第51話 手を取り合って
やはりあの無駄とも思える侵略行動にはそれなりの―――
「まずはこの国の成り立ちからお話しせねばなりますまいな、この国『
「なるほど、それで魔界の領有を視野に置いた侵略行為も致し方ない―――と?」
「そうは、思っておりません…現に背丈に見合わぬ欲望に手を出したが為に現状も已む無しと思っておりまする。」
「ふむ、そこまでは判ったがではなぜ未だ止めぬと?」
さすが『皇帝』の政治を補佐していた『摂政』をこなしていた人物だ、この国の成り立ちから現在までを知る事が出来た、けれどまだ私達が本当に知りたい事まで答えて貰っていない…するとそこから―――まだ私達が知り得なかった事実が浮き彫りにされてきたのだ。
* * * * * * * * * *
「『止めぬ』のではありません、『止められぬ』のです。」
「(!)なぜ―――?!」
「確かに儂らは魔界に敗北を喫した、けれどそれは容易に受け
「(…)もしかすると『
「そう―――表面上では従順を装っていてもその腹の中には拭い切れない怨み辛みが蓄積しています、帝国が強国としての権勢を誇っていれば大人しいものですが―――」
「そうではない事が判れば……」
そう、一気に服従させられていた有力な者達は帝国に叛意の牙を剥いてくるだろう、それでは―――?
「虚勢であったとしても
そこで気付かされた…思いの外『敗戦国』の厳しい現状というものを、もし敗北が知られてしまったら立ち待ちの内に失業軍人の山―――それが真っ当な職業に就ければいいけれど、恐らくそう言う人たちは限られた人達だけでしかないだろう…ならば、その他の人達は―――?そんなの決まっている…即席でも『野盗』『山賊』『盗賊』集団の出来上がりだ、それにこうした連中を鎮められる
「それで敗北後の行為には目を
「そちらの白猫の獣人族の言う通り、それは決して認められぬ行為にございます、しかれども…」
「放っておけば野盗や山賊だらけになる…そしていよいよ幻界の治安は最悪となり―――」
「
「今でこそ兵士の意思は一つにまとめられ、これは少々不適切ではございますが魔界に彼らの不満のはけ口にさせていたと―――」
そこで本心が語られた…確かに決して許されざるべくの行為ではないけれども、“もし”
「異世界よりのお客人には不快かもしれませぬが、この度も含めての事は総て儂の独断で為し得た事、決して陛下の御心のままにではございませぬ、ですから何卒―――皇帝陛下を酷く扱われる事の無きように…」
「(…)あなたからの一言一句、必ずや女王陛下と魔王様にお伝えいたします、それにあの人達が見知らぬ世界の国家の当主にそこまで酷く扱う事なんてないと思いますしね。」
私達の最後の別れ際にまたもトキヨシは土下座をした―――けれどその時のは謝罪の意を込めたものではなく、どことなく嘆願めいたもの…総ての罪過は自分にあるものとし、『皇帝』には一切の非はないというものだった、それにこの時思ったものだ『嗚呼
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうして私達は一応幻界側の意思を確認した、その言い分は少々身勝手に感じはするけれども現在のラプラスの『帝国』の、幻界側の各国への影響力を考えてみたとこで納得できる内容だと私はそう思った。 “たら”“れば”の話しにはなるけれど“もし”魔界が現在の幻界と同じ様な状況に陥ったら……そこを考えるとなにも責めるだけが正しいと思わなくなってしまったのだ、それにまだまだ課題は山積…取り敢えずの処は幻界側に話しの出来る人物が確認できた―――これは大きい成果と見ていいだろう、『話しが出来る』と言うのはそれだけでこれから先の事が円滑になれるかなれないか…それだけでも大きな違いとなれるからだ。 しかしそこからが考えもので―――
「うーーーん、トキヨシさんが話しが出来るのが判ったのはいい事なんだけど、牢の中じゃあねえ…」
「ふむ……ならばここは一芝居打って出てみると言うのはどうか?」
「『一芝居』?なにをするの…」
「『
「なるほどね、今まで一切の面会謝絶を申し渡し、会う事が出来る“
「しかしそれでまた『面会謝絶』ともなれば本末転倒なのだがな、しかしこの策の効果はあると思われるのだ。」
「ん~~~まあ他に案が浮かばないなあ…だったら一度トキヨシさんに連絡とって他にいい案がないか聞いてみたらどう?」
「それは良い案ですな、という事でネージュ殿頼めるか。」
「―――…。」
「(ン?)ネージュ?どうしたの」
「その
「(へ?)どしてえ?なんでそんな…急に判らない事言うの!?」
「(…)だってあの人私の事を“白猫”だなんて…私はね!確かに『
「い…意外と気にしていたのでござるかなあ?」
「あ゛ーーーネージュの言いたい事は判ったからさあ、けどこれからやる事って重要なんだよ?これからやる事の成否いかんによってはまた幻界と魔界の関係がギクシャクする事に…」
「判りました…リルフィーヤ様がそこまで仰るのなら聞かない訳には参りません、で・す・が―――だったらシゲトキ殿、“次”あの人に会ったらそこんとこようく言い含めておいてくださいねッ!」
つい先ほどトキヨシが言っていた“
* * * * * * * * * *
ともあれ、僕達の意思を伝え今後をどうするか―――その事でトキヨシの意見を伺った処…
「トキヨシ殿は概ねその意見に賛同みたいです、ですが…」
「まあ直近の課題とすればどうすれば牢から出るか―――よねえ…」
「そこで私とトキヨシ殿とその場で協議をした結果、次の見回り番の者に『火急の案を思いついたのでよろしく取り図られたい』と内乱の首謀者に伝えてはと…」
「ふうん…それで?」
「トキヨシ殿はこう仰いました…『牢の中で思案を巡らせた折、貴殿らが行為に踏み切ったのは総て陛下の御為…と言うならば陛下に貴殿らの忠義の在り方を儂自らが申し開きをしてやろう、その上で此度の内乱は不問にしてはどうかと一言添えてやっても良い』…と言うのだそうで。」
うわあ…この人中々の策士だ、どうしてこうも確約のない真実を“ポンポン”捲し立てられるものかなあ……まあそれまでに本物の『皇帝』と面通ししちゃっているわけですし、それを知らない者には“虚”か“実”かを織り交ぜて正常な思考をさせないでおく、ウン…こんな
そしてトキヨシさんの
『苦しゅうない、面を上げい…』
「ははっ―――陛下に於かれましては体調の優れている時にお会いできて…」
『余は、これでも病み上がりじゃ…今回も
「いえ、そうではございませぬ陛下、陛下の体調が優れぬのは儂のみが知っている事…であるがゆえに余計な心労はかけたくはないとの儂の一存のみで陛下へのお目通りは禁じていたのでございます、ですが…それが逆に儂が陛下を良い様に操り
『ふむ…だがのう『継之助』よ、お主が居らねば誰が政務を見ると言うのだ、余の体調はまだまだ優れぬ―――魔界との決着がついておらぬと言うのに、些か情けない話しよのう…』
今回の『
「―――で、どおだった?」
「恥ずかしかった…だって『余』なんて絶対使わないし、あれだと『病弱』の前に―――」
「権力持ってる家臣に
あっれえ?おっかしいなあーーー意外に不評じゃん…私としては『皇帝』らしくしてあげたと思ったのになあ?
* * * * * * * * * *
それはまあ、さておき―――こうして幻界側の『話しが出来る人物』トキヨシさんは解放された、そして魔界へと帰る期日となった時に…
「
「うむ、本来なら僕が『皇帝』のまま居座るのが正解だろうが、今はその時ではないと思っている、
「ははは、そう言う事ですか
「(?)シゲトキのお父さんの『ご遺言』?て、なんて言ってたの。」
「(ふ)それよりも
なんっ、なの、よーーーっ!そのしたり顔!
「その辺にしてくれないか“継之助”、余りリルフィ殿を
「ちょおーっとトキサダ、今の言い方だとあんたの事を尻に敷いている―――って聞こえなくもないんだけど?」
「(…)あれ?違うんですか?私はてっきりそうだと―――」
「ちょっとネージュ!なんて事言い出すの…!ああっ―――違うんです、これにはちゃんとした理由がああ~~~」
「はっはっは―――なに、
な、なぜだか―――流れは完全に私が旦那を尻の下に敷く『
まあその事は場を和ませる冗談半分だと思う事にし、私はもうひとつの気になった事を聞いてみる事にした。
「そう言えばシゲトキ、さっきトキヨシさんの事を違う名前で呼んでいたよね?あれってシゲトキが本名隠すために使っていた『トキサダ』と同じなのかな?」
「(―――)いや、
「ふうん…過去にも同じ名前の人、いたんだ―――
過去にも存在した偉人『継之助秋義』、現在では統一されて『常盤帝国』にはなっているがそうなる以前の幻界はまさに動乱の時代だったとされている。 僕も知っているのは幻界の歴史を綴った紙の上だけでしかないけど、その人物か身を置いた国は強国の猛攻に晒されていた小国だったと言われている、しかしながら彼は武力のみではなくその卓抜した見識を以て正しく判断、分析が出来る人物だったそうだ、そして仕えていた国が強国によって呑まれる前夜、彼は“降伏”を旨に自国に迫る強国の大軍団の本営に現れたと言う、無用な戦を避け領民を領地を焦土と化す事無く明け渡すと言う彼の言い分は…既に勝てる戦だと見込みただ蹂躙をしたいだけの指揮官にとって煩わしいだけであり―――ただその指揮官にはそれを容られるだけの度量も器量も欠いていた、そして彼の言い分の悉くを蹴った指揮官は武力によって格下の小国を制圧する準備を整えた…ただその指揮官の計算違いだったのは、彼は―――継之助秋義は“降伏”のみを念頭に置いていたわけではなかった…“もし”この降伏が
「なんだか―――報われない話しだね、それって結局そのツグノスケさんが仕えていた小国は強国に取り込まれちゃったんでしょう?」
「ああ、結果としては―――だけどな、しかし得られた教訓もあった…」
「そうですね、小国と舐めてかかると意外に手痛い
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう~ん―――なる・ほど・ね、向うにも手強い相手もいたもんだと…」
「うん―――それにね、彼を見させてもらった時に『まだこの国は終わっていない』と強く感じたよ。」
「(『この国が終わる』…ねえー)ちょっと昔の事だけど思い出しちゃった。」
「なにを―――?」
「『ラプラス』が…この私の故国を滅ぼした時の事を―――あの時私は必死に思ったもんさ、お父様や国の
「あのねえお母様―――…」
「あら、だってそうじゃない?
「そうねえ~だって私ツグノスケさんの事を聞かされた時すぐに頭に思い浮かんだのが…」
「『公主様んとこのあいつ』でしょ?」
私は今、今回あったことをスゥイルヴァン女王である
* * * * * * * * * *
まあこうして幻界側の情報を持ち帰り、それを基にして交渉団が結成された。 第一次の交渉団には『竜吉公主』様や『例のあいつ』…『ササラ』様に前回幻界には行かなかった面々―――
「行って来るぞリルフィ!お姉ちゃんは今こそお前の為に獅子奮迅―――縦横無尽の活躍をしてくるからなあ~!」
「(あはは…)ゴメンねえ~?アグリアス…ちょっと面倒臭いけどお姉ちゃんの事、
「な、なにィ?お姉ちゃんの事を面倒臭いだとぉう~?」「全く毎度毎度厄介な事を押し付けおって、だがまあ毎度毎度の事だもの、な…任せておけ手綱はキツく握っておいてやるから。」
「ア、アグリアスお前もなあ~~!」「いいから、これ以上妹の手を煩わせて嫌われでもしたいのか、それとあと向うには戦闘を仕掛けに行くんじゃないからな。」
ま、お姉ちゃんいた時点で隠密行動できないのが判っているから前回は敢えて内緒で行ったんだけどね、そうして正解でした…とまあ『
「リルフィ様ぁ~とうとう『要らない子』になっちゃったんですかあ~?私…」
「(誰もそうは言ってないってえ~)違うよバルバリシア、今回は隠密行動が必要だったからね、それに隠密行動と言えば…」
「“黒く”ないけど“白い”黒豹人の忍である『
「ふえ?いい…ですけど―――」
「ほわあああーーー何と言う感触!伯母ちゃんが言っていた通り最高級の“羽毛”です!」
「(ほえ?)あ・れ…なんか以前に同じ様な事をされた記憶が―――それにネージュちゃんの伯母さんて?」
「『ササラ』様だよ―――」「
「なるほどのーう、バルバリシアにとって豹人族とは天敵のなにものではないからして“恐怖”の対象となるべきであろうがーーーネージュやササラ様にしてみたら日頃の疲れの癒しを求める最高級寝具の他ならぬ、と…」
「ラ・ゼッタちゃあ~ん!そんな意見求めてませーんて!それに喰われないのが判っていても、本能が…本能がああ~!」
『
それにネージュって意外とあの事気にしてたんだ……
それはそうと『
みんなそれぞれに変化のあった時間―――だったと私は思っている、それは仲間達もそうだし私達の関係…今まで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます