第49話 着地点の模索

今現在僕達は、(いないはずの)『皇帝』の代わりにまつりごとっている『摂政』の真意をただすために一旦僕の故郷『幻界』へと戻っていた。 そして現在の幻界の状況がどうであるかを調べるために優れた情報収集員である『忍』のネージュ殿が見事幻界の一住人となる事で近くの村か町に赴き現在の住民達の暮らしぶりを見てきたのだ、すると…ネージュ殿が買い求めて持ち帰った『食べ物』に、僕やリルフィーヤ殿は愕然としてしまったのだ。


「(うへえ~『昆虫食』…)食べられない事はないけど―――あのさ、ネージュ…もしかしてなのかな?」

「はい、ただ買い求められるだけでもマシと言ったところです、中には雑草や木の根などをかじっているのを見て―――私も修行の旅で野宿する事はありましたが流石にここまでひどくありませんでしたよ。」

「(……)そうか―――そんなにまで…」

「リルフィーヤ殿、変な同情は無用にござる…これもこの世界の現状に目を向けず実益のない事に邁進していた結果―――当然の報いと言った処でござろう…」

「シゲトキ…ううん、でもねこう言うのは見て見ぬふりしちゃいけない事だと私は思うんだよ。」 「リルフィーヤ殿……」

「なんとかしよう―――私達で…何の力のない無力な私達だけれど何が出来るか模索出来るはずだよ。」


私でも『昆虫食』の事は知っている、私も冒険でありとあらゆるタンパク質を摂取できなくなった時に最後の手段として『昆虫』を食べた事があるからだ、まあーーー“味”の方はともかくとして要は“外見見た目”なのよねえ~~いや、明らかに『虫』だし―――『虫』を食べるのは抵抗があるなあ…(しかし栄養価は結構あります) 判ってる―――判ってるわよ、そんな事……と、言うより―――そんなのを主食としなくちゃならない辺り…もしかしてかなり食糧事情が緊迫しているのかも。

だから私達は今、私達が出来る事をしようと思ったんだけれど…さてこれがどうしたものか―――エニグマさんが迎えに来るのは決まっている期日だし、来て早々に『緊急事態』発生させちゃうのもなあ…


なあーんて、そう思い悩んでいた時に……


           * * * * * * * * * *


「あれ?は何なんだろう……」


シゲトキの故郷である幻界の集落の一つで私達が知った事とは、かなり深刻的な食糧難に陥っているという事だった。 その本来なら私の故郷である魔界を自分達の支配下に置くために度々派兵させてきた所の住人を憐れむなんて筋違いもいいところだ…と言う者もいるかも知れない、けれどそうした情報を拾って来たネージュから聞かされた私は“敵”だとか“味方”だとか言う事はこの際考えず、とにかく困っている人達を助けてあげよう―――としていたのだ。 とは言え今の私達に何が出来るのか…私はある事情で幻界この世界が荒廃した原因を知っている、しかしその事も度々行われる侵略行為に対しての抑制効果と言う事で私達は理解していたけれども…いざ現場を見るに至って私達だってやっている事は彼らと違わないのではないか―――と、そう思うようになってしまったのだ。

そうした事もあり、まずは何が出来るか―――そうした事を探る為に意を決してその集落に入ったのでしたが…何故か一か所にて黒山くろやま人集ひとだかり?一体何故―――どうして―――と疑問をそこそこにその場に行ってみたら、なんと(?)が?

いや―――と言うよりかですねえ~~~『熾緋の髪に瞳』『“赤”を基調とした服飾』『“要塞”級の胸にくびれたウエスト“安産”型のお尻』…まあなぜか『角』は視えないようですお隠しになられてますけど、”……


「あのーーーひとつ伺ってよろしいでしょうか…主上あるじ。」

「(ンーーー)何かなあ~?」

ってどこかで見た覚えありません?」

「(ン~~~)見た覚え…アルカナア~?ナイカナアーーーどっちかと言うと答えたくないデス。」

「(―――白目)魔王様ではござらんか?」


う~~~ン、シゲトキクン鋭いご指摘…て言うより魔王様って魔界で魔王の業務に励んでいるんじゃないんかい! それにそんな人がさあーーーなに?『慈善事業』でも始めたのかなあ?


「あのお~~~ーーーちょっとお話し伺っても…?」

「うん?君達も“配給”を受け取りに来たのかい、だったら並ばないといけないよ、例えどんな事情があったとしても君達よりも先に並んでいる人達がいるんだ、そこが判ったのなら列の最後尾から並びなさい。」


くはあ~ーーー何と言うか堂に入っていらっしゃると言うか……口ではとても敵わないと判ってますので取り敢えず列の最後尾に並びました。


「え~~~っとその前にーーーどう解釈すれば?」

「判るわけないでしょう!そんな事ぉ……まあー虫食べなくても良くなったのはいいとしてもさあーーー」

「と言うよりですね、私が先程ここに潜入調査した時にはあんな人はいなかったハズなのですが…」


あ、何か今すっっっごく嫌な予感が……


「ま、まさか魔王様って〖転移門ゲート〗使えたりぃ~?とか……」

「(あ゛ー)その可能性…無きにあらずと言うか―――例え使えたとしてもおかしくないですよね?」

「そ、それより拙者重要な事に気付いてしまったでござる……」

「うん、私も気付いたけど念の為に言ってみて。」

「まさか―――リルフィ殿の母上が魔王様の業務をと言うのも…」


そうねーーーダヨネーーーそう言う事だよね~~~度々魔王様が魔王の業務ご自分のお仕事を私のお母様であるシェラザード女王陛下に、ご自分の弟子の育成に励んだり~なにやら怪しげな研究に心血雪いだり~~~そしてこの度発覚してしまいました、まさかシゲトキの世界に顔をちょくちょく出しに来ていただなんてえ~?こんな事お母様や周辺の重臣達ひとたちに知られたらどうするつもりだったの?!


「はい、今日の分ね―――」

「あのーーー後でお話ししたい事があるんですが、いいですか。」

「(…)ごめんねーーー?あとがつかえているからそう言った話しは後にしてくれないかな?」

「(…)判りました、けど逃げるのは“なし”ですよ。」


と、まあーーー釘を差した処でこれはこれでよし……あとは見失わない様にするだけね。


そして用意した配給物資が尽きたと見た処で“そそくさ”と帰ろうとするを―――?


「あの、『逃げるのは“なし”ですよ黙って帰らないでくださいね』と言ったはずなんですが?魔王様。」

「ん~~~はて?『魔王様』って私の事かな?だけど私は『魔王様』じゃなくて『マオ』なんだけど……」

「そおー言う屁理屈を聞いているんじゃなあ~い!いい加減にしないとサリバンさんに密告チクりますよ―――」

「(……)はあ~やれやれ、それを持ち出されてはシラを切り通すのも無理と言った処か、それにしてもこの世界にある数ある集落の中で君達と出くわしてしまうなんてね、“偶然”の為せる業とは恐いものだよ。」

「それにしてもなぜ魔王―――」

「『魔王』じゃなくて『マオ』ね。」

「(むぐぐ…)なぜ―――マオ…殿はこの町で配給活動を?」

「何も私だって遊びで来ている訳じゃないよ、これもまあ…れっきとした魔王としての業務の一環かな。」

「(…)『慈善事業活動』が?」

「リルフィ、間違えてはいけない―――これはね、『慈善事業』でもなんでもないんだよ。」


          * * * * * * * * * *


私達がシゲトキの故郷である幻界へ来ていると言う理由―――それはなぜいまもって魔界への侵略行為を止めないのか、その真意を問いただす為に現在ではいないはずの『皇帝』に成り代わり政治をっている『摂政』に会う為…しかし幻界に来た途端に目にした光景―――栄養価は高いとはしても外見見た目がちょっと“アレ”な『昆虫食』をお金を出さないと得られない…お金を持っているのならまだしもお金を持っていないとしたら得る事さえできない、私もいち冒険者として他の冒険者と交わったりしたけれどもこうした困窮は目にした事がない…それほどまでに生活が逼迫ひっぱくしているというのに、なのに幻界この世界の“偉い人達”は―――…


「さて、では少し改めて考えてみよう。 君達に聞くけれど、どうして『戦争』と言うものが起こる?」

「自勢力の支配地域を広めたいため?」 「他勢力の持っている豊富な資源を奪う為―――?」 「自分達の強さと言うのを固辞する為…?」

「うん、動機としては色々出て来たね、そしてそのいずれもは―――『戦争』と言うのは持てる武力でもって相手を制圧・制服できるだ。」

「『政治カード』……!?」 「『戦争』が―――政治の一部?」

「そうだね、その内の『外交』をになっていると言っていい、こう言う表現はちょっと野蛮かも知れないが『戦争』と言うのは過激な外交行為と言っても差し支えない。」

「だとしたら…ラプラスはなにかしらの外交的な“信号”を発信していたとでも?」

「そうした考えも一部にはある―――だろうね…だけど私から言わせてもらえれば“当初”の動機と“現在”の動機とではへだたりがある―――と見ている。」

「(!)マオ殿、それは―――?!」

「“当初”の動機は言うまでもない、その発起人である『賢者』と『邪神』の思惑により魔界を幻界の領有とする意図が見え見えだった…だけどその事が決着したとしても変わらず幻界側の行為はひっきりなしだ、この事を当初私は『諦めもせず魔界の領有を視野に置いているのか』…そう思うしかなかった、けれど―――だ、そこへシゲトキ殿…あなた自身から『侵略行為をしようとは思っていない』と言う言葉を引き出した、そこで私は思ったものだ幻界の政治のトップに立つ者がそう言う意思ならこの“行為”はなんなのだと―――…」

「それが“現在”―――」

「そう、そして幻界の中央が発せられない“信号”だと思う様にした―――」

「それでこの町を―――」

「この町へは間隔を開けて入る様にしている、ずっとこのまま居続けて支援活動を―――と思われるけれど、ならば余所者が入り込んで自分の領有を好き勝手にしている、この事を『皇帝』が知ったらどう思うのだろうね。」

「そんなの―――」


と言いかけた処で私は言葉を呑み込んだ、魔王様が仰られているのは―――この場に『皇帝』がいるからと、そうした意味では言っているのでは、ない…魔王様が仰られているのは『皇帝シゲトキ』ではなく、一般で言う処の最高位の為政者の意味……その事をシゲトキも理解したものとみえ―――


「面白く…ないでござろうな、してや以前は魔界を完全に下手したてにみていた嫌いもある、それが魔界の者が入り込んで復興の手助けなど…!」

「それにしても…妙に気になる事を仰いましたね、『幻界ここの中央が発せられない』―――と…」

「それは、ね―――意外に簡単な事なんだよ、何故なら私達は魔界の人間だ幻界の事などよく判らない、だから私は独自の調査も兼ねてここに5年も前から足を通わせている。」

「では―――!」

「そんな私でもね、実の処まだよく判っていない、けれど…5年目にして道筋が見えて来た。 シゲトキ殿、最初の質問を繰り返そう、『何故、幻界は魔界に戦争を仕掛けているのか』……」

「(……)それは“現在”の事でありましょうや。」

「ああ、紛れもなく私は現在進行の話しをしている。」


ここまでの話を聞く限りでは、どうやら魔王様はその原因を突き止めたみたいだった、だからこそ私達に訊いてくる―――『何故か』と、『何故幻界は魔界に戦争を仕掛けているのか』と。

その当初の時点での問いは主に『侵略行為』だったけれども、魔王様が突き止めた原因とは違ったみたいだった、だから改めて問われる―――それも『皇帝』であるシゲトキに…


けれど残念ながらシゲトキにはその答えは導けなかった、私としては辛いけれども彼は周囲の大人達の言い成りになりたくなくて魔界へと現実逃避にげてきた身だ、だからこそ導けないでいたのだろう、すると魔王様は―――


「君達はこの町を見てどう思う?」

「『どう思う』…って―――」

「言葉は飾らなくていい、むしろ今は飾るべきではない―――でははっきりと言ってあげよう、とてもじゃないが『豊か』とは言い難い…ともすれば、だ―――『戦争』を起こす“動機”はにある。」

「(!)『貧しさ』…『貧困』からですか?!」

「ああそうだよ、“雪豹”君。 考えても見給え、『豊か』であるならばどうしてそこに戦争を起こす理由があるというのかな?『貧しいからこそ豊かな国から掠め取る』―――歴史と言うものがそれを示している、ただ“当初”は有り余るほどの武力があった、この武力を以て威圧行為に及べば簡単に相手は屈するに違いはない―――そうした間違えた見識の下で戦争は繰り返されてきた…そのお蔭で一つの文明が滅び、また新たな文明がおこる―――こうした事も戦争が起こす功罪の様なモノでね、私達の『発展』の為には“混沌”としたものも已む無しと言った処か……」

「あのーーー難しいのでもう少し判り易くしてもらえると嬉しいんですが…」

「おおっと失礼、今のは難しかったかな、なにしろこの宇宙開闢以来連綿と続けられてきた事だからね。」


魔王様の悪い癖と言ったら、ご自分の知見ちけんを披露する時に本題とだいぶ離れた事まで話してくれる…うん、それがまあ私達が理解出来ればいいんだけれど今を見ての様に何が何やらサアーッパリなのでして…(しかも“あとづけ”でも『宇宙開闢以来』とか言う気の遠くなるような事を言っちゃってる事だしぃ…)


それはまあ、ともかくとして―――


「それにこの町を見ての様に食糧が全く足りていない…これだけはこの5年間見続けて来て判った事だ。」

あの配給を?」

「せめてここの人達だけでも飢えないようにと…ね、だけどこの現状は―――」

「魔王様……」

「だからこの5年間並行して“ある事”を実験している段階だ、シゲトキ殿聞くがこの世界での主な『食品作物』は幾つ言える?」

「は、はあ…『麦』や『豆類』、それと『米』―――あとは『いも類』と言ったところですか?」

「(ふうむ…)しかし土地がこんなに荒れてしまっては元の作付は見込めない…?これは品種改良をした方が良いのだろうか―――」


「あの、魔王様?」


「だが…この程試験的に植えてみた苗の行方も気になる処だ、ならばもう少し待った方がいいのでは……いやそれでは最悪の事態は免れない―――」


「あ!の!魔王様!!」


「うわっ、びくりしたなあもう。」

「『びっくりした』じゃありませんよ、まーた自分の世界に行ったきりになって…それでさっきから何を“ぶつぶつ”と言っているんですか。」

「ああ『このまま待つ』か、それとも『速度を速めるか』…今試験的に植えている苗があってね、これが実を結んでくれるようならばこの町の飢えは一時的に凌ぐ事が出来る…が、そうでなかった場合はまた“一”からのやり直し、そう言う事になったらまだ当分この状況は続くんだけれどね。」

「何だか魔王様この町の町長みたいなことを言ってるね。」

「確かにそうではあるが…拙者―――いや僕としては恥ずかしい限りだ、本来なら僕が率先してやらねばならない事を…」

「そこは君が心配する必要はないよ、だってこれは私の趣味のようなものだからね。」

「『趣味』…ってーーー『慈善事業』が、ですか?」

「いいや?まだ誰も知らない…そんな“混沌”とした事を知りたい、その上で“未知”なるをもっと開拓したい、それが私の本来の生涯をかけての事業ライフ・ワークみたいなものなんだ。」


その女性ひとは“さらり”とそんな事を言って退けた、『生涯をかけての事業ライフ・ワーク』―――自分の知りたい事を知りそうしたところで他人に役立つ事を考える、その事は為政者にならなくても出来るモノなのに、その女性ひとはひとつの世界の『為政者』なのだ…そうした疑問が湧き立った僕はその女性ひとに訊いていた―――


「あの、魔王様は魔王にならなかったらなにをしていたのだと―――?」

「随分と突飛な事を聞いてきたものだね、まあ先程も言ったように私は『まだ誰も知らない事を知りたい』……言ってみれば私の師匠の様な方が無類の知りたがり屋でね、私もその人の癖が身についてしまったらしい。 その為に“考える”必要が出てくるんだ、『もしかしたらこの出来事には何らかの原因があるのかもしれない』…と、ね。」

「それが今回の行動の経緯―――」

「まあ今回のはその最たる例と言っても差し支えないかな、いずれにしても“現在”はここの中央政府はある種の信号を発していた事が判った。」

「それは先程の―――…」

「『戦争』と言うものはね、思いの外『金食い虫』でもあるんだよ、戦争をする為の資金が潤沢に蓄えられていた“当初”よりも、見ての様に“現在”では困窮しているのが目につく―――ここは地方の一集落だから幻界全体がそうだと言い切れはしないけれども、もしかしたら中央では地方の住人達が想像も出来ない程の豪奢ごうしゃな暮らしをしているのかもしれない…そうなっていたとしたら最悪だ―――かつての『賢者』や『邪神』とそう違わないと言っていいだろう。」


赤の他人この世界の出身ではない―――だからと厳しい事が言えるのかもしれない、それはやもすれば私だって同じ…魔王様からの辛辣しんらつ評定ひょうじょうを聞く内に黙りこくるしかないシゲトキを見るにつけ私の胸は締め付けられそうになった…

けれど―――そう言う事なんだ、私の世代はラプラスからの侵略行為をじかに受けた事などない、“ある”とは言ってもそれは偶々であり少し小競り合いを生じさせて退いて行く感じだった、けれどお母様の世代はかなり苛烈な侵略行為を受けてきており、その所為でお母様の故郷である『エヴァグリム王国』も滅亡させられてしまった……こうした苦い経験を経たお母様は魔界が結束する必要があると思い立ち、仲間を―――同志達を集めそして自分の国を滅ぼした仇敵かたきを討ち取った。


今回魔王様に幻界で偶然お会いして『戦争』の事を問われた時思ったものだった―――お母さまたちが作ってくれた平和の下で育んでこられた私達は、所詮『戦争を知らない子供』なのだと…


だから―――次の魔王様からの言葉に、私達は息を呑むしかなかった。


「ところで、先程私は言ったね、『戦争と言うものは思いの外金食い虫だ』と、では消費された戦費はどの様にまかなえられるのかな。」

「(え…)あの、それって―――」

「まだ、気付けないでいるのかな、戦争はね…無料タダで出来るモノじゃないんだよ、『武器』『防具』『食糧』、また破損したり不具合を生じさせた場合その代替となる『物資諸々』など…ね、ああ、あと『兵士の給料』も必要かな、これらは期間中凄い速度で消費される、またその補填ほてんの為にあてがわれる『資金』も、ね…さあてここからが問題だ―――皮肉で返すようでなんだが『慈善活動』でなければ失われてしまった資金をどうやって取り戻す?その答えは実に簡単…『戦勝国』は『敗戦国』に『賠償金』を請求できる権利を有する。」


「(!!)あ―――…あ、あ…」 「(!!)――――」


それは、これまで聞かされたどの事実よりも、衝撃的だった。 そうだ、僕達は…幻界は敗けたんだ―――ならば魔界側から莫大な賠償金と言うものを請求されても文句は言えない?


「あの……魔王様…………」

「私としてもね、賠償金それ取れるかどうかを見定めに来た様なものさ、そしたらご覧の有り様…こんな状況で途方もない額を請求するなど、それだと私が血も涙もない者だと思われかねないじゃないか。」

「申し訳ございません―――魔王様!こんな甘ったれが自分の都合のみで為政者としての義務を放棄し現実から逃避した事いくら詫びた処で償い様がありません!」

「そこはもういい、君が『皇帝』としての責務を本当に放棄していたのなら私の考えも違っただろうが、君の本心は既に聞き出せた―――だから気にする必要はない。」


意外にも魔王様は、僕の事を不問にしてくれた―――それよりもこの僕以上にリルフィーヤ殿が自分の事の様に哀しみ、また僕の為に嘆願めいた事をしてくれた事だった、互いが認め合い想いを通じ合わせていたとしても一人の女性にそこまでの事をさせた僕自身を―――僕は許せそうになかった…

それにこの2人の女性に報いるためには、やはり“あの事”を―――居ないはずの『皇帝』の代わりにまつりごとっている『摂政』―――『トキヨシ』に例の真意を聞き出さなくては!




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