第45話 “運命”の交錯
自分達を特権階級である貴族に任命をしてくれた恩を忘れ、自分達の思い通りにならない
そんな折―――とても都合の好い者を見つけた…とある所要を済ませた道すがら、道端に捨ててある“
しかも様子を見ていると空腹の為かとても衰弱しているように見えた、一見すると冒険者か?と思われたものでしたが、持ち物を検査をしてみると、とある忍の里出身者である事が判った…その“不正”貴族も彼の一族の事は知り得ていました、現在より混迷した時代に活躍し、後の世に冒険者達を統括するギルドのマスターを魔界の王より拝命した者。 しかしそれにしてみれば妙でした、それというのも彼の伝説の英雄は『黒豹人』…しかしけれど自分の目の前にいるのはそうではない―――そうではなく、寧ろ“白い”……そこで“不正”貴族は思いました、もし自分がこの者を助けたとして、自分達の計画している事に役立てられるのか、
「(全く…私とした事が不覚を取ったものです、意気揚々と里を出たまでは良かったのですが大事な携帯食糧を落っことしてしまって、野草や果物を採取して食い繋いできたものの…嗚呼~~~まさか、まさか豹である私が生魚が苦手なんてえ~~~里の面汚しと言うべきか…しかも食うに困って背に腹は代えられずに生魚に手を出してしまった私も大概なのですが……お蔭で2週間、胃が食べ物や水でさえも受け付けずに事実上の飲まず食わず…しかもそんな不幸な私を拾ったのが、魔界の超大国スゥイルヴァンの転覆を目論む“不正”貴族の一人だったなんてえええ~~父ちゃんの姉ちゃんが、私が一人前になったなら頼って行くようにと言われた処に、恩を仇で返すような事になるとは…。)」
自分の窮き処を救われてしまった―――そうした事で
“白き”豹である忍の少女は、こうした―――任務途上で捕まえられてしまった後の事についても訓練を受けていました。 忍が受けた任務は“極秘”―――例えどんなことがあっても任務の事は喋ってはならない…飽くまでも、の『知らぬ存ぜぬ』を貫く事。 それに王国側も“不正”貴族側の手の者と認められる“白き”豹の忍に対し、『元魔王軍総参謀』の肩書を持つ者が直々に…の入れ込み様、ただ―――問われてくるものは毎回同じで『背後関係を話せ』とか『お前さんの主の事を話せ』だとしか聞いてこない、その事に“白き”黒豹人族の忍―――『ミゾレ』は拍子抜けのように思えました。
「(なんだか…拍子抜けだ、もっと突っ込んだ事を聞いてくるものだと思ったのに―――それに、拘束されてるこの縄目…段々緩くなっている。 ここは一つ様子を見計らって脱出する機会を見計らわないと…。)」
忍や諜報を
* * * * * * * * * *
そして雇い主の下へと舞い戻って来たミゾレ―――
「(!)お…お前はミゾレ―――?!生きておったのか。」 「はい、不覚にも捕えられてしまいましたがご安心を、私が帯びていた任務の事も話しませんでしたし、勿論あなた様の事さえも話してはおりません。」
“不正”貴族の一人は、今回任務に失敗し、剰え捕えられてしまった者の事を『既に死んだ』ものと思っていました。 それもこれも彼も元を
「ミ…ミゾレ、お前―――まさか
「いいや―――お前は何も判ってはおらん…あの男、ベサリウスとやらの恐ろしさを。 ヤツは生前、今代の魔王様が魔王へと登極する以前に魔王様とそのお仲間をその鬼謀によって大いに苦しめたと言う…そんな者がまだ半人前であるお前を易々と見逃しただと?有り得ん―――ヤツの
“疑い”は更なる“疑い”を呼び込む、事実ミゾレは自分が牢屋から脱出を図ったところで油断をしなかった、つまりは追手がかかっているのかの見切りをし雇い主の下へと戻って来たものだったのに…疑心暗鬼に捉われてしまった雇い主は彼女の事を疑うしかなかった。 しかしながら、そう―――その“不正”貴族の一人が言ったように、ベサリウスの
だが確かにミゾレ自身は不覚を取ってしまい王国に捕らわれてしまった…そこは疑いもない事実なわけですが、他の部分では不手際はなかった―――ただ、今回の事によって雇い主からの信用は著しく損なったみたいでしたが…
「(所詮は超大国の身中に巣食う虫―――
ミゾレも、今の雇い主が『真の主君』ではない事は大いに感じていました、感じてはいましたが、自分の窮うきを助けられてしまった…そこで恩義が発生し不承不承ながらも契約を結んでしまった。 しかも今回自分の不覚のお蔭もあり信用も著しく失ってしまった…契約を切られるのがこの機会か―――とは思いながらも、それはそれで悪くはないとは思ったものでしたが。
このままでは座りが悪いと思ったものか、“不正”貴族の一人は更なる悪事を企んで来た―――…
「ミゾレよ、これが最後の機会だ…女王がダメならば王太子リルフィーヤを殺せ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうして雇い主から新たな任務を負ったミゾレは、王太子殿下の動向を探りました。
「(あれが―――王太子リルフィーヤ…しかし実際、城内にいると言うのは影武者と言う事ですが…。)」
新たなる標的である王太子リルフィーヤを探って行く内に判ってきた事といえば、余りにも評判通り―――と言うのがミゾレには引っ掛かってなりませんでした。 そう、城内や城下町でよく噂されている王太子リルフィーヤの“前評判”…貞淑にして物静か、偉大なる母である女王陛下の影に隠れるようにして
「(巧い手を考えたものだ…と、思うべきですがよくよく考えてみれば母君である女王陛下は影武者であるシルフィなる者を立てていましたね、ならば王太子自身も母君に
『影武者を仕立てたのは当然考えられるべきだ―――』と、そう思考を回そうとした処、不意に“誰”かとぶつかってしまった…
「(あっ…)す、すみません考え事をしていて……」 「あっ、ゴメンゴメン私の方でも余所見しちゃってて…それより大丈夫?」
考え事をしていて住民の一人とぶつかってしまった―――相手は冒険者の恰好をしており体幹もしっかりしている事が認められた、お蔭で私はぶつかった弾みで尻もちをついてしまい、そこを気遣われた…そして私を起こす為に差し伸べた手の前を見た時、まるで吸い込まれるかのような碧の瞳……その瞳に私は不覚にも見惚れてしまった―――それにその時同時に思ったものだった、私の『真の主君』がこんな人だったらと。
「ねえ、ホントに大丈夫?何だか私の顔を見つめて……」 「あ、ああ―――いえ、初対面とは言え失礼しました。」
「(…)それよりも―――あなた黒豹人族よね、それにしても珍しいなあ…“白い”黒豹人族だなんて私、初めて見たよ。」
* * * * * * * * * *
私は、俗に言う『
この私がこの世に生を受けた時、私の父ちゃんであるお館様は落胆するしかなかったみたいだ。 それはそうだろう…私達黒豹人族は種属特有の色を活かし闇に暗躍する忍としての役割を担っている、けれど私は“白”い…種属の
それにしてもこのエルフの女性…遠慮というのをしないものですね、私が“白い”黒豹人だと知りながら……
「それにしても綺麗だねえーーーその“白”まるで雪みたい…そうだ、あなた黒豹人なのに雪の様に“白い”から雪豹だねえ。」
「あ、あの、は…恥ずかしいからそうまじまじと見つめないでくれますか、それにーーーあの、勝手に触らないで頂けますぅ?」
「あっ、ゴメンゴメン、初対面なのに“ふさふさ”“もふもふ”しててつい触りたくなっちゃってね。」
私の事を褒めちぎる一方で、無遠慮に私の耳や頭を撫でようとして来る。 私とて触られる事はいやでもないけれども初対面で流石にこれは―――…
それにしても不思議な人だった、赤の他人でしかも初対面の私に
「あっ―――と、そう言えば仲間達と待ち合わせしてるんだった、あまり遅くなっちゃうと道草食ったのがバレちゃうからもう行くね。」
そう言ってそのエルフの女性とは別れた…別れたのだが、私はこの後すぐにそのエルフの女性の冒険者の事を知る―――私の新たな
「(な…)この人相描きは―――」 「ああ、それが王太子リルフィーヤ様だ、ワイらの間じゃとっくと知れたものさね。 それよりどうだい姉さん、もうちぃとばかし銭を弾んでくれりゃもっと詳しい事を話せるんだが。」
その人相描きにあったものは、昼中に私とぶつかったあのエルフの女性だった―――それにしても奇妙だった、王太子の影武者は公の場でも一言も喋らず、また発言する機会があったとしても口元で何か“もごもご”と言っているようにしか見受けられたのに―――なのに、私とぶつかったあのエルフの女性…本物のリルフィーヤは一言も喋らないどころか積極的に話しかけて来て、剰え私に触って来ようとさえしていた…いや、それよりも王太子ならば女王の次に国家の重要人物としてあるべきはずなのに、なのにそれがいつも
その事が判らなくなり私は一層本物のリルフィーヤの事を知るべく次の日から調査を開始した…
その日の早くから依頼の準備の為にと集まる冒険者リルフィとしての仲間達。 その中にはリルフィーヤの実の姉から
そう言えばこの男性―――私が女王陛下の隙を伺っていた時にも私に気付いていたような感じだった…ならば恐らくはリルフィーヤ直属の親衛隊?全く厄介な事になった…今の雇い主は私が女王を仕留め損なった事で難易度を下げて来ていると思っているだろうが、これでは逆にこちらの方が難易度的に高いと言った処だ、とは言っても…その原因を作ってしまったのは私のミスの所為―――
「どうしたの―――」 「いや、何でもない……」
気が付けば、また私の方を見ていた―――全く
本意ではないとはしながらも“不正”貴族の一人に雇われてしまったミゾレの次の任務は、魔界の超大国スゥイルヴァンの次期女王となる王太子リルフィーヤの暗殺―――それでした。 そこでミゾレは次なる
そんな中―――またしても
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ところが―――
「ねえトキサダ、本当に、何もなかったの。」 「ああ―――今はまだ何もない…ただここの処不審な眼が向けられているのは常に感じていたからな。」
「ま、未来の旦那君が言うんだったら間違いないんじゃない。」 「もおぉぉ~~~姉ちゃんたら!」 「ん~?リルフィ達はもうご結婚なされていたのではないのかあ~?」
「アグリアスまでええ~~まだ私達ってそんな仲にないんだってえ!」 「そうは言うけれどな、端から見たらイチャコライチャコラ見せつけられて…私の母様も言っていたぞ、『まさか私の娘があいつの娘に先越されるなんてねえ~?殿下の手が早かったのか、それともあんたが奥手なのか…さっさと好い男の一人でも見つけて私を安心させておくれよ。』と…私も色々と見繕ってはいるが―――ほら…私には邪魔するヤツがいるから…。」
「な、なんだ私の方を見つめて―――ああそうですよ!何故だか知らないですけど私には悪い虫さえついてこない…私の父親があんなヤツだからか、同じ臭いを放ってるんだろうか?」
「(あ…あははは~)コ、コメントは差し控えさせて貰おうかな―――」 「そう言えばアルテイシア殿の
「(トキサダぁ~~~それ、姉ちゃんの前では禁句なんだってええ~~)」 「(ほわわ…アルテイシアお姉ちゃん様が表現し辛い表情となってますう~~)」 「(と、言うより
「ああ~~そりゃどうも!だけど残念な事に私の父は皆から慕われるような善人じゃアリマセーン!逆に皆から敵視されるような悪人ナンデスケドオ~?」
「(むぐ…)こ―――これは失言でした…どうか許されよ。」
最初はトキサダ(恐らくはリルフィも)が勘付いていた不審な視線の事だった―――のに、何故か話しの方向性はあらぬ方に…それもよくよく辿ってみればアルテイシアが余計な一言『(トキサダの事を)未来の旦那君』と発してから…要は巨大なブーメランとしてアルテイシア自身に突き刺さってしまったようです。(自業自得)
それに、そう―――不審な視線(ミゾレ)の事は以前から感じていた…それはミゾレが女王陛下の生命を付け狙う為にと隙を探っていた頃から、この
それに…正直な話しとしてミゾレにはあまり時間は残されてはいなかった―――女王暗殺の失敗から焦りを隠せないでいるミゾレの雇い主…“不正”貴族の一人は自身が雇った者が中々任務を遂行させない事に次第に苛立ちを募らせていました。 ミゾレとしては、こんなにも不徳な雇い主との契約を解除したい―――けれども任務の一つも満足にこなせなくては自分達の里の沽券にもかかわるものと思い、例え不本意であったとしてもこなさなくてはならないと言う葛藤の下、今度こそは手抜かりのないように調査を進めていたものなのに…けれどそんな事は“偉い”者には関係がない―――現場の苦労など知らないで苦言ばかり呈して来るのは良い上司とは言えないのです。
だからこそ―――
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