第30話 玉座を占拠(しめ)る“魔王(もの)”

「多方面同時発動型魔法陣、術式構築完了―――参ります! 〖ニュークリア・スフィア〗」



       そして世界は―――“核”の炎に包まれた…



こうしてその世界は“ゼロ”からのやり直しを余儀なくさせられたのです。


      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そしてこちら―――スゥイルヴァン城内に於いても。


「なに、遠征に出ていた軍が戻ってきただと?なんだか早くないか。」

「ええ―――計画では10年に及ぶ大遠征、だからこそ準備もそれなりのはずでしたのに。」

「まさか―――敗北と言う失態を犯し、おめおめと逃げ帰ったのではなかろうなあ?」

「そんな……この魔界を代表する錚々たる顔ぶれなのですよ?なのに―――」


この世界(魔界)を度々荒らす賊軍を征伐させるために―――と大々的に組まれた遠征軍、この世界(魔界)の王が宣伝するのには10年と言う短くない期間を要するものだと聞いていたのに、それが1年も経たない内に引き上げてきたと言うのです。 その事を王族の一部の者は『一敗地にまみれたから敵前逃亡をしてきた』だのと根も葉もない事を口にするばかり、そればかりか……


「それにしても魔王様は何を考えておいでなのだ?遠征をするというのも“タダ”ではないのだぞ。」

「ここは一つ真意を確かめてみては?もしかすると魔王様も日に日に増大する我が王国の力を危惧しているのかも。」

「なるほどなぁ……そう言う事なら理屈は通る、それに母上もここ最近ではオレ達の諫言にも耳を傾けてくれない……」

「でしたらこれを機に―――」


これからの魔界をよりよくする為―――とは、よく出来た話し。 けれども今まで女王の名を笠に着て苦労知らずに生きてきた者達は、自分達だからこそ……と錯覚するのです。

そしてついに行動に移す―――今回の一件の失策で魔王と女王に退位を迫るも……


「何をしているお前達、この物々しさは何をしようとしているのだ。」

「親衛隊長殿そこを退いて頂こう、我等は女王陛下に意見せねばならんのだ。」

「(……)なぜ、陛下の子息であるあなた方がそれをしなければならない。」

「子息さ―――何しろ我等は一番にこの国を愛する者なのだからな。」

「国を愛するからと……そんな詭弁きべんまかり通ると思うな!あなた達は踊らされているのだ、それがなぜ判らない!」

「時間の無駄ですわ、そこをお退きなさいガラドリエル!」

「変わられたな……アメリア様―――正気の沙汰とは思えん。」


行く手を阻んだのは女王直属の親衛隊の長―――しかし彼女を押し切って女王に面会をするなど前例のない話し……なのでしたが、いくら親衛隊長と言えども主君の子供たちには手が出せないでいたか、如何いかんせん多勢に無勢と言う事もあり押し切られてしまったのでしたが…


「何事だこの騒ぎは。」

「アルティシア―――実は子息たちが…」

何と言うバカな事を―――早まった事を、いま母さまや魔王様を糾弾したところで喜ぶのはラプラスや“白豚”共だと言う事がなぜ判らない。 そうした事を母さまが、私達が幼い頃から何度となく言い聞かせてきたというのに!!

私は心底情けなかった……母(シェラザード)父(グレヴィール)の正統な血を引く兄や姉達が我等王族と言う名の蜜にたかって来た醜く白く肥え太った豚の様な連中の言い成りに成り下がるなんて。

だがまだ間に合う―――そう思った私は彼らに続くようにして玉座の間に駆け込んだのだが。


        * * * * * * * * * * *


「ん…っーーーん・ん・ん~~~なんだあ?騒がしいなあ……おちおち寝てられもしやしないぜ。」


「な―――何者だ貴様は!」

「おぉんやあ~?そう言うあんたはどちら様。」

「オレはこの国の第二王子であるドゥーカスと言う者だ!それよりも貴様―――その椅子が誰の者だか判っているのか!」

「うるっせえなあ…そんな大声で怒鳴らなくたって聞こえていますって。 それよりも?『この椅子が誰の者』?? そんなん決まってるじゃないか、この国の王様の物なんだろぉう?」

「それを判っていて……なんと言う不遜な。」

「不遜―――ねえぇ~~~ま、そう言いたい気持ちはようく判るよ。 だけどな、事実そうなんだから仕方ないんじゃない?」

「どう言う事ですの?『事実そうなんだから』―――とは…」


私は……目を疑うしかなかった。 それというのも何故かが私の母でありこの国の女王陛下が座る『玉座』に収まっていたのだから。

それに…なんだと?『事実そう言う事なんだから』??ま……まさ―――か?

「お前が……王に収まったとでも言いたいのか?『人中の魔王』!!」


「なに?今なんだと言ったのだアルティシア!まさかこの男がここ最近世間を騒がせておる―――」

「ああ……それにあなた達が私の事を散々罵倒する、私の父でもある。」

「何ですって?!まさかお前達父娘揃って我が王国を―――」


「よぉうアルティシア―――景気良さそうじゃないか、オレもお前のおやとして安心したぜぇ…」(ニタリ)


「ふざけないでくれっ!こんな時に……っ!!大体お前の望みとはなんなんだ?この私にお前達のプライドをズタズタにされた―――その報復の為か?」

「(……)そうだなあーーーそう言う事も、なくはない……そう言っておこうか。 ただなあーーーオ…」

「何だとアルティシア!お前この男にそんな事を??ではオレの国はこいつの腹いせ紛いによっ…」


「うるせえよーーーガキが…今オレが喋ってる最中だろうが。 全くあいつもガキの育て方を誤ったもんだよなあ、そこんところは同情してやらなくもないが…」


私の父―――『人中の魔王』のひと睨みによって腰砕けになるドゥーカス、所詮は宮廷の中で温々と育てられてきた者と、幾つもの死線を潜り抜けてきた古強者ふるつわものの差とでも言うべきか。

ただ―――この私でさえ勘違いをしていた、『人中の魔王』が王国の玉座を占拠しめている理由……


「あいつはさあーーー疲れたんだと、お前ら馬鹿子息の面倒を見るのも、王族として王国の民の幸福を思うのも、この世界の王―――魔王のお手伝いをするのもな。 だがあいつの跡取り娘はまだ幼い、要は経験が圧倒的に足らないって訳だ、だからその繋ぎの為にもとたまたま別世界から来たって言うオレに白羽の矢を立ててくれやがってなあ……。 まあ?オレもあいつの事は嫌いじゃないし何より知らない仲じゃない、だからと言って長く居つくわけにも行かない……だから期限を切ったのさ。」


私は……この時ほど身震いが止まらなかった、彼ら本来の目的は“彼の地”より逃れるようにわたって来た“ウィアートル”を捕縛―――した後に連れ帰ると言う事だったはずなのに、魔界には彼らの監視の目が無いのをいい事にやりたい放題―――その延長線にまさか王国も入っていたとは。


ただ―――…


「あらみんな集まっていたの?早かったわね。」

「おうーーーまあ予定よりはほんのちょっと早いけどな、それも想定の内……だろ?」


「ええ、そうね。」


『蒼嵐の魔王』!なぜ彼女が……いやそれも当然か、彼女は『人中の魔王』の仲間とは行動を共にせず、単独でこの国の中を動いていた。 それが“今”に通ずると言うのなら判らなくもない、だけど―――なんだ……まだ何かイヤな予感がする。


「それにしても、シェラザードも大変よねぇ。 本来なら自分の跡を継いで貰わなくてはならない者達が……こんな凡愚の集まりだった―――なぁんて。」


「(はっ!)い、いけない! アメリア!ドゥーカス!ウエールズ!メルセデス!あの目を見ては!!」


「う、ふ、ふ……それ、もう手遅れ―――割としっかりと見ちゃったものねえ……私の顔を。」


「くぅぅっ……≪全種属対応魅了スピーシーズ・チャーム≫!な……なにをするつもりなんだ!」


「何をする―――って言い草よねぇ、だけどこの際だからハッキリとしておきましょうか。」


        * * * * * * * * * * *


私が放った術式の展開が終わり、私は魔界へと戻ってきていた。 本来ならば私は、本来いた世界から差し向けられた者により捕縛され、連れ帰られる運命にあったのに、私に差し向けられた者と言うのが悪名高い『悪党』の連中だったのだ―――そのトップの意向により私は捕縛はされたけれども彼らの目的と言うのもあり、今回は幻界と言う別世界で私の≪“陽”の魔法≫を使ったのだ。

ただ―――それだけで事は終わらなかった……と言うのは『よくある話し』なのであって、それというのも私の≪“陽”の魔法≫の威力とラプラスと言う者への実被害を実証検分する為に一緒にいた【宵闇の魔女】と言う人が―――…


「(ウソよ、ね?ウソよ……)」

「あ……あの~~~大丈夫でしょうか?」

「ねえ……ちょっと、あなた?は一体何なの??」

「アレが一応私の≪“陽”の魔法≫なんですけれど……」


た―――たった数発でその世界にあった文明が……崩壊?? 姉弟子……いや魔王様!あなた一体何をしてくれたんです?? しかし…幸いと言っていいのは、この術の威力は私だけしか知らない、姉弟子もどの程度知っているかは疑問なのですが、まあ表沙汰にはしない方向がいいでしょうね。

それよりも……気にすべきは、私達が予定していた期間よりも早く戻ってきた事。 これが悪い方向性で伝わっていなければいいのですが……それも私だけの都合の好い解釈なのでしょうけれどね。

最近聞く処によると『長期政権はあまりよろしくない』―――との考え方から“下ろし”の風潮が高まっているみたいですけれど、それも言ってしまえば一部の利権を求めるだけの富裕層がシェラさんの子息たちをそそのかしているのだとか、全くああいうのはラプラスやゴキと同じ様に退治しても退治しても後から湧いて出てくるというか―――……まあそう言う処を考えてみれば、彼女――ベアトリクスのしてくれた事によりラプラスの方は心配しなくてもいいのでしょうか?


『おやお戻りになられましたか総司令官殿。』

「ああ―――ベサリウス……ただいまとだけ言っておくわ。」

『なにかありましたんで?浮かない顔ですが、それより今後のラプラスの連中―――』

「ああ、彼らの事は今後1000年は心配しなくてもいいでしょうね。」

『は?それはどう言った意味で…』

「今言った以上の意味なんてないわ、それより当面は内側に目を光らさなくては。」

『(……)その事なんですが、どうもあまり良くない話しが既に。』

「私達がいなくなっている間に、クーデターでも?」

『それがどうも大真面目らしくてねぇ……あ、公主様。』

「大変よササラ、どうやらバカ王子たちが魔王様とシェラを下ろす為に直談判の抗議をしようとしているってガラドリエルから…」

「全くあのバカ達は……自分達が操られているって事がなぜ判らないのか……。」

「それは一向に構わんのだが、どうやらアルティシアが止めに入ろうとしているそうだ。」

「あの子……まあ、あの兄妹の中では良識派と言ってもいいかもしれないけれど、4vs2ではねえ…」

一つの事案が消えてしまえばまた一つの事案が浮かび上がる、この度の遠征ではラプラス達を抑える為のものだっただけで、なにも一つの世界の文明を崩壊させようと言うものではなかった……なのに、私の姉弟子でもある魔王様のご意向により、そうした意向を持った者の到来で幻界は壊滅にまで追い込まれたのだ…これによってまたラプラス共がその野望の鎌首をもたげてくるのは1000年の先―――と、勝手に私は予想を立てたのだけれど、“こっち”が収まれば今度は“あっち”で問題の芽が出てくる始末、どうしてこの世の中上手く行かないものでしょうか―――と、していたところに……私達が城の玉座の間に辿り着いた時、まさにそこは混沌に化していたのでした。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「私……あの人に頼まれたの―――この国を、どうか頼むと……」






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