第21話 “邂逅”

“野”にて茶を“”てる―――なんとも風情ではなかろうか、彼の“大武辺者”として知られる『前田慶次郎某』もまた、他の戦国武将にならい茶道の造詣深き者であったと聞かされている。

常に己の“死”と“生”と隣り合わせであった激動の時代に、名を馳せさせた武将の多くはこの“風流”をかいした―――それがしもまた、おびただしい血潮が辺りの地面を塗らしたとしても、かの“風流”に身を委ねる……


ふむ、悪くはない―――悪くはないの、だが……


「それにしても、斬り応えのない連中でしたなあ。 そう言えばこの連中……なんと言っておりましたか。」

「確か『ラプラス』―――とか。」

「おお、それよそれ、それがしが彼の“ウィアートル”の存在を訊かんとしたところ、やにわに抜き放って打ち掛からんとしようとは。」

「それよりも―――先を急ぐと致しましょう、こんな処で油を売っている場合ではないわ。」

「それもそうでしたな。 それにしても『段蔵』めの一次報告が『足取りがつかめなくなっている』とは……何故にてありましょうや。」

「さあ?しかし、こちらに渡ってきているのは確認済み。 とは言え指定された地点をくまなく探した処でその時には既に痕跡すら遺されていなかった、しかも対象は魔力を使い果たし憔悴しょうすいしきっていたとの事……その事を踏まえて『段蔵』ちゃんには周囲半径5Kmの範囲で捜索を命じましたが―――それすらも網にかからないでいるとは。」


「姉さまには、何か心当たりがおありだとでも?」

未明の何者か第三者が保護したと言うのならば……」

「なんと……よもやそのような事が?」

「有り得ない―――とも限らない、それに私達が『リッチー』からの指令にてこの地(魔界)に渡ったのは、彼の“ウィアートル”を取り逃がして6時間後……とくれば、そうした邂逅も無きにしも非ず―――と言った処でしょうか。」


それにしても―――捕縛寸前で逃れられるとは、何をやっているのでしょうね。 いわば今の私達はデーモン族の不手際をなかった事に尻拭いする為に派遣されている様なもの。

その本来ならば突っぱねても良かったのでしたが、団長様の温情により引き受けた次第……今回の成功の暁には“取る”ものは取らせて頂きます―――えええ、らせて頂きますとも。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そんな―――私への包囲網が狭められているとも知らず、私はマナカクリムへと辿り着いていた。 とは言え私はこの世界(魔界)の出身ではない、ただお師匠が、私がお師匠の下から離れる際に『行ってみるといい』と勧められたから来てみたまでだ。 すると、辿り着いて判った事だが、なんと大きい―――以前私が所属をしていたデーモン族の主要都市よりも大きく、区画整備もきちんとなされ、なによりも活気あふれる街だった。

そこで私は、やはりお師匠から言われたとおりに『木の葉を隠すなら森の中』―――つまり、この群衆の中に溶け込み、この群衆の一人として生きて行く事にしようとしたのだ。

それにはまず、安定した住居を探す事から始めなければ……そう思った私は、そうした物件を扱う店舗―――まあこれもお師匠からの紹介があった所なのだが……


少し余談にはなるけれど、私のお師匠人が好過ぎなくない?私が言うのもなんだけど、正体不明の小娘を拾って、しかも魔法の指導もしてくれて……あまつさえ独り立ち(?)する私に手を焼いてくれるなんて……なんだか、お師匠の庵に足向けて寝ないようにしないと。


それはさておき―――私はお師匠から勧められた『不動産』と言う店舗に入ってみたら……

「ああ~~はいはい―――お客様の事はお伺いしてますですよぉ~?」

「あ……そうなん―――ですか。」

「それでは、こちらが今回ご案内して差し上げられる物件となります。 これから内見などいかがですか?」

早速愛想の好い店主が私の事を待ち受けていたものとみえ……と言うより、やけに対応早いな、もしかしてお師匠が手を回してくれたのかな?それにしても……(ゴ・クリ)……この資料見させてもらうだけで判ったんだけど―――『お屋敷』レベルじゃないの?コレ!!

え?ナニ??どう言う事??? これって家賃いくらくらいになるのかなあ???? 私はまだこちらに来て日も浅いし、こちらのお金なんて持ってやしないわよお~~?????

「あ……あのぉ~~~内見という奴の前に一言聞きたいんですけれどーーーこのお屋敷の家賃ておいくらするの?」

「はあ……?普通なら20万は頂く処ですがーーー」

で・す・よ・ねえぇえ~?いや、そんな大金いま持ってないってえ~~!!


「お客様は、まお……あ、いえ、庵の主様とは近しい関係―――と、そう聞かされておりますのですが?それにもうお代の方はあの方より頂いていますので…」


んっ?今何か言いかけた?それにしても私のお師匠って、あんな辺鄙へんぴな処に棲んでいる割に、顔が広いのねぇ。 しかも気前の方も太っ腹というか……お師匠NGJ《ナイス・グッド・ジョブ》!

それにこの店舗も内装豪華だし、この街の前にそびえるーーーあれって王族の城よねえ?あんなとこに住んでる王族御用達って言われても納得できちゃうと言うか……とまあ、今更ながら私のお師匠に感心しきる事もさながらにして、さっそく物件の内見を行った処、見た目まんまの『お屋敷』―――しかもこんなただっ広い処に私一人が住まなきゃなんないのぉ?


ま、まあーーーお掃除のし甲斐があるというか~~~そんなもの、魔法を駆使すればなんてことはないんだけれどね。


そうと言う事もないけれども、お師匠の顔を立てると言う意味で私はこのお屋敷の購入を決めたのでした。 それで今は、これから必要となる生活用品の買い出し―――なんだけども……この行く先々でもお師匠の手は回っているものと見え、私がお師匠の弟子と知るとなると『お代はいいですから』と……わ、私のお師匠って一体何者なの??

そんな恩人でもある私のお師匠への空想を巡らせている中、私はまた一つの出会いをするのでした。


        * * * * * * * * * *


「あ、痛ッ―――ご、ごめんなさいね、ちょっと考え事をしてて…」

「はわわわわそんなことありませんですぅ~~!私の方こそよそ見してて、申しわけありませぇ~~ん。」


注意力散漫―――と言うべきか……最近知ってしまった私のお師匠の偉大さに思いを巡らせていた時、私の真正面にいた“誰”か…まあ今私の正面に居て私以上に自分の非を認めて謝って来るハルピュイアなんだけれども……何て言っていいのかしら?そんな必要以上に謝られちゃうと、何だか私が悪い奴に見えなくもないような……

「あっ……ああ、いやいいのよ、今回は私の方も前をよく視ていなかった事なんだし……」

「いえいえ、私こそがもっとよく前方を確認しておくべきでしたあ~~!ああぁぁ……なんでこうも私ったら至らなさ過ぎなんだろうーーー」


え゛っ……なにこの“被害者体質”―――こう言うのって普通お互いに前方不注意ってことで丸く収まるんじゃないの?少なくとも私が元いた世界ではそうしてたんだけど……


しかしこう言った状況は私にとっても好ましいものではなく、収束を手間取っている内に私の“運命”が―――


「あら?どうしたのバルバリシア。」

「あっ、リルフィ様ぁ~~~私ったらまた他の人に迷惑かけちゃってえ~~~」

「ああいや…迷惑ってほどのものじゃ―――それに私の方も考え事をしてて前方をよく視ていなかったからその人とぶつかっちゃって……」


「ふう~ん……だってさ、だからもう自分を責めるのは止めなさいよ。」

「は……はいぃ~~今度から往来をする時は前をよく注意深く見ますぅぅ~~。」

「(あ゛ーーー)前ばかり見てちゃダメなんだけどね…。」

「ふえ?どしてですかあ?」

「いやだって、前ばかりを注視してると横や背後からも……」

「ああ、言われてみればそうよね。」

「ふえええ~!また私大事故しそうになっちゃったですう~~!ありがとう、ありがとあじゃます!」

「(大袈裟な…)けれどまあ……適当にね、そんな四六時中気を張っちゃっていたら疲れちゃうだろうし。」

「それもそうだよね。 あ、私リルフィって言うの、一応この子……バルバリシアの保護者ってところかな。」

「へえ~~~あなたバルバリシアって言うの。」

「はいっ!それに私はリルフィ様を“主”と仰ぐ“従者”の一人なのでありますっ!」

「ふうん……あ、私はベアトリクス、最近この街に越してきたばかりでね。」

「そうだったんだーーーそれじゃ驚いたでしょう、なにしろこの街はこの世界で一番の大都市だからね。」

「(大都市……)なるぅ……なるほどね、よし理解したわ。」

「それよりさベアトリクス、越してきたばかりだったんなら必要最低限の生活用品とか買い揃えないの。」

「ああ今その最中でね―――そしたらバルバリシアにぶつかっちゃって…」

「ほわあああ!スミマセンですう~~~!!」

「コラコラ―――もうその事は和解したばっかでしょう?この子ったら妙に謝り癖がついてきちゃってさあ……」

「ああ―――それはまあ、私の方から蒸し返しちゃったんだしーーーこの際お相子ってことでどう?」

「そう?なんだか悪いわね。 それよりさあーーーまだ買い出しの途中だったら私が付き合ってあげるよ。」


そのきっかけは、彼女が『従者』としている鳥の獣人ハルピュイアとぶつかってしまった事でした。 何とも気さくでず知らずの私でさえも気軽に話し合える―――話しかけてくる―――

そう言えば私……他人とこうも気軽に話し合えたことなんてなかったなあーーーその原因と言うのも、つい先頃私のお師匠の見識によってつまびらかに出来た私の固有技能ユニーク・スキル……≪ニュークリア《核融合》≫の所為でもある。

この時になっようやく未解明であった私の固有技能ユニーク・スキルの名称が判って来た―――それだけだったため、この固有技能ユニーク・スキルが持つとんでもない性能の事など判るはずもなかった。 いやけれど、そんなのはていの好い言い訳に過ぎない、本来なら保有者である私自身が解明し、きちんと管理しなくてはならなかったのに―――



だから……この先―――私はまた、同じ様な失敗を繰り返してしまったのだ。




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