第50話 『摂政』トキヨシ
「大丈夫でございますか
「うん―――大丈夫…落ち着いたよ、ネージュ。」
今回拙者達がやろうとしていた事は決して間違いではなかった…だが一時的に拙者の故郷である幻界に戻った折に、不意に魔王様と出くわした事により『皇帝』である拙者でさえも気付けないでいた『戦争の真実』―――いや、『敗戦国としての現実』を突き付けられて幻界の『皇帝』である拙者自身よりもリルフィーヤ殿の方が参ってしまっていると言った処だったのだ。
今は一緒に来てもらったネージュ殿により気分も幾らか持ち直す事が出来たと言ったところだったが……
「なんだかさ―――判っていなかったよね…私達、戦争って言うものがどんなにか不幸を呼び込んでくるんだなんて。」
「そこは不甲斐なくて申し訳ない―――拙者も『皇帝』としての責務を放棄していなければリルフィーヤ殿を哀しませずにいられたものを…」
「そこは責任を感じる処じゃない―――魔王様からもそう言われたでしょ、それにシゲトキが『皇帝』になったのは
「(それにしても…気になる言われ方をしたものです、何故魔王様はあの時…)」
「どうしたのネージュ、考え事?」
「ああいえ―――先程の魔王様のお言葉が少し引っ掛かって。」
「『引っ掛かった』ってどの部分?」
「魔王様が一連の厳しい事を言われた時、シゲトキ殿は誤ちを認めましたよね、その時には『自分の都合のみで為政者としての義務を放棄し…』でしたがその後魔王様は『君が『皇帝』としての責務を本当に放棄していたのなら…』と仰っていた―――魔王様が仰っていた『本当に』とはどう言った意味なんでしょうか。」
「あーーー確か、に、それはあ~~~引っ掛かるわね、全くあの方ったらいつも大きな宿題残していくんだからあー」(ぶぅぶぅ)
昔から拙者の世界では『三人寄れば~』と言う諺があるが、所詮知恵足らずの拙者達には到底及びもつかぬと言うべきか―――
* * * * * * * * * *
それはそれとして、拙者達はようやく本来の行動に移っていった。 今回魔王様と対話をした事で
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現在の処『
それから『次元の魔女』と言う者が突然現れ、一瞬の下で今まで構築されていた建物や施設―――などの文化・文明を現わすモノは崩壊させられた…思えばこの時が決定的な敗北の瞬間だったのだと、今にして思う。
そして拙者の知らない処で拙者の前に居並ぶ顔も変わって来た…これも恐らく敗戦の責任を取らされる形で首が挿げ替えられたようなものだろう、その中に―――どうやらトキヨシはいたらしいのだ。
とは言っても
適当に相槌を打ち、この牢獄の様な生活からどうやって抜け脱せられるか…
「どうやら陛下にはやりたい事がおありのようですな―――」
けれど“僕”は―――意思のない
けれども出れない……それは“僕”が『皇帝』だからと言う理由だけで―――所詮『皇帝』とは言ってもその身の自由は、ない……そんなのは囚われた虜囚と同じ事。
ならばせめてもの抵抗と言う事で『空想』を巡らせてみた、城の外が無理と言うならこの世界の“外”ってどんなのだろう―――…
興味は尽きない、それに思いを巡らせる『空想』はどれだけしても罪には問われない、“僕”の『空想』は広がりを見せた。
そんな時だ…ふとトキヨシから“僕”の心理を見透かされたような事を言われ、内心“ドキリ”としたものだったが―――
「
「ほう、『この世界の』と仰られるか、それはちと難しゅうございますかなぁ…」
そうだろうな、大人達はみんな誰しもそう言う……この僕が『皇帝』だからと―――担ぎ上げるには充分な『神輿』だからと…『神輿』は大人しく鎮座されていなさいと。
けれど
「何より陛下は“弱”うございまする、
僕の本当の父上である『
そんな
そんな―――ただ、ただ退屈な『皇帝』としての役割をこなしていく一方で僕は
そして“ある機会”―――僕が
僕は―――“強”くなれただろうか…?僕が“外”で生き残っていられるまでに“強”くなっただろうか、父上が最期に残した言葉―――『誰か大切な者を護れる強さを得よ』…あの言葉の様に果たして護れる“強”さを得る事が出来たのだろうか?
答えはもう、既に出ている―――
僕には護るべき、護らねばならぬべき“大切”な者の存在を得た、そしてその人とこれから末永く生きて征く覚悟を―――
* * * * * * * * * *
そして僕は故郷の土を再び踏んだ。 その最初に目の当たりにしたのが彼の一件である、僕の知らない間に困窮の度を増していたラプラスの世界―――『幻界』、それでも尚魔界への侵略行為は止む事はない、その真意を
とは言え『出る』も『帰る』も秘密裡にだ、『出る』時にはまだ
「ならば私が一役買いましょう。」
「良いのか?ネージュ殿。」
「大丈夫?言ったら敵のど真ん中に行くようなものだよ?」
「ご心配なく―――もうお忘れですか、私の
「(あ…)≪
「そのお蔭で黒豹なのに白く産まれてきてしまった私は忍の世界で上手くやれてきたって訳です、それに一旦城に入り込んでしまえばそこらの兵士の姿に模したりなどして…」
「今更でござるが…ネージュ殿が味方でようござった。」
『
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて―――ここからは私の出番…とは言っても周囲の光景に溶け込むこの
ここまでは、当初考えていたよりも容易に事が運べていました、けれどここから―――当初考えていたよりも容易に事が運べなくなった…
―――と、言うのも
「こちらに『摂政』トキヨシ殿はいらっしゃいますか。」
「―――うん?(…)ああトキヨシ殿だな、しばし待たれよ。」
トキヨシなる人物に接触する為その人物の所在を問うたところ、私は待つことになった…そしてシゲトキ殿の帰還を内密に話し、会う機会を
ここまでは私達が当初描いていた構想通り、そして両者対面を果たした折には何かしらの変革のきっかけになればと―――
けれど……
「お待たせした、では
私の前には呼び出さず敢えて本人の前に―――か、それはそれで都合は悪くない、寧ろ人払いをして…
―――と、そう思考を巡らせていた時、ふと異様な事に気が付いたのです。
* * * * * * * * * *
「―――あの、トキヨシ殿はなぜ『地下』の方に?」
「その事情を知らんとは―――お前…この城の者ではないな?」
「は?いえ―――私は今日配属されたばかりで…政治の事などは知りもしませんよ。」
「ほう…知らぬとな?それはまた奇妙だ―――それに貴様が言っている事も相当妙だぞ?何故なら我等が内乱を起こしここ数日新しく召し抱えた者など存在せぬからだ!」
『しまった』―――と思った時にはもう遅い、我ながらそこまで気が回らなかったか…それにしても『内乱』―――けれど城下の様子は
それに、今回私達が会おうとしている人物に面会を求めた時『地下』へと誘われた…それはそのまま私を捕縛して牢へ放り投げておく考えだったみたいですが、もしまだ目的の人物が処罰によって殺されていないとしたら、この地下牢に入れられている公算が高い―――そう言う事で早速架せられていた手枷を外し、牢の鍵を
「(むん?)誰だそこに居るのは―――」
我等忍の里で培われた忍法のひとつ―――〖
『姿をお見せできないのは残念ですが、私はさある方の意向を汲みトキヨシ殿に接触を試みし者、現在トキヨシ殿には不遇の境地に置かれているようにも見えますが…』
「『不遇の境地』―――のう…儂の身など
この人物中々にキレる―――自分の身を保つ為に国家最重要の人物と会う為には何かしらの“きっかけ”がないと叶わない、それが『鍵』と言う言葉の意味通りのキー・アイテムが必要と思わせる事で時間を稼げてる…いや、けどそれは私達が来ないと意味がないのでは?
「ところで…そなたは?先程『さある方』等と言う特定の人物を臭わせる言動をしていたが……」
『そこは、まだ信用が足りていません、易々と重要な事を明かせられる立場には―――』
「ふっ…なるほどそう言う事か―――ならばその『さある方』に伝えて貰いたい、『無事お帰りになられた様でありましたら一度お顔を拝見しとうござる』と…」
こうして私は『
「なんと?!『摂政』は反乱分子によって地下牢に収まっていると―――」
「はい、けれど私の見立てではこの反乱、
「ふうん…つまり下の者は上の首がすげ変わった事など知らない―――或いはまだ知らされていないって事なのね。」
「はい、それに多分この内乱の首謀者は『皇帝』にお会いをし、政治を壟断している『摂政』に成り代わって自分が実験を握ろうと…」
「しかし『
「何だか他も同じような事をやっているってところのようね…それでどうするの。」
「トキヨシ殿は『皇帝』にお会いしたいと仰っていました、数年数ヶ月と言えど長らく留守にしていたのです、行って顔を見せてあげてはどうでしょう。」
―――それに…この会合はただ“懐かしさ余って”のものではない、『
…は、良かったのでしたが―――
「(あの~~
「(それ言っちゃう~?大体見知らぬ土地にこんなか弱い婦女子を一人で置いてけ堀を喰らわすなんてないと思うんだけどォ?)」
「(か弱い》 ねええ~まあ、《《そう言う事にしておきますか。 それより城内への侵入はどうしましょう?)」
「(一度あそこを当たってみる―――なに、僕がよく内緒で使っていた抜け道があるのだ、そこが塞がれていなければ或いは…)」
「(へえ~へええ~~?シゲトキにもそんなヤンチャしてる時ってあるんだあーーーいやあ新鮮だなあ。)」
「(まあーだリルフィーヤ様には『オフィーリア』って言う
「(ああ…『
「(けれど実情は大変みたいなのよ、
「(私もそうした案件でシルフィさんを狙った事がありましたからね、まあ…運悪く女王陛下でしたが―――)」
「(心の
私の『
そうした不安を余所に、塞がれていなかったシゲトキ殿の抜け道を頼りに城内へと侵入、そこから先は私の先導で無事―――
「おお、
「それより
「(…)それより、こちらの
「今この人の事は関係ないだろう!それより僕の質問に答えてくれ!」
「それは出来ませんな、この老骨めの嘆願にてお会いにきてくれた…しかしそこには異世界の出身と思われるエルフの女性、その者が誰であるかという事でこの先の答えが違って参りまする。」
なんて人だ―――この人…この私を一目見て気付くなんて、それにそうおいそれとは思わない…まさかこの幻界に今まで自分達が侵略し続けて来た異世界の、それも超大国の次代がきているなんて。
それに痛い所を衝かれてしまったとでも言う様にシゲトキの口は重たくなった、それは私の事を配慮しての事だろうと思う、だけどこの人は『私が“誰”であるか、その事実の如何によっては答えてくれることが違ってくる』と言う、ならば―――…
「私は魔界の国家の一つ『スゥイルヴァン』の次期女王である『リルフィーヤ』と申します、あなた方にとってはかつての敵対国のそれも総大将首に准ずる立場の者が……とお思いでしょうが、私が今ここにいる理由―――それは私自身の意思だからです。」
「あ、
一緒にいる2人にしてみればシゲトキに次ぐ最重要の人物である私が、現在ラプラスの“
だけど、私は知っている……ここで私に何の隠し立てる事などない態度を示せば判ってもらえるものと、自分の国ではない他の勢力や国家と
「トキヨシ?!」 「(『
「頭を上げて下さいトキヨシ様、何も今の私はスゥイルヴァンの名代としてここにいるのではありません、私がここにいるのは彼の為―――私の大切な人の為に私自身が善かれと思ってしている事なのです。」
私が魔界の超大国の次代である事が判ると『土下座』―――つまり誰よりも
それはそれで判らないではないのだけれど、ならばなぜ経費の浪費ともとれる侵略行為を続けるのか―――疑問はまさにその一点となった。
「いえまずはこうした態度で以て今までの不祥の出来事を謝罪せねばなりませぬ、それにあなた方が来られた理由ようく判ってございまする。 それに敗北を知らしめられて後に度重なる示威活動にはこちらなりの理由がございまして…」
「聞きましょう、聞いて一度魔界へと帰り“上”の方々と話し合いを設けたいと思っています。」
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