第6話 【黄金の騎士王】ギルガメシュ

これは―――この一件が落着する……その前段のお話し。


{上手くいったようですな―――}

{彼の者に別段怪しまれることなく、疑われる事もなく組み入られる事など造作もない事。}

{フム……まあそれはよろしいのですが、僅かばかりのよどみが感じられはするのですが……。}

{あのハルピュイアの事であろう?どうもあの、そなたの眷属の子は己を卑下する嫌いがある、だがそこは留意するべきに留めておくべきであろう。}

{それより―――愉しそうですな。}

{ああ?愉しいとも―――この愉悦、抑えても、こらえても、間欠泉の様に噴き出してきおる、さあ……可愛き眷属の子達よ、達に見せておくれ。 以前達が視てきた者達とまたどう違うのか―――味わい尽してくれようぞ。}


これはこの度冒険する為にと足らない構成の募集を出してみた処、『一度会ってみたい』とする者達と会ってみた後に発生はっしょうされた会話でした。

しかもその会話の在り様は通常我々の間で交わされている“手段”ではありませんでした、そう―――言うならくは“思念”を通じさせての会話…しかし彼女達はこの程組んだ者達とは別に他からも求める声があったのでしたが組んだ者達以外とは決して組まなかった……その理由に動機も実に単純にして明解で『条件を充たしていなかった』から―――いや正しくは、彼女達が狙っていたのはリルフィ達だけ……崇高な理念と矜持の下、今世こんよの『宿命の子』がどうあるかを見定めたかっただけ……


そして組んでからと言うものは、好きなだけ失態ヤラカしました。

彼女達が失態ヤラカシをすればするだけ、その印象は深く残る……期限の日いっぱいまで、会う時間、接触する時間を設け、別離わかれが来る日となった時、少しばかり感じた不穏な空気―――万が一の為にと張り巡らせた水を使い、ただ一人PTから離れようとしている足音…竜吉公主はアグリアスとリルフィーヤの身柄の安全をウリエルに託すと、自らは水の化身となりて彼の場所から離脱しようとしているハルピュイアを追いました、そして捕えて動機を聞き出そうとした処―――……


『これで……これでようやく……飢えっぱなしの私の小さな妹弟達に、お腹一杯に食べさせてあげることが出来る……』


この証言が“実”であるか“虚”であるかは、竜吉公主にしてみれば雑作もない事でした。 この魔界にある総ての水は、彼女に通ずる……だからこそ、視える―――

バルバリシアが証言いっていた事は“実”でした。


「(まだ……こんな眷属の子達がいただなんて―――)」


ハルピュイアが乗ってしまった『口車』は、確かに端金はしたがねでした。

それにハルピュイアが困窮している実情は知れた―――とは言え、裏切り行為は罪でした。

罪…………ではありましたが―――


{まあ、今回は見逃してやろう、だが次はない―――そう思うがよい………}


情状の酌量を認めた―――それは執行期限と言う猶予付きとは言え、ハルピュイアの罪を不問としたものと言えました。


ですが…………


{(ふむ―――彼の者にかけられた罪を取り下げましたか、甘い……確かに甘い、ですがそれがあなた様ですからな。)だが私は違う、私に同情を求めるなど愚の骨頂と思うがよい。}


一流の冒険者【アルテミス】と、超大国の次代の寝込みを襲おうとした野盗共の前に現れたのは、3対6枚の翼を持つ“地”の熾天使―――ウリエルでした。

それにこの天使はその特性上こうも呼ばれもしていたのです、ウリエルの事はこれまでにでも『“地”の熾天使』くらいしか詳細は語られてきませんでしたが、ウリエルの天使としての『二面性』―――それは……絶大な戦闘力を誇り、戦争時の指揮官を担う一方で、罪人となった死者を冥府で拷問にかける『冥府の獄吏』―――彼の者に“情”は一切通用しない、罪ある処は罪ある者として裁かれなければならない……『冷徹』『冷酷』『冷静』、ただ淡々と自分に課せられた使命を果たすのみ、だからこそ竜吉公主はウリエルにバルバリシアを追わせませんでした、そうさせたなら慈悲なく処断を決行してしまうであろうことは目に見えていたから…けれど寝込みを襲おうとした野盗共の事を任された時、天使は異を唱えませんでした。

それは神仙の方が天使よりも上位の存在だったから……?

それとも本来なら情に流されなかったものを、同情してしまったから……?


{フ―――感謝するがよい罪人つみびとよ、この私に断ざれし事を光栄に思うがよい、摂理を遂行せし私に屠られることは〖神人〗からの恩寵の何者でもない事を。(それにしても……あの方も酷な事をするものだ、己が罪と認めたることを赦される―――それはこれからの後生その罪を引き摺って生きてゆかねばならぬ……してやあの自分を卑下してしまう性格……いくらかこの私から死を給わった方が良かったものを……な。)}


別にウリエルは、同情したわけでも、ほだされたわけでもありませんでした。

ただ彼の者は己に課された使命をまっとうしただけ、しかしこの場で何があったか知られでもしたら不都合の極みでもあっただけに、事後処理の方が実は大変だったのです。


「ご苦労様―――ウリエル。」

「いえ別に、“苦労”と言うほどのものでは―――まあ、事後の手間はかかりましたが。」

「(……)それ、ちょっと根に持ってる?」

「あ、いえお構いなく―――そう言うつもりは毛頭ありませんので。」


さきの時代に於いては座位くらいの同じだった二人……でしたが、さきの戦争終結宣言が為された後その論功行賞に於いて竜吉公主の功が認められた……そこはまあ、それなりの実績もあったわけなのですから―――それとまた魔界一の権威を持つ方が直接認めてしまった事だから致し方のない処だったのです。

それゆえに、竜吉公主の方がウリエルよりかは座位くらいが上げられてしまった……その事により、この二人の間に微妙な空気が流れていたのもまた否めない処のようでして……


「それより―――そちらのミカエルはどうなの。」

「ガブリエルやラファエルがあのような事にならなければ、〖神人〗も万全の態勢なのでしょうが……」


さきの―――『勇者』達との闘争の果てに迎えた、『勇者』達の裏で糸を引いていた『アンゴルモア』。

その存在との最終決戦に於いて、次々とたおれて逝った同志達……その中に死にまでは至らなかったものの激しく損耗そんもうをしてしまい、現在に於いては活動を停止せざるを得なくなってしまった者達がいました。

それがウリエルの同輩である『ガブリエル』と『ラファエル』……

この“水”と“風”の二大熾天使を修復する為、大天使長であるミカエルも手間を取られざるを得なくなってしまった、ニュクス襲来の折には女媧―――そしてこの度はミカエル―――と、魔界の“三柱みつはしら”の内、実に二柱ふたはしらまでもが現在の処表へ出られないとなると“現在”が一番危険な状況なのです、だからとてこのまま停滞するわけにもいかず、高度な判断を出来る者が一人でも多くいた方がいい―――との見解の下、竜吉公主の座位くらい昇進は告げられたのです。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リルフィが初めて冒険者としてのその華々しい活躍の1ページを飾った頃、また別の場所にて『ある意志』が動き始めていました。

その者は本来ヒト族出身ではありましたが、その体内に流れる血には『鬼人オーガ』の血が混じっていました。

『半人半鬼』―――ヒト……ではなく、また鬼人オーガでもなく……そのどちらも受け入れられなかった、とはしてもその者の屈強な精神力により容易には覆らなかった―――それは“闇”に、“暗黒”に、“怨恨”に……


その―――証しが……


「(フッ―――機は熟せり…か、その報告に偽りがなければオレも動かねばなるまい。)」


『女性型』から『男性型』に鋳造し直しうちなおしてもらった『黄金の甲冑』一式―――…


「信用しとくれよ~~てか、“あたし”そんなに信用ねえっての?★」

「『信用』……か、しているよ。 何しろあんたらは、かつてのこのオレの仲間を“我がマイ・マスター”としてあおいでたんだからな、『ヘレナ』。」


そして今尚、せることなく…また錆びつくことなく輝き続ける『黄金の剣』


「ヌフフフフ、その御召し物実にお似合いですよ~~☆ まさに、【黄金の騎士王】の名に恥じぬ出で立ちにございます―――」


その男の名こそ『ギルガメシュ』、またを【黄金の騎士王】と、そう呼ばれた男。

しかしその者は以前呼ばれていました―――【赫キ衣の剣士】ヒヒイロカネと。

けれどもう、その名は捨てた……自分の弱さ、甘さと共に。 かつてはその身に宿していた『英霊エインフェリアル』が消え逝く際に、託され、誓った……そして【緋鮮の覇王】が目指したように―――いや、彼の英雄以上の武を得る為に総てを断ち切った。


『恋慕』も『情』も『よしみ』も―――…


彼は唯一人ただひとり、魔界の強者となる為に危険と勲功とを背中合わせとしていたのです。


そんな―――彼が、動き始めた……この魔界に於いて絶大な権威を振るえし者の最側近によりもたらされた『吉報』―――それを基にして……


         * * * * * * * * * *


その一方―――オレイアにては……


「うわあ~い☆うあ~~~い☆ ヤターーーうれP~~☆☆ これでとーぶん飢えなくてすむわあ~~。」

「フッ、感謝するがいぃぃいい~~!この成果、誰のものであるかは一・目・瞭・然!!」


「うんーーーーまあ~~~間違ってもあんたらじゃない事だけは確かだな。」 「あ……あのぉ~~~リルフィ様ぁ……」

「いいや、ここはハッキリと言わせてもらうよッ!今回のクエストの成功報酬、貰えただけでも良しとしなさいよね!」

「え……怒られてるぅ?もしかしなくっても今私達もんのすんごぉ~~く怒られてりゅぅぅ~? さげぽよぉぉ~~★」

「カルシウムが足りていないのでは?」

「今日の朝ごはんの焼き魚、骨まで“バリバリ”と食ったわ゛!それに本来なら時間切れ《タイム・アップ》だったところをアグリアスのお蔭で大目に見てもらえたんだからねッ??」

「まあまあ落ち着けリルフィ…それにあなた方も少しくらいは自重じちょうしてくれればこちらからは言う事はないのだがな。」

「じ―――自嘲じちょぉ~~? ハハ……ソウダヨネ~~自嘲じちょう……笑えないよ、こんなの。」(ののじののじ)

「『自嘲じちょう』……自嘲じちょうとはあざなえる縄の如し…………おおお~~~神よ!何卒なにとぞ我に試練の機会を!! ……て、待ちなさぁ~い!ここからが好い所なのにぃ!!」

「あ、いえ、もうそう言うのいいんで―――お構いなく、それにもうあなた達とは付き合ってられません、私達は私達で次の人達を見繕みつくろいますんで。」

「わ―――私達を見捨てると言うの~?ひどいわっ!私の事をあんなにも可愛がってくれてたのにィ~~★ あの晩も『君の事……一生離さないよ、もうオレのもんになっちまいなよ―――ベイベー』って、イケボで迫ってくれたのにぃ~~~そうね……そう言う事なのね!?私の事なんて所詮遊びだったんだわあ~~~!★★」

「誰ぁ~れもそんな事言ってないわ!!てえーか昨日……寝小便垂れたの、どこのどいつだったっけえ?」

!!!!!!!!!!!!!!声にならない叫び し……しどいぃぃ~~~言わないって約束だったの゛に゛ぃ゛~~~!!」

「う゛る゛っ゛さ゛い゛よ゛っ゛! てか、あんたまた調子乗りおったな?だからだよッ!!」

「ぶわあああ゛~~ん゛!チチショーお母たまに言い付けてやるぅ~~!!」


「(ガキの泣き言カヨ……)」

「なんだか……疲れちゃいましたね。」

「全くね……それより厨二病患者の錬金術師は?」

「『また今後ともよろしくお願いします』―――と言って、去って行ったぞ。」

「『今後とも』……って、もう二度とあんな人達とは組みたくないんだけどなあ~~~」

「ハハ―――確かにな。 それよりもどうする?これから……私もいつまでもお前に付きっきりになってやれないしな。」

「(え…)あの―――アグリアス様?」

「まあ当然だよね、判ってるわよ、そこの処は。」

「リルフィ様まで……あの、どうしてなんです?」

「だってアグリアスはこの国の『姫』なんだもの。」

「そう言う事だ。 『姫』としての公務もやらなければ、な…そこを思うと今のこいつは気楽そのものだよ、何しろ王族ではないんだからな。」


「(冗談交じりに言ってくれているけど、そう言う事なんだ―――では、だったらリルフィーヤ様がお母様からなされてしまった王族としての権利の剥奪……って―――)」


的には『第8王女の王族追放』―――それは『勘当』にも等しい事でありました。

ただ不思議な事と言えば、第8王女はその誕生の瞬間から産みの親である女王陛下と―――そしてこの魔界に連なる実力者たちの承認の下、“次”なる『スゥイルヴァン国王(女王)』になる事が決められていた………のに、も、拘わらず―――?


では、あまり知られていないその真相とは―――?


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「リルフィーヤ、あなたも今日で172歳……そのよわいに私は冒険者になりました。 そして冒険者と成る事によって王族の人間としては見ることが出来なかった事をこの眼に収め、経験できなかったことをこの身に付けたものです。

さあーーー旅立ちなさい、そしてこの広大な魔界せかいを席捲なさい。 あなたが得た『自由』と言う名の“翼”は、あなたに与えられた資格でもあるのですから。」

「お母様―――それでは!!」

「すでにアウラの娘、アグリアスには話しは着けてあります、彼女をあなたの『友』とするのも善し、『師』とするも善し……けれど『友』とするならばその眼で見定めてからにしなさい。」


実に―――穏やかで静やかなる女王からの宣下せんげだった……ただ聞き分けが無いから―――と、勘当されたとはとても言い難い、厳格かつ厳粛な雰囲気で言い渡されたものだった……それにリルフィーヤも、幼い頃から『寝物語』にと母の優しい語り部で夢にまで見ていた―――想っていたことが『女王』の口を通して告げられた……


「これから大空に羽搏はばたける鳥よ―――ならば王族としての“その名”は不要……『リルフィーヤ』改め『リルフィ』、あなたは今から『スゥイルヴァン第8王女』ではなくリルフィです、よって王族としての籍を外す―――これは『勅命』である!!」


いくらかは悲しかろう―――淋しかろう……けれどお互いに涙は見せませんでした。

『自由』と言う名の“翼”を持ち得た若禽わかどりは、振り返ることなく玉座の間を後にしました……


         * * * * * * * * * *


それから―――


「行ってしまいましたね、それもこちらを振り向きもせず……」

「他の7人のお子も見劣りしないものですが、彼女が一番あなたの血を色濃く受け継いでいるように見受けられる……」

「それは、私達3人が見定めた事―――それでは私はこの一報を、一刻も早くジィルガの下に伝えたいと思います、今頃痺れを切らしている事でしょうからね。」


「あの子の事、頼んだわよ―――竜吉公主様にウリエル様……そしてササラ、あの子が手に余る困難に屈しないよう、見守ってあげて……」




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