第10話 この【大悪魔】にバカンスを!!

女王陛下の導きにより、新たなる契りを交わした『“闇”の申し子』―――【エニグマ】。

その事により新たなる『グリマー』としての権能をつちかい始めなければならないリルフィーヤにとって、これまでに無い強力な身辺警護が約束されたと言っても過言ではありませんでした。


その事実を―――遠く離れた地にて知覚しうる者が……


「(あの人が……そう言う事ですか―――ならば私の方もご挨拶に伺いに行かなければなりませんね。)」


例えその現場に居なくとも、使役する“使い魔”により、魔界全土の出来事を掌握できる者。

黒豹の耳に尾―――瑠璃色の双眸、師より賜った宵闇のローブをその身に纏い、その前身を【黒キ魔女】―――改め【宵闇の魔女】と成った者は、その身を黒い霧と化すや霧散し、立ち待ちの内にマナカクリムへと現出をする…それも支配下に置いていた眷属コウモリと共に。

その事に一時マナカクリムは騒然としました。 『転移魔法』ではない、また『移動魔法』でもない、まさに外法にも通ずるモノの行使によって現出したる者に……


「な―――なに、あれ……無数のコウモリから人……が?」


魔法を介さず多くの眷属と共に現出を果たす―――それは、魔法のことわりからも外れた、まさに魔族離れした者の成せし業。

黒き宵闇色をした衣を身に纏い、膨大な魔力を消費もせず、黒豹人の最高位の魔導師は契りの場に現れたのです。

皮肉にも―――不覚にも―――そして不幸にも、その現場には国家最重要人物―――いや、この魔界に於いても最重要の要人が2人もいる。

もしこれが、何者かが意図したはかりごとならば、最大の危機こそは今ここにある―――


「(……)なんだ、遅かったじゃない、ササラ。」

「とは申されましても私、〖昂魔〗の代表取締役をいますので。」


「(…――――――はい?) ええ~~~っとぉ、あのお~~~?」


「それにしても久方ぶりね、いつ以来になるのかしら。」

「そう言うあなたの方も現世こちらへと出てくるのは幾年いくとせぶりになりましょうか。」


「あ……ああああああの~~~こ、こここここの方―――」


「んっ?ああ紹介がまだだったわね、こちらは【宵闇の魔女】ササラ、現在では〖昂魔〗を取り仕切る『代表取締役』に収まっているわ。」

「【宵闇の魔女】ぉ?! 滅茶苦茶有名人じゃないですか!!」

「それよりも大変よねぇ…あなたの“上”の人、今では滅多とハーヴェリウスにいないというじゃないの。」

「その事は持ち出さないで下さい―――クシナダ…それに『いない』と言う口実も―――」

あいつらラプラス共を懲らしめる~って事で、“あの御方”と日夜談義を交えてる~~って話しだけどねえ~。」(ケケケ)


「あ……あの?お母様??」

「あの含み笑いを見た処……普通じゃない―――ですよね?」


「そうなのよ!ねえ聞いてくれる?」(力説) 「えっ?はっ、はい……(と言うより顔が近い…)」


その人物こそは、以前まで【黒キ魔女】を“”乗っていたササラでした。

しかし今は魔界に於ける“三柱みつはしら”の一つである〖昂魔〗を前任者から任せられるまでに成長し、ある不条理を押し付けられていたのです。

その不条理こそが『丸投げ』……しかもその事情の発端を女王が投げ掛け、娘の後見人となった者が乗っかってしまった事で、近くにいたバルバリシアに息が吹きかかるまでに最接近??

しかも―――ササラは『黒豹』……バルバリシアは『鳥』とくれば?

つまりバルバリシアはと、自分の身の危険を感じてしまっていた??


「(えっ―――あっ、これ、私この人に食べられちゃう??)」


それは自然の摂理とも言うべきか……『捕食者』(黒豹)と『食肉』(鳥)の相関で捉えた方が分かり易いか、その事でバルバリシアは怯えてしまっていたのです。

……が―――?


「私ったら優秀で有能過ぎたから、師匠から〖昂魔〗の“長”としての業務を全部押し付けられちゃってえ~~~(鮫々) ねえ、ちゃんと聞いているの??」

「あ~~~その辺で止しといてあげなよ。」 「シェラさん?なんて無情なぁぁ~~~」(えぐえぐ)

「そりゃまあーーー判るよ?その愚痴っていつも私らが聞かされてるヤツだしぃ。 だとしてもだよ、その子に対してはちょっとキツいんじゃないかなあ~~~。」 「まあ、鳥の獣人ですしね。」

「鳥??―――あなた、鳥なの?」 「は……はひ、おっしゃる通りでひゅ…」(ガクブル)

「あのおーーーそれって何か関係があるんですか?」 「え?いやまあーーー黒豹つったら、鳥をバリバリ喰っちゃうしなあ。」

「(……)ああああ~~~ッ!!」


自分の身の上話(主に不幸な)を聞いてもらいたいが為に―――と、涙、涙無くしては語れぬ告白は、それはそれはどこかしんに迫るモノはあったようでしたが、いつまで経っても自分に対しての脅えや警戒の念は払われないので、どうにか解こうとはするのでしたが……ついぞ自分の身の上話(主に不幸な)を聞いてもらおうとした者の正体が分かるや否や??!


「そ……それより今すぐに形態変化フォーム・チェンジをなさいな―――」(ふんスふんス) 「えっ、あっ?で……でもお~~~」

「大丈夫…………食べないから、ね?」(ギラギラ) 「は……はひィーーー判りまひた……」


「(いやーーーて言うか、そんなギラついた目をして言われてもなあ……)」


最早『俎上そじょうの魚』と化してしまっているハルピュイアに選択の余地は残されていないのか、泣く泣くバルバリシアは鳥の獣人としての姿に形態を変化―――したのですが……?


「あああっ…鳥!!さぞかしこの羽毛は、私に安らかな眠りを……与えてくれるでしょ…………ぉ」(すやァ~zzz)



                 は?



「えっ?この人……わざわざバルバリシアに形態変化を迫ったの―――って…」

「ふええええ~~~抱き付かれてしまいましたあ~~~」 「けれどまあ、なんて幸せそうな寝顔なんでしょうね。」 「まあ~【大悪魔】サマからの無茶ブリに耐え、ここんところ寝不足だって言ってたのは、聞いた話しではあるしねえ。」

「お母様?あの…それって知っててわざと言いませんでした?」 「あっるぇ~?私とした事が、ついうっかりーーーごめりんこだニャン☆」(テヘペロ)


そう、ササラは何もバルバリシアを襲う食べる為に形態変化を促したわけではありませんでした。

鳥は、その肉は美味ではあるものの、その羽毛は健全たる安眠を担保できる極上の品―――とくれば、一刻でも早くその羽毛の塊を抱き…くるまり…深き永久とこしえ睡眠ねむりに堕ちて逝きたい……

そうした欲望は『不眠』『悪眠』に悩める者誰しもが持ち得たモノでした……が、そうした事を知っておきながらも敢えて言わずにおいた自分の母親の底意地の悪さに、しかもその謝罪をしている態度もどことなく自分のイラ値を最大限に増幅させてくれる人(“自称”ちゃんねw)に似通っていた為―――


「お゛っ―――母様かあ~サマっ!あんたって人は!!」 「おっ?やるかあ?久々に♪」

「あのぉ~~この状況、私はどう理解をすれば……」 「本来ならあの子(リルフィ)の立場は私の役回りだったのに、少し寂しいわ?」


凄絶な母子おやこ喧嘩は始まったばかり―――と言うより、止める者が最早その場にはいなかった? しかもその事が出来ると思われていた実力者(エニグマ)も観戦モードに入ってしまうし……してや自分は生きている抱き枕にされてどうにもできなかった。(と言うよりバルバリシアは戦闘は専門外なのだが)


果たして壮絶なるエルフの母娘おやこ喧嘩の行方たるや―――果たして?!!


「……。」(キュゥゥ~~…)

「ヌゥワッハッハァーーー!今回もぉ~私のぉ~勝ちいぃ~!」


「(うわぁ……女王サマ、大人気おっとなっげなぁ~い)」


所詮は、駆け出しの冒険者―――と、冒険者を極めてしまった者のレベルの差か、勝負の行方は瞬くの間についてしまいました。(とは言っても……実の我が娘に対しても容赦のない親って一体……)


母であるシェラザードにのされ、伸びてしまっているリルフィの傍らで介抱をしているバルバリシアは、ゆえにこそ口に出してしまうのです。

{*ちなみに、未だ以てササラに抱き付かれたままでいる}


「あの……ご自分の娘であるリルフィ様に対しても容赦のない女王様……って、もしかして魔王様?(…ではありませんよね??)」

「ん~~?まあこの娘を狙うのは討伐クエストレベルの魔獣よりも手強かったりするからね。 だからこの私が稽古をつけてやっているのよ。」

「は……稽古―――ですが、少し手厳しくはありません?」

「そう見えてしまうわよね。 ああ~なんて可哀想なリルフィーヤ、あなたの事はこの私が護ってあげますからね。」

「ん~な事言っといてぇ、さっきまで“ヤンヤ”と囃し立ててたヤツが言う事かよ。」

「あら、言いたい事があるのなら、とっくりと話し合おうじゃないの―――裏路地舞台裏で。」

「ほぉ~ん、上等ぢゃないか―――(コキコキ☆) そう言やあんたと大喧嘩やらかすのも久しぶりだしねえ~~(ポキポキ☆) 泣いても許しゃやらねえぞ―――と。」

「も……もういい加減にしてくださぁ~い!」(半べそ)

「あらやだ、冗談よ。」 「てぇ~か、このも心配してくれる子がいてくれて、幸せ者だぁ。」

「へっ?ふえっ??」

「大丈夫だよ。 私とこの人とはもう喧嘩はしない―――まあお互い可愛がったりはするけれどね。」 「未成年者の前でする話じゃないでしょうに……全く。」


獅子は我が子を千尋の谷に落す―――そして谷より這い上がってきた者のみを強者としての遺伝を伝える為に育てる……と言う伝承がありますが、このエルフの母娘にしても同じ事が言えたようです。

それは周りから見てみれば単なる母娘喧嘩でも、苛烈なる環境や運命にも屈さない為の修錬をしているようなものだと、この時バルバリシアはそう感じました。

そして先程、不意に口から出てしまった言葉に―――…


「そう言えばさ、先程あなたも言っていたんだけれど……」

「ふえ? はあ……何でしょう?」

「私は、『魔王様』じゃないよ。 まあ……言ったら私の上司に当たる方なんだけれどね。」 「ふむ……それではこの機会にお目通りさせておく?」

「(へっ??)えええええ~~~~?ああああああの~~……」

「そうだねえーーーそれに、幸いササラもいる事だし、今押しかけたら現場も抑えられる事だろうしねえ~~。」(ニヤニヤ) 「シェラ―――あなた悪い顔をしているわよ。」

「まあ私も報告に上げたい事二・三あるから、先に行っといてよ。」 「ウフフッ、仕方がないわね―――それじゃこの見返り、愉しみにしておくわ♡」


「(なななななんだか私の知らない処で巨大なインボーが渦巻いてるようにしか感じないんですけれど~~~!リルフィ様ぁー早く起きて下さぁーーい!呑気に安らかな寝息立ててる場合じゃないですってえ~~!!)」


自分が口にしてしまった『女王様……って、もしかして魔王様?余計な一言』のお蔭で、この魔界の最高権威に“会う”段取りが進められていく。

バルバリシアは庶民階級に於いても最も低い階層の出身者でもあった為、魔界の最高権威に“会う”事など大逸れた……畏れ多い事でもあったのです。

と、そう言う部分があったにしろ、どこか“麻痺”してしまっていた―――そう言わざるを得なかった……それと言うのも、今バルバリシア自身が会い、歓談していた人物こそは、その魔界の最高権威に次ぐ権力を持ち合わせる、魔界一の版図を誇る巨大国家―――『スゥイルヴァン』の国家元首『女王陛下』であり、またバルバリシア自身が“主”と仰ぐ者も『次代の女王』の座位くらいを約束された第一位継承者である『王太子殿下』でもあった……しかしながらこうも隔てていたモノを取っ払い、接して下さる方々に対し、徐々にわだかまりは払拭されて行くのでした。


       * * * * * * * * * * *


そして今や深き眠りから覚め、気絶から立ち直った者達は、エニグマと共にある建物の前まで来ていました。


「(あ、れ?)ここ―――どこ??」 「(おや)ここは魔王城ではありませんか。」


「(は? は?? はああああああ~~~???)ままままままままままま魔王城~~?!って、あの……どどどどぉ~してそう言う事になっちゃっているんですかあ??」

「ええまあ、あの方にあなた達をお目通ししようと―――」

「だ、誰があ~?」 「あなたのお母様である、現スゥイルヴァン女王シェラザードから―――ですが?」

「お゛っ……母様があ?」 「ふむ、なるほど、そう言う事でしたか。」 「ど、どうかされたんですか?――――と言うより、離して頂けませぇん?」

「む゛~~~(不満げ) まあ仕方がありませんね、それよりも今から50年ほど前……

『少しラプラスのヤツラめに対抗する策を、あやつの下でしてくる。 よいか、これは非常に喫緊にして重要な懸案ゆえに邪魔立てをしてはならんぞ……』

などと、さもありなんな事を言って魔王城に行ったっきりのお師匠を確保するいい機会なのDEATH!!」

「そう言えばあの方―――単に魔王城に来るだけだったら、片手にサーフボードや浮き輪、更には今流行しているキャンプグッズを大量に持参しなくてもいいようなものを……なのですしねえ?」

「くっそおぉぉうっっ……あの時気付いておきながらなぜ疑問にすら思わなかったのか―――私は、過去に戻ることが出来たならあの時の私を引っ叩いてやりたいですうぅぅっ!」(悔し泣き)


「(う゛っ……その時の状況、私は見ていないんだけど―――なんでだろう……鮮やかな映像が目に浮かんできちゃっているんですけど? て言うかササラ様のお師匠様……まんま遊ぶ気マンマンぢゃない。)」

「(私も~~~この方(ササラ)には同情―――したいんですけれど……隙あらば抱き付こうとしているので油断できないんですよねぇ…。)」


自分達が魔王城城門前にいる事をいち早く理解した【宵闇の魔女】―――と、〖昂魔〗の長が未だ以て戻らない事情を暴露してしまう事情通(エニグマ)。

最早、容疑者確保に待ったなし??


        * * * * * * * * * *


「おっ師匠ぉ~~~!最早逃げも隠れも出来ません!! 速やかに出て―――…」


「おう、不肖の弟子(ササラ)ではないか、どうしたのだ?」


「(いやあ~~~『どうしたのだ?』も何も……)」


『逃げも隠れもしない』という文言は、その言葉通り―――に『逃げ』て、に『隠れ』ているから成立する言葉。

ならば?捜索者の目の前で、まさに『ありえな~い』姿や恰好で休暇バケイションを満喫しちゃっている者―――そう、とどのつまり『逃げ』も『隠れ』も―――堂々とした態度でくつろいじゃっている【大悪魔】を目にしてしまったのです。



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