第49話 着地点の模索
今現在僕達は、(いないはずの)『
「(うへえ~『昆虫食』…)食べられない事はないけど―――あのさ、ネージュ…もしかしてこんなのばっかりなのかな?」
「はい、ただ買い求められるだけでもマシと言ったところです、中には雑草や木の根などを
「(……)そうか―――そんなにまで…」
「リルフィーヤ殿、変な同情は無用にござる…これもこの世界の現状に目を向けず実益のない事に邁進していた結果―――当然の報いと言った処でござろう…」
「シゲトキ…ううん、でもねこう言うのは見て見ぬふりしちゃいけない事だと私は思うんだよ。」 「リルフィーヤ殿……」
「なんとかしよう―――私達で…何の力のない無力な私達だけれど何が出来るか模索出来るはずだよ。」
私でも『昆虫食』の事は知っている、私も冒険でありとあらゆるタンパク質を摂取できなくなった時に最後の手段として『昆虫』を食べた事があるからだ、まあーーー“味”の方はともかくとして要は“
だから私達は今、私達が出来る事をしようと思ったんだけれど…さてこれがどうしたものか―――エニグマさんが迎えに来るのは決まっている期日だし、来て早々に『緊急事態』発生させちゃうのもなあ…
なあーんて、そう思い悩んでいた時に……
* * * * * * * * * *
「あれ?あれは何なんだろう……」
シゲトキの故郷である幻界の集落の一つで私達が知った事とは、かなり深刻的な食糧難に陥っているという事だった。 その本来なら私の故郷である魔界を自分達の支配下に置くために度々派兵させてきた所の住人を憐れむなんて筋違いもいいところだ…と言う者もいるかも知れない、けれどそうした情報を拾って来たネージュから聞かされた私は“敵”だとか“味方”だとか言う事はこの際考えず、とにかく困っている人達を助けてあげよう―――としていたのだ。 とは言え今の私達に何が出来るのか…私はある事情で
そうした事もあり、まずは何が出来るか―――そうした事を探る為に意を決してその集落に入ったのでしたが…何故か一か所にて
いや―――と言うよりかですねえ~~~『熾緋の髪に瞳』『“赤”を基調とした服飾』『“要塞”級の胸にくびれたウエスト“安産”型のお尻』…まあなぜか『角』は
「あのーーーひとつ伺ってよろしいでしょうか…
「(ンーーー)何かなあ~?」
「あの人ってどこかで見た覚えありません?」
「(ン~~~)見た覚え…アルカナア~?ナイカナアーーーどっちかと言うと答えたくないデス。」
「(
う~~~ン、シゲトキクン鋭いご指摘…て言うより魔王様って魔界で魔王の業務に励んでいるんじゃないんかい! それにそんな人がさあーーーなに?『慈善事業』でも始めたのかなあ?
「あのお~~~ーーーちょっとお話し伺っても…?」
「うん?君達も“配給”を受け取りに来たのかい、だったら並ばないといけないよ、例えどんな事情があったとしても君達よりも先に並んでいる人達がいるんだ、そこが判ったのなら列の最後尾から並びなさい。」
くはあ~ーーー何と言うか堂に入っていらっしゃると言うか……口ではとても敵わないと判ってますので取り敢えず列の最後尾に並びました。
「え~~~っとその前にーーーどう解釈すれば?」
「判るわけないでしょう!そんな事ぉ……まあー虫食べなくても良くなったのはいいとしてもさあーーー」
「と言うよりですね、私が先程ここに潜入調査した時にはあんな人はいなかったハズなのですが…」
あ、何か今
「ま、まさか魔王様って〖
「(あ゛ー)その可能性…無きに
「そ、それより拙者重要な事に気付いてしまったでござる……」
「うん、私も気付いたけど念の為に言ってみて。」
「まさか―――リルフィ殿の母上が魔王様の業務を押し付けられたと言うのも…」
そうねーーーダヨネーーーそう言う事だよね~~~度々魔王様が
「はい、今日の分ね―――」
「あのーーー後でお話ししたい事があるんですが、いいですか。」
「(…)ごめんねーーー?あとが
「(…)判りました、けど逃げるのは“なし”ですよ。」
と、まあーーー釘を差した処でこれはこれでよし……あとは見失わない様にするだけね。
そして用意した配給物資が尽きたと見た処で“そそくさ”と帰ろうとする魔王様を―――?
「あの、『
「ん~~~はて?『魔王様』って私の事かな?だけど私は『魔王様』じゃなくて『マオ』なんだけど……」
「そおー言う屁理屈を聞いているんじゃなあ~い!いい加減にしないとサリバンさんに
「(……)はあ~やれやれ、それを持ち出されては
「それにしてもなぜ魔王―――」
「『魔王』じゃなくて『マオ』ね。」
「(むぐぐ…)なぜ―――マオ…殿はこの町で配給活動を?」
「何も私だって遊びで来ている訳じゃないよ、これもまあ…
「(…)この『慈善事業活動』が?」
「リルフィ、間違えてはいけない―――これはね、『慈善事業』でもなんでもないんだよ。」
* * * * * * * * * *
私達がシゲトキの故郷である幻界へ来ていると言う理由―――それはなぜ
「さて、では少し改めて考えてみよう。 君達に聞くけれど、どうして『戦争』と言うものが起こる?」
「自勢力の支配地域を広めたいため?」 「他勢力の持っている豊富な資源を奪う為―――?」 「自分達の強さと言うのを固辞する為…?」
「うん、動機としては色々出て来たね、そしてそのいずれもは間違っていない―――『戦争』と言うのは持てる武力で
「『政治カード』……!?」 「『戦争』が―――政治の一部?」
「そうだね、その内の『外交』を
「だとしたら…ラプラスはなにかしらの外交的な“信号”を発信していたとでも?」
「そうした考えも一部にはある―――だろうね…だけど私から言わせてもらえれば“当初”の動機と“現在”の動機とでは
「(!)マオ殿、それは―――?!」
「“当初”の動機は言うまでもない、その発起人である『賢者』と『邪神』の思惑により魔界を幻界の領有とする意図が見え見えだった…だけどその事が決着したとしても変わらず幻界側の行為は
「それが“現在”―――」
「そう、そして幻界の中央が発せられない“信号”だと思う様にした―――」
「それでこの町を―――」
「この町へは間隔を開けて入る様にしている、ずっとこのまま居続けて支援活動を―――と思われるけれど、ならば余所者が入り込んで自分の領有を好き勝手にしている、この事を『皇帝』が知ったらどう思うのだろうね。」
「そんなの―――」
と言いかけた処で私は言葉を呑み込んだ、魔王様が仰られているのはそう言う事ではない―――この場に『皇帝』がいるからと、そうした意味では言っているのでは、ない…魔王様が仰られているのは『皇帝シゲトキ』ではなく、一般で言う処の最高位の為政者の意味……その事をシゲトキも理解したものとみえ―――
「面白く…ないでござろうな、
「それにしても…妙に気になる事を仰いましたね、『
「それは、ね―――意外に簡単な事なんだよ、何故なら私達は魔界の人間だ幻界の事などよく判らない、だから私は独自の調査も兼ねてここに5年も前から足を通わせている。」
「では―――!」
「そんな私でもね、実の処まだよく判っていない、けれどようやく…5年目にして道筋が見えて来た。 シゲトキ殿、最初の質問を繰り返そう、『何故、幻界は魔界に戦争を仕掛けているのか』……」
「(……)それは“現在”の事でありましょうや。」
「ああ、紛れもなく私は現在進行の話しをしている。」
ここまでの話を聞く限りでは、どうやら魔王様はその原因を突き止めたみたいだった、だからこそ私達に訊いてくる―――『何故か』と、『何故幻界は魔界に戦争を仕掛けているのか』と。
その当初の時点での問いは主に『侵略行為』だったけれども、魔王様が突き止めた原因とは違ったみたいだった、だから改めて問われる―――それも『皇帝』であるシゲトキに…
けれど残念ながらシゲトキにはその答えは導けなかった、私としては辛いけれども彼は周囲の大人達の言い成りになりたくなくて魔界へと
「君達はこの町を見てどう思う?」
「『どう思う』…って―――」
「言葉は飾らなくていい、
「(!)『貧しさ』…『貧困』からですか?!」
「ああそうだよ、“雪豹”君。 考えても見給え、『豊か』であるならばどうしてそこに戦争を起こす理由があるというのかな?『貧しいからこそ豊かな国から掠め取る』―――歴史と言うものがそれを示している、ただ“当初”は有り余るほどの武力があった、この武力を以て威圧行為に及べば簡単に相手は屈するに違いはない―――そうした間違えた見識の下で戦争は繰り返されてきた…そのお蔭で一つの文明が滅び、また新たな文明が
「あのーーー難しいのでもう少し判り易くしてもらえると嬉しいんですが…」
「おおっと失礼、今のは難しかったかな、なにしろこの宇宙開闢以来連綿と続けられてきた事だからね。」
魔王様の悪い癖と言ったら、ご自分の
それはまあ、ともかくとして―――
「それにこの町を見ての様に食糧が全く足りていない…これだけはこの5年間見続けて来て判った事だ。」
「だからあの配給を?」
「せめてここの人達だけでも飢えないようにと…ね、だけどこの現状はここだけとは限らない―――」
「魔王様……」
「だからこの5年間並行して“ある事”を実験している段階だ、シゲトキ殿聞くがこの世界での主な『食品作物』は幾つ言える?」
「は、はあ…『麦』や『豆類』、それと『米』―――あとは『
「(ふうむ…)しかし土地がこんなに荒れてしまっては元の作付は見込めない…?これは品種改良をした方が良いのだろうか―――」
「あの、魔王様?」
「だが…この程試験的に植えてみた苗の行方も気になる処だ、ならばもう少し待った方がいいのでは……いやそれでは最悪の事態は免れない―――」
「あ!の!魔王様!!」
「うわっ、びくりしたなあもう。」
「『びっくりした』じゃありませんよ、まーた自分の世界に行ったきりになって…それでさっきから何を“ぶつぶつ”と言っているんですか。」
「ああ『このまま待つ』か、それとも『速度を速めるか』…今試験的に植えている苗があってね、これが実を結んでくれるようならばこの町の飢えは一時的に凌ぐ事が出来る…が、そうでなかった場合はまた“一”からのやり直し、そう言う事になったらまだ当分この状況は続くんだけれどね。」
「何だか魔王様この町の町長みたいなことを言ってるね。」
「確かにそうではあるが…拙者―――いや僕としては恥ずかしい限りだ、本来なら僕が率先してやらねばならない事を…」
「そこは君が心配する必要はないよ、だってこれは私の趣味のようなものだからね。」
「『趣味』…ってーーー『慈善事業』が、ですか?」
「いいや?まだ誰も知らない…そんな“混沌”とした事を知りたい、その上で“未知”なるをもっと開拓したい、それが私の本来の
その
「あの、魔王様は魔王にならなかったらなにをしていたのだと―――?」
「随分と突飛な事を聞いてきたものだね、まあ先程も言ったように私は『まだ誰も知らない事を知りたい』……言ってみれば私の師匠の様な方が無類の知りたがり屋でね、私もその人の癖が身についてしまったらしい。 その為に“考える”必要が出てくるんだ、『もしかしたらこの出来事には何らかの原因があるのかもしれない』…と、ね。」
「それが今回の行動の経緯―――」
「まあ今回のはその最たる例と言っても差し支えないかな、いずれにしても“現在”はここの中央政府はある種の信号を発していた事が判った。」
「それは先程の―――…」
「『戦争』と言うものはね、思いの外『金食い虫』でもあるんだよ、戦争をする為の資金が潤沢に蓄えられていた“当初”よりも、見ての様に“現在”では困窮しているのが目につく―――ここは地方の一集落だから幻界全体がそうだと言い切れはしないけれども、もしかしたら中央では地方の住人達が想像も出来ない程の
けれど―――そう言う事なんだ、私の世代はラプラスからの侵略行為を
今回魔王様に幻界で偶然お会いして『戦争』の事を問われた時思ったものだった―――お母さまたちが作ってくれた平和の下で育んでこられた私達は、所詮『戦争を知らない子供』なのだと…
だから―――次の魔王様からの言葉に、私達は息を呑むしかなかった。
「ところで、先程私は言ったね、『戦争と言うものは思いの外金食い虫だ』と、では消費された戦費はどの様に
「(え…)あの、それって―――」
「まだ、気付けないでいるのかな、戦争はね…
「(!!)あ―――…あ、あ…」 「(!!)――――」
それは、これまで聞かされたどの事実よりも、衝撃的だった。 そうだ、僕達は…幻界は敗けたんだ―――ならば魔界側から莫大な賠償金と言うものを請求されても文句は言えない?
「あの……魔王様…………」
「私としてもね、
「申し訳ございません―――魔王様!こんな甘ったれが自分の都合のみで為政者としての義務を放棄し現実から逃避した事いくら詫びた処で償い様がありません!」
「そこはもういい、君が『皇帝』としての責務を本当に放棄していたのなら私の考えも違っただろうが、君の本心は既に聞き出せた―――だから気にする必要はない。」
意外にも魔王様は、僕の事を不問にしてくれた―――それよりもこの僕以上にリルフィーヤ殿が自分の事の様に哀しみ、また僕の為に嘆願めいた事をしてくれた事だった、互いが認め合い想いを通じ合わせていたとしても一人の女性にそこまでの事をさせた僕自身を―――僕は許せそうになかった…
それにこの2人の女性に報いるためには、やはり“あの事”を―――居ないはずの『
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