第44話 『大芝居』の舞台裏
その大木の根元に
刺客から逃げ
それに刺客にしてみればこれほど容易く終わらせられる
「その傷口では最早逃げられたものではない事を覚ったようだな…元スゥイルヴァン女王の影武者―――シルフィ、お生命頂戴する!」
―――ン・フ・フ・フッ…ハハハハ……アハハハハ
「(!)何が可笑しい―――生命の危険の前に気でも障れた…」
「ザア~ンネン―――“私”でしたあ~!」(ゲヒャヒャヒャヒャ)
下卑た笑いに表情―――とでもじゃないが一国の女王陛下の影武者として立身をしていた者とは思えないものがそこにはありました。 それに“白い”刺客は知らなかった…影武者には唯一真似のできない女王の仕草があった事を。
そう―――シルフィは“対外”への(女王としての)広告塔の役割があった。 “清廉潔白”“眉目秀麗”“才色兼備”…それらは確かにシェラザードも持っていたものでしたが、
『女王らしからぬ言動』
500年―――いやそれ以前にまで遡りますがシェラザードの言動とは、とてもではありませんが“お
で・す・が
「まっ―――まさか、シェラザード女王陛下ご本人?!だけど…」
「“私”は、死んだハズ―――か、なら今ここにいる“私”は幽霊かあ?けーど見てみろやあ~この“すらあ”とした脚―――“むっちむち”の太腿―――足のついた幽霊なんて古今東西聞かない話しだなあ?それに…この“すっべすべ”“もっちもち”のお肌―――間違っても動く
「じっ―――じゃあ…」
「ああそう言う事さ…騙されたんだよ、あんたんとこの雇い主は。 なまじ私から貴族に任命されときながら長年の恩を仇で返そうってな“粋”な連中がいるお蔭で、私も楽に隠居出来ねえわあ~~。」
“白い”刺客が自分の新たな
いや…その前に、その
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
事態がこうなる前―――確かにシェラザードは不覚を取っていました。
それはある依頼の為レゾーラの森深くに分け入っていた時の事…不意に、自分の首元に“痛み”が
* * * * * * * * * *
{この国の女王が自らの城下の門前で行き倒れていたなど前代未聞、さりとて女王の身を蝕んでおったのは毒と言う事で相違ないな。}
「ああ…それがどうも遅効性だったらしい―――しかもお誂え向きに体内深くに残るモノだそうだ。」
{これは少し、女王に冒険者としての行動を自粛して貰わねばいけませんかな。}
「問題はそこにはありません―――今問題とするべきはこの毒がどこから用いられたのか…」
どうにか生命は取り留めた―――とは言ったものの、依然として重体である事には変わりはない。 そう、シェラザードに用いられた毒は、遅効性であると共に体内に深く留まる類のものだったのです。
それに―――それにそこに居合わせた者達はどことなく判っていた…そう、今回シェラザードに用いられた毒の種類を。 けれど所詮はどことなく知らん顔を決め込もうとしていた―――様にも見受けられなくもなかった。(それも特に【宵闇の魔女】は、なのですが)
それから数日後―――
「たは~イヤー参ったわ、私の≪
「それはようございました陛下、つきましては…」
「なあーにお堅い事言っちゃってんのよぉーササラぁ、私達ゃ仲間なんだから―――」
「昔はそうでも今は立場なりとて違います、私は私で〖昂魔〗の臨時代表として“クソロリばばぁ”の役割をこなしていますが、あなたは魔王様の右腕としての『スゥイルヴァン女王』の役割があります…さて、一体どちらが立場が上なのでしょうね。」
「(あははぁ~)あのーーーまだ捕まんないの?」
「まあ…捕まんないからササラが“クソロリばばぁ”なんて毒吐いてるわけだしねえー。」
「それよりシェラザードの自浄能力も衰えてきているのは否めませんかな、それが今回は例の毒の出所が判ったからその出所から解毒剤を提供してもらったのが幸いに転じたものか…。」
「(…)そこは、申し訳次第もありません―――まさか
「ありがとうございます―――…」
「それより、だとしたなら誰が里から秘蔵の毒を持ち出したのかしらね。」
「(…)それは、心当たりがあります。」
「ん?どう言う事だササラ。」
「叔父の話しでは、一人研鑽を積む為に修行の旅に出た者がいるそうで…」
「―――では…」
「はい、恐らくは高確率で私の姪に当たり叔父の娘でもある者が、何らかの事情によって不正貴族共と主従の契約を結ばされたものと。」
「『結ばされた』―――って言う事は、その子の意思とは関係なく?」
「恐らくは、その様であると推測されます。」
「聞くと何だか気の毒な話しだなあ。 なんかさ、私達の手でどうにかならないかな…。」
その本来ならば『エニグマ』の闇の勧誘すら退ける強い光の
{*この事は以前にバルバリシアがエニグマに捉われそうになったた時、リルフィの身を呈しての庇護により実証されている。 それはつまり≪
それはそれとして黒豹人族であり優れた忍である母を持っていたササラは、今回の毒を持ち出した者に心当たりがありました。 それがササラ自身の“姪”であり、現在『お館』として忍の里を纏めている“叔父”―――その“娘”が、忍の腕を磨くために修行の旅に出ている事を知っていたのです。 その事を叔父からの連絡により知らされ、近くに寄ったら自分の処に訪れるように―――との話しを持ち出していたのに…それが幾月か待っても訪れなかった、その
それに―――…
「いえ、やはり今回の事は信賞必罰を明らかにしないと…確かに私が可愛がっていた姪ではりますが、例え契約とは言っても事の善し悪しの判断が出来ないようでは私達一族の沽券にかかわります。 よって、厳正な罰を―――捕えたら事の如何を問わず極刑に処すべきかと…」
「ササラ―――…」 「確かに…言っている事は判るけど。」 「うむ、何も『事の如何を問わず』は厳しすぎるのではないのか。」
「いいえ、これは明らかなる罪です、本来なら今回の様な不届き者を出した里の責任は重大…即刻里の滅亡を打診するべきでしょうが―――彼の里の忍は優れた情報提供者でもあります。 なので…そこの処はご容赦のほどを……」
これが乱世―――850年前実際にあった苛政、『暴君』ルベリウスの時代に起こされた『叛乱』ならまだ理解があった事でしょう。 けれど現在は違う、『暴君』の二の轍は踏まないよう善政を施す現・魔王―――それを支える超大国スゥイルヴァン、その女王であるシェラザード、一体どこに叛乱を起こす理由が存在するのか。 だからその事を知っていたササラは、例え可愛がっていたとはしても今回間違いを犯してしまった姪一人の生命で里を救おうとしたのです。
* * * * * * * * * *
それから数日後の事―――竜吉公主がシェラザードを
「ん―――?どしたんりゅうちき。」
「(あ・の・ねえ~)まあいいわ―――今回はちょっと今後の事を話しておきたいと思ってね…その説明の為に提案の発起人の話しを聞いて貰えないかしら。」
「『提案の発起人』…なんか面白そうな話だなあ~。」
幸い毒は抜けきったものの、まだ静養は必要―――(と言う名目の下、しばらく冒険者としての活動を停止させられてしまっているシェラさん)
そんなところに竜吉公主がお見舞いを兼ねての表敬訪問をしてきた―――その理由もどうやら『ある提案』を持ち出して来た人物がいると言うのですが…
「(ん~?)ヘレナんとこのベサリウスじゃん、どったの。」
『“我が
「あのなあ~『ご健勝』て言われたって私ゃ毒盛られたんだが?何の皮肉だよ…」 「あはは~~ちょっとベサリウスあんた何考えて―――」
その提案を持ち出してきた人物とは、
それが巡り巡っての現在、ベサリウスは竜吉公主の下に囲われている…(『召し抱えられている』と言う表現ではない事に注目を)
そう言った者が何かの『提案』を胸に秘めスゥイルヴァン女王の下を訪れた―――
{*ここで一つ、これから彼が提案する事を、実は公主は知らない…}
「で、何の『提案』だって?」
『“
「(…)は―――?」
「(へ?)ななな…なんて事言うの~?あああ~~~す、すみません悪戯が過ぎちゃってえ~…」
[(……)なあ~面白い事ぬかしよんのぉ?ベサリウス君…おどれはこの私に『死ね』と?『死ね』言うたんかいやこるぁ。](エルフ語)
「あっ…あああ―――ちょ、ちょっと待ってね?シェラザード…ちょっとベサリウス!あんた言うに事欠いてなんて事を言うのよ。 それに、今回あんたから『現状の打開策としてとっときの案がでましたから』と言ってたじゃない!そりゃあんたからの案だからさ、間違いないと思って事前に聞かなかった私も悪いけれどぉ~~~」
なんともあった話しもないもので、超大国の女王陛下でもありヘレナ自身の“
『フフン―――フッククク…そうそう、それそれ、その反応が視たかった。 “
「お―――驚くのにきまってるじゃない…ああ~~申し訳ございません、陛下にお伝えする前に私の方でも聞いておくべきでした。」
「……。」
「あ、あのぉ~~~シェラザード―――陛下ぁ?」
するとベサリウスは彼女達の反応を見るや、自分の期待通りになった事に
「―――なあベサリウス、あんた別に私達を
『“オレ”が
「それは―――本当よ…あの時どうしてかシェラザードの≪
『で―――?その後はどうしましたか。』
「『どうしましたか』…つて、今視ての様に私ゃ全快復してんだが?」
『ですが…広く民衆には報せていない―――と…。』
「ま、早晩そうするつもりだけどさ。」
『(フフン―――)そいつは良かった、手遅れにならずに。』
「(ん?)どういう意味だ?そりゃ…」
『言葉通りですよ。 今“オレ”が発案したのは“
「つまり―――“虚報”を流す…と。」
『ええ、まあ公主様の言っている事はそれで行程の半分なんですがね。』
「(フフフン…)なあーんか面白そうな話しじゃないか、“私”が『死んだ』事にする事が半分だなんて、そっから先の事―――とっくりと聞こうじゃなあ~い?」
事実、シェラザードは不正貴族が放った刺客の手によって一時重体にまで陥った…ものの、その後の応急処置で事なきを得たのですが、今回の事が突発出来だった事もあり、まだ詳細は広く民衆には報せてはいない…(とは言っても『快復の方向にはある』程度の事は流布されていたようで) そこへ―――鬼謀の才が言うのには『女王陛下が死んだ』事にすればいいと…これが
それがこれから話される…
『今回はちょっとばかり大芝居を仕込もうかと―――』
「『大芝居』?てなにするのさ。」
『“
「(な―――)魔王様まで?巻き込んで…何をしようと言うの。」
『おやあ~?おかしな事を言うものだ公主様。 個人が死んだとなりゃ付き物があるでしょうに。』
「『葬儀』―――それでリルフィーヤも参加なわけね。」
「なるほど…そこへ魔王様直々に弔意を示したとなると―――」
『フフン…いい具合に判って来たようじゃあないですか。 そう王太子の涙ながらの別れの演技に“
「ああーーーあーれなあー、私としちゃ面白くもない話しだったんだが、ほらシルフィって私の身代わりやらさせてた頃からメキメキと私に迫る勢いで(内政の)
「(シェラ…あんたそれ、洒落んなってないわよ)でも、なんでシルフィが狙われなくちゃならないの。」
『少し、知恵の働く者でしたら、『実は女王陛下は生きていました』と、シルフィ殿を担ぎ上げようとするでしょう…向こうさんがそこまで読んでシルフィ殿に手を出したとするなら、そこが運の尽き―――てヤツです。』
「なるほどぉ~つまり私ゃ本当に死んでない訳だから、シルフィを襲おうとしている不正貴族からの刺客を前に、『ザア~ンネン―――“私”でしたあ~!』てなりゃ…」(ククク…)
『さあっすが“
そう、そこにあったのが前述のやり取りのありのまま―――死んでいたと思われた人物が実は生きており、女王の死と共に超大国を乗っ取ろうとしていた不正貴族共の裏を掻いたのです。
{*余談ではあるが自分が囲っている者と女王陛下の、悪人顔負けの『今世紀最悪の悪い笑顔』を視てしまった竜吉公主は、『こんな表情民衆には見せられないわ』とさながらにして思ったようで…しっかし、全くの悪人顔が板についてしまった女王陛下って…一体。}
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