第23話 “運命”の絆(ひと)

“今”の私は、ある一部の者からしたら有名な人間だ―――そう、私の母さまであるシェラザード女王陛下の後釜を狙う、私の実の兄や姉。

そんな彼らからしてみたら一番最後に産まれてきた末妹わたしなんて邪魔な事この上ない、なぜなら私が母さまの意志を継ぐ『次期国王女王』なのだから。


だから……この時も―――私がマナカクリムへと戻って来た事を“これ幸い”と感じ、私を亡き者とする為の刺客を―――


「お命頂戴―――!」


「じゃぁあああまをおぉぉ…/…するなあああ!}


その瞬間、先程まで“人”だった者が“影”へと紛れ、“闇”の力をもって刺客を呑み込んだ……しかもその時の表情は、得も言われぬ恍惚とした表情で、人を殺めるのを何とも思っていない―――まさしくの『悪』だった。


「まあぁったくこの私を差し置いて自己主張すんなーーーての、けぇど兄ちゃんの言う通りにしておいて正解だったにゃ~☆」

「えっ……あなたのお兄さん―――て…」

「ええ~~っ気付かない?あんたに最初に言い寄ったセクハラ大魔神だよ。」

「(セクハラ……大魔神て)あ……あああ、あの人ね、でもあの人の言う通りって?」

「いま私達ってちょっとした人探ししてましてね、なんでもーーー」

「あっ、ご、ごめんなさい!私これから用向きがあって―――そ、それじゃあね!」

「あ……ベアトリクス―――」

ちぃ…逃しましたか―――けれど、あなたの“顔”“声”ちゃあんと覚えましたよ、でぇすから、この先どこへ逃れようが……おおせる事が出来るなんて思わないで下さいねえぇ?

とは言え、この子生命狙われてるなんて結構なハードモードですねえ?まあ私も兄ちゃんから『貼り付け《護衛しろ》』とまでは言い付かっちゃないんですけど……状況が状況なだけに仕方ありませんか。


        * * * * * * * * * * *


聞いていた”よりも化け物―――だった…今回の事はリルフィには悪いけれど、彼女が生命を狙われていると言う事が幸いして私への注意が逸れたと思い、事後に私は適当な理由づけでその場から離れることにした。

そして知ってしまった事―――デーモン族の魔王である『リッチー』は、事もあろうに『人中の魔王』達へ指令を下したのだ、私の意志とは関係なく私を“彼の地”へと連れ戻すようにと。 それに連れ戻された処で私がどうなるか判っている……『イラストリアス』のように地べたへと這いつくばらされ、その上で権能を抜かれてしまう―――私も、こうなるまではそれでもいいと思ってさえいた、なにより私が所有している固有技能ユニーク・スキルは私固有のモノでありながらも私自身が理解していなかった、けれど今は違う―――今は私のお師匠を介し不明だった私の固有技能ユニーク・スキルの正体が掴めてきたからだ。


だから……もう―――これまでとは同じではない、これからゆくゆくは私の……この―――


「うぐうぅっ!」


なんっーーーなの!?この……上から押さえつけられるような衝撃は!!


「ようやく―――見つけましたよ、“ウィアートル”。」

「なるほど……これが―――かの噂の…」

「やれ、やれ、これでようやく戻れますか。」


先程の“脅威”(『加東段蔵』)が可愛く思えるほどの“脅威”―――それもまさか3人が組んで行動をしているなど??!

「ああ゛っ!ぐ……くうっ―――」


「無駄な抵抗と言うもの―――あなたも『段蔵』に出くわしたのなら私達が何者かまでは認識できたでしょう。」

「そうそう、お前もこの女めの『神域』に捉われたのが運の尽き―――観念してしまいなさいな。」

「しかし、『窮鼠猫を噛む』との例えもある、努々ゆめゆめを解放されぬよう両手と頭を潰しておくべきなのでは。」


「あ、あのちょっとお待ちになられて下さい。」

「何でしょうか、クローディア。」

「み、見た処無抵抗な様にも思われるのですが……」

「(……)いえ、と言うよりはわたくしはこの女めクローディアを始末すべきだと思うのですが。」(←機嫌悪そう)

「ま……まあまあ、そうつっかからずに―――それよりも、なぜそなたはその者が安全だ……と言い切れるのですかな。」

「捕縛をされたとしても、無闇矢鱈と抵抗しない―――私も知らぬ嫌疑をかけられて捕縛された経験があります。 その時には必死に足掻いたものでした、ですが多勢の前には余りに無力、身体を容赦なく打擲うちすえられ、動けなくなったとしても連中の手や足は止む事はありませんでした。 けれどそれも私が無駄な抵抗をしたが為……ですがこの彼女は捉えられたら抵抗の意志すら見せていないのです!」


“闇”の司祭ダーク・プリーストであるクローディアにも、まだ一片の良心が残っていたものか……無為に捉われ謂れなき罪に堕されたクローディア自身の経験も重なり、捉えられた者の助命嘆願を申し出たのです。

それを快く思っていなかったものか、クローディアと共に行動をしていた他の3人……の内の、聖職者が何故かクローディアを始末(???)するよう提案してきたのです、しかも機嫌悪そうに。(←笑いをこらえるのに必死)

しかし―――両の眼を眼帯で覆った、一見すると『尼僧』とも思われなくもない者からは……

「なりません―――クローディア、第一に私達の仲間ではないあなたの意見を聞く謂れなど私にはないのですが?」(←確信犯)

「そ―――それはそうだとしても!」(←ある意味被害者)


「そおーれよりも、『静御前』?お前まさかわざと言っているのですか。」(イッらあ~)(←かなーり機嫌悪そう)


「(ぷ・く・く…)ま、まあまあ抑えなされ『破界王ジャグワーノート』殿、それがしの姉さまとて決してそう言うわけでは…」(←もう少しで吹き出しそう)


クローディアにしてみれば、『静御前』なる者のスキル―――『神域』によって身動みじろぎ一つできないでいる彼女達の世界のお尋ね者が過去の自分と重なってどうにか救ってあげたいとしていました。

だとて―――クローディアは“彼女”が何者で、『静御前』達の世界で何をしてきたのか判るはずもなかったのです。


しかし、「時間の経過」と言う状況の変化は、この先短しとされた“彼女”の運命を変え―――


「(ムッ!?)総員警戒―――敵への攻撃に備えよ!!」


自分達の世界を破壊し尽そうとした魔法を行使する―――そんなお尋ね者を縛っていた『静御前』が、自分達が襲われている事に気が付いた、そして各自の判断により彼方から飛来してきた“光の鏃”を防ぐ為―――と発動された防御結界ではありましたが……


「その子から離れろぉお―――!」


えっ……リルフィーヤ様?ではだとすると先程のはやはり―――≪神意アルカナム≫!?けれど……なぜ―――なぜリルフィーヤ様が、この人達に向けて…


「どうやら威勢の好いのが出てきたみたいですわね、先程からそこの女からイラつく言動を放たれて、いい加減わたくしのおつむも限界キてるのですわああ~?」

「およしなさい―――それよりも先程、“リルフィーヤ”と?確かその名前は……」

「確か―――以前拙それがし達に力を貸してくれた『破戒王女』の娘……だと聞き及んでいましたか。」


「(……え?)私の母様さまの―――古い通り“称”を知っているって……あなた達何者なの?」


「これは存ぜぬとは言え不躾でしたでしょうか、私達は彼の一党―――『人中の魔王』が率いる『悪党』の団員にございますが故に。」

「(『人中の……魔王』―――)それじゃ……あの人の仲間―――でも、だとしてもベアトリクスに酷い事をしてどうしようと言うんですか、この子は私の大切な友人なんですよ!?」


「「(「友人」―――…)」」


「友人……とは、また気の利いたジョークですわね、それにしても人心を惑わせる『次元の魔女』ならでは……と言って差し上げるべきでしょうか?」

「(『次元の魔女』……?)何を言っているの―――この子は…」

「その者は、わたくし達の世界を破壊し尽そうとした罪により、裁かれなければなりません―――ですが、己の身の危険を察したその者は次元を渡り、何処かの世界に身を潜ませた……まあこの世界(魔界)ではないかと“当たり”をつけたのは、少々ご都合主義が過ぎるとは思いましたが…いかが?納得していただけましたでしょうか。」

「納得……できなくはないけれど、あなた達の仲間である『人中の魔王』って人は、例えこの子の事を知っていたとしてもそんな行為には奔らなかったわよ。」


「なに―――?そんなバカ…」

「お待ちなさい―――それにリルフィーヤの言っている事の整合性を合わせて行くと、どうやらウソは吐いていなさそうね。 申し訳ございませんでした、リルフィーヤ様、どうやら功を焦ってしまったようで危うく“別人”を捕縛しようとしていたみたいです。」

「なっ―――ちょっ…待ちなさい!」

「参りますわよ―――『破界王ジャグワーノート』」


どうにか誤解が解け、“脅威向こう”の方から立ち去って行った。 けれどその場に残された疑問は解けないまま―――確かにベアトリクスは最近になって知り合ったばかりだし、魔王様直々の弟子だとか、私のお姉ちゃんの知り合いだと思われる『人中の魔王』と言う人の仲間が血眼になって探している“ウィアートル”だとか……『次元の魔女』―――だとか…


「……ねえ、ベアトリクス、本当のあなたの事を話してもらえない。」


      * * * * * * * *  * *  *


「『静御前』、お前一体どう言うつもりなんですの゛っ!折角捕縛対象を掌中に収めさせたというのに、手離してしまうなんて。」

「ふふふ…あらあ?私―――“ただ”で手離したつもりなんてなくてよ?」

「それはどう言うことですかな。」

「あなた達もリルフィーヤの言葉……耳にしたでしょう?なによりあの者は『混沌』の『オプスキュリテ』と『秩序』の『ヤハウェ』とが共通させた認識によって、新たに5体目の『デスペラード』に認定された人為災害の極致と言うべき者、それをあの『破戒王女』の娘であるリルフィーヤが『友人』と言ったのですよ?

フッーーーフフフ、アッハハハハーーーー! 何と傑作なのでしょう?!その気になればあの世界“彼の地”など数回は破滅させられるような例の権能―――≪核融合ニュークリア≫を持っている存在を『友人』だなんて!! しかも自分の生命を投げ打ってまで救った存在が大罪人だと知った時、その絶望は図り知る事が出来ませんでしょう!!」

「(……)なあーんだか、今のお前の企みを聞かされたら急にあの者共の事が気の毒になってきましたわ。」

「それより集結の場に急ぎましょうや、手土産“ウィアートル”の一つもなく赴くのは後ろ髪が引かれる思いですが……な。」


       * * * * * * * * * * *


私はもう―――これ以上彼女に対して隠し通す事なんて出来ないと思ってしまった。 私自身の事情によりあまり知られたくはなかったけど……だけど、話した。 すると……やはり―――


「そんな―――…」

「ええ……あの人達が言っていた事は本当、私だけが使える“陽”の魔法は、この私でもまだ理解する事が出来なくてね―――だから制御するのも儘ならなかった…だから制御できるよう習熟度を上げる為に試し打ちを繰り返していたんだけれど、そのお蔭で私の世界の生態系や自然環境が狂ってしまったみたいでね。 そのかどで私は捉えられ、私の固有技能ユニーク・スキル核融合ニュークリア≫は処分されるところだったの、だけど私は逃げてきた―――この世界に…けれど私の魔法のお師匠のお蔭もあって、それまでは私ですら未解明だった≪核融合ニュークリア≫の事が解明出来て来て、これからって時に―――私は……私の“運命”と出会った……


私の“運命”……それはリルフィ―――あなただよ。」






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