第51話 手を取り合って

やはりあの無駄とも思える侵略行動にはそれなりの―――幻界側こちらには幻界側こちらの理由が存在したようだ、そうでないならば以前に魔王様が説かれたように『金食い虫』も同然の軍事行動に出るだなんて困窮の度合いを加速させてしまうに過ぎない自殺行為だ、けれどそうしなければならないと言う理由―――それこそは…


「まずはこの国の成り立ちからお話しせねばなりますまいな、この国『常盤トキワ帝国』の前身はこの幻界に存在していた中小の国家の一つに過ぎませんでした、その時代はまさに『群雄割拠』…弱肉強食が世の倣い、弱き国家は戦に敗れやがて強き国家に吸収合併されて行く―――この常盤トキワ帝国が幻界の統一国家になれたのは、そうした数多の戦に勝ち進んで行ったからです。 そしてこのまま…幻界だけで満足していれば良いものを―――そこを先代の久秀様は『邪神』が操る教会勢力に付け込まれ…」

「なるほど、それで魔界の領有を視野に置いた侵略行為も致し方ない―――と?」

「そうは、思っておりません…現に背丈に見合わぬ欲望に手を出したが為に現状も已む無しと思っておりまする。」

「ふむ、そこまでは判ったがではなぜ未だ止めぬと?」


さすが『皇帝』の政治を補佐していた『摂政』をこなしていた人物だ、この国の成り立ちから現在までを知る事が出来た、けれどまだ私達が…すると―――まだ私達が知り得なかった事実が浮き彫りにされてきたのだ。


          * * * * * * * * * *


「『止めぬ』のではありません、『止められぬ』のです。」

「(!)なぜ―――?!」

「確かに儂らは魔界に敗北を喫した、けれどそれは容易に受けれられる事実ではないのです。 この事はさきにお話しした事にも関係があるのですが、この常盤トキワ帝国の成り立ちは『数多の戦に勝ち進んだ』が故にです、ならばそれは正当に―――でありましょうや?そう、戦と言うものは綺麗事だけではない…謀略や陰謀も駆使して勝ちを得る事すらあるのです、そして今から数代前の『秀吉シュウキツ』の時代には実に悪辣なまでの手法が使われ、その当時最大の版図に権勢を誇っていた大国をも屈させた、この道理がお分かりか?」

「(…)もしかすると『面従腹背めんじゅうふくはい』―――?」

「そう―――表面上では従順を装っていてもその腹の中には拭い切れない怨み辛みが蓄積しています、帝国が強国としての権勢を誇っていれば大人しいものですが―――」

「そうではない事が判れば……」


そう、一気に服従有力な者達は帝国に叛意の牙を剥いてくるだろう、それでは―――?


「虚勢であったとしても常盤トキワが強国である事の意地を張らねばならない…そこは馬鹿な事をとお思いでしょうが―――それに『未だ戦時は継続中』と知らしめなければならない理由もございます、幻界が敗れた事が知られれば今まで編成していた軍は解体―――ともすれば従軍していた兵士の処遇はどうするのでしょうな、“もし”仮に幻界が勝ったとはしても領有出来る土地は得られていない…それに軍を解体すれば失業軍人が山の様に―――」


そこで気付かされた…思いの外『敗戦国』の厳しい現状というものを、もし敗北が知られてしまったら立ち待ちの内に失業軍人の山―――それが真っ当な職業に就ければいいけれど、恐らくそう言う人たちは限られた人達だけでしかないだろう…ならば、は―――?そんなの決まっている…即席でも『野盗』『山賊』『盗賊』集団の出来上がりだ、それにこうした連中を鎮められる戦力チカラが今のトキワ帝国に残っているとは到底思えない…だからと言って―――


「それで敗北後の行為には目をつむれと―――?そんなの…」

「そちらの白猫の獣人族の言う通り、それは決して認められぬ行為にございます、しかれども…」

「放っておけば野盗や山賊だらけになる…そしていよいよ幻界の治安は最悪となり―――」

常盤トキワ帝国の崩壊……?しかしそれでは―――」

「今でこそ兵士の意思は一つにまとめられ、これは少々不適切ではございますが魔界に彼らの不満のはけ口にさせていたと―――」


そこで本心が語られた…確かに決して許されざるべくの行為ではないけれども、“もし”魔界私達の世界も同じような状況となれば同じ事をするかも知れない……ただ幻界側と違う処は彼らには不満のはけ口と言うものがあったけれども、ならば魔界は?なければ他国間で潰し合う事でしか……それに無理を押して幻界の『摂政』に会う事が出来て良かったと思っている、幻界側の敗北を知りながらも已む事のない侵略行為を、ならばどんな上の立場の人物が命令を下していたのだと―――そしてそこにはむにまれぬ事情が存在した、それに……


「異世界よりのお客人には不快かもしれませぬが、この度も含めての事は総て儂の独断で為し得た事、決して陛下の御心のままにではございませぬ、ですから何卒―――皇帝陛下を酷く扱われる事の無きように…」

「(…)あなたからの一言一句、必ずや女王陛下と魔王様にお伝えいたします、それにあの人達が見知らぬ世界の国家の当主にそこまで酷く扱う事なんてないと思いますしね。」


私達の最後の別れ際にまたもトキヨシは土下座をした―――けれどその時のは謝罪の意を込めたものではなく、どことなく嘆願めいたもの…総ての罪過は自分にあるものとし、『皇帝』には一切の非はないというものだった、それにこの時思ったものだ『嗚呼この人シゲトキにはこんなにも恵まれた人材がいたのだ』と、それは少し羨ましくもあり、また嬉しくなってくるような一場面でもあった。


      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


こうして私達は一応幻界側の意思を確認した、その言い分は少々身勝手に感じはするけれども現在のラプラスの『帝国』の、幻界側の各国への影響力を考えてみたとこで納得できる内容だと私はそう思った。 “たら”“れば”の話しにはなるけれど“もし”魔界が現在の幻界と同じ様な状況に陥ったら……そこを考えるとなにも責めるだけが正しいと思わなくなってしまったのだ、それにまだまだ課題は山積…取り敢えずの処は幻界側に話しの出来る人物が確認できた―――これは大きい成果と見ていいだろう、『話しが出来る』と言うのはそれだけでこれから先の事が円滑に…それだけでも大きな違いとなれるからだ。 しかしそこからが考えもので―――くだんの『話しが出来る人物』は内乱クーデターにより投獄中…まあまだ生命があるだけ最悪ではないと言った処だろうか、そんな中で私達3人での話し合いをしてみた。


「うーーーん、トキヨシさんが話しが出来るのが判ったのはいい事なんだけど、牢の中じゃあねえ…」

「ふむ……ならばここは一芝居打って出てみると言うのはどうか?」

「『一芝居』?なにをするの…」

「『皇帝』が健在である事を知らしめる―――それもトキヨシを通じてだ。」

「なるほどね、今まで一切の面会謝絶を申し渡し、会う事が出来る“許可”を握っている人物が…ともなれば。」

「しかしそれでまた『面会謝絶』ともなれば本末転倒なのだがな、しかしこの策の効果はあると思われるのだ。」

「ん~~~まあ他に案が浮かばないなあ…だったら一度トキヨシさんに連絡とって他にいい案がないか聞いてみたらどう?」

「それは良い案ですな、という事でネージュ殿頼めるか。」


「―――…。」


「(ン?)ネージュ?どうしたの」

「そのめい聞くか聞かないか迷ってた処です。」

「(へ?)どしてえ?なんでそんな…急に判らない事言うの!?」

「(…)だって私の事を“白”だなんて…私はね!確かに『白子化アルビノ』ですよ?それも“”の゛!それを愛くるしい“猫”と一緒だなんてえ~!」

「い…意外と気にしていたのでござるかなあ?」

「あ゛ーーーネージュの言いたい事は判ったからさあ、けどこれからやる事って重要なんだよ?これからやる事の成否いかんによってはまた幻界と魔界の関係がギクシャクする事に…」

「判りました…リルフィーヤ様がそこまで仰るのなら聞かない訳には参りません、で・す・が―――だったらシゲトキ殿、“次”あの人に会ったらそこんとこようく言い含めておいてくださいねッ!」


つい先ほどトキヨシが言っていた“白猫”をそこまで気にしていたとは…いやはや年頃の女性と言うものは気難しいものだ。


         * * * * * * * * * *


ともあれ、僕達の意思を伝え今後をどうするか―――その事でトキヨシの意見を伺った処…


「トキヨシ殿は概ねその意見に賛同みたいです、ですが…」

「まあ直近の課題とすればどうすれば牢から出るか―――よねえ…」

「そこで私とトキヨシ殿とその場で協議をした結果、次の見回り番の者に『火急の案を思いついたのでよろしく取り図られたい』と内乱の首謀者に伝えてはと…」

「ふうん…それで?」

「トキヨシ殿はこう仰いました…『牢の中で思案を巡らせた折、貴殿らが行為に踏み切ったのは総て陛下の御為…と言うならば陛下に貴殿らの忠義の在り方を儂自らが申し開きをしてやろう、その上で此度の内乱は不問にしてはどうかと一言添えてやっても良い』…と言うのだそうで。」


うわあ…この人中々の策士だ、どうしてこうも確約のない真実を“ポンポン”捲し立てられるものかなあ……まあそれまでに本物の『皇帝』と面通ししちゃっているわけですし、それを知らない者には“虚”か“実”かを織り交ぜて正常な思考をさせないでおく、ウン…こんな逸材があの戦争の時に駆り出されないで良かったわ、それまでにも存外人を見る目のなかったラプラスの中枢にいた人達―――『ご愁傷様』ですけど『ありがとうございました』と言わせてもらうわね。


そしてトキヨシさんの甘言あまいことばに乗せられて牢から解放してしまった―――そこからは描かれている『台本』通り…これまたシゲトキの家にしか伝わっていない秘密の抜け道(城内版)を駆使し、長らく『開かずの間』と化した部屋の扉が抉じ開けられた…ただそれでも秘匿性を保ったまま、『皇帝』シゲトキの前には『御簾みす』と言う奥にいる人物の姿形までは判るもののその表情は伺えない―――とするモノで隔てられ、ここにこうして内乱の首謀者と『皇帝』シゲトキは対面を果たしたのだ。


『苦しゅうない、面を上げい…』

「ははっ―――陛下に於かれましては体調の優れている時にお会いできて…」

『余は、これでも病み上がりじゃ…今回も秋義トキヨシに泣き付かれ已む無く会っているだけの話し、それに聞けばお主らは現状の不満が故に盾突いたそうではないか。』

「いえ、そうではございませぬ陛下、陛下の体調が優れぬのは儂のみが知っている事…であるがゆえに余計な心労はかけたくはないとの儂の一存のみで陛下へのお目通りは禁じていたのでございます、ですが…それが逆に儂が陛下を良い様に操りまつりごと壟断ろうだんしている―――そう思われてしまったからこそ、この様な行動に…ゆえに今回のこの者達に非はございませぬ、あるのは飽くまで儂の独断のみで先行させた事にございます。」

『ふむ…だがのう『継之助』よ、お主が居らねば誰が政務を見ると言うのだ、余の体調はまだまだ優れぬ―――魔界との決着がついておらぬと言うのに、些か情けない話しよのう…』


今回の『皇帝シゲトキ』の言い回し部分は全部私が仕込んであげました、まあ滅多と『皇帝』とお話しする機会がないからと、普段絶対言わないような言い回しをふんだんに盛り込んで『少し病弱の香りのする君主』の出来上でっきあっがりい~


「―――で、どおだった?」

「恥ずかしかった…だって『余』なんて絶対使わないし、あれだと『病弱』の前に―――」

「権力持ってる家臣になびいてしまう『暗愚な君主バカ殿』ですよね、絶対…」


あっれえ?おっかしいなあーーー意外に不評じゃん…私としては『皇帝』してあげたと思ったのになあ?


          * * * * * * * * * *


それはまあ、さておき―――こうして幻界側の『話しが出来る人物』トキヨシさんは解放された、そして魔界へと帰る期日となった時に…


繁秋シゲトキ様、行ってしまわれるのか…」

「うむ、本来なら僕が『皇帝』のまま居座るのが正解だろうが、その時ではないと思っている、秋義トキヨシよお前が奨めてくれたお蔭で僕は籠の様な城の“外”と言うものを思い知った、まあ『城下』や『幻界内』ではなかった事は皮肉の限りなのだがな…それに魔界も存外僕の性に合っているのかもしれん、その“証拠”が―――」

「ははは、そう言う事ですか繁秋シゲトキ様の父御ててごである秋定トキサダ様のご遺言、果たされて何よりにござる。」

「(?)シゲトキのお父さんの『ご遺言』?て、なんて言ってたの。」

「(ふ)それよりも繁秋シゲトキ様の事、“大切”にして下され『リルフィ』殿。」


なんっ、なの、よーーーっ!そのまあーったく下手に賢い人って自分だけ判ってりゃいいってな顔つきをするんだから…だから苦手なのよね、特に『竜吉公主様に覚えが高い』と、か!


「その辺にしてくれないか“継之助”、余りリルフィ殿を揶揄からかい過ぎると僕への当たりがキツクなるから。」

「ちょおーっとトキサダ、今の言い方だとあんたの事を尻に敷いている―――って聞こえなくもないんだけど?」

「(…)あれ?違うんですか?私はてっきりそうだと―――」

「ちょっとネージュ!なんて事言い出すの…!ああっ―――違うんです、これにはちゃんとした理由がああ~~~」

「はっはっは―――なに、良人りょうじんと言うものは嫁御の尻に敷かれて当分にござる、繁秋シゲトキ様存分に尻に敷かれられませ、さすれば平和な世が訪れるのも遠からぬ話しでしょうからな。」


な、なぜだか―――流れは完全に私が旦那を尻の下に敷く『強権嬶きょうけんかかあ』のように思われてしまった…あれえ?私ってそんなにシゲトキに辛く当たった事あったっけえ?

まあその事は場を和ませる冗談半分だと思う事にし、私はの気になった事を聞いてみる事にした。


「そう言えばシゲトキ、さっきトキヨシさんの事を違う名前で呼んでいたよね?あれってシゲトキが本名隠すために使っていた『トキサダ』と同じなのかな?」

「(―――)いや、秋義トキヨシの本名は『秋義トキヨシ』のままだ、僕が呼んだ“継之助”と言うのは秋義トキヨシの“あざな”―――過去にいた人物の名にあやかり同じ“あざな”を号したみたいだ。」

「ふうん…過去にも同じ名前の人、いたんだ―――魔界私達の世界では珍しい事かな。」


過去にも存在した偉人『継之助秋義』、現在では統一されて『常盤帝国』にはなっているがそうなる以前の幻界はまさに動乱の時代だったとされている。 僕も知っているのは幻界の歴史を綴った紙の上だけでしかないけど、その人物か身を置いた国は強国の猛攻に晒されていた小国だったと言われている、しかしながら彼は武力のみではなくその卓抜した見識を以て正しく判断、分析が出来る人物だったそうだ、そして仕えていた国が強国によって呑まれる前夜、彼は“降伏”を旨に自国に迫る強国の大軍団の本営に現れたと言う、無用な戦を避け領民を領地を焦土と化す事無く明け渡すと言う彼の言い分は…既に勝てる戦だと見込みただ蹂躙をしたいだけの指揮官にとって煩わしいだけであり―――ただその指揮官にはそれを容られるだけの度量も器量も欠いていた、そして彼の言い分の悉くを蹴った指揮官は武力によって格下の小国を制圧する準備を整えた…ただその指揮官の計算違いだったのは、彼は―――継之助秋義は“降伏”を念頭に置いていたわけではなかった…“もし”この降伏がられなければ抵抗も已む無し―――彼がなによりくだろうとしたのはひとえに領民と領地の安全を視野に置いての事…その為の降伏がられなければ武力行使も辞さない、その為の準備は秘密裡に、それも着々と進められていた。 彼の“先見”は時代の趨勢すうせいの先を見通していた事、その当時では最新気鋭の兵器を買い込み有事の為にと用意していた事だろう。 そして強国の指揮官にしてみれば“彼”こそが予測外だった―――本来なら労せずして難なく蹂躙できたはずの小国如きに出師した軍の半数以上を取られてしまった、思わずもの大損害に血の気が昇ってしまった指揮官は率いていた全軍に突撃命令を発布、万を越える大軍の前には千にも満たない小国の全軍など意味を為さない…しかも不運は更なる不運を呼び込み、小国の要と言われた継之助秋義もまた戦場の露と散り果てたそうだ……


「なんだか―――報われない話しだね、それって結局そのツグノスケさんが仕えていた小国は強国に取り込まれちゃったんでしょう?」

「ああ、結果としては―――だけどな、しかし得られた教訓もあった…」

「そうですね、小国と舐めてかかると意外に手痛い竹箆返しっぺがえしを喰らうと言う事を。」


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふう~ん―――なる・ほど・ね、向うにも手強い相手もいたもんだと…」

「うん―――それにね、彼を見させてもらった時に『まだこの国は終わっていない』と強く感じたよ。」

「(『この国が終わる』…ねえー)ちょっと昔の事だけど思い出しちゃった。」

「なにを―――?」

「『ラプラス』が…この私の故国を滅ぼした時の事を―――あの時私は必死に思ったもんさ、お父様や国の民達みんなを皆殺しにしてくれた怨みで私は今日を生き抜いてきた、生き抜いてラプラスやつらに対抗・報復できる体制を整えようと思っていた、そしてその望みは叶えられた…それが今私が生きる原動力になってくれた国に、武力だけでは解決できない事を知っている人物がいると知った…私にしてみればその『ツグノスケアキヨシ』なる人物を倒してくれた凡愚の極みである強国の指揮官の人に感謝かな。」

「あのねえお母様―――…」

「あら、だってそうじゃない?リルフィーヤあんたでも、武力制圧でしか頭が回らない“脳筋”よりも。」

「そうねえ~だって私ツグノスケさんの事を聞かされた時すぐに頭に思い浮かんだのが…」

「『公主様んとこの』でしょ?」


私は今、今回あったことをスゥイルヴァン女王であるお母様シェラザードに話しをしている、そしてなにより幻界に行ったことで判った事―――『話しのできる人物』がいると判った事で水面下での話し合いが模索される事だろう、それにお母様と見解を一致させた事、『魔界側が勝利を得ていたと勝って兜のて上から目線で接しない事緒を締めよ』…私が今回直接会って視て来たトキヨシなる人物は理知的な対応を見せる反面『やる時にはやる』―――それは過去の偉人に倣いその偉人の名を拝借した事にも現わされるように、“尻尾”を踏まなければ“虎”は大人しくしている…“逆鱗”にさわらなければ“龍”は怒りはしない…そう言う人物だとの共有の認識を得たのだ。


         * * * * * * * * * *


まあこうして幻界側の情報を持ち帰り、それを基にして交渉団が結成された。 第一次の交渉団には『竜吉公主』様や『例の』…『ササラ』様に前回幻界には行かなかった面々―――


「行って来るぞリルフィ!お姉ちゃんは今こそお前の為に獅子奮迅―――縦横無尽の活躍をしてくるからなあ~!」

「(あはは…)ゴメンねえ~?アグリアス…ちょっと面倒臭いけどお姉ちゃんの事、たのんまあーす…」

「な、なにィ?お姉ちゃんの事を面倒臭いだとぉう~?」「全く毎度毎度厄介な事を押し付けおって、だがまあ毎度毎度の事だもの、な…任せておけ手綱はキツく握っておいてやるから。」

「ア、アグリアスお前もなあ~~!」「いいから、これ以上妹の手を煩わせて嫌われでもしたいのか、それとあと向うには戦闘を仕掛けに行くんじゃないからな。」


ま、お姉ちゃんいた時点で隠密行動できないのが判っているから前回は敢えて内緒で行ったんだけどね、そうして正解でした…とまあ『一番面倒臭い人アルティシア』はどうにかして終えさせたんですけど―――まだ…


「リルフィ様ぁ~とうとう『要らない子』になっちゃったんですかあ~?私…」

「(誰もそうは言ってないってえ~)違うよバルバリシア、今回は隠密行動が必要だったからね、それに隠密行動と言えば…」

「“黒く”ないけど“白い”の忍である『ネージュ』です…それよりバルバリシア先輩ってハルピュイアなんですよね、でしたら是非ともハルピュイアに成ってみてください。」

「ふえ?いい…ですけど―――」

「ほわあああーーー何と言う感触!伯母ちゃんが言っていた通り最高級の“羽毛”です!」

「(ほえ?)あ・れ…なんか以前に同じ様な事をされた記憶が―――それにネージュちゃんの伯母さんて?」

「『ササラ』様だよ―――」「!!!!!!!!!!!まさに甦ってしまった拭いきれない記憶

「なるほどのーう、バルバリシアにとって豹人族とは天敵のなにものではないからして“恐怖”の対象となるべきであろうがーーーネージュやササラ様にしてみたら日頃の疲れの癒しを求める最高級寝具の他ならぬ、と…」

「ラ・ゼッタちゃあ~ん!そんな意見求めてませーんて!それに喰われないのが判っていても、本能が…本能がああ~!」


次に面倒臭い子バルバリシア』…この子は最初に私の従者に仕立て上げた子で、割と従順なんだけど……今回みたいな割と重要で危険を伴う事には参加させない事にしているのね、それは何故かって言うと……(“鳥”って割かし煩い時あるからねーーー漏れてはいけない心の本音


それにネージュって意外と気にしてたんだ……


それはそうと『竜姫りゅうき』であるラ・ゼッタは、私達がいない間でも腕を磨き今回の交渉団の護衛を買って出ていた。


みんなそれぞれに変化のあった時間―――だったと私は思っている、それは仲間達もそうだし…今まで相容あいいれられないと思われていた『魔界』と『幻界』の関係性も、この事が“きっかけ”となって前進してくれればそれでいいと思ってもいる。 そしてやがては―――相互に手を取り合って“前”へと進める関係性を構築出来ればと、そう願っている……






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