第31話 一世一代の“大芝居”

“何か”―――が始まろうとしていた。 それも“舞台”はスゥイルヴァン城『玉座の間』で…


「な―――何だと?今なんだと言った!!」

「(……)頼まれたのよ、私。 あの人から“この国”の事をね。」

「あなたが言う“あの人”……って、私達のお母様である女王陛下ね、けれど我が王家の者でもないあなたがどうして。」

「(……)そんな事は、知らないわ。 だって私、あの人自身じゃないんですもの。」

「話しにならん、いい加減そこを退いて母上を出せ!」

「話しにならないのはあなた達の方でしょう?どうしてあの人の愛が判らないのかしら……私にはその事が判らないわ。」

「いい加減にしなさい!私達はそんな事を聞いているのではないのです、今お母様はどこに??」

「さあ?私に厄介事を押し付けてくれちゃった後の事は知らないわ、今はどこか―――風に流れる雲の下……なのかもね。」(クスクス)


大分だいぶ―――ノってきたみたいだな、いい調子だ。 それにしても思い出すなあ……思えば数年前、オレ達の世界で大流行した“仮想”の世界の中でこいつは一つの勢力の『魔王』として君臨していた、だから堂に入っている―――と言っていいのか、今のこいつとヘッポコPTバカ子息達のやり取りは、まさにその“前座”―――まあいわゆるところの『我がものと成れば世界の半分をお前にくれてやろう』的な奴だ。

それに間違ってくれちゃならないのは、オレとこいつは座りたくもない椅子に座っているって訳だ。

それに……そろそろだな―――観客オーディエンスも増えてきた、ほんじゃいっちょここらでキめとくかあ?


「おのれぇぇ…ふざけおって、それより親衛隊の奴らはどうした、誰一人見えんじゃないか。」

「無駄だ…ドゥーカス、彼らは女王陛下の直属、いくら私達王族だとて従えさせることなど出来ない。」

「なんだと?ええい役立たずめ、ならアルティシアお前が―――」

「私も御免こうむる、なぜなら彼女が母さまの意向を受けているからだ。」

「はあ?この期に及んで訳の分からない事を……」

「お前達の眼は曇ってしまったのか?彼女の両耳にあるをよく視てみるがいい!」

「(!)あれ……は―――」「『エヴァグリムの誇り』……?私達王族しか持ち得ないモノをどうして?」

「まだ判らないか、彼女こそが母さまと遠い昔に友誼を結んでいるからだ!」


「そう言う事よ、おバカさんたち。 あなた達は優秀な母の下で温々ぬくぬくと育てられた……母の優しさにただ甘え、厳しい現実を見つめようとはしなかった―――けれどあの人一代で衰退するのは忍びなかったのでしょうね、だから待った、あの人自身が手放しで任せられる優秀な次代の者に。 そしてようやく得られた―――けれど、見返してみれば足下を掬うような凡愚ばかり、さぞや頭を痛めた事でしょう…胸を痛めた事でしょう、けれどそこへ私達が現れた―――遠い過去にあの人と友誼を結んだ私が。 そこであの人は考えた、自分の意中の跡継ぎが成長しきるまで、その“繋ぎ”を―――と。

今やあの人は“自由”と言う名の翼を持った鳥の様なもの、『女王』という呪縛の鎖から解き放たれたの…さあ判ったのなら立ち去るべきは誰なのか、判ったんじゃないの?お・バ・カ・さ・ん・た・ち。」


うう~~~ん、見ていて痛々しぃぃ~~~涙無くして観てられないぜ。 まあなによりも言っている事は至極まともなのだが、オレの目からしてみれば鋭利の刃物で出来た『ブーメラン』てヤツが次々とあいつに突き立って見えて仕方がない。 ひと昔前ならその事に耐えかねてすぐにへこたれたもんだったが、強くなったなあ~~~よしよし、後で“いい子ちゃん”してあげるからな、あともう少しの辛抱だ。


それにこれだけ虚仮こけにされて奮い立てないようなら益々もって重症だ、だけど“我が娘”はそうじゃなかったみたいだな。


「何をしている……バカにされて悔しくないのか、悔しさを感じないと言うなら今までのは虚勢だったと言うのか?私は悔しい……我が栄光ある王族以外の者に図星を衝かれてしまった事が!だが、だからといってここで奮い立たねば母さまに―――いや国中の皆に示しがつかん!!」


「うふふふふ、あらあなただけは威勢がいいみたいね、そこの世間知らず共と同じ様に震えて縮こまっていてもいいのよ?」

「そう言う訳にはいかない―――いかなくなったのだよ『イラストリアス』!!」

「いいの?この私に逆らうと言う事は、あなたの母である―――」

生憎あいにく―――私は皆の鼻つまみなものでね……ここで私が消えたとて、哀しむような者などいない……」

「そう―――腹は括ったようね『エンタープライズ』、では始めるとしましょうか……久々に。」


        * * * * * * * * * * *


オレ達がこの世界(魔界)へと来た目的はもう一つある。 それが、ここ最近ゆがんでしまったこの国を矯正するためだ。

それにその事を知ったのは割と早いタイミング―――そう、この世界(魔界)へと渡って来た時に、である。 知った仲とは言えこの世界(魔界)はオレ達にとって初めてだ、だから早い段階で現在の状況を知る必要がある、だからこそ『加東段蔵』を使い、この世界(魔界)の現在置かれている状況を知ったのだが―――


「なぁ~んかあの『破戒王女』、以前見た時よりゲッソリしてるみたいですねぇ。」

「オレ達の世界で散々ぱら暴れ回ったヤツがなあ……」

「それで、どう言った理由で?」

「んーーーなんだか遠目で視てる限りじゃ、シェラの子供って割と……凡愚寄り?」

「な、なんだか同情してしまうわね。」(グサッ)

「(それをおまいが言うのか…)ふぅ~~~ん……こいつは行きずりってこともあるし、どうにかしてやらにゃいかんかあ?」


「わたくし、それについては反対ですわ?だってあの女、わたくしたちに隠れて旦那様の子供を設けたというじゃないのお~~~それが悔しくって、悔しくって!!」

「そうでした、そういうこともありましたね。 ねえぇ~~~団長様、いっそこの世界も灰燼と化すべきなのでは?」

「あのなあ、その事についてはもう済んだ話しだろ?だから蒸し返すんじゃねえよ、それにしても仕方ねえなあ……だったらこうしようぜ。」


オレ達の世界(“彼の地”)に―――シェラザードが来た時、あいつはあいつの気が向くままに暴れ回った。(まあ一種のストレス発散てヤツか?)

そんな豪傑気質の彼女が以前の威勢は影を潜め今では頭を抱えている毎日だと言う。 それを知ったオレは“ついで”と言う事もあり知らない仲でもないシェラザードを手助けてやろうとしたわけなのだが……



「シェラザード様、誰か来たようですが……」

「ぬぅあにい~~~?」(ギランッ☆)


「ぴえっ!?」


「あんたぁ……そうかあ……そういう事なぬかあ~~~」(ギラギラ)

「あ、あのお~お部屋間違ったみたいですぅ……それじゃっ失礼しーーー」

「シルフィ―――確保ぉぉお! 決して逃がしてはぬぅあらんぞおおぉう!!」



お互いが『エルフ』同士って言う事もあるんだろが、積もる話は延々と続いて行ったらしかった。(まあその多くは“怨み”や“辛み”である事は最早言うまい)


ところが訪問したのが間が悪かったらしい…あいつがシェラザードの部家に入った途端、その視界に入ってきたのは『まるで山脈か?』と疑わんばかりに山積みにされた書類だったという。(しかもそれを片付けるのにシェラザードの“影武者”だという『シルフィー』もいたようで)

それにこいつも『魔王』時代に書類地獄そういったものに苦しめられたことがあるらしく、一目散に逃げようとしたのだったが―――素早い対応で敢え無く取っ捕まり書類決済云々うんぬんを手伝わされたらしい―――と言うのが事の顛末なのだが……こいつのさっきの説明(『今はどこか、風に流れる雲の下』の件)―――うん、嘘は言っていない……嘘は。


しかしここからがクライマックスと言った処だ。 なにせ今のこいつ(『蒼嵐の魔王』)―――そしてこの状況……全く以て思い出すぜ!


「控えよ!うつけ共―――この『イラストリアス』を敵にしたことを後悔するがいい!」

「何をしている、剣を取れ―――ドゥーカス、ウエールズ! 術式の詠唱の準備をしろ―――アメリア、メルセデス!! 私達で『蒼嵐の魔王』を撃退させるのだ!!」


「ふふふ、他愛もない。 いくらあの人の子でさえも堕落してしまえばこんなもの…ただ母の愛に甘え、己を鍛えてこなかった報い、受けるがいい!!」


これが―――あちらの世界(“彼の地”)で『魔王ボス・キャラ』を張っていた者の実力か!こんな者を相手に即席PTを組んだものだが、これでは実質的に私一人が相手にしている様なもの…


ここに―――ここに……戦える者がいてくれたなら……


「お姉ちゃん―――今から加勢するよ!」

「力及ばずながらもラ・ゼッタも助力するぞよ!」

「わ、私も以下同文ですぅぅ~~」

「〖いと慈悲深き我らが神よ、力無き私共に護る力をお与えください  防護壁〗」


「リルフィーヤ―――に、お前達……私に手を貸してくれるのか。」

「うん!大変な時に私がただ何もせずにいるなんて、そんなのない話しだからね!」

「し、しかしのう~~あの敵、今までラ・ゼッタ達が相手したどの敵よりも手強そうだぞよ~~?」

「ど、どうやら?魔王様みたいですうぅ~~~」


「な、なんだと?!いやしかしなぜこの世界の王たる方が、これまで尽くしてきた我等王族を……」

「だ……だけど、それが本当なら―――」

「か……敵うわけがねえーーーだとしたらオレ達は……」

「ほ―――滅びの道を?」


うふふ―――どうやら役者は揃ったようね、ならば精々……

「ふふふーーー1人が4人増えただけで私に叶うと思っているのか、うつけ共……喰らうがいい  ≪アネロイド・ブレイカー≫」


「ぐううっ!?な、なんだこれは―――っ!」

「み……耳が―――鼓膜が引っ張られてるみたい……痛い!」

「そ、それに気分が悪くなってきたのだぞよ~~~」

「な、何が起こっているんですか~~~?」


「恐らく……気圧の急激な変化ね。」

「(え…)ベアトリクス!あなた―――…」

「遅くなっちゃってごめんなさい、それにしても……“『イラストリアス』がこんな処で顕現してしまうなんて。」

「あなたは知っていると言うのですか、あの者の事を。」

「……ええ、あれは私達の世界で17人いる魔王の一人、これまでにも数多くの冒険者を倒し、同時に数多く討伐されてきた『魔王』―――生半可な覚悟では倒すなんて無理よ。」


「“ウィアートル”……久しぶりね、この世界で充分生は謳歌できたかしらあ?そしてこれで私達が帯びていた指令も終わる……あなたを“活かし”て連れ帰ろうが、“殺して”連れ帰ろうがそんな条件はなかったのだから……だから―――終わりにしましょう。」

「させるかあーーー! 〖我が“陽”の魔法よ応えよ! コロナ・エクスプロージョン〗」


互いに交錯する“陽”と“暴風”、ただこれが本気同士のぶつかり合いなら互いに発動させた魔法の余剰によって城は消滅していただろう。


ただ―――そうならなかったのはひとえに……


「な、なんと言う事だ……ベアトリクスと『蒼嵐の魔王』の魔術のぶつかり合いが中間で燻っている、アレがどちらかに傾けばこの城は消滅してしまうぞ!」

「そう言う事よアルティシア……さあ、あなた達兄妹仲良く、この城諸共消滅してしまいなさい!」

「そんな事はさせない! 〖“酸”と“水”の素よ我が権能により激しく混ざれ  ハイドロ・オキシジェン・デストロイア〗」


「なに?あいつのあの魔法……おい、まずいぞ!!」

「こっ、これは?こんなはずでは……」


「あの魔法の威力を―――呑み込んでいく?いやそれにこれは……」

「私が大恩あるお師匠の手解てほどきにより最初に修得した魔法……激しい爆発・爆裂を伴うのは変わらないけど、限界まで膨れ上がった余剰エネルギーは、やがて爆縮を始め総てを呑み込む。」


「お、おのれえ~~~あと一歩のところで!こ、この場はあなた達の勝ちと言う事にしておいてあげるわ、せ、精々拾った今日の生を喜ぶことねっ!!」


こうして―――『蒼嵐の魔王』を始めとする数々の野望は、奇しくもスゥイルヴァン城玉座の間で潰えたのでした。




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