第38話 登場!リルフィーヤの“影”武者

未熟な私達をしごき鍛える為にと、お母様からの依頼を引き受けてくれたクローディアさん、彼女は元々この世界の存在ではなく、いわばトキサダと同じ“ラプラス”―――そう、元はと言えば私達が産まれるよりも以前に私達の世界を侵略しようと企てた異世界の存在なのだ。 しかしラプラスも一枚岩ではなかったものとみられ、クローディアさんは時の権力者によって排除されそうになり紆余曲折の経緯の果てに私達の世界に逃れてきたのだと言う。 そして今回、私のお母様と共にラプラス達と闘った―――そこを見込まれて私達が強くなるためにと訓練の教官を受けてくれたのだったが…聖職者にして回復役である彼女1人に私達7人は歯が立たなかった…そして訓練の終了と共に現れたのは、クローディアさんに依頼をした張本人…私のお母様だった。


「もぉぉーーーホントかわうそーにーーー私のかわういシェラフィーヤちゃんをいぢめるなんてえ~~。」


かあ様…私もかあ様の子供なのですが?(まあ父親はだけれどな) 私の事を心配してくれないものとは……

「(あ゛ーーー)お母様、ここにはお姉ちゃんも一緒にいるんだけどもね。」

「だぁいじょうび、その子は“彼”と私の子だから、そう易々とはやられはしないわよ。」


「それ…で、どうするのです。 訓練は滞りなく終了し、その報告はしないまでもあなたの優秀な情報部員によって判っていたはず、なのに…この場に現れたあなたの真意―――先程も述べられましたよね、『パレちゃった』と…。」

「ウフフフ…私は私で宮廷雀共とのストレス発散の為に―――それにあんたは久々に“火”が着いちゃったからうずいて仕方がないんでしょお~う?」

「フフフ…てしまいましたか―――ええ、最初は王侯貴族特有のお遊び半分だと思っていましたが、これが中々…恐らくですがあなたのご子息ご令嬢とはまた違い―――彷彿ほうふつとさせて頂きましたよ。」

なんだか…一種異様だった、それにもう両者は臨戦態勢いつでもヤル気まんまん―――いつ始まってもおかしくはない、まるで張りつめられた弓の様…それに両者の会話を聞いて行く内に、お互いの事を知り尽くしていると言うのが判り始めた。 片やこの魔界の超大国である『スゥイルヴァン』現女王であるシェラザード女王陛下、片や元ラプラスの『司祭』だったと言うクローディア……今回私達の訓練の教官を勤め上げたクローディアは、外見上みかけのうえでも聖職者泰然とし、また立ち回りも聖職者(回復役)の範疇を越えないものだったのに、私達全員を相手にすると広言した時―――その雰囲気は一変した…それまで聖職者としてたずさえていた聖杖から手を離した彼女の拳には、最硬物質でもある“オリハルコン”で出来ていると言われている『カイザーナックル』なる装備だった…そう、現在のクローディアは知る人ぞ知る“不落要塞イモータブル・フォートレス”でもあったのだ、“不落要塞イモータブル・フオートレス”…私達の中では最強を誇るAクラス冒険者『アルテミス』をもしのぐ武をもって相手を制圧し―――ながらも、傷ついた味方を回復させると言う事をやってのけられる…本来なら聖職者・回復役は本陣などの後方にて立ち回るのが常識的、それに確かにクローディアもチーム戦だった時まではその立ち回りだったのに、私達全員を相手にした時に様変わりをしてしまった。 “敵”を駆逐しながら前線を押し上げ、そこから傷付いた味方を癒す―――陥落する事はない要塞が“動”く…と言うのは、味方にとってこれほど頼もしいものはないし、敵にしてみればこれほど怖いものはない、そんな人を相手に女王陛下はどう立ち回るのだと―――…?

けれどそれは、私の……私の浅慮せんりょさが導き出したものだと言わざるを得なかった、正面から向き合った彼女達は―――


「(えっっ…今何が起こったの?)」


あれは―――お母様が最も得意としている武器『弓』、しかしお母様が扱う矢は通常のではない、お母様が扱う矢こそは、お母様の魔力で練り上げられた『魔力の矢』、物理的な矢とは違い尽きる事のない矢―――お母様の矢が尽きたという話しは聞いたことが無いし、もし尽きたとすればそれはお母様の魔力が尽きた事を証明している。 だけども、お母様は私達の様な子供ではない―――私もアグリアスも、アルテイシアお姉ちゃんも他の人達よりは魔力は多めだけど、それでもお母様のには遠く及ばない。 そんなお母様の『魔力の矢』が、クローディアさんを狙っ…た。

けれどもやはり、昔から知っている仲だからか―――容易に当たりはしない、けれどもお母様の矢はお母様自身の魔力で出来ている事もあり、避けたクローディアさんをどこまでも追尾していく…それに弓の強みと言ったら槍以上の攻撃範囲にあるだろう、遠間より狙いを定め、相手が近付くよりも前に討つ―――これが弓使いの基本中の基本なのだが、それでも“泣き所”は存在する、そう―――遠距離攻撃が得意なだけに遠距離で無くなってしまえばそれまでのアドバンテージは無くなってしまうモノ…だったのだけど―――


「(お母…様??)」


あれは…『フリューレ』!?陛下は弓が得意だと言う事は知っていたが、弓は近接されてしまうと途端に歩兵以下になってしまう…その弱点を克服するにはただ一つ、それは近接戦闘も得意にならなければならない―――それを既に克服されていたとは…それにしても、ううむ……何と言う剣さばきの流麗さか、まるで清流を思わせるかのような―――ハッ!“清流”?あの動きどこかで見た事があったかと思えばアンジェリカ殿の剣捌きと同じでは!


しかも今度は品を替えて『ツイン・ダガー』…『フリューレ』よりも射程距離が短く、手数で翻弄するという……わが母ながらなんとも恐ろしい方だ、その最初は弓、その次は細剣、その次はツイン・ダガー…徐々にクローディアとの間合いは詰められているが―――それでも攻め切れていない、皆はその事に気付いているのだろうか?ここまでは母様の手数・品数の多さに目を奪われてはいるが、クローディアはよくそれを凌いでいる…


ただ―――…


         * * * * * * * * * *


「もう、これくらいでいかがです?十分にストレスの発散は出来たのでは。」

「ま、そうだねえ~~今回はこれくらいにしとこうか、ありがとねクローディア、付き合せちゃって。」

「いえいえ、こちらも運動不足でどうしようかと思っていましたので。 それに教会で“シャドー”をしたのなら立ち待ちの内に話題になってしまう事ですしね。」

「まあーーーさか虫も殺さぬようなお淑やか系の修道女が、いざ本性あらわとなっちゃったらオーガですら裸足で逃げちゃう“不落要塞”~~~だったなんて、知りたくもない事実だしねえーーー。」(クケケケ)


あーーー今のお母様の根性悪げな笑いを見ちゃって判ってしまったあ…そう言う風聞を流したのはお母様で、その事を知らずにクローディアさんが管理する(田舎の)教会を訪れた野盗達は……

「あ、あのうーーー参考までになんですけれど…クローディアさんの教会の裏手に墓地ありましたよねえ?」

「ええはい、ありますが?」

「その墓地の下―――って…」

「半数よりあの地の住人ですが…半数より以上は―――」

「そぉーれより訓練終わった事だすぃ、お城に帰ってパーティーしようづえ~♪」

なんだか……上手い具合にはぐらかされちゃったみたいだけど、半数より以上は事情をよく知らないでクローディアの教会にお邪魔をしちゃった不貞の輩のモノってことよねえ?いや、てより半数??どんだけ葬って来たんだよこの“撲殺系”回復役ヒーラー


うむう、それにしてもなんたる武の持ち主よ、最初に見せて頂いた『弓』もさることながら、続く『細剣』『双剣』ともに熟達の域に達している。 リルフィ殿には失礼かもしれんが、ボク達はあんな化け物を相手に侵略を続けていたと言うのか?それにあんな一騎当千の武の持ち主がいたという報告など義父ちちであった前『皇帝』の耳にも届いていなかった……他人の所為とは言え、『賢者』や『大司教』『聖女』の我利私欲がりしよくによって起こされた魔界への侵略戦争―――そして彼の『三聖者』の言うなりでしかなかった帝国…戦争を起こした責任者(達)は今はもういない、しかしその責任は今やこのボクに回ってきている。 周りには『武者修行』だのとお為ごかしを仄めかし、魔界へと渡ってきたものだったが……ボクが『皇帝』だと知られてしまったらリルフィ殿は赦してはくれないのだろう…な。


「―――…ダ。 ―――…サダ ―――トキサダ!」


「(ハッ!)おお、どうしたのだリルフィ殿。」

「どうしたかじゃないよ、どうしたの?ボーッとしちゃって。」

「ああ…うん、少々考え事をしていてな。」

「考え事?」

「他愛のない―――何でもない事だよ…気にするまでもない。」


だが…ああは言ったものの、事実は隠しおおせられる事ではない、いつかはバレてしまう―――バレる前にボクの方から話さなくては…しかしその時機ではないことくらいはボクでも判る、その真実を話しても信じてもらえるかも怪しいものだからな、だから―――ここは……もっと慎重に―――…


しかしそれは―――ボクの…浅いおもんばかりだったと言う事を思い知らされた。

そう、リルフィのご母堂殿が姿を見せたと言うのは、その事自体がリルフィ殿とその仲間達の訓練の終了―――を物語っているものであり、そして同時にこう言っていたではないか、『パーティー』だと!

他の仲間達はどうかは知らないが、ボクは彼女達の中では一番の新参者…しかも初見でラプラスだと言う事を知られてしまっている、ど……どうしたものか―――

「(あの、よろしいですか?)」

「(おお、元『司祭』…いや、クローディア殿。)」

「(もしかするとご自分がラプラスだと言う事を気にされていますか。)」

「(あ…ああその通りだ。 誰が何と言おうとボク等幻界の者達はこの世界を侵略しようとした―――そしてその果てに惨敗を喫してしまった…あの戦争を始めた者達は“邪神”を含めてもういない、しかしその責任はボクにある…魔界ここへと訪れたのもボクの悩みをどう解決するか―――その糸口でも掴めれば…との思いでもあるのだ。)」

先程から、表情に暗い影を落とされていたのはその事だったのですか、私もさきの『皇帝』の事はよくは知り得ていません―――ただ、私が『司祭』に成った時その任命の式典には彼の『三聖者』と帝国を治める者…ただ、帝国を治める立場なのだとしてもその影の薄さはあの当時の私をしても感じる処はありました、そしてさながらに思ったものです―――嗚呼、この方は“傀儡”なのだと。

そしてその雰囲気はこの方にも受け継がれている―――けれど、前よりは幾分かまし…まあ今は帝国にも影響を与えていた教会の勢力も衰えてきているようですしね、だからもう『皇帝』を縛るなわめは、ない―――だとするならば、魔界とも好い関係を築ける……

「(その悩み、お任せ下さいませ。 このクローディアが何とかして差し上げましょう。)」


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


こうして―――私達の更なる成長を祝う席は設けられた…設けられた―――の、だ、が。

「(エエエ~~~ナニコレ、国家挙げての大宴会おおごとだなんて聞いちゃいないよぉ~~??)」

「(し、しかも竜吉公主様やらウリエル様やら国賓並みの方もいらっしゃいますぅ~~)」

「(んーーーまあ、じゃが、旨いものを喰えるのは悪い気がせんよの~う。)」

「(これは…かあ様の発案もあるが、ここまでの規模にされたのは絶ッッ対だよな―――)」

「(宰相グレヴィール様……そう言えば末っ子であるリルフィーヤの事を可愛がっていたものなあ…)」


「あああ~~~リルフィーヤ、いとおしの我が娘よ!どこか怪我はしていないか?どこも怪我はしていないか?変なモノにあたっていないよな…お前を傷モノにした奴らは我が国家の軍隊を上げて討滅してくれるからなあ~~~!!」


「リルフィ……殿、あちらは―――」

「私の実の父です…(恥ずかちぃ~)」


「ちょおっとグレヴィール!あんたこんな大事にしやがってえ~~!」

「どうしたシェラ―――この私のした事に何か異論でも?おおそう言えば『聖霊』の女媧様より祝いの酒が…」

「フッ…よくやった、あんたやっぱ最高だぜ―――」(←旨酒に買収された人)


「あの…リルフィ……殿?」

「(お母様のバカヤロオ~~~!)」


ボクもこちらの世界での王侯貴族に当たる為、こうした宴席の催しの事は判っていた―――が、取り分け今回は祝うと言っても小事の事だからここまで大がかりなものになるとは思わなかった、そこはリルフィ殿も判っていたと見え、頭を抱えた反応になると言うのも無理らしからぬ処か…そして宴もたけなわとなった処でこうした宴席には付き物―――そう、主催者から来賓への挨拶をしなければならない、これが身内だけの宴席ならばしなくても良かったのだが、リルフィのお世話係のハルピュイアが申していたように『国賓並』の来賓が来ているという―――そうおいそれとしない訳にもいかないみたいだ…斯く言うこのボクもああいうのは苦手だ―――それが『挨拶をする』と言う予定が組まれて用意しなければならない時にでも苦労させられたものだったのに、今回のリルフィ殿みたいに即興でやれと??他人事だが同情するよ……


「ふむ、どうやら盛り上がっているみたいだね。」

「ああ―――はい…あの、あなたは?」


しかしその女性は“にこ”と返すだけで何も語らなかった。 それにしても綺麗なひとだ―――やはりこの人も来賓なのだろうか? 熾緋の眸に熾緋の髪、頭には立派な角が生えていて豊満な身体つきをしている―――


「(おや、あれは…)珍しい事もあるものじゃな、滅多とこのような華やかな場に現れもせぬというのに。」

「公主―――楽しんでいるかい。」

「愚問であろう、そも此度はリルフィーヤの訓練終了を祝う為のもの、さすればささやかなるものが相応しかったろうに―――」

「ははは、公主様それは少々意地悪が過ぎるのでは?この国の宰相の末娘への溺愛ぶりはこの国だけに留まらず、我等の耳にも届いていますものな。」

に、気の毒はリルフィーヤよのう…は同情の念に堪へぬわ。」

「ふふふっ、しかしまた一皮剥けたと思えば、君達も祝いたいと言う気持ちも出てくるはず―――違うかな。」

「ホホ…これは一本取られましたかな、新たなる次代の“光”に祝福あれ―――」


……何と言う事だ?国賓らしき2人を相手にしても動じない態度―――相当場馴れしているとみていいな、それに…どことなく風格を感じてしまう―――と言う事は、あの貴婦人は国賓の2人と同等かそれ以上…この国家と同格の国主と言う事になるか?!


だが…この後ボクは異様な光景を目の当たりにしてしまったのだ、それというのも―――


「あら、これは―――珍しい方がお目見えになっていましたのね。」

「……。」


ん?ん、ん??ん、ん、ん??? リルフィ殿のご母堂と―――リルフィ殿ぉお??い、いやしかし―――ご母堂様はあちらに…それに、リルフィ殿はお仲間との歓談に花を咲かせ……あ、あれえ?リルフィ殿が2人いるう??

「驚かれましたか、トキサダ様。」

「(あ…)クローディア殿!?一体今までどこに……」

「少しばかり“とある方”への取り成しを…」

「『取り成し』?それも『ある方』だと?!」

「はい、そのご様子ではどなたの事を述べているか自ずと判っていらっしゃるようですね―――そうです、この魔界を統べる王…『魔王様』にございます。」

この魔界の王……魔王!話しや報告の上で聞いていた事はあるが、実際会うとなると―――いやいやしかし、ボクはどう変えようとした処でラプラスの主…『皇帝』の外ならない、しかも望まぬ事にこの宴席に今まで侵略を仕掛けていた当事国の首脳が来ている…などと―――!

「こ…っ、この会場に魔王殿が来ている……だと?」

「はい―――ああそれより、あちらに見られている方はシェラザード様とリルフィーヤ様の……“影”になります。」

「“影”!?(影武者?!)」

「はい―――その本来であれば、この国の女王であるシェラザード様はもとより既にこの国の次代を約束されているリルフィーヤ様は国家の最重要人物となります、ゆえに常にその身は危険に晒されている…その危険を回避する上で担保されたのが―――」

「あの2人と言う訳か…さぞや苦労を掛けたのだろうな。」


「そうでもありませんよ―――」

「えっ、ああ、これはどうも…しかし女王の代わりにその身を狙われていると言うのは―――」

「元はと言えば私は冒険者の身でありましたから、この命を落とすと言う危険性は常にあったのです、しかし―――ですけれどね…」

「シルフィを引き入れた経緯は実に奇想天外そのものでな、私が聞いた話しでは品定めの為の晩餐会にのこのこと出席したシルフィを自分の部屋へと連れ込み―――」

「この子を置き去りにして自分はさっさとロープ一つで脱出計っちゃったーーーと…その辺は後世になった今でも語り草よねえ。 そーれに、シルフィを自分の“影”に仕立てようとしたのも―――」

「昔から読んでいた『英雄譚』に影響され、ご自分も『英雄になりたい!』からと―――」

「…と、まあこのお三方(竜吉公主・ウリエル・シルフィ)の証言も取れましたことですし、つまりはになります。」

な……なんだか、この人(シルフィ)への同情の念が絶えない―――しかし何だか大分判ってきた事があるぞ。 有無を言わせずに自分がいなくなれば招かれてしまった者は逃げづらくなる……しかも“慣れ”だ―――王侯貴族の生活も、まつりごとも“慣れ”させてしまえば止め辛くもなる。 ううむ―――なんとも恐るべきはリルフィ殿のご母堂なのであろうな。

ん?しかし待てよ??するとならば―――リルフィ殿の“影”殿は…


「…………。」


ど、どうしよう?か、会話が―――弾まない!いや弾むどころか一言も喋らないのでは会話にすらならないのでは??

「おっ、ヤッホー来てたみたいだね。 どう?愉しんでる?」

「……。」(コク)

「それにしてもゴメンねえ?本来ならこんなに大宴会おおごとになるはずじゃなかったんだけどさあ、私のお父様が…ねえ?」

「……。」(コクコク、アセアセ)


会話が……成り立ってる?

「な―――なあ…リルフィ殿、この者は一言も喋らぬのだが意思の疎通は出来てる?のであろうか。」

「ああ―――この子ね、人前では滅多と喋らないの。」

「(んーーー)それでリルフィ殿の代わりが出来るのだと?」

「んーーーと言うよりさ、私がを求めてこの子にお願いしたのよ。」

「(…)人前で、滅多と口を利かないこの者を?」

「そ―――この国を継ぐ者がお喋りだったら軽率そのものでしょう?だから私の“影”にはその真逆を求めたのよ。」

そおーーーう言えば、リルフィのご母堂殿はお会いした時から破天荒そのものであったが、その“影”を務めているというシルフィと言う者は一転してお淑やか…まさしくの超大国の女王に相応しい、そこへ行くと日頃では元気溌剌なリルフィ殿と対照的な―――…

「そういえば…この者の名は?」

「あっ、そう言えばまだ紹介がまだだったね、ほら―――名乗りなさい。」


「…………オフィーリア。」


初めて口を開いた―――その小さな口から発せられた声は蚊の羽ばたきかと思わされたものだったが、『オフィーリア』…それがリルフィ殿の“影”武者の役割を果たす者の名だった、それに自分と対照的な者を自分の“影”に仕立てようとしたのもやはり別の狙いがあったものと見え。

「まーーーこの子ってさ、滅多と喋らないから私の印象も“物憂ものうげ”で“はかなげ”な印象がついちゃってさあ~~うん、まさにこちらの狙いどおーりッ!てヤツよねえ~♪」


「おやおや盛り上がっているみたいだね。」


リルフィ殿…それはリルフィ殿の実態が知られた時それまでオフィーリア殿について回った風聞の逆の倍返しがありますぞ―――と、そう思っていた矢先、先程顔見せをした例の熾緋の君が、リルフィ殿へのご機嫌伺いに参った―――そう、思っていたのだったが…

「(あ!)こ―――これは…来ていらっしゃるとは知らず、お見苦しい処を…」

リルフィ殿が、かしこまっている?いやだけど、リルフィ殿は曲がりなりにもこの国の―――王女…と言う事になるはず、その身分をもってしてもかしこまらなければならない人物…

ボクは、なんて浅廬せいりょだったんだ―――浅廬せんりょでいられたんだ、国賓並の来賓を相手に一歩も引かず、この国家の王族と対等以上に渡り合える人物など一人しかいない―――そう…そう言う事だ、この熾緋の君こそが…


「そう言われるあなた様こそ、ご機嫌がよろしいみたいですね―――」


             魔王カルブンクリス様






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る