第24話 確執―――真の敵は身内にアリ

「私……が―――……の―――ううん、でもどことなく判る気がする。 私もね、私の母様から言って聞かされた事があるもの。 『その最初は憎くて仕方なかったけれども、付き合っていく内になくてはならない“半身”の様な存在だったことに気が付いた』ってね。」

「そうだったの……」

私は―――不意に離れようとした最近仲良くなった人が、そのままにしておいたらもう二度と会う事が出来ないと思ってしまった。 だから彼女の後を追って駆け付けた時、私のお姉ちゃんの知り合いである『人中の魔王』の仲間と思わしき人達によって身動みじろぎさせられないようになっていた彼女を救う為、その人達とわたりあったものでしたが―――どうにか私の主張は受け入られたみたいで、ベアトリクスの身柄は私が保護する事になったのです。

それにしてもベアトリクス自身からの告白には正直驚いた、彼女達(『静御前』達)の事情を知らない一方でベアトリクスの事情もそこまで知らなかった…知ろうとしなかった私にとっては、ベアトリクスが指名手配されるのも判らなくもなかったけれど、ベアトリクスの事情を知ってしまった今となっては何としても身の安全は確保してあげないと……

「ねえ……ベアトリクス、これからお城に行かない?」

「お城―――?」

「うん、こうなったらあなたの身柄をが保護してあげる為だよ。」

「そ、それは嬉しいけれど……ってどう言う事なの?」

「ベアトリクスの身の上を聞いてただけじゃ不公平だからね、私の本名はリルフィーヤ、この国スゥイルヴァン国王の次期国王候補……だよ。」

「(……)えっ?!リルフィって王族だったの??!ああぁ~~~っ、だからかあ~~~ちょっと私達平民の感覚と違うなあって思ったのは。」

「ええ~~~私そんなに世間ズレしてる?今まではそんな感じすらしたことなかったのになあーーー」

「それって……『王太子』って事がバレバレだったんじゃない?それに平民にしてみたら王族の方々に逆らいでもしたら……」

「(うわぁ~…気を付けよう)ありがとう―――忠告、胸に刻み込ませてもらうわね。」

こうして私は、友人であるベアトリクスの身の安全を求める為、スゥイルヴァン城に行くことを決断したのでした。


         * * * * * * * * * * *


一方その頃―――


「お待たせを致しました―――団長様。」

「あなたぁ~~♡ 愛し愛しのわたくしがきたからには、もぉーーーう旦那様を愛で飢えさせは致しませんわあ~~~?♡♡」

「それより―――そちらでも何用かあったみたいだな、事情なりとて話してもらおうか。」

「まあ―――今更言う事でもないんだろうが、この世界は一応の世界だ……って事だ。」

……そなたの娘を僭称せんしょうしていた者の―――」

「ほぉおお~?なにやら因縁めいた処だとは思っていましたが―――これは中々楽しめそうですわぁぁ。」

「して―――それだけではないのでしょう?」

「その様子じゃお前らも会ったかも知れんが……一時期オレ達の世界“彼の地”で暴れ回った『破戒女王』シェラザードの跡取り娘―――リルフィーヤ…」

「ああ―――今少しで捕縛対象であった“ウィアートル”……ベアトリクスを自分の友人だとしていた―――」

「ほぉう、そいつは本当か。 オレ達が視た限りじゃ親しくはしていたが、そこまでとは思っていなかったぜ。」

「(フッ…)私―――を見て、滑稽で滑稽で吹き出しそうになるのを堪えるのに精一杯でした!だってそうでしょう?この世界魔界でならいざ知らず、私達の世界“彼の地”での所業を何一つ知らない小娘が、私達3人を前に啖呵を切ってみせたその度胸!! あああ~~~……堪らない―――その鋼の精神いつまで保つ事が出来るやら、挫かれて絶望の淵に追い込まれた時、あの者はどのような心理でどのような行動におよぶのでしょうか!?」


「どうやらご満悦―――って言った処のようだな、姉さま……まあなによりだ。 それで?他の奴らは?」

「確か……『リッチー』の指令は“連れ戻す”事―――だったと思いましたが…―――と?」

「フンーーーまあ幸い、今回は『監視の目』は着いてきちゃいない……これ以上の説明がいるか?」

「フッフーーー中々に分かっておる様ではないか…いや、何分発散出来る機会がなくてなあー?手持無沙汰をしていた処なのだ。」

「まあーーーこの際だ、『破戒女王』に恩を売っておくのも悪くはない、それに…“保護対象”には自身が張り付いている。」

「抜かりは、ないみたいですね。 それより『蒼嵐の魔王』は?」

「さあ~てな…気が向きゃその内戻って来るだろ。」


なんと……単独行動を容認されている首輪の縄を手離しにしているとは―――あの方の特異イレギュラー性は私達と共に行動をするようになって増幅しているように思われたのですが……

それに先程、……私達の前に“ウィアートル”が現れた事と言い―――もしかするとそれすらも、『蒼嵐の魔王』の体質に惹かれて??

ですがまあ……なるべく旨い食材は熟成させるに限る―――あの時わざと取り逃がせさせた事で今回の“旨味”もまた増幅しようというもの……さあぁ精々私達の養分になる為に熟成しなさいな―――


        * * * * * * * * * * *


とまあ私の仲間が、今現在こちらの世界魔界で活動しやすいように“拠点”としている処で話し合っていた頃、私は旧友を温める為にお城に出向いていた。

とは言え、今の私は『庶民』と同じ―――だから特別な理由などがなければ、こう言った高貴な身分な人達が住む場所に出入りなんて出来ない。

だけと私には≪歪曲ディストーション≫と言う権能を持っていた経緯もあり、『認識の阻害』を掛けるなんて訳はないのだ。

だから―――『城門』『正面玄関』『大広間』を次々と通過し、私の旧知が居座っている『玉座の間』に辿り着いた時……

「(あら……?あの子は確か―――)」


「いい?ここは私に任せて―――何とかしてみせるから」

「本当に……大丈夫なのよね?」

「ほ……ほわあああ~~~き、緊張するですぅ~~~」

「こっ―――これが噂に名高いスゥイルヴァン城なのだぞよぉぉ?」

「あなた達にしてみれば初めての経験だったみたいですね。」


私より先客かあ……それにしても大勢いるから時間取られそうだなあーーーそうだ、ここは『認識の阻害』をかけたままで一緒に潜り込んじゃおぅっと♪

それにしても皆堅いなぁーーー堅いわよ、私の旧知シェラザードは堅苦しいのを嫌うしね~~~だからもっとこうーーーー


「誰だ―――なんだリルフィーヤか、何の用だ。」


「アルベルト兄様、あの……至急母様にお取次ぎを。」


「(…)それはならん、この国の女王陛下であられる母上の忙しさはお前でも存じておろう。」

「それは判っています、けれどそこを……なんとか!」

「(…ちぃ)思い上がるなよリルフィーヤ、長男である私を差し置き母上の跡目を継ぐようにしてもらった事に……」

「(え?)兄……様?」

「しかもなんだ?卑しい鳥の獣人に、闘う事しか脳の無い竜人ドラゴン・ニュート―――おまけにどこの誰とも知らぬ者まで、我等高貴な王族が住まう城の床を汚すでないわ!!」


エーーーーナニアイツ、マジアリエナーイ、てかこれまでの雰囲気くうき台無しなんですけどぉ~~~

しかもあの子、見るからに悄気しょげちゃって可哀想って言うかなんて言うか……それにしてもシェラザードも大変ねえ、もしリルフィーヤって子が産まれなかったら、あのサイアクなのがこの国の王様になっちゃってたワケ? うわあ~~~他人事の私なんですけど、すんごい同情しちゃうって言うかぁ……


しかしこの私以上に憤っていた存在が、私と同じように実態を不明瞭にさせる『認識の阻害』を解いて、この無礼千万な長男にモノ申したのでした。


「いい加減にしないか!アルベルト!!」

「ふん…やはりいたかアルティシア―――母上と別の男との間に産まれた不義の子が、何の用だあ?」

「(くっ……)私の事はどう言おうと思われようと構わない、だが王太子であるリルフィーヤに対してその口の利き方はないだろう!」

「なぁ~にを言っているんだ?お前は。 私はただ、妹に対し目上に対する礼儀を説いただけに過ぎんよ。」


うわあ~~~なんかあいつが口開く毎にどんどんどんどん私の中のフラストレーション溜って来たんですけどォーーーなんかさぁ…もういいから黙りなさいよ、なんかもーーーこれ以上あんたの口から出てくる言葉聞きたくないんですけどぉ!

けどぉーーーご自分が一番偉いと思っていらっさる方は、喋るの止めないkよねえ~~~ひと昔前の私みたいに。


―――よし、決ぃめた、ここはかつての私のみそぎも兼ねてと言う事でぇ~~~~


「それを―――お前如きの様な“不義の子”に、言われたく……」


おりゃあ喰らえぇぇーーーい! 『秘技三年地獄』(ただの浣腸)


「の゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!? ぐっーーーはあぁぁっ…」


「(え?)兄様??」「が……倒れた?(しかもけつを押さえて)」


「フフンーーー成敗っ!『おけつに代わってえ~~お仕置きヨッ☆』」


      * * * * * * * * * * *


「あのお~~~それより、『蒼嵐の魔王』―――さん?でしたっけ……どうしてあなたがここに?」

「えっ?いやあ~旧知の仲を温め直したくてね、それで会いに来たんだけれども―――なんかさあ、不純物みつけたら排除したくなっちゃって。」(テヘペロッ☆)

「(その手段も浣腸と言うのもどうかと思うが…)それにしても、以前無礼を働いたあなたに救われようとはな。」

「いいのいいの、そんな排泄物みたいな過去の事は、さっきの浣腸男のような不純物と一緒くたに流すとして~~おぉーーーい、シェラザードいるう~?」


「な、なんと言うか自由な人ですね。」

「しかも、ここに居った者も気付かぬうちに、あの男の背後へ密かに回り、尻の穴を封じ込めるなぞ……出来ぬものぞよぉ。」

「(使用した指、臭くないんでしょうか?)」

「それよりも皆には変な処を見せちゃったりして、ゴメンね…」

「私も王族の一人として、恥ずかしい限りだが今のが王室の醜い一面のほんの一部なのだ。」

「私もその事については常々シェラザードより聞かされていましたが……またもや王室にかの病巣が蔓延はびころうとは―――」

「クローディアさんは以前の事は知っていたんです?」

「いえ、私も人伝ひとづてや史料に目を通すなどをしてでしか知り得ませんが、シェラザードはそれはもう大変苦労されたそうですよ。」

「そんな…母さまを苦しめた過去の亡霊が、またも母さまを苦しめようとはな。 なんとも皮肉な事か。」


「それより、やっぱり私ここに居ちゃ迷惑なんじゃ―――」

「そんな事はないよ、この国の主はまだ母様なんだから、母様に直接掛け合わない内から、自分の方から断念しちゃってどうするの!」

「リルフィーヤ……ありがとう―――」


この世界最大の国家であるこの国の『玉座の間』に辿り着いた私が見たものとは、それまで見せてくれていたリルフィ……リルフィーヤの態度ではなく、どこか鼻に衝く尊大な態度―――まさしく悪いイメージの王族のお手本みたいな人物でした。 そして私もこの人物、スゥイルヴァン国王第一王子アルベルトの事を知ったお蔭でリルフィーヤがなぜ王族である事を直向ひたむきに隠したがるのか判ったような気がしてきた。 それに、大国の次代を継ぐと言う事がこんなにもプレッシャーになってくるだなんて……


ああ―――だからなんだ……だからリルフィーヤは“王家”ではなく、“庶民”に求めたんだ……繋がりと言うものを。

今になってようやく分かって来た―――今だから判る様になって来た、だから私は友人の一人として、友人の思いに答えなければならない。


それが例え、私自身がどうなったとしても……


しかし―――? この『玉座の間』のその先にある奥まったところ……『女王の執務室』で、まさに有り得べからざる事態が起こっちゃっていたのでした。






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