第48話 “ある”世界の実情
私は今回のこの機会ようやくにして私の『
けれどその態度は今までこの魔界を領有すべく
それに今回の(非公式の)話し合いの場で判った事と言えば、ラプラスの君主である『皇帝』―――シゲトキ殿には最早既に魔界の領有の意思など持ってはいない…ではなぜ未だラプラスと思われる者達が騒動を起こしている“噂”を耳にするのか―――
「その理屈はね、非常に明解にして簡単なんだよ。 『世界には“敵”が必要だ』―――こうした考え方はひとつ間違えると、とても危険な思想ではあるのだけれどね…『慢性的な平和』より『適度の緊張感』が保たれていれば、それで構わない―――私はその様に思っている。」
「ですが魔王様―――」
「けれどまあ、“度を越した”ものに関しては容認まではしないけどね…」
「あの、おひとつ質問をよろしいでしょうか?」
「ネージュ?!」
「なにかな―――」
「先程あなた様は『敢えての侵略行為を見逃す』―――と、そう仰られましたが…その意図は?」
「ああいう言い方をしたのだからそう言う捉え方をしても致し方のない―――と、言った処の様だね。 ところで君は…『ネージュ』といったかね、では君の質問にはこう返そう…『慢性的な平和』は時として“有害”を生み、
「あ―――あの…な、何の事を仰っているのか……」
「ネージュ殿がそう思うのも無理らしからぬ、拙者も…ボクもさっぱりだ。」
「私は―――なんとなくだけど…判るかな。」
「リルフィーヤ殿そなたは……」
「だって、私達の国ってそんなのばっかりだもの、それに私も一時期はそう思ったもんだよ…だったらどうしてお母様は頭痛の種を根絶しなかったのか―――」
「今リルフィーヤが言っているのはスゥイルヴァンの貴族達の事だね、ああ言った手合いはいつの時代も存在する、悪い事を
「(え…?)『管理できている』―――?一体何の事を…」
「リルフィーヤの母君の事は知っているね、そうスゥイルヴァンの現女王だ、ならば彼女の夫は?」
「確か…この国の宰相閣下である『グレヴィール』殿―――だったか?」
「彼は現存する貴族の家柄の中では最も古くてね、格式も―――また権威もある『侯爵家』だ、そして今現在では新たなる貴族の任命権を握っている。」
「(!)それが『管理』―――…」
「貴族達は知らない処で踊らされている…『この国の社会の裏の権力を握るにはどうすればいいか』、そうした処に“旨い話し”が飛び込んで来る―――さあ果たしてその発信元はどこなのだろうね?」
「“情報”に関する事を
「別に、感謝をされるほどのものではないよ、なにしろ君の父君はそうしたところも踏まえているからね。」
「(あ゛~~)魔王様―――その辺にしといてあげてください、『腹黒
大人の世界の『世知辛さ』と言うものを思い知った私は、沈む心情を気持ちで支えなんとか魔王城をあとにしました…はあーーーそれにしても自信が喪失するなあ~リルフィーヤ様の
それに、そんな事を『なんとなくだけど判っている』とするリルフィーヤ様―――きっと幼少の頃から荒波に揉まれたんだろうなあ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回の定期的な
それに飽きることなくそうした行為を失敗に終わらせていたら無駄だと言う事が判るはず―――なのに止めない…
こうした言い方は余り認めたくはないが、所詮僕は“お飾り”で発言権などはない…そうした処で誰が僕の命令を聞くだろうか?だから無駄な行為を止めない―――ものと思っていたのに…
改めてこの『魔界』の支配者たる『王』の知略―――悪い言い方をすれば
……いや、それも僕がただ知らなかっただけで僕の事を
そうした疑問に捉われた僕は、その事を確かめるために一度帰郷を思い立った、しかしこの帰郷はやもすれば危険だ―――『
「リルフィ―――殿?」
「これからどこへと行く気だったのかなあ~?」
「それは……と言うよりなぜにリルフィ殿は拙者が及ぼうとしている行為が判ったのだ?」
「ああーらそこ言っちゃう~?けどさあーーートキサダって
「(む・ぐ)判り易かった―――と?」
「そーそー、いつも以上に
「(む・ぐ…ぐぐぐ)まだまだ精進せねば―――か…」
「それにそう言った表情をする人は『どこか強く思いつめて』いますからね、それに あの時私もあの現場にいた事ですし。」
「ネ、ネージュ殿…」
「あの事があってからのあなたは非常に判り易いまでに思い悩んでいましたからね、私の
拙者は仲間達にも内緒で今回思い立った事を実行に移そう―――としたのだったが、なんともリルフィ殿やこの程配属されたネージュ殿には当に判り切った事みたいだった、(それにネージュ殿の証言によると他の仲間達も気付いている風であったそうだ)
とは言えお2人の気持ちはよく判る―――判るからこそ
「まあまあ心配しなさんなって、こう言うのは“冒険”と同じで割とどうにかなっちゃうってものよ。」
「その言葉―――現在リルフィ様の“影”となっているオフィーリア殿が聞いたらなんて思われるか…まあそうした面では彼女を“影”に仕立て上げたのは正解だったと言いましょうか…」
「(むぐぐ…)ネ、ネージュったら割とハッキリ物を言うようになったわねえ~。」
「『行き過ぎた
「ネージュ殿の“伯母上”……」
「その昔【韋駄天】を名乗り
「そこなのよね~~~私も〖
「(いや…と言うよりその術式、『時空間魔法』に属するから滅多と適性者いないのでは?―――と言うのは言わないでいた方がいいのでしょうか…)」
「(それよりササラ殿、良い判断だ。)しかしならばどうやってリルフィ殿達は向うの世界に渡ろうとしていたのだ。」
「そこを言うかなあーーーだったらさあトキサダはどうしようとしてたの。」
「拙者か?拙者は当てがないわけでもない、確かこちらには拙者の―――ラブラスの世界を崩壊させるべく手を貸した者がいたそうだと聞いたのだが…」
「ああ―――あの人ね…あの人は~~~なんて言うかさあ……ちょっと掴み所がないって言うか―――」
普段では余程の事がない限り
『フフフ…久しぶりねリルフィーヤ、元気そうで何より―――それで?このワタシに会いに来た目的は?』
「あの、エニグマさん…以前向うの世界に私達の仲間を送った事がある様に今回もまた私達を送ってくれませんか。」
『(…)『向うの世界』に『あなた達の仲間』―――あんな
「それは拙者から…無駄だと判りながらも繰り返される侵略行為について、責任ある者の真意を知りたい―――」
『あなたねえ……『責任ある者』と言うのはあなたを指しているのじゃなくて、『皇帝』陛下―――』
「(ぐ…むう)確かに―――そうした判断は『皇帝』である僕がするべきだ、だけどその肝心の『
『ふうん…つまりもうあなたには
「判っている、その本来ならこの身など幾度となく八つ裂きにされても文句はない、ただ―――」
「私からもお願いします、どうかシゲトキには酷い事はしないでください…彼は彼で配下の者達の行為を快く思っていなかった、だからこそこれ以上彼らの言い成りになりたくなくて…」
『だから逃げて来た―――と?単に責任を放棄しただけじゃないの…それに覚悟が足らない、ワタシの“
「あります―――遅まきながらとは言えど、こちらへ
『その言葉…信用していいの、ただの口先三寸ならば―――』
「
「(!)シゲトキ―――!?」 「なんて無茶な…」
「この…腕一本を……“質”に取るがよい。」
『(…)その覚悟―――
私のお母様の事を“
「(あ…)―――これは?」
『ワタシも、これでも以前は冒険者をしていた身、腕一本と言わず五体が不満足になれば今まで出来ていた事も出来なくなる、あなたの覚悟の程は見極めたがその事でリルフィーヤに不幸が迫ってきたらどうすると言うの、だからこれは飽くまで“貸し”―――まあこちらもあなたから“借り”たからね、今回の事万事が上手く行ったらこちらに戻っていらっしゃい、あなたからの“借り”をくっつけてあげるから…。』
* * * * * * * * * *
こうして私達はエニグマさんの協力の下シゲトキの故郷でもあるラプラスの世界へと降り立った。
「うわあーーーこれは見事なまでに何もない荒野だわね。」
「この一帯は草木が
「あ゛ーーー『次元の魔女』ねえ…(思い当たる節だらけ)」
「それにしても少し意外でした。」
「ん?何が?」
「いえ、先程のエニグマと言われる方です、シゲトキ殿に厳しい事を言われる一方で、その覚悟を示すためにシゲトキ殿は片腕を斬り落とされた…」
「そーよそれそれ…イキナリだもの、私は卒倒するところだったよ。」
「そ、それは申し訳次第もない―――」
「それはまあそれとして、彼女は自身の身を分けてシゲトキ殿の失われた腕を
ネージュからのその一言はよくその人の特徴を言い表せているものだと感心すら覚えた、それにそう…エニグマさんは私達とはどこか違う存在、言い方を悪くするなら魔物の様な方だ、そんな方が私達にだけに協力的なのはエニグマさんの成り立ちにも関わっている事があるとお母様から聞かされた事がある、私にしたってそのくらいの認識でしかないのに今日会ったばかりのネージュは私とほとんど変わらない認識を得ていたのだ、その理由を聞いてみると…
「私達『忍』はある意味で“自分”ですらもモノの一つの様に見つめ合わなければなりません、“自”であろうが“他”であろうが客観として視る訓練をしたものです。」
「へえーーー自分ですらもモノの一つねえ…そう言った感覚私にはないわ。」
「そうでしょうね、そうしたものは幼い頃よりの厳しい訓練で培われていましたから。 それよりこれから私は近くの村か町に先行をして現在のラプラスがどんな状況なのかを調べて参ります、よろしいでしょうかリルフィーヤ様。」
その時僕は初めて『忍』と言う者の恐ろしさを知る事となった、普段であれば僕達は僕達のままだ、他の“誰”に成れるはずもない、けれど『忍』と称する一人の獣人の少女は見事この世界の者の1人となってみせた。
『忍』とは、優れた『情報収集屋』にして情報を自在に操れる者…その際にしても“虚”と“実”を巧みに織り交ぜ相手を欺く―――味方にとっては有益だが敵に回してしまえばこれほど厄介極まりない…
「ただ今戻りました、どうやら思っていた以上に事情は深刻のようですね…」
「(ン?)それはどういう意味?ネージュ。」
「こちらを見て下さい、この近くの町で買い求められた食べ物です。」
「(うわあ~『昆虫食』…)あの、こんなのばかり―――なのかな?」
「はい―――それに、こう言ったモノも買い求められるだけマシ…と言ったところですか。」
「(……)そうか―――そんなにまで…」
「リルフィーヤ殿、変な同情は無用にござる…これもこの世界の現状に目を向けず実益のない事に邁進していた結果―――当然の報いと言った処でござろう…」
「シゲトキ…ううん、でもねこう言うのは見て見ぬふりしちゃいけない事だと私は思うんだよ。」
「リルフィーヤ殿……」
「なんとかしよう―――私達で…何の力のない無力な私達だけれど何が出来るか模索出来るはずだよ。」
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