第11話 魔王との接見

“捜索”の対象者は、やけにあっさりと見つけられました……というか、見つかっちゃってしまいました。 しかも、『ありへな~い』姿や恰好をして。

だから、見つけてしまった弟子は、額に青筋を浮かべながら―――?


「し……師匠ぉ~? にゃにをしてるんですか……」(怒)

「ん~~~~~?」

「『ん゛~~~?』ぢゃないですよねぇ……大体魔王城ここへは何をしに行くと仰っていましたっけ?」(怒怒)

「ふ~~~む、はて?何であったかなあ?」

「ほ・ほ・ほぉぉ~~う?それより師匠…いつもの服(ゴスロリ)はどうされたんですかあ?」(怒怒怒)

「ああ、それについてはあやつが全部洗濯に出してしまってな―――ゆえに…」

「だからと言ってぇ!ベンチに寝そべってビキニの水着の上からアロハ引っかけて、トロピカルサワー呑みながらサーフボードを立てかけての、おまけにビーチのローケーション……っって!あんた最初っからバカンス満喫ナゥ遊ぶ気マンマンじゃないですかあーーーーっ!!」(怒MAX)

容疑者は、自分にかけられていた容疑を否定するどころか、なにゆえに自分が怒られているのかも判っていないような状況でした。

そんなものだからか、問責をするにおいても次第に熱を帯びてしまっているみたいで……

「これこれ、声が大きいよ。 少しはご近所に迷惑がかかると言う事を考慮しなさい。」


「(あっ―――この人、城内を案内してくれた人だ。 綺麗な人だなあ……今の魔王様ってこんな綺麗な人を召し抱えているんだ。)」

するとここで先程からのササラの怒鳴り声をなだめる声が、その声の主こそは【大悪魔ディアブロ】ジィルガが(くつろいで)いる場所まで自分達を案内してくれた、この魔王城に勤務をしている美人過ぎる召使い《メイドさん》……


―――かと思いきやあ??


「我が姉弟子……あなたが厳しくしないから、師匠も堕落だらけきってしまうんDEATH!」

「本当に、怪しからん奴だ。」

「師匠は黙っててくださいぃぃい~~!それより念のために聞きますけど……本来話し合われるべき案件は話し合われたのですよねえ?」

「ああ?話し合ったよ、今後のラプラス共の対処についてだったよね。」

「ほ、ほ、ほぉ~~う…それでどのくらい話し合われたんです?」

「ん?30分くらいで終わったけど?」

「30分……が、どおーーーしたら50年間も戻ってこないんですかあ~~?!」

話し合うべき事項はものの30分で終了―――で、あるにもかかわらず、50年と言う歳月『梨の飛礫つぶて』であったことに、ついにブチ切れてしまった【宵闇の魔女】。


こうして、荒ぶる魔女と大悪魔の『魔法大戦争』は勃発する事となり――――


「ひょえええぇ~~~!風や雷や炎だけならまだしも、隕石まで降っちゃってますうぅぅ~~~!!」

「ててててて言うかあ~!なぁんでこんな事になっちゃってるのお~??!」

「全く―――仕方のない人達だねぇ、一体誰の家で騒いでいるんだと…」(←まるで他人事ひとごと

「一応、事態を収めさせるために早めに来るように伝えました。」

「うん、ありがとう。 それにしても…あの子も中々ストレス発散させる機会がないから、まあ良しとしてあげようかな。」


「(ん~~~?なにかおかしいよねぇ……確かここは魔王様のお城のハズなのに……なのにどうして召使いの一人であるこの人がそんな事を??)」


リルフィーヤは母であるシェラザードと『母子おやこ喧嘩』をやらかしているので、でならある程度の事は判る―――判る……の、でしたが。


師とその弟子の『魔法大戦争』は、ヤヴァすぎる……


実際、今もバルバリシアが実況していた事はどこも盛った感じではなく、互いに強大な魔力で強力な魔法を主体とした『天変地異災害レベル』の応酬であった事に少々青くなってしまったようでしたが……それをエニグマはもとより美人過ぎる魔王の召使いメイドも動じないとは??


しかも―――更には…


「―――あらあら、戦争映画の観賞ですか?」


               ――魔王様――


「(え?)はい??あの……お母様、今なんて??」

「い……今―――聞き違いじゃないとすれば、なんだかとんでもなく偉いお方のお名前が聞こえましたんですけどぉ??」


「やあ―――シェラザード。 どうやら我が師匠の悪企みが、真面目に過ぎる妹弟子に知られてしまったみたいでね。」

以前言っていたように、自分の上司でもある魔王に二・三の報告がある―――からと、一旦スゥイルヴァン城に戻っていた自分の母親(女王陛下)が、不意にある方の名を呼んだ。 それも、リルフィーヤやバルバリシアが『美人過ぎる魔王の召使いメイド』だと思っていたひとに向かって。


しかし、そう―――自分達が認識を違わせていた人物こそが……


「あ、あのぉ~~~ま、ましゃかあ?」

「ん?どうしたんだい、私の顔に何かついているのかな?」

「(ピョェェ~~!)ままままま……魔王様ぁ!!?」

「あ、もしかしてこの魔王城に勤務する召使いメイドか何かと思っちゃってた?」

「お゛っ!お母様!それ……(しいぃぃ~っ!!)」

「まあこの方、魔王“業”以外では意外と普通ですからね。」

「ま……魔王―――“業”って、それお仕事の一つか何かのように聞こえるんですけど?」

「ま、ぶっちゃけちゃうと、私みたいな為政者だしね。 それもこの魔界全体の。」

『人は見かけによらないものだ』―――と、リルフィーヤにバルバリシアは思いました、それほどまでに正体を明かさなければ近所に住んでいる気立ての好いお姉さん―――だったのですから。


―――と、それはそれで良かったのでしたが……


「あの~~それはそれでいいんですけれど、あの二人の喧嘩―――益々激化してません?」

「まあ言った処で、通常空間とは別物だしねえ?」

「はい?? 『ここの空間、通常空間とは別物』とは、どういう意味なんです?」

「ん~~~詳しい理屈までは判んないんだけど、ここの区画だけはどこか別の次元と繋ぎ合わせているんだって。 だから、ササラやジィルガ様みたいにド派手にドンパチやってても容認されてる―――ってワケなのよ。」

「それに一時期はとある兵器の実戦演習場だった―――とも言われてたくらいですしね。」

「へっ―――兵器??」

「そんなものの“実験場”だったなんて―――…」

「これこれ―――そんな500年以上昔の話を蒸し返して、どうしようと言うんだい。」


「(え゛っ―――て言うか、否定しなかったよ、この人……)」

「(『狂乱の科学者マッド・サイエンティスト』―――なのでしょうか??)」


一部で不適切な表現があったみたいでしたが、自分達以外は笑いながら話し込んでいる……それに母から差し出された報告書にも目を通している―――そんな表情を見ていると、とてもそんな“狂気”の発想が出来る人とは思えなかった……


それに『魔法大戦争』の方も一段落したものと見え。


「気が、済んだかい?」

「ええ……まあ―――まだまだ言い足らない部分はありますが、その総てを吐き出していたらキリがありませんので…」


「(うはぁ~~こりゃ根が深そうだ…)」


「フム……まあ仕方あるまい―――今回のバカンスはここまでにしておくか。」

「(ケふっ!ケふんっ! け……煙たいですぅ~~!!)」

「あ゛・の゛!一応ココ喫煙禁止区域なんですケド!?しかも未成年者2人もいるというのにぃぃ…」(ガミガミ)

「相変わらず頭の難い弟子ヤツめ、そんな事では老けるのが早いぞ。」


「は~~~もうすぐ6000歳に手が届くってのに、『少女』の姿なままのお人の言う事は一味ちがうわぁ。」(ケラケラ)

「(え゛っ??)6……000歳?ってえ―――その美少女さん(ジイルガ)が??です???」

「ん~?まあ一応ワレの身体の育生は100歳で止まっておるからな。」

「いやあーーーでも、そのお声はどこか渋く皺枯しゃがれたおじ様のような??」

「気を遣う事なんてありませんよ、遠慮なく言って差し上げたらいいんです…『ロリばばぁ』と。」(フンッ)

「ほほう…どうやら目上―――してや師に対しての口の利き方がなっておらんようだなあ?【黒キ魔女】よ。」(ワキワキワキ)

「あらあら、我が師ともあろうお方が、もう耄碌もうろくされたのですかあ? 今の私は【宵闇の魔女】デ・ス!」


「……そろそろ止めないと、怒るよ?」(ニコやかぁ~)


「(そんな『ニコやか』な顔して『怒るよ?』だなんて…)」

「(迫力満点です……私、少しちびッちゃいました……。)」


またもや『魔法大戦争』の再開か―――と思われたようでしたが、その相好を崩さないまでもの一言に、両者は振り上げた拳を収めさせざるを得なかったようです。

それにこの様相を見させられ、ようやく2人(リルフィーヤとバルバリシア)ともこの女性こそが『今代の魔王』である事を認識したのでした。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ある時機をもって魔王の下に集いたる英雄達―――

【宵闇の魔女】【“水”の神仙】【“地”の熾天使】【黄金の騎士王】【神意の射手】【“闇”の権化】―――しかしこの構成を見ても判る様に火力は高め、つまり裏を返せば回復役がいないのです。


そこで―――


「うーん、毎回思うんだけどさ、私達って本当、回復不要……って言うか、回復しちゃう前に火力多渦オーバー・キルで叩きのめ《ブッコロ》すのが浸透しちゃっているのよねえ。 まあその辺はシルフィ呼べば何とかなっちゃうんだけど。」

「あなたの『身代わり』がいなければ立ち待ちの内にあなたの国―――引いては魔界が破綻しちうわよ。」

「ナンダヨネ~~あいつも長年『身代わり』させてきたから、ほぼ私に近しいスキル兼ね備えてきちゃって、嬉しい事半面、哀しい事半面……てやつかな。」

「彼女にまかせっきりな処もあったからね~だからあなたの方でも自由に動けた―――未だに“現役”で冒険者の先端走っているって言うのも…」

「まあ逆を言えば、『ご本人様不要論』も出てくる始末だしなあ?アウラも言っていたぞ、『もういっそこのままシルフィを女王に仕立て上げてみては』と、な。」

「あんなろ~~だったら私のアイデンティティはどこへとやりゃいいのよ!」

「けれど、そんなシェラさんのお蔭でラプラス共の動きを抑える事が出来ていた―――違いますか。」

そこでの話題はスゥイルヴァン女王であるシェラザードの『身代わり』、『影武者』としての一役を担っているシルフィについてでした。

今でこそ『身代わり』『影武者』を永年にわたり勤め上げた事により、女王本人であるシェラザードと遜色ないスキルを保有したシルフィでしたが、そんな彼女の経歴を辿れば、元は一介の冒険者にすぎにかったのです。

現在から500年ほど前には、【赫キ衣の剣士】【鬼道巫女】【千殺】【黒キ魔女】が所属していたクランに所属し、回復役の一翼を担っていた……ここにシェラザードは目を付けたのでしたが、今では冒険者を引退し『身代わり』『影武者』を本業(専任)としていた事から、もし彼女を失いでもしたら『魔界が破綻をする』―――そのササラからの指摘により、その案は不採用となったのです。


それよりも……不足している回復役をいかにするのか―――…


「うーん……やっぱここは『彼女』に頼むより外はないか、私としちゃ“貸し”を作るようで心苦しいんだけどね。」

「シェラ……もしかするとあなたが言っているの、『あの者』の事?何を気兼ねする事があるの。」

「いや、気兼ねするだろうに。 だって『彼女』、元々こちらの世界の人間じゃないんだし……」

「何を言ってるの。 『あの者』はこの私の“勧誘いざない”を受け入れた―――『あの者』はこの私なしではいられない……そうした“じゅ”をその魂の深き処に食い込ませたのだから。」


「(……)あのぉ~~先程からお母さまたち、何の話し合いをしているんです?」

「真面目な話をするとな、魔界にいるんだよ―――今オレ達が感じている回復役の不足分を、補って有り余る実力を保有せし者の事を。」

「えっ……それではどうして―――」

「(はァ…)その者の存在が―――元は『ラプラス』だからよ。」

「ラ……ラプラス!?で、では敵―――が?どうして私達の魔界に……」

「その者は、味方であるはずのラプラスからも見限られた、謂れなき罪過に問われ背負わされ―――そうになったところを、エニグマの“勧誘いざない”により今はエニグマの影響下にある。」

「(はっ!)もしかすると―――あの時の“闇”の誘い……!!」

ハルピュイアのバルバリシアは、以前に自身を否定しようとした際に“闇”に潜みし者―――エニグマを呼び起こし、彼の者の侵蝕を受けた事がありました。

けれど今現在ではエニグマの影響下に置かれてはいない……と言う事は、侵蝕されるまでに『ある存在』―――いわゆる『グリマー』の権能を有する者によって救われたからに他ならなかった……その事を思い出していたのです。

しかしこの自分以前にエニグマからの“勧誘いざない”を受け入れ、元は敵であるラプラスから勢力の鞍替えをした者がいた―――けれどもリルフィーヤの母であるシェラザードすらも『頼るしか外はない』―――とした、その人物に……


「(む゛~~~それにしてもお母様ったら無茶言うよなあ。 『そうだ…それだったら『彼女』にわたりをつけるの、あなた達でやってみなさいな。』―――ってえ~~。 まあ…お母様が頼るほどの人だから実力的にはまず問題はないんだろうけど―――会う人って“元”とは言えラプラスなのよねえ?う゛~~~上手く行かなかったらどうしよう……)」


未だ『駆け出し』とも言えるリルフィーヤ達に『彼女』への協力要請を“依頼”したのです。 そう、これは依頼クエスト……受けて成功すれば見合った『経験』や『報酬』が手に入り、行く行くは更なる上を目指すもよし、“財”を蓄めるもよし……の冒険者冥利に尽きるものの、もし失敗すれば最悪で死に至ってしまう―――そう言った明暗分かれる処となるのです。

そんな依頼クエストを、リルフィーヤの母であるスゥイルヴァン女王の名の下、リルフィーヤ達に対して発注したのです。

「えっ……ええええ~~~っ!? わ、私達に??」

「そうよ。 冒険者リルフィ、そろそろあなたも高難度のクエストを受けた方がいいと思ってね、まあ~私達の時よりかは“S”は少ないけどさ。」

「よく言うぜ。 あの依頼書、訳も分からず手に取ったのはお前だったじゃないか(苦笑)」

「ホント―――『あんなの』を受けて、私達も『オワタ』と思ったものだわ。」

「うっぐ…うるっちゃあ~い!そこ!!」

「まあとは言え、私が発注した『無理クエ難度SSS』を、それも裏条件でクリアした人達はあなた達が初めてでしたからね。 思えばそこから今に至る“えにし”を手にする事が出来たのですから、当初私が設定していた報酬以上のモノを得られた―――そこを思えばこそ……ですよ。」

「【黒キ魔女】とおそれられていたササラが、あなた達のPTにいたの……ってそう言う理由があったのね。」

「まこと、『えにし』や『絆』の繋がりとは、未だに我々でも解明できぬ未知なるモノではありますからな。」

最高難度である“SSSトリプル・エス”ではないまでも、それに准ずる“SSダブル・エス”―――しかも自分の母はかつて最高難度を仲間達と紐解いた事がある、そしてこれを“機会”にと母自らが愛娘であるリルフィーヤに仲間達だけで与えられた高難度のクエストを解いてみせるよう依頼をしたのです。


       * * * * * * * * * * *


その目的地―――魔界にあるタウンの一つ『リンドブルーム』より、遠く離れた地に“ポツン”と建つ小さな教会……『ウィーグラフ教会』、その教会には一人の女性の『司祭』がいました。

この女性の『司祭』……これまでにもリルフィの母やその仲間達が口を揃えて言っていた事―――“元”はラプラスの一人……だったと言う。

それが謂れなき疑いを掛けられて筆舌し難い仕打ちをその身に受けた―――そうした精神が弱まった所に“エニグマ”から付け込まれ、程なくして神に仕えていた聖職者は闇の色に染まってしまい、しかしながらその身に修めさせた『神霊術ホーリー・アート』、『治癒』や『回復』『蘇生』は失われてはおらず、さきのラプラス達との大戦に於いては最前線にて傷付いた者達を癒す『癒し手』ともなりラプラス達の脅威ともなり得ていたのです。


けれどラプラス達との決着がつくと『彼女』は何も言わずにその身を引いた―――…

それはどこか、彼女自身が祝福を受ける立場にない事を理解していたからではないだろうか。 それが今では、こんな人里離れた地にて亡くなった多くの生命達の魂を慰めているのだと言う。

そんな『彼女』を……、かつての彼女ラプラスの相手をさせようと言う―――こんな依頼に『彼女』はどう言った反応を示すものか……果たしてリルフィ達は無事、このクエストをクリアする事が出来るのでしょうか。



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