間を見て私はもうあきらめていました。


 こうなると子宮は放流ダムみたいな勢いで命令を続け、何度も山下さんに子宮をなぐられ、かえって3日前よりその支配は強大になってしまいました。連続で山下さんはやってきて、というより私が呼んだのですが、海外製のコンドームはなくなり、ドラッグストアへ走って最大サイズの在庫を買い占めました。

 私と山下さんは挨拶も会話もなく、あらゆる意味での前戯もなく暴力的に交わりました。やはり叫び声を抑えるため口にタオルを突っ込み、何度も気絶しました。

 いよいよ明日夫が帰ってくるとなっても、なんの感想もなくなっていました。

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