第29話 “審判”は下り、やがて世界が破滅した時、そこから始められる「宿命」「運命」と言う名の悪戯

幼き『皇帝』の身辺を護る『傾奇者』―――その者の身を貫くのは『覇王ウオー・ロード』からの刺突でありました。 そしてそれによって『傾奇者』は絶命―――その事を皮切りに『覇王ウオー・ロード』の兇刃は次々と『皇帝』の官吏にも及んだのです。 それも、“誰”が“誰”であるか、判らないくらいに……


そして、奇しくも残されたのは、幼き『皇帝』―――ただ一人???


「ちくしょうっ……ちくしょおおうっ~!よくも―――よくも僕の父上をおっ!」

「やはりそなたら、父子おやこであったか。」

「な、なに?気付いていたのか……?一体いつから……」

「なるほど、今よく見てみれば鼻から口元にかけては面影が見える。 それに、一介の無骨者と言えど国権を握る主に対しての忠義が過ぎた処があった。」

「だからと言って……だからと言って―――父上を殺された仇、ここで晴らす!!」

「止めておけ―――」

「うるさいっ!黙れええ!!」


『傾奇者』こそ、幼き『皇帝』の父だった。 そこはなぜ―――?とも言いたいところだったのですが、宮中における“よし”“なし”事など平民には判るはずもない事。

だとてこれだけは判る……“おや”を殺された“子”は、“おや”の仇を討とうと、おやである者がたずさえていた短刀をその骸より拾い上げ、仇に向かって一直線―――


「あっ?くっ……くそうっ!」

「早まるな―――殺してはおらぬ。」

「(えっ?)な……なんだと??」

「殺して等おらぬ。 この者には死活点を突き仮死状態にしたまでの事、それがしいささかの考えがあるのでな。」


まだ、武術・武芸の手解てほどきもされていない者の突撃などかわすのもそう苦ではない―――と言った処か、しかしその事よりも耳を疑ったのが幼き『皇帝』の父である者は殺されてはいないとの話だったのです。 しかし―――またどうして?そのカラクリとなるものが“死活点”…身体のある一部分を突けば“死”なすも“活”かすも思いのままの部位があるのだと言う。

つまり『覇王ウオー・ロード』もその事を心得ており、のために使用したというのです。 ではそのとは……


        * * * * * * * * * * *


覇王ウオー・ロード』より文字通り“活”を入れられた者は立ち待ちの内に息を吹き返し……

「(む…)こ―――ここは…?!」

「父上ぇ~!」

ぼん?!いや……陛下―――お、俺は死んだのではなかったのか。」

「ふっ、斯様な幼子を遺して死ぬヤツがおるか。」

「『覇王ウオー・ロード』殿……ひょっとしてお主―――」

それがしが負っていた任は『この世界に君臨する者を始末せよ』―――との仰せであった、そしてその任はここにこうして果たされておる。」

「しかし―――それでは……」

それがしは、『この世界に君臨する者を』としか聞いていない、してや『皇帝』などとは一言もな。 それに…戦場をこのように仕立て上げたのも判別しにくくする為、のう……『傾奇者』殿、『皇帝』やそなたはここで死んだのだ―――ならば別の地にて新たに活きるのも、またよろしかろう。」



―――こうして、『皇帝』者と『傾奇者』者は無事落ち延びました。 それに彼らは生命を救ってくれたせめてものお礼にと、今後一切魔界に侵攻するのを止めることを約束させたのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方―――魔界では…


「いい加減にしないかお前達!この国難の一大事に何を言い争っている!!」

「なんだとお~?腹違いのクセに何を言ってる。 まあ?アルベルトの兄貴が不慮の事故(浣腸の件)で王位継承をリタイアしてくれたのにはオレ達にも少しばかりは運が向いてきたようだけどなあ?」

「(くっっ…)ウエールズ―――貴っ様ぁあ~!」

「けれど、ウエールズの言うとおりだわ? 私達はお母様とお父様との間に生まれた“正統”な王家の血を引き継ぐ者―――他の血が混ざったお前が口を出すなど不届き千万!」

「何を言っているアメリア!!それを言ったらリルフィーヤも同じではないか、それにリルフィーヤこそは母さまであるシェラザードが決めた跡取りなのだぞ!それをどうして……」


いま私は―――不毛な争いを他の兄姉達と繰り広げている。 不毛な争い……そう、私達の母でありまたこの国の女王陛下であるシェラザードの跡を誰が継ぐのかと言う事―――全くもって馬鹿馬鹿しかった、母さまはこうした事態を避ける為にリルフィーヤこそが自分の跡目だと宣言しているのに……正直、情けなかった、恥ずかしかった、この私にも半分とは言え彼らと同じ血が流れているのだ、それにまだ若いリルフィーヤにしてみれば彼らや私の様な海千山千を相手に出来ようはずもない。 だからこそ私がリルフィーヤに代わって矢面に立ってやらなければ……


「あら、どうしたのあなた、元気ないわねえ。」


今のタイミングであまり会いたくない人物に遭遇してしまった。 『蒼嵐の魔王』―――私の父である『人中の魔王』の側に寄り添い、彼の為になにもかもを尽くす存在にまで成り果ててしまった者の、成れの、果て。 そんな者に気遣われてしまうなんて―――私も焼きが回って来たと言うものか。

「何でもない―――」

「何でもない―――ってねえ……何かあった様な顔にしか見えないわよ。」

「放っておいてくれないか、この事はあなた達には関係のない話しだ。」

「ふぅん……ま、あなたがそう言うのならいいけどさ。」

同情をしてくれていると言うのか―――屈辱だ……私がもう少し賢ければ彼らと渡り合えると言うのに、だが私はそう賢い方ではない。 その事が判っているからこそ武の腕を磨いたものだ、しかし普通に腕を磨いているだけでは……そう、私達の兄姉達全員を向うに回せるだけの武の腕が無ければ―――そう思い立ち、私は育ての親でもあるエニグマ母さまの力を借り、私の父の世界へと渡った。 その後の事は斯くの如しと言うわけだが、私が当初思っていたよりも問題は複雑化をしている、当初は兄姉達を大人しくさせる―――という目的の下だったのだが、まさかここに“彼の地”の要素が乱入して来るとは思ってもみなかった。


いや……本当はこうなるのではないのかと思わなければならなかったのだ。 何より彼らは“悪”の極致、そんな連中を焚き付けて魔界へと戻って来てしまったのだ。 ただ“返礼しかえし”をするというのなら私個人にと思っていたのだが、その考えは相当甘かったようだ。 “悪”としての彼らは過去に受けた屈辱の名の下、私個人だけに拘わらず私に関与する“総て”を巻き込み、そして破滅に導いてゆくのだろう。


それに気になっているのは『蒼嵐の魔王』が単独で動いている事にある。 “彼の地”でもトラブルメイカーとして名を馳せた彼女が……何事もなければいいのだが。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方その頃、ラプラスの世界である『幻界』を再び制圧する為に動いていた魔界の正規軍内にては。


「(ふむ…)あなたが姉弟子のお弟子さんだと?」

「はい、でもこの計画の事は私も先程聞かされたばかりで……」

「ねえーーーベサリウス、どう思う?」

『そうですなあ~ま、一応話しの筋としては通ってる、それにあの御方の事だ何か考えあっての事なんでしょうな。』

「しかし―――“陽”の魔法なあ…あまり耳に馴染まぬ語句ではあるが。」

「まあーなんにせよ、ヤツらにゃこの際また変な気を起こさない様にするまで完膚なきまでに叩いておかない事にはな。」


『……。』

「どうしたんだい、総参謀殿。 えらく浮かない顔をするもんじゃないか。」

『そりゃあねギルガメシュ、そうなりたくもなるもんですよ。』

「うん?」

『この前線の地にて互いに緊張の糸を張りつめさせて数か月……もうそろそろ“プツリ”と切れてもいい頃合いだ、なのに―――…』

「そう、向うからはここ数日動きらしい動きは見られません。」

「ササラ―――何かあるとでも?」

「原因が何であるか……までは特定には至りませんが、もしかすると―――或いは……」


この頃になるとまた頻発してきたラプラスの襲撃の件―――その事が目に余ると思い立った魔王により今回の征伐軍が組織されたものでしたが、その軍内にはなぜかベアトリクスの姿が。

しかし元をただして見るとどうやらベアトリクスはなにがしかの意思により連れてこられたのだとか、しかもその時に対応に当たったのが……


       * * * * * * * * * * *


「ちょいとお邪魔しますよーーー」


「(?!)誰ですか―――あなたは。」


「ええ~とですねえ、こちらに―――【黒キ魔女】て人はいません?」

「(…)その、【黒キ魔女】とは私の昔の通り名ですが。」

「ああーーーじゃあ、あんたか、それじゃ言伝だ『妹弟子へ私の下で鍛えた弟子を使ってやってほしい』とさ、じゃあなあ。」

「お待ちなさい!何ですって?我が姉弟子が自分の……弟子?どういう事なのです?」

「知らねえよ、そんな事。 オレはただ言い付かった事をこなしただけだぜ?」

「なるほど……冒険者だと?それにしては変ですね。」

「どこがだい?」

「普通の冒険者なら別の世界に転移してこれないハズ―――」


「へへへへ…おいおい―――そんな怖い顔すんなって、相変わらずだなあ……お嬢ちゃあん?「ムヒムヒ」言ってた頃が妙に懐かしいぜぇ……」

「あなた―――何者!?」

「詳しく自己紹介してやりたい処だが―――時間だあ…約束通り“手土産”は置いてくぜぇ、まあ精々役立てな。」

そう言って謎な彼はベアトリクスを置いて去ったワケなのですが…何より不思議なのはその魔法は彼女しか扱う事が手出来ないもの、それを―――

「判らなかった?それを―――あなたの…」

「はい、お師匠により理解する事が出来ましたが、なぜ私がこんな処に連れてこられたのかは……」

あ゛ーーーーーそう言う事ですか、姉弟子って妙に“知りたがり”なのですよねえ。 その極致が『那咤』だと思っていましたが、また“未知”のモノに手ェ出して何をしようと……

まあ“前線”に持って来た時点で大凡おおよその事は察知できなくもありませんけれど……

「それで?あなたのお師匠からは何と言われてきたの。」

「ええっと…『多方面同時発動型魔法陣』をあなたから修得するようにと。」

「(ふむ)わかりました、それは教えてあげますが……」

「ああ、あとそれと私が“陽”の魔法を行使する時には全員を退避させるようにとも。」


「(んっ?)“陽”の魔法……」

「はい、何でもそれは私の固有技能ユニークスキルに関係しているらしくて。」

「ちなみに、あなたの固有技能ユニークスキルって?」

「≪核融合ニュークリア≫になりますけど……」

なんっ―――なのでしょうか?私の生物としての本能が“危険”と警鐘いってるんですけど~~? 全くぅ……姉弟子と言いクソロリばばぁ《お師匠様》と言い、にゃんでいつもこう!!

「ササラ?どうしたの顔色悪いわよ。」

「全軍撤退を!さもないと巻き添えを喰らいますよ!!」

『何なんですか?一体……それに全軍を撤退させると言ってもそう一朝一夕には。』

「今回姉弟子から送り込まれてきたのはまさしくの『援軍』―――ですが、姉弟子は“この機会”にと徹底を選択したみたいです。」

『(徹底…)よもや殲滅を?』

「そいつぁいくらなんでも無茶だろ、だってあの『邪神アンゴルモア』を叩いたとしても飽くことなく奴らは……」

「ええそうです、ですからこの世界幻界が無くなってしまえばそんな事など出来ようはずもない……そう言う事です、あの方はついにそこまで思い至った。 今までの私達が“ぬるい”とまでは言わないでしょうが、決定的なモノまではなかった……しかし姉弟子の前に現れた彼女の事を知るうちにそう言う思いに至ってしまったというのも判らなくはありません。 なによりあの方は未知の事を知りたいと言う事に関しては貪欲であり、また運用の方法もたがえてはいません……それに―――これで説明はつきました、恐らくラプラス側の反応が乏しいのはヤツラの本拠に何かしらがあったのでは??」


【宵闇の魔女】ササラの予測は就中なかんずく当たっていました。 事実前線の地では後方からの物資の補給は滞りがちであったし、なにより都が壊滅的なダメージを負い『皇帝』の行方が知れなくなったとの報が前線に届いたのも事象が起こってから2週間経ってからなのですから。 とは言え、動揺を見せてはならない―――動揺を見せてしまっては魔界軍が一気になだれ込んでくる、だからこそ徐々に兵を退かせていたのでしたが…





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