第22話 その“先”にあるもの

「あのぉ~~~さあ……一つ聞いていい? リルフィって一体何者?」

「えっ?ふ、ふつうの冒険者だよ?」(アセ、アセっ)

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんーーーー」(じーーー《疑惑の眼差し》)

「あっ……な、なんだか色々お店を巡ってたりしたら疲れちゃったわねえ?だ、だからさどこかで一服しようよ。」


う……迂闊だったわあ~~~ーーーいつもの調子でこれから必要になる食材やらバカスカ買い込んじゃうんじゃなかったあ~~~。


クローディアさんとの“訓練”が終了したと同時に、私達は一旦マナカクリムへと戻っていました。 その最中にバルバリシアがベアトリクスと名乗る女性と正面からぶつかり、お互いが謝り合っている処に私が到着、そしてあれよあれよと言う展開で現在は私が懇意にしているお店を紹介して―――行く内に、調で『ツケ払い』が発生してしまい、お金を払わないままにお会計が決着してしまうと言う―――まあ言ってしまったら王族の権威振りかざしちゃってしまっている私がいてしまったわけで……まあだから今現在持ち金0だと言うベアトリクスから不審な目で視られているのも自業自得と言いますかーーー


「それよりさあ、ベアトリクスって今どこに住んでるの?」

「えっ―――確か……東地区にある『お屋敷』?みたいなところ。」


え゛っーーーなにその冗談。 そのお屋敷って確か~~~魔王様の別邸だったような??


「ふ、ふぅ~~ん、そうだったんだ―――それよりさ、今からそのお屋敷見に行っていいかな?」

「えっ、まあいいけどーーーどうしたの?リルフィ変な顔なってるけど……」

「い、いやあ~~~ちょっと……ね。」


“まさか”―――とは思っていました……が、その“まさか”とは“やはり”でした……

てか!この子一体何なのぉ?魔王様と一体どう言ったご関係???

そう―――まさにそのお屋敷とは、私も一度お邪魔した事のある魔王様の別邸でした。


「(はあ~~~)まあ、小さな掘立小屋よりは大きい家―――とは言ってもねえ~大きさには限度というものがあるものと思わない?」

「ま……まあ確かにーーーそれに、結構なお値段したんでしょうに。」

「ああそれがね?なんでも私のお師匠がもう払っているって―――だから私文無しのくせにお金は払っていないのよね。」

え……お弟子さんそう言う事なの?? そ―――そう言えばお母様も言ってたっけか?何でも魔王様が新しく弟子を取ってるから、政務の皺寄せが全部お母様に来てるって―――けど、だとしたら納得がいくと言うか……と言うかベアトリクスが魔王様のお弟子さん―――

「ね、ねえもうちょっとベアトリクスのお師匠さんについて話してもらえない?」

「えっ、別にいいけどーーーそうねえ、まず出会いは私がお師匠の庵の近くにある森で行き倒れててね、そこをお師匠に救ってもらったの。」

「へええ~~ーーーそれでそれで?」


それまでは人付き合いと言うものをしてこなかった私でさえも気軽に話せるようにしてくれる―――それはリルフィが人懐ひとなつっこいからだと私は勝手に解釈をしていた。 けれどそうだとしても彼女と話しをしている間は悪い気なんてする事もなく、もし時間が許せるのだったらいつまでもそうしていたかった……のでしたが―――


{おぉーーーや、おーーーや、見ぃつけましたよぉお~~?}


「(!)何者―――!」

「『段蔵』さん??まさかあなた、私の跡を尾行けて……」

「(な……に?!)『段蔵』―――『加東段蔵』か!」


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


事態がこうなってしまう少し前、私はある人達と邂逅をしていた―――それも一見して人の形はしているものの、どこか不気味な“悪意の塊”…そう言ってしまえばいいのだろうか、そんな人達……


「よおぉ、君がこいつの妹ちゃん? ふんふんなるほど可愛かわうぃいねえ~~」

「え゛っ、誰です?あなた……」

「まあったくまぁぁぁた始まりましたよDT兄の悪い癖が。」

「うるせえ!オレはド●○イじゃねえつってんだるぉうがあ!」

「うふふ、それにしても目元の辺りがあの人にそっくりね。」


私がマナカクリムに戻るほんの少し前、アルティシアお姉ちゃんの『知り合い』だと言う普通の(に見える)男性冒険者と、その男性冒険者の“妹”だと思われる女性冒険者、そして私達と同じエルフ族だと思われる淡い蒼の髪と眸をした女性……そのエルフの女性の美しさには私でも目を奪われがちになるのでしたが―――


「も、もういいだろう!言われた通り約束は果たした。 早くリルフィの側から離れてくれないか。」

「連れねえこと言うなよ、可愛げがねえなあ。 それよりさぁ~可愛かわうぃい妹ちゃあ~ん、ちょっとこれからお兄さんとイイコトしなあ~い?」

「えっ?あっ、いや結構です。」

「ふうううん……“結構”―――てことはオッケーて言う意味なんだねえ?」(ゲヘゲヘ)

「いやっ、あのそう言うつもりで言ったんじゃなくって!!」

「(くっ!)いい加減にしろっ!私のリルフィにそれ以上ナニカをすると言うなら容赦せんぞッッ!!」

「(……チッ)へぇ~いへい、判ったよ―――全くお前も“あいつ”の娘なら、今の軽ぅいジョークだって判ろうものなのになあ?」

「(えっ……)“あいつ”―――? “あいつ”って……誰?」

「(くうぅぅっ…)どう言うつもりだッッ―――」

「『どう言うつもり』も、『こう言うつもり』もねえよ―――ただオレとしたら、お前のそう言う表情が見たかっただけさ…突然オレらの前に現れてくれて、散々おちょくってくれたお前が、オレ達がされたようにされたら一体どぉんな反応リアクション取ってくれるかってなぁあ?」


「お―――姉ちゃん…?」

「くうぅぅっ……」


正直―――こうなるのではないかと予測はしていた、他人ひとの弱みに付け込み自分のやりたい事だけをする―――もちろんその時には自己の責任なんてあるわけもなし、まさしくの“悪意”の塊の様な男。 そんな男が、私の父だとリルフィにバラされたくなかったらリルフィに会わせろと言ってきた、そして私は我が身可愛さにその言葉の前に屈し、リルフィに会わせてしまった。

『因果応報』と言うべきか『自業自得』とも言うべきか……そんな事は判っている、所詮私もこのクズな男の血を―――遺伝子を引き継いでいるのだから。


「あなた…一体どう言うつもりなんですかッ?!」

「あぁ~ん?なんだぁぁい?妹ちゃぁぁん、ようやくオレとイイコトしようって思うようになったわけぇ?」(デヘデヘ)

「そんなわけ、ないでしょう!? 私のお姉ちゃんは他の兄や姉と違って私に優しくしてくれる…その愛情が時たまには過ぎて私の迷惑になっているってことは否めはしないけど、それでもアルティシアお姉ちゃんは私が慕うお姉ちゃんなんだッ!!」

「(…)なんだなんだぁ?気持ち悪りぃ……手前ェら姉妹の愛を聞く為にこんなとこに来たってんじゃねえの。 ち…萎えるわぁ~~~ホント、はぁいーーーはい判りましたよ、今日の処は手前ェらの勝ちって事でいいわ。 ずらかるぞ―――お前ら…」


どう言う―――つもりなんだ?私はてっきりリルフィの前で私の洗いざらいあることないこと吹聴して《吹いて回って》私から誰も彼もを遠ざけて真の孤独を味わわせるのではないか―――と思っていた…のに??

本当に……リルフィに顔を合わせ、二・三やり取りをしただけで去っていった―――(それにしても……ショックだったなあ~~リルフィが私からの愛情、鬱陶しいと思っていただなんて……)


それにしても、何なんだろう……この気持ち、今日の処は大人しく引いてくれたものと思うが、私の父がリルフィからで大人しく引く玉だろうか。

しかしそう―――私の父が大人しく引いた裏には、やはりそれなりの理由というものがあったのだ。


        * * * * * * * * * * *


「だぁ~ぃじょうぶでぇ~すかあ?兄ちゃん。」

「ああ、まあ……メンタル的にはかなりキたが、満更おこばあちゃまから言いつけられた事に従うのも悪かねえな。」

「うふふ、可愛かったわねあの子。 私達にとっては憎たらしい“敵”な存在だったけど、いざ自分の妹を庇ってみせる辺り……それに、そんな姉に対し妹ちゃんは―――」

「はあ~~~思い出すなあ~~~私も小学校低学年の時分じぶんにはいじめられた事がありましてね、そんな現場に駆け付けてきてくれた兄ちゃんのまあーーーー恰好よかった事!!」

「おい、こら手前ッ!なんちゅうこっ恥ずかしくなること言ってやがんだ!そぉ言う手前ェも最近の様な反抗的な態度と違ってあの頃はオレの影を踏まない様について来た奥ゆかしい態度はどこ行ったんだッ!!」

「あ~~~っるぇえ~~?ひょっとしたら兄ちゃん、私があの頃の態度に戻ったら、また以前のように可愛がってくれるんでぇすかぁあ~?」

「えっ?あっ??いやその……」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんーーー」(じーーーー)

「なっ、何だお前も!オレをそんな変態を見つめるような目で見るのは止めなさい!」

「まあいいけどさあーーーそれよりあなた、物見遊山的にあの子リルフィに会おうとしたワケじゃないのよね?」

「あ?ああ、まあなあーーーそれにあの子も、遠縁とは言えオレの血族と同じ様なもんだからな。」


 “あいつ”―――シェラザードがひょんな事からオレ達の世界に来た時、オレの“過ち”と言う事もあり出来てしまったオレとシェラザードとの間の子―――それがアルティシアだった。 それからまた後にシェラザードが本来の夫との間で出来た子がリルフィーヤ……そしてリルフィーヤこそが、シェラザードの跡目を継ぐのだと言う事を最近になって知った。

そしてそんな、腹違いの妹であるリルフィーヤを溺愛して已まない、オレの娘であるアルティシア……気に、ならない―――と言うのが嘘だとすれば、今のこのオレの感情に巣食っているのは何だろうか。

オレの“過ち”を受け入れてくれたシェラザードの為?オレの事を父親と認めていないながらも溺愛する妹の為に父であるオレを頼ろうとしたアルティシアの為……?


ま……そんな事に悩むなんて“らしく”ねえか、そんなことよりオレ達は『悪党』だ―――“悪”を掲げるならば“悪”としての流儀を貫くまでさ、この世界(魔界)の為に爪痕を遺すなあ?笑わせてくれるぜーーー『リッチー』、このオレに何かを頼んだ時点で“オシマイ”なんだよぉお!あんたの目の届かぬ処でオレが何をしようか―――そこんとこ判った上で頼んだんだるぉお?

「よぉし、それじゃ本格的に活動すると洒落込みますか。 おい『段蔵』―――お前は至急他の3人とわたりをつけろ、そしてマナカクリムって言う街に集結するように伝えろ。」

「判りました。 それでーーーそれだけでいいんですかあ~?」

「フフン――― 一応聞くまでもない事だが、あのリルフィーヤって子への“マーキング”はしてるか?」

「言われるまでもなく、もうしてしまいましたが?」

「なら、お前の特殊戦闘技能アビリティを使ってもいい……あの子の足取りをトレースしろ、もしその延長線上に……」

「“ウィアートル”がいたら―――?!」

「相も変わらず、抜け目有りませんねえ~~判りました、だったらは私の本体がしましょう、あの人達にわたりをつけるのは分身体でも構いませんでしょうから。」(ニヤ)


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


{ふっふっふっふっふーーーまぁぁぁさかこんな事になっていようとはぁぁ…/…今更ですが、兄ちゃんの先見の明には感服しますねえ。」


なに…この人―――私が先日会っていた時にはちゃんとした人型をしていたのに、今この人は私の影から“にゅるり”と這い出て実体を顕わせたかと思うと、次第に会っていた時と同じような人型を形成した……!? やはりーーーやはり私の思い違いじゃなかった、この人を含めあの場所にいたのは“悪意の塊”だったんだと。


しかも狙いは―――ベアトリクス??


「(くっ……ここまでか―――)―――」

「おや、おや、おやぁああ?悪足掻わるあがきしないものですねえ?私が聞かされていたのは、あなたを捕縛する為にと派遣された『デュラハン』の一隊を消し炭にしたそうですがあ?」

「なにをバカな事を!この子は……ベアトリクスはそんな事はしないわ!」

「はぁあん?なに言っちゃってるんだか、“こちら”の事情も知らないような人が勝手な事を言ってるんじゃねえですよ。」

「ええ知らないわよ―――“そっち”の事情なんて!」


え……なんで?なんで私の過去を知らないあなたが、私の事を庇うの? 皆ーーー皆…人が好過ぎよ、私のお師匠にしたって―――にしたって!!


けれど、それが私の“運命”だとわかるのに、そう時間はかからなかった。 いや……と言うより、状況が大きく様変わりしてきたのだ。




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