第25話 「平和」とは、「次の戦争」の為の準備期間

「おぉ~~~い、ヤホーーーシェラザードいるぅ~?私が遊びに来たよお~?」

現在私は旧友を温め直す為、旧友のいる場所に面会を求めていたのでした。(『遊びに来たよ』と言うのは一種の“言葉の綾”です、信じて下さい。)

しかしその場所は既に、私が予測していたより左斜め下45°距離にして10kmに換算したと言っていい、まさに『有り得べからざる』状況となっていたのです。


なぜなら―――…


「シェラザード様、誰か来たようですが……」

「ぬぅあにい~~~?」(ギランッ☆)


「ぴえっ!?」


「あんたぁ……そうかあ……そういう事なぬかあ~~~」(ギラギラ)

「あ、あのお部屋間違ったみたいですぅ……それじゃっ失礼しーーー」

「シルフィ―――確保ぉぉお! 決して逃がしてはぬぅあらんぞおおぉう!!」

何かの作業に集中している旧友―――シェラザードと、彼女の“影武者”である『シルフィ』と言う人、それにその2人の机上には山積みされた書類……

あれ―――?この光景どこか見たことある……て、言うより!私がまだ『魔王』だった時代に散々苦しめられた『書類地獄』!!

私は、誰よりその恐ろしさを知っていた事もあり、挨拶もそこそこにその場所から逃走を図ろうとしたのですが―――

「すみませんね……」

「ぶわあああ!何で私がこんな目にい~?」(←あっさり捕まってしまった)


「は~~~これでようやく何とかなりそうだわあーーーこんな大変な時に、よく来てくれたね。 私は嬉しいよ…」(ウフフ)

「ね、ねえ……シェラザード?悪い冗談よしましょう?と言うよりその笑顔ひょうじょうと背後に見える微かな“闇”の波動が微妙にマッチングしてないんですけど…」

「(フッ)私達、産まれた場所産まれた時は違えども、タヒぬときゃ一緒―――って誓い合った仲でしょ。」

「そんな約束した覚えなんてないんですけどぉお!て言うより何?あなたがサボって溜まらした仕事、私にも押し付けようっての??」

「まあ半分そうなんだけど―――心外ねえ、この仕事言ったら私(スゥイルヴァン女王として)の仕事じゃないわよ?」

「えっ?どゆこと??」

「ええっと実はですね……この世界の王であるお人が、ここ最近ご自分の弟子を取ったみたいで―――」

「で、その弟子ちゃんの育成に精力を傾ける一方で、こうした内政面での皺寄せが私らまで来てるってワケよ。」

「は~~~『熾緋の君』カルブンクリスさんがねえ……て言うより、私完全なとばっちりじゃないの!!」

「つべこべ言うんじゃないよ、もう知らない関係じゃないんだし…まあこんな時期に訪ねてきたあんたが悪いんだよ、それよりなぁに?[まさかおんどれぇ…うちら見棄てて逃げやせんよ………………のう?](エルフ語)」

旧友の優秀な部下の人によって無様に捕まってしまい、今では『社蓄』にも劣らぬ酷使ぶりで働かされている始末…………なぜえ~?どお~~してえ?こうなったあああ! 私はただ、懐かしさ余って旧友と遊ぶためだけに訪れたというのに、城の中では胸糞悪い光景見せつけられるわ、旧友からはまさかの書類地獄を押し付けられるわあぁぁ~~…こんな、こんなはずじゃなかったのにいい!


しかし、1人よりかは2人、2人よりかは3人揃って文殊のなんとやら、次第に山のようにあった書類はやがて……

「お……終わったはぁ~~~~」

「思ったより早く終わりましたね。 やはり一つの世界で『魔王』をやられていた人は手際が良いと言うか……」

「シルフィ、それ褒め言葉になってなぁーい、けど助かったわよ。」


「それにしても、このーーー飲む薬剤?? 凄い効き目ね。」

「ああそれ、魔王様と例の『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』が共同で開発した『精力活性剤』てヤツでね、どんなにマグロ化したヤツでもこれ1本呑み干したら“ギンギン”“バッキンバッキン”になるって代物よ。」

「へえーーーこんな小瓶にそんな効果が……」

「それにさ、もう会ったかもしれないけど、私の末娘リルフィーヤが産まれたのもね、まあーーーなんて言いますか、こう言う事は余り言いたくはなかったんだけどさ、最近になって疲れが残り易くって……若い頃は一晩寝たら“ギンギン”なってたものをさあ……で、このお薬服用した勢いでそのままグレヴィールのヤツと“合体ドッキング”しちゃったってワケなのよぉ~♡」


「……ねえ、その事あの子に言ってないわよ、ね?」

「教育上言ってないです……と言うよりバレでもしたら、それはもう大変な騒ぎに……」

こう言うーーーちょっと“ヤンチャ”な処は、会ったあの時と少しも違っていないと言うか……この人もまあ、大人しくしてさえいればーーーー

「ねえぇ~え?今ちょっと私に対しての不当な評価を感じてしまつたんただけど?」(アラヤダウフフ)

「あらあら、それはきっと気の所為よ。」(アラヤダウフフ)


このお二人の表面上おもてむきトークのなんと凄まじい事か……と言うよりあのシェラザード様、その愛想笑い微妙に不気味なので止めておいた方がいいですよ。


       * * * * * *  * * * *


しかし話題は少しずつ、この国の王室の『ある問題』にシフトしていく事となり―――

「それよりさ、あなたの末娘であるリルフィーヤって子、あなたの跡を継ぐだけあって中々大した器だと思うんだけど……なに?あのアルベルトって言うヤツ。」

「あ~~~あの子かあ……幼い頃はあんなんじゃなかったんだけどねぇ。 ちょっと私が目を離した隙に悪い連中からそそのかされたみたいでさ、まあ言ったらあの子も可哀想な被害者の一人なんだよ。」

「人知れぬ処で苦労をしているのね―――まあそいつに関しては私から“警告”の意味でしつけちゃったんだけど良かったのかしら?」

「うんーーーまあ一度痛い目を見た方があの子自身の為にもなるからね。 そこへ行くと私とかは“子供”って言う事もあるからどうしても厳しく出来ない部分もあるわけよ。 それよりどう“躾”したっての?」

「ああ―――『秘技・三年地獄』(ただの浣腸DEATH)て言う…」

「おい、ちょっと待て、さっきから臭う臭うと思ってたのはその所為なぬか??」

「まっさかあ~~~…………って、うわ臭っさ!!」

「(何やっちゃってるんですかもう)こちらへ来て消毒してください、あと消臭も。」

「なんだか悪いわね、シルフィさん。」

「それより、何の目的でこっちまできてんの?」


そこで、私は話した―――私達に課せられた本来の目的を。 しかしそれは、所詮ではない事をシェラザードは的確に捉え…

「ふぅん…本来の目的である“ウィアートル”―――ベアトリクス捕縛の一歩手前まで詰め寄りながら敢えて逃がした泳がせていると。 けれど、どうして……?」

「私の彼―――『人中の魔王』の配下の一人である『静御前』が言うのには、『この際病巣はそのもとから断ち切るのが最善策』だと…」

「(『病巣』の……『もと』)それって、私達のバカ息子達の事?」

「だけじゃないわ、それというのも、もう既に会敵したって話しよ―――そう、『ラプラス』って言うのと。」

「(……ちっ)またあいつらか、性懲りもなく……」

「これは、あなただからこそ伝えておきたいと思うの、この私達がこの世界にいる限りはそんな心配はしなくてもいい…なにしろ、ここの処私達の世界では「平和」になってしまって退屈していた嫌いもあるし、ね。」


「(……ん?)ちょっと待って―――確かあんた、私があっち“彼の地”に行った時には、『争いのない平和な世の中』を主張していたじゃない!」

「ええ……そうよ、シェラザード。 確かに私はそう言っていた―――だけど、もう、私の中の解釈は違ってしまったの。 そう―――この『平和』こそは……」


そう―――彼女はもう、明らかに私が知っている彼女とは違っていた……あんなにも温厚で、誰よりも争う事を嫌っていた彼女が、その真理に辿り着いてしまっているなんて。

それに、『私の所へ遊びに来た』と言うのも表面上の“建前”でしかないと気付かされた。 そう彼女は、私に―――そして魔王様に事前通告をしにきたのだ。

それが『肩代わり』……私が“親”となってしまった所為もあり、『王国の身中の蟲』と化してしまった息子や娘たちに手を出せないでいる一方、また密かにして静かに侵攻を開始してきたラプラスへの対処を一手に引き受けてくれると言うのだ。


そこは嬉しかった―――嬉しかったが……


お互いに地獄を見るような事はないでしょう―――そう、“生き”た地獄を……私達が『リッチー』から下された指令に従わず、“捕縛対象”を敢えて取り逃がした泳がせたのはその為……。

シェラザード、あなたに問いましょう―――ラプラスを今後とものさばらせておくと?」

「その件に関しては、『魔王軍総参謀』ベサリウスと『宵闇の魔女』ササラに一任してあるわ。」

「そう……だったらその2人に命じ、全軍撤退させておいて頂戴。」

「でっ―――ですがそれは魔王様の権、いくらシェラザード様と言えども……」

「(……)判ったわ、その事については私から魔王様へ―――」

「いえ、それも私がするわ……この際だからあの人とも会っておきたいの。」

「そう…判ったわ。 それよりどうするつもりなの。」

「簡単な事よ―――あの世界『幻界』は、ベアトリクス一人によって完全な荒廃した世界と化すからよ。」

「どう言う事です?たった一人が一つの世界を相手に、そんな事が出来るものだと―――」

「出来るわ、確実に……けれど、まあーーー例のモノを発動させる前に、私達は私達で存分に愉しませてもらうけれど……ね。」


私は、彼女の……彼女“達”の計画を聞いて戦慄した。 確かにたった一人で一つの世界を相手にさせるだなんて、そんなの私の≪神意アルカナム≫でさえ難しい事なのに、だけど“次”に彼女からの説明を聞いて、納得をさせられた反面―――なぜ自分達が負っていた本来敢えて捕縛対象の目的を遂行せずにいたを取り逃がしたのか、判った気がした。


それは、その権能が示す本来の意味を正しく理解していた人が、いたから……


     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて―――今更ではないのですが、“ウィアートル”の権能……≪核融合ニュークリア≫について、正しく理解出来ている者は、この私以外にいますでしょうか?」

「その権能―――って、やっぱ“アレ”だよなあ?」

「たった一発でも百万都市の住人と建造物をことごとくに破壊した―――としかわたくしは知りませんが?」

「ええ、それで半分正解。 しかしその半分のこたえでも私達の世界(現実世界)の各国が我先にと製造した経緯はあるのです。 けれど実際の処は違います…」

「どう言う処が違うと言うの?百万都市を一瞬で壊滅させるだけでも脅威だと思うんだけれど……」


そう、≪核融合ニュークリア≫を利用した兵器の恐ろしさは、使用されたの実損害に目が行きがちとなるのだけれど、『静御前』からの次の一言に、私は二の句を告げられないでいたのだ。





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