第20話 集い始める意思

“彼”―――私の本当の父である『人中の魔王』が提じてきた条件とは、明らかに私の足下を見たものだった。 それは、私が可愛がっている妹であるリルフィーヤに一目会わせろとの事だった…何と言う事か、まさかこんな事になってしまおうとは、確かに彼らは私が妹を護るために利用をしてきた―――そう言われたとしても返す言葉もない、事実私の≪歪曲ディストーション≫を定着させる自分のモノにする為彼らの自尊心を汚してしまったのだから。

だが……その“見返り”が私の妹リルフィーヤに会わせろだと?そんな条件、呑めるはずもない……だって―――会せたらは……!


「ふ……ふふふん、安心しろよ、今お前が要らん心配してることなんてしやしないからよ。」


なんっ……だと?!私の思惑が完全に見透かされている?そう……私が懸念している事とは未だ私の父は誰だと言う事は知られていない―――知っているのは私を産んだ母さまだけ……その事を母さまは誰にも口外した事はない、現在の処その秘密は私と母さまとで共有しているのだ、そんなところもあり肩身の狭い思いをしている私の少ない味方が母さまであるシェラザードと妹であるリルフィーヤだけなのだ。

だが……私か懸念をしている材料―――実の父である『人中の魔王』が妹であるリルフィーヤに私の実の父親が自分であると広言をしないものか……こんな見下げ果てた悪意の塊である男が私の実の父であると妹に知られたらリルフィーヤは私の下を離れてしまうだろう、そんな事になったら女王陛下である母さまからの『お願い』も遂行しにくくなり、やがて私は真の孤独に……


「止めてあげなさいよ、この子顔を青褪めさせているじゃないの。」

「まあったく甘いですねえ~~~私らこの女に煮え湯を呑まされたんですよ?それを今の兄ちゃんからの言葉嬲りなんて軽い軽い―――いつも私に言っているように『**********自主規制が入りました』くらいはしてもらわないとねえ~?」

「おきゃぁあ!おい手前ェ!!いくらオレの肉親の前だからって言って良いことと悪い事があるだるぉうがぁあ?」

「はぁああ?何ゆってんですか、あっちの世界“彼の世界”とは違う世界だからって性欲皆無系主人公みたく振舞わなくたっていいんですよぉ~?」

「なっっ!う、うるっせぇわ!!だっ、誰が性欲皆無系主人公だとぉ?オレ様のビッグマグナムはなあぁ…」

「最近『段蔵』ってば欲求が不満しちゃってるの?」

「ああしてますよ!最近は暇があったらイチャコライチャコラ見せつけやがってえ~!最近私なんてご無沙汰さん喰らわされてばっかりなんですよ?!この欲求のフラストレーションというか、ストレスというか、どこへぶつけたらいいんでしょうかねぇえ?」


わ、私は今……何を視させられているのだろうか?単なる痴情もつれ―――とやらの喧噪とまでは言い難いが……あの黒豹人の女性、やけに過激な発言が目立つが……やはりそう言う事なのだろうか?

しかし、私の前に現れた3人はまだ良かった方で―――それというのもこの3人とはまた別の行動を取っていると思われる3人の方が気がかりと言えた。

事実“彼の地”へと渡った私が、彼らと手を交えて圧倒はさせた―――しかし彼の3人はそれでも手強いと感じさせるに十分だった。

そんな3人が―――主人の下を離れて首輪の縄を外された状態で行動をしている……何事もなければよいが―――


        * * * * * * * * * * *


その頃―――私は、現在王国の中枢部の噂にまでなっている“ウィアートル”の情報を求め、各街の教会を転々としていました。

私もかつて所属していたラプラスの『教会』―――もまたそうなのですが、こちらの世界(魔界)の『教会』の在り方もそう違いはない……そう、“横”の繋がりが“強い”と言う事だ。

それは一つの教会が得た情報を須らく上が吸い上げ、その後に『教会』というネットワークを通じて共有させる……そうしたところを見計らい私は足繁く通ったものでしたが……


「(は、あ…そうそう旨い話しはなかった―――と言う処でしょうか…)」


いわゆる『箸にも棒にも掛からない』とはこんな状態の事を言うのでしょうか、私が“ウィアートル”のを出しても『知らぬ存ぜぬ』の一点張り―――まあそれが嘘偽りで言っている様なら私の“闇”の権能を用いて看破みやぶる事は出来るのですけれどね……けれど看破みやぶることなんて出来はしない、なぜならそれが真実なのですから。


しかしながら、あまり目立つような行動は差し控えるべきでした、それと言いますのもどうやら私が例の“ウィアートル”の事を聞いているのを、あまり性根の好くない者達に見られていたものと見え、そうした風体の者達から……


「よおよお、オレ様達あんたが探しているヤツの事知ってるぜえ~?」

「はあ…………ですがお構いなく。」

「おいおいおい、そりゃねえだろうよお?あんた聖職者ならオレ様達の様な信心深い者のことをお疑いなさるんでえ~?」

「あの、ですからそう言う事は…………」


これが本当に、彼らの善意から申し出ていることなら私も感謝すべき処なのですが、明らかにこの連中の視線……私の発育が良い身体の部分を凝視しているのですよね。

ですから丁重にお断りをしている処なのでしたが―――…


「全く、仕方のない人達ですね。」

「ああん?なんだてめ……手前ェは―――こいつと同じ聖職者か?」

「はい、その通りですが。 それよりもあの―――そちらの方ひどく嫌がっているように視えるのですけれど?」

「へっーーーへへへ、そいつは見解の相違ってやつよぉ、知らねえか?『イヤよイヤよも好きの内』―――ってなあ?」

「(……)そう言われてみればそうですわね、わたくしが愛して已まない旦那様も、最近になってわたくしを避ける傾向にあるのですが―――それも今お前が言っていた理屈もまた道理となれば……はあぁん♡そぉいうことだったのでぇすねぇえ?ようやくわたくしの一途な想ひが、わたくしの旦那様に通じた事の証し―――とそう思えば!!」

「えっ?えぇっと……あのーーーもしもし?」


ええっと……あのーーーー私、今なにを見せられているのでしょう?一心に自分の愛を説いているのは判るのですが……今この人―――私と同じ(様な)聖職者の方、明らかにご自分の『旦那(夫)』の事を言いましたよね??

な―――何と言う事でしょう!妻帯者でありながら神の教義を説くとは……不潔、不可解極まりません!

そうした私の疑念もさることながら、次の瞬間この一帯が不穏な空気に包まれて行ったのです、それも……私と同じ(様な)聖職者の方のによって。


「しかぁ~~し…今お前どもが言った事が嘘偽りならば―――この掌中にある石くれの様に粉々に砕いてやるのDEATHわあぁ…」(ニタリ)


「き、きゃああーーー!お、お助けええ!!も、もう二度と付き纏いませんからああ~~!!!」(逃走)


あら……まあ?結構厳つい人達でしたのに、急に乙女の様な叫び声と共にこの場から立ち去ってしまいましたとは―――それにしても迫力ぅ~~。

私もつい先達せんだってにリルフィーヤ様とそのお仲間に対し“訓練”をしましたが―――その時の私、今のこの人の様な形相していませんでしたかしら??


         * * * * * * * * * * *

そんな事よりも―――…


「全く、他愛のないと言った処ですかね。 それよりもお前―――つかぬ事をお伺いしてよろしいかしら?」

「は?はあ……」

「こちらに“ウィアートル”なる者の噂―――ご存じありません?」


えっっ―――この人も私と同じ存在を探している??それにしてもどうして……いま王国でもその存在の事を知っているのは一部の人間に限られている……それを、“彼女”が探している???

ここは本来ならば一時的にお別れをして事の次第をガラドリエル辺りに報告するべきなのでしょうが―――なぜか私はこの時、それとは全く違った方針を取っていたのでした。

「その事なのですが……奇遇ですね、私もそちらの方をお探ししているのです。」

「なんと……それではこのわたくしと共に探しません?」

「ええーーー是非にとも!」

何と言う事でしょうか……こちらの世界でも“ウィアートル”を探している者に出くわそうとは。 う・ふ・ふ・ふ・ふ……それにしてもようやくこのわたくしめにも潮の目が来たと言うもの―――そしてこの功績を以て“あの女”めに距離を空けさせてくれるのでぇすわああ!!

それにしても“ウィアートル”、こんな世界に逃げ込んで何を企んでいるのやら、あの『リッチー』めからの指令によれば激甚災害級の魔法を連発して“彼の地”の生態系や自然を破壊してくれた―――とのことでしたが……もしかすると“雌伏”?潜んで隠れ密かに力を蓄えた後“彼の地”へと舞い戻って復讐を果たせる―――悪くない計画ですわね、それにわたくしどもも“彼の地”の連中には思う処もあります、ここは一つ接触した折には彼の者の事情なりを聞きわたくしどもの利となるならば一つ乗っかってみるのも悪くない……えええ、悪くありませんわあ!?

そしていつもいつもわたくしどもを馬車馬のように扱き使いやがるエンジェルやデーモンどもに一泡吹かせる……クフフフ、なぁーんとぐっどなあいでぇーあなのですわぁあ?!


(*ちなみにではありますが、この人の企み……一応モノローグみたいになっていますが、その極悪なまでの表情や雰囲気で既にクローディアにはバレバレ……とだけ言っておこう)


       * * * * * * * * * * *


「久方ぶりでありますかなあーーー姉さまと野点のだてを一献傾けるのは……」

「どうぞ―――」

「(…)ふむ―――胃に染み渡るようだ……好い御点前おてまえで。」

「それにしても、彼の存在に突き当たる前に“こんな事”になろうとは。」

「およしなされ、折角の風情というものが台無しになりましょうや。」

「ふふふ―――あなたも言うようになったみたいね。」


今現在拙それがし達は血の臭いが充満する場所にて野点のだて―――茶を一服ててもらい一時ひとときの安らぎを得ている、しかしながらそう……『血の臭いが充満する場所』とはまさにその通りで、それがし達姉妹は一党が受けた指令『“ウィアートル”なる者を探し出し連れ戻す』よう言いつけられていたのだが、捜索目標に辿り着くまでに“悪漢”“無頼”の者に遭遇し、つい先刻総てを始末し終えた―――その後の出来事だったのだ。



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