第31話-① こぼれ話し

「う゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ~~~あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛~~~!!」


「なぁーーーにをまた泣いてらっしぇるんですか?まあいつもの事ですけど……」

「ま、簡単に説明するとだな、恰好よく“悪役”をキメてみたんだが、こいつがあのバカ王子共に放った言葉が―――」

「まるで鋭利な刃を持ったブーメランの如く突き立ったのだと。」

「それも1つや2つじゃなかったものね~~」

「哀れな……」


のっけから、こいつの大号泣で始まったのだが、なぜにしてこう言う始まり方をしたのかと言うと―――そもそもはアンデッドの魔王『リッチー』ことミリアムちゃまからのお願いで指名手配した『次元の魔女』“ウィアートル”ことベアトリクスの速やかなる捕縛、もしそれが難しいようなら始末を視野に置いたクエストを受けてきたワケなのだ。

そしたらまあーーーこれがいい具合に“混沌”に染まってきてやがって、『破戒王女』ことシェラザードの息子達の叛乱騒ぎや、少し以前オレ達の世界で好き勝手し放題してくれたオレの娘―――アルティシアとの再会、おまけに“ウィアートル”(ベアトリクス)の事を友人だと言ってはばからなかったアルティシアの妹ちゃん―――リルフィーヤとの対峙。 これらの要素を感じた時オレはオレの中でミリアムちゃまから申し付けられた事こなすのは勿体ないと感じ、の中では危険だと認識していた“ウィアートル”(ベアトリクス)の固有技能ユニーク・スキル≪ニュークリア≫を有効利用してやろうとの考えの下、“ウィアートル”(ベアトリクス)をラプラスとか言うヤツ等の世界―――幻界へと放り込み、そこを“核”攻撃してみよう―――との『静御前』からの提案でそうしてきたワケなのだ。

まあ幻界はしばらく立て直せないだろう、なにしろオレ達の現実世界でそんな事をやったら現在ある文明世界は崩壊するだろうし、何百年か―――はては千年……万年単位で元通りになるかの保証もないのだ、ともかくそんな攻撃を喰らったのだからラプラスとか言うヤツ等がまたぞろ魔界にちょっかいかけてくると言う事はないはずなのである。


ところで、話しの筋が大分遠回りしてしまったが、なぜこいつ―――『蒼嵐の魔王』が大号泣しているのか……それは、親達の苦労も知らずにぬくぬくと育てられてきた坊ちゃん嬢ちゃんが調子に乗り、挙句現政権を握っている『魔王』や『スゥイルヴァン女王』を権力の座から下ろす為のクーデターを目論んでいたのだ、その事を少し以前にシェラザードから委譲ゆずり受けた『エヴァグリムの誇り』を通じて知った『蒼嵐の魔王』が、以前に結んだ友誼の名の下にバカ息子達を成敗―――したのだったが……


『そう言う事よ、おバカさんたち。』(グサッ)

『あなた達は優秀な母の下で温々と育てられた……母の優しさにただ甘え、厳しい現実を見つめようとはしなかった。』(ドスッ)

『けれどあの人一代で衰退するのは忍びなかったのでしょう。 だから待った、あの人自身が手放しで任せられる優秀な次代の者に。 そしてようやく得られた―――けれど、見返してみれば足下を掬うような凡愚ばかり。』(ドスッ・ドス・ドス)

『さぞや頭を痛めた事でしょう…胸を痛めた事でしょうね。』(グサ・グサ・グサ)

『けれどそこへ私達が現れた―――遠い過去にあの人と友誼を結んだ私が。 そこであの人は考えた、自分の意中の跡継ぎが成長しきるまで、その“繋ぎ”を私に―――と。 今やあの人は“自由”と言う名の翼を持った鳥の様なもの。 『女王』という呪縛の鎖から解き放たれたの。』

『さあ判ったのなら立ち去るべきは誰なのか……判ったんじゃないの、お・バ・カ・さ・ん・た・ち。』(グサグサ・ドスドス・ドスッ!)


「あ゛~~~こりゃ全部で13hitしてますね。」

「しかも最後の一撃はそれまでより“特大”であるとはなあ。」

「可哀想……だけど自業自得ね。」

「ああぁぁ……なんて可哀想なんでしょ、あなたのママンが優しく抱いてあげるからね。」

「そう言う“フラグ”はヤメロ、大体お前のは“抱き付く”じゃなくて“首相撲”ぢゃねえか。」


確かにこいつがシェラザードのバカ息子達に向けて放った言葉は的をついていた……的をついていた―――わけなのだが、相手に放った言葉は無意識の内に自分に跳ね返ってくる……これを『ブーメラン』と言うのだが、こいつを襲った実体を伴わない『ブーメラン』は全部で13……まあ判り易く言ってしまうと、幕引き―――というか良い落とし処を模索していた時、幻界に置き去りにしてきた“ウィアートル”(ベアトリクス)が帰還、最終的にはこいつと対峙させて敢えてわざと派手に負ける―――と言うのが大筋だったのだが……

今のこいつの体たらくを見ての様に、本人にしてみればそれどころではなかったのだ、まあつまり13もの『ブーメラン』をその身に突き立て、精神がミリの状態で立つのもやっと―――オレ達も派手めな敗北を演じる為に“うのてい”を装ってオレ達の世界へと戻って来た―――と言う訳なのだ。


「ま、よくやったよ……お前にしては、な。」

「ふえ?ふんとにぃ?(すんすんッ) ……えへへ、あなたがそう言ってくれるのだったら機嫌直すわ。」

「おぉーーーやおやおや、どこかしら不届きな“二人の世界”を醸してる泣き虫がいるような~のでぇ~すがあ?」(イラァ~)

「団長様……その愛はあまねく全団員に注ぐべきであると愚考を致します。」

「なにを眠たい事を!わたくしの夫の愛は妻であるわたくしが一身に受けるもの!! さぁさ、わたくしの抱擁をっ♡」

「それにしても可愛かったでござるなあ~~あの不遜な『エンタープライズ』とは似ても似つかわぬわ。」


まあなんにしても、ミリアムちゃまからの依頼とは言え楽しめたのは事実だ。 とは言え依頼内容にもあった“捕縛”や“始末”はしていない―――それに魔界の王女と友誼を結んだと言う事は、少なく見積もってもこちら側には戻って来る可能性は限りなくゼロに近いだろう。 ミリアムちゃまはあんなんだからオレ達のこうした悪企みを見透かしてはいるのだろうが、こちらの世界に実害がないというのなら多少は大目に見てくれるに違いはない。 まあそれも今回お目付け役を付けなかったからそこまでの事をしなかったわけなのだが……とは言えそうした事を込みでオレ達に依頼をしてきやがったのか?うむう……深読みをすればするほどあのおこばあちゃまの“掌の上”な気もしないではないが。


まあ要はオレ達は日々を面白おかしく過ごせればいいのだ、こいつ―――『蒼嵐の魔王』も今ではオレ達の世界に越してきてそれなりに上手くやっているし、その事を見直されていずれはこいつの世界に戻ってくれればそれでいいと思っている。 その道程は長く険しいだろうが、それがこいつの為でもあるのだ―――





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