第12話 7番目の“姉”

魔界のタウンの一つである『リントブルーム』―――西部地帯最大の都市である『コンロン』から西北西に10km離れたこの街から、更にそこから北北西に離れる事25km地点にある教会―――『ウィーグラフ教会』。 その教会には“元”ラプラスと言う異例の経歴を持った女性の『司祭』がたった一人で勤めていました。

『彼女』の勤め―――500年前にあったとされるラプラスと魔界との大戦、そこでしなわれた多くの魂を鎮める為、日夜を問わず一心に祈り上げる…そうした者にこの度スゥイルヴァン女王自らが呼集を掛けた―――その為の使者が……


「あのーーーーすみませーーーーん!」


「はい、どちら様でしょう。」


「(この女の人が……元はと言えば私達の敵だったなんて―――)」



その肩書、『“元”ラプラス』の一人と言う事を知らなければ聖職者然としている身形みなりを見て、その優しそうな……美しい女性の司祭に息を呑んでしまいそうになるリルフィ達。


けれど自分達が何の目的で訪れたのかを知らせないといけない―――



「あの、実は……またあなたに協力をお願いしたい―――と。」

「あなた達に協力を?またどうして……」

「非常に言い難い事なんですけど、またあなたが元所属していたラプラスと言う者達が―――」



その言葉―――その禁忌の言葉を口にした途端、『彼女』自身が持つ“闇”の部分がザワつき始める……



「(ヒッ!?)~~~~。」

「続けて―――」

「こ、こういう事を頼むのは不躾だとは思うんですけれど……『あなたの力が欲しい』―――と、私のお母様が……」

「そう言う事でしたか、また性懲りもなくこの様な事をたくらむ手合いの者が私共の平安を騒がせるとは……いいでしょう、委細承知いたしました。」

「えっ?い、いいんですか?元はと言えばあなたの同郷人を―――」



もう―――は、『彼女』の中では切り離された話し……

だから、蒸し返しはNGしてはならない―――



「だから、なんだと?確かに私は元はラプラスです、ですがそのラプラスより“不要”の烙印を押された身、それに私は一時いっときラプラスから謂れなき暴力に晒された事がありました。 本来ならば―――私は……ラプラスである私は、その時死を受け入れても不思議ではなかったのです。 けれどそんな私を、エニグマ様は必要とされて下さいました。 リルフィ……と言いましたか、あなたの母親の側にエニグマ様はいませんでしたか。」

「はい―――いましたけど……けどどうしてそんな事が。」

「あなたは非常によく似ています、私のしゅであるエニグマ様と深い絆で結ばれた【神意の射手】―――シェラザード様の若かりし頃と。 それにそうですか…ではエニグマ様は何か言っておられましたか。」

「『御心のままに』―――と。」



その瞬間、“闇”が纏わりついた―――純白の聖の衣は途端に漆黒の法衣となり、500年も昔その『神聖』な術をもって数多くの傷付いた者達を癒した『闇の司祭ダーク・プリースト』の再臨である。

その変わり様を見てリルフィは……



「あんなにまで純白だった法衣が―――」

「ですが、私が修めた神霊術ホーリー・アートまではその効力を失っておりません、言わばこの『漆黒いろ』こそは私が崇めるエニグマ様への畏敬と忠誠の証しなのです。 そしてこれから先はこの『クローディア』があなた達の癒し手と成り得ましょう。」



その闇の司祭ダーク・プリーストの名こそ『クローディア』、ただ彼女を仲間に招き入れたと言うところまでは簡単―――なのでしたが…

ならばなぜこのクエストの難度が“SS”なのか―――



「あの……不思議に思ったんですけど、クローディアさんをお仲間に出来たと言う事は……」

「そうだよね、言われてみれば簡単すぎる、私も以前は難度Aのクエストを解いた事があるけど、こんなには簡単じゃなかったよ。」

「ウフフフフツ、あの方もお人が悪いですよね。」

「えっ?それってどういう意味??」



そう、『難度“SS”』と言うからには難解でないとおかしい、ただ単に対象となる人物に会って仲間に加えるだけでは高難度の条件には当てはまらないのです。

そう……つまり、このクエストには何か裏がある―――そうした事を受け今では悪い予感しかよぎらないリルフィ、そんな彼女達に闇の司祭は告げたのです。



「えっ?い、いま何と??」

「つ、追加クエストぉ~? し、しかも……」

「そのためにもこの私が付いていると思って下さい、それにこの地は竜人ドラゴン・ニュートたちの街『リントブルーム』が最近にしてあります。」



バルバリシアも……そしてリルフィも、半分泣きそうになってしまう、その『追加クエスト』の内容こそ―――

それにこの教会の最も近くにある街―――『リントブルーム』、その名を聞いて即座に気付いておくべきだった、その街こそは竜人ドラゴン・ニュートたちの街、その周辺には『竜人ドラゴン・ニュート』に成り損ねた『ドラゴン』達の巣窟。

しかもこの時クローディアから告げられた『追加クエスト』の内容こそ、その身を藍黒の鱗で覆われた―――『暗黒の真竜ダーク・ウィルム』…このドラゴンを本来討伐するのであれば難度は『SSSトリプル・エス』のはずなのに、Sが一つ取れていると言う事は??



「ひいぃぃっ! ムリーーーー!ムリムリムリムリムリですってええぇええ~~!!こぉんな存在、私達だけで倒せるはずがあ~~~!!!」

「そ、そぉですよ!クローディアさん!!こんなの絶対無理!何度死んだって討伐たおせるワケがぁぁ……」

「その為の私です、あなた達が何度死のうがこの私が黄泉返よみがえらせるまで。 そして同時にあのドラゴンに対しては『自己回復阻害』を仕掛けますのであなた達はあなた達の持てる最大のスキルを使いあのドラゴンを倒せばよいのです。」



早い話しが―――の、『スパルタ方式』。 何度死んでも強制的に黄泉返よみがえらせる、その事を前提にした『シゴき』だったのです。



「(道理で上手い話しじゃないなあ―――とは思ってたんだけど……)」

「(ですよねえ…あっさりクリア出来て、“ホッ”としていた頃の私を叱ってやりたいです。 それにしてもリルフィ様は凄いですよね、何度も挫けずあのドラゴンに立ち向かって行けるなんて。)」

「(いやあ~実は私あの時及び腰だったんだよ、だけど訳の分からないまま突っ込んで行っちゃって―――)」

「(あ、それ多分―――と言うより絶対〖狂戦士化バーサーカー〗が付与されたんだと思います……だってぇ普段の私だったらあんなのに突進していけないですもん~~)」



どうにか、自分達だけでは敵わない強敵を自分達だけで討伐する事が出来た―――ものの、一体どれくらい死んだものか。

しかしその度毎たびごとに強制的に黄泉返よみがえらされ、あまつさえ〖狂戦士化バーサーカー〗を付与され、何度となく諦めることなく立ち向かっていった成果かまさにそこにあったのです。



         * * * * * * * * * *



高難度のクエストを見事クリアし、生還を果たしたリルフィ達―――けれど正直彼女達は身も心もボロボロなのでした。

しかしそれは言うまでもなく―――



「おっ、どうやら戻ったようね―――それに…」

「お久しぶりに御座います。」

「よく来てくれたね、クローディア。 本当は……さ、静かに暮らすあんたに呼集掛けるのは心苦しかったんだよ。」

「水臭いですよシェラザード、私は隠棲する際に伝えておいたはずです。 万が一またラプラスが騒がす事があるようなら迷うことなく頼って下さいと。」

「けれどシェラはそうしなかった、そこはあなたも判ったでしょう。」

「エニグマ様……そのご慧眼、感服に仕ります。」


「そぉ~れぇ~よぉ~りぃ!私聞いてなかったよ?“あんなの”相手にするなんてえ~!」

「『あんなの』?何を相手にさせたの。」

「『暗黒の真竜ダーク・ウィルム』です。」(ニコニコ)


                …………


「(んっ?)私聞き間違えたのかしら?『暗黒の真竜ダーク・ウィルム』って聞こえたんだけども……」

「『ドラゴン』の中でも最上位種ですな、どれどれ―――……ふむ、基本能力値が軒並み以上に底上げされている、しかも新たに耐性のスキルを獲得する等……」

「と言うより、相変わらず無茶しますよねあの闇の司祭ダーク・プリースト。」

「まあ~『強制黄泉返り《ゾンビ・アタック》』、私達も経験した事があるもんねえ~。(笑) そのお蔭でラス・ボスのアンゴルモアに辿り着くまでめっちゃレベルも上がった事だしね。」



このクエストをクリアするまでは、まだ『初心者駆け出し』―――でしたが、クリア後は“そこそこ”(中の上)にレベルが上がっていたリルフィ達。

しかしどうやらこの闇司祭ダーク・プリーストの強烈なシゴキ《スパルタ》はリルフィ達だけではなかったようで、リルフィの母であるシェラザード(達)も当時のラス・ボスであるアンゴルモアに対峙する前に強制的に黄泉返よみがえらされた事によって最終的には彼の者を討伐たおせるまでに成れたのです。


それはそれとして―――



「取り敢えずの処の戦力としてはこれで申し分ないでしょう―――が……また私は敢えてここで『二大軍師体制』を取りたいと思います。」

「『二大軍師』……そのうちの一つは魔王軍総参謀であるベサリウスだと言うのは判るけど、あと“一つ”と言うのは……」

「はい。 この私が担いたいと思います、そして総参謀の方には公主様とウリエル様、リルフィーヤにバルバリシアに、エニグマ、ギルガメシュもつけましょう。 そしてクローディア―――あなたがこの軍団の“要”と言って差し支えありません。」

「承知いたしております―――それで、は?」

「今では既に全快復されているアグリアスに、スゥイルヴァン女王であるシェラザード、そして未だ帰って来ずの不良師匠で魔王様の脇を固めたいと思っています。」


「あのーーーササラ、あなた少し怒ってる?」

「ははは、おかしな事を言う様じゃありませんか、公主。 今の私が“少し”ぃ?あんんんのクソロリばばぁ―――いまもって帰って来んとはぁああ!」



そこでササラが打ち出した方針と言うのがさきの大戦に於いて大成功を収めさせた計略をまたも持ち出した―――それが『二大軍師体制』と言う事なのです。

とは言えその一団の構成を見ても現正規軍『魔王軍』の総指揮をゆだねられているベサリウスを筆頭に、名だたる錚々そうそうたる顔ぶれ…その中には勿論これからの発展が途上たのしみなリルフィ達も含まれていたのです。

そしてもう一つの一団が【宵闇の魔女】であるササラを中核として、【アルテミス】であるアグリアス、【神意の射手アルカナム】であるシェラザード、そして【大悪魔ディアブロ】の構成で魔王カルブンクリスの身辺警護をする―――と言う事なのでしたが……


どうやらここでササラが怒り狂っていた(“少し”ではないよ?)理由と言うのが、再びこの世界を襲いつつある不倶戴天の仇が出没していると言うのにも拘らず、未だに戻ってこない不良な師匠に大激怒ド・タマ・カチーン☆していた様なのです。



        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



そして実は―――これはササラも知る処ではなかったのですが、『第三の刃』が知らない内に研がれていたなら?

ではその『第三の刃』と成り得ていたのは一体誰なのか……その謎を解く大きな手掛かりとなるのは実はリルフィーヤにあったのです。


そう……リルフィーヤこそは?



「(久しぶりね、魔界の空気も……それにしてもあの子は元気かしら。)会いたいわ……私の妹―――リルフィーヤ。」



どこか、別の場所から戻ってきた事を臭わせるこの存在…しかもその存在自身の妹があのリルフィーヤだと言うのです、だとしたらこの謎の人物は??

それに、そう……この『第三の刃』ともなるこの謎の人物こそ、リルフィーヤの関係者―――ここで思い出して頂きたいのはリルフィーヤこそは一体なんであるのか、次代のスゥイルヴァンの国王(女王)の座を約束された『王太子』?確かにそうかもしれませんがもっと最初に語られるべき事―――それは、現スゥイルヴァン女王であるシェラザードの『第8子』…そうつまり、シェラザードには7人の兄や姉がいるのです。

だとするとこの謎の人物こそは……そう、シェラザードの『第7子』―――その名も『アルティシア』。

実は彼女には異色の経歴がありました、それと言うのがリルフィーヤ達兄姉は全員親が一緒、けれどアルティシアは違っていた―――アルティシアが違っていたのです。

そう、リルフィーヤ達7人は母をシェラザードに持ち、父はグレヴィールだった……、アルティシアの父は『異界人』だったのです。

とは言えアルティシアの事を父が違うと言うだけで辛く当たったりはしませんでした、少なくともシェラザードとグレヴィールは…けれど他の兄姉達は違っていた―――そこではやはり『父が違う』からと言うだけで暗黙的に陰湿ないじめを受けたり嫌がらせを受けたりもしたのです。

そんな中アルティシアにも妹が出来た……それがリルフィーヤだったのです。

幼い頃は他人の分別がつくものではない―――と判っていても、分け隔てなく愛嬌を振りまいてくる存在に、アルティシアが気にならない事なんてありませんでした。



他の兄や姉達は自分の事を血が違うからと忌み嫌ってくる…けれど、この子は―――この子だけは血が違うからと差別をしてこない……ならば、自分がしてやれることは何だろう……



そう自分に問い掛け、『この妹を護ってやろう』という結論に辿り着くのにそう時間はいりませんでした。

それに、例え自分達が子供であろうが、関係なくその事は降りかかってきました。 そう―――自分達はエルフ族である前に、その『王族』だと言う事。

しかも自分達が産まれた家は、今やこの魔界の王に準じたる権力を持ち合わせる超大国の『王』―――

まだ産まれたばかりのリルフィーヤやアルティシア……その彼女達に近い兄姉2人はまだしも、上の4人は成人しており『その事』をよく理解していました。


そう、『誰が一体国王(女王)の座を継ぐのか』―――


ただ……シェラザードは自分の目が黒い内には後継問題など後回しにするつもりでした、けれども望んではいながらも望んではいなかった者が産まれてきてしまった―――そう、リルフィーヤが。

リルフィーヤを紹介する上で、どう紹介されていたかお忘れだろうか……

そう、リルフィーヤはその誕生から多くの人に認められた……【宵闇の魔女】から、【“水”の神仙】から、【“地”の熾天使】から、【“闇”の権化】から…

リルフィーヤの母シェラザードより、その大いなる権能≪グリマー≫を授かったとして―――とどのつまりリルフィーヤはその誕生の瞬間からスゥイルヴァンと言う超大国の次代の王になる事を運命づけられてきたのです。 けれどもその事を他の兄姉達が面白かろうはずもありませんでした、いずれはリルフィーヤを巡って醜い骨肉の争いをするかもしれない…そうしたシェラザードの不安はありました。

そこでシェラザードは、リルフィーヤの身の安全を兄妹達の中では唯一血を違わせるアルティシアに託したのです。


それにしてもなぜ……なぜシェラザードはアルティシアに―――?




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