第7話 危急存亡の 秋(とき)

冒険者と成って初めてのクエストをこなし、そこから色々な人達の協力を得て数々の成果を上げだした頃、彼女達はまた一つの邂逅を果たすのでした。

(*尚この頃にはアグリアスもリルフィ達と別れ、姫としての公務を再開させている。)


は寄せ集めたPTで一つのクエストを進行させようとしていた時に遭遇してしまったのです。


「(なんっ―――なの……こいつら、魔界では見かけない特徴の上に魔界にいる魔獣よりも手強いなんて。)」


その存在こそ『ラプラスの魔』、そしてリルフィ達の即席PTを“半壊”(リルフィとバルバリシアを除いた3名は『行動不能』になっている)させたこの強敵こそ『ホプリタイ』、その重厚な鎧は通常攻撃や魔法を跳ね返し、満足にダメージを与えられない……しかし向う側からの攻撃は一撃でリルフィ達のPTを半壊させるまでの破壊力にリルフィも自分達が残ったとは言えただでは屈さない―――とはしていたのですが、いかんせんエルフでは力不足…『私はこんなにも無力で非力なんだ』―――と、今嘆いたところで仕方がない、リルフィはバルバリシアにこの場から逃げるように指示を与えたのですが……


「そんなこと出来ません!リルフィ様を見殺しにするなんて!!」

「何を言っているの―――そう易々と殺されはしないよ!!それにこいつ―――見た目通りに足が遅い、だから遠くへ逃げて!私もすぐに追いつくから……」


その言葉を信じ、バルバリシアはしばしの別れを告げました、そして機を見計らいリルフィ自身もその場からの離脱を試みようとした―――ものの?獲物の片割れを逃がしたことに猛り怒れる者の一撃を喰らい負傷してしまった……


「(ああっくそっ―――失敗したなあ…私の人生ここまでか……けどあの子が無事逃げられたのなら―――いいや……)」


身体の一部を激しく損傷し、大量の血潮が流れる……最早リルフィには次の一撃を防ぐ手立ても、回避する手立ても残されていませんでした。

172年の、エルフにしては短い彼女の人生はここに幕を閉じるのだと―――そう…なにもかもを諦めかけた時


「(…………? 私―――まだ生きてる?)」


「おい、大丈夫か。 これを使ってやれ。」 「は、はいっ!」


「(バルバリシア……逃げろって言ったのに―――けど、助けてくれる人を呼んでくれたんだ……)」


ホプリタイからの止めの一撃を防いでくれた者がいました、頭のさきから足の先まで黄金の甲冑に身を包んだ―――目も眩まんばかりの輝きを放つ黄金の騎士、その黄金の騎士から『エリクサー』を手渡されリルフィを含む負傷した仲間達の身に振りかけて治癒を施すバルバリシア。

ここに危機の一難は去りました、が……まだ驚異までは去ってはいなかった。


「ありがとうございます、黄金の騎士様。 ですがここは一度退くべきです、いくらあなた様が強くともあの敵には……」

「心配なら無用だ。 それに、打ち込むのが案山子ばかりじゃこの腕もなまろうというモノ……」


自分達でさえも刃が立たなかった相手を、まるで『どこ吹く風か』―――と、さして気にする感じでもなく、してやたずさえていた剣の柄にも手を掛けるでもなく……


「(あ、あっ…)黄金の騎士様ァ―――!!」


だからとて、容赦のない『ホプリタイ』からの一撃は、黄金の甲冑―――を・も????


「フフフン―――効かんな、その程度じゃ。」


砕かれもしなければ傷一つ付いていない―――それに、その挑発めいた一言に乗り一撃・二撃と手数を増やすものの不動のいわおの前には徒労だった……


「正直な感想を述べてやろう―――ガッカリだよ……もう少し歯応えがあるモノだと期待はしていたんだがなあ、これではなまり腐った腕の稽古台にもなりやしない……」


そしてようやく佩剣はいけんの柄に手を掛ける―――その黄金に輝ける鞘から抜き放たれた剣身もまた、黄金拵えの剣でありました。

そして丸太の試し切りでも行うかのように、まるで……力を入れていない―――かのように、振り下ろされた剣は、自分達がいくら斬ろうが、刺そうが、突こうが、とおらなかった彼の鎧を……


「ウ………ソ―――」

「まるで……チーズを切断するかのように―――」


その黄金の騎士が獲得・所有しているとみられるスキル……その黄金の剣自体の強度もあるのでしょうが、このスキルが発動するとさらに性能が上書きされ、どんな堅固な鎧や盾であろうとも、その肉や骨まで断ち斬る。

その黄金の剣が振り下ろされ―――よう、と、した時、どこが焔の様なものが垣間見えた……そしてその切っ先が地に着いた時、まっぷたつに割かれる強敵の姿。

剣身についた血流を振り払い、鞘に納めるまでの一連の動作がこの黄金の騎士が只者ではないことを直感するのに十分でした。


「あの……ありがとうございます。」

「うん?(――――――…。)」


フル・フェイスの兜から僅かに覗いて見える鋭い眼光―――その眼差しが一人のエルフの少女を射抜くかのように見つめる。


「あ……あの?なに…か―――」

「いや……気にするな。」



―――似ているな、に。 あの頃はよくまとわりつかれたものだったが、それも今思えばまた懐かしい。



黄金の騎士は懐古に想いを馳せる―――自分がまだ未熟だった頃、幼馴染と天真爛漫なエルフの両方から想いを寄せられた事を。

とは言え、一命はとりとめたものの負傷してしまった仲間達をそのままにはしておけず、ひとまずは近くのオレイアへと運ぶリルフィ達。


「すみません、手間を煩わせて……」

「なに、構わんよ。 どうせ行きずりだ」

「あの……気にさわらなければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私はリルフィと申します、それとこちらのハルピュイアはバルバリシアと言います。」

「そうか―――オレの名は、『ギルガメシュ』だ。」

「『ギルガメシュ』!!“超”のつく有名人さんじゃないですか!!」


自分達を救ってくれた黄金の騎士こそ、【黄金の騎士王】『ギルガメシュ』その人でありました。

そんな勇名を馳せた人物の背を見つめる眼差し2つ……自分達は前時代の英雄様に救って貰った―――その闘い方を見せてもらった……それだけでも今のリルフィには満足でした。


       * * * * * * * * * *


そして今回負傷した者達を治療院まで運んだその帰り道―――


「(はあ~~~あ…私も、もうちょっと強くならなくちゃ―――今回みたいな『乱入者』の妨害でクエストを失敗しちゃったけど……少なくとも今後同じ様に目に遭わないとも限らない、そうした場合最低でもバルバリシアだけは護ってやらないと……)」


今回リルフィ達が受けたクエストは、内容自体はクリア出来たものの『失敗』に終わってしまいました。 その理由も『乱入者』の所為せいで失敗してしまったわけなのでしたが、この魔界でも見かけた事のない特徴―――それをリルフィは『また新たな新種が出てきたのだろう』くらいにしか思っていなかったのです。


するとそこへ―――……


「どうした、しょぼくれて。」

「あ……ギル―――【黄金の騎士王】様。」

「構わんよ、ギルガメシュと呼んでも。 それよりどうしたんだ。」


一人悄気しょげていた処に声を掛けられそちらを振り向いてみると、そこには甲冑を外した生身の【黄金の騎士王】がいました。

聴いていたその声の印象以上に若々しい出で立ちに、リルフィもどことなく顔が火照ってくるのが判るかのようでしたが、取り敢えず現在自分が抱いている内情を話してみると……


「そう言う事だったか。 まあ気にすることはない―――と言った処で、気にはするのだろうな、だったら一つアドバイスと言う奴をしておいてやろう。 は、君らでは敵わんよ―――そう言った“類”のモンだ。」


クエストを進行、遂行する上で“乱入”をされることはままにしてありました、しかしながらそうした者達を撃退させることによって、受けていたクエストの達成評価や成功報酬にプラス・ボーナス特典が生じ、またそれが冒険者“冥利”につきていたのです。

けれども当然その反面の“リスク”もありました、それが今回にも見られるような、そのPTの総合戦力に対しての圧倒的な脅威…またそうした場合、最悪PT全滅は免れないものでした、そこを今回魔界でも知れ渡っている“超”有名人に救われた―――そして今、その“超”有名人からアドバイスをを受けるリルフィは……


「『敵わない』―――? って……って新種の魔物なんかじゃ―――」

「違うよ。 まあこのオレ自身も昔は随分と手を焼かされたもんだったがなぁ。」

「それじゃ教えてください!一体何なんですか?は!!」


この人物ですら、勇名を馳せさせるまでに苦汁を呑まされてきた強敵、けれども【黄金の騎士王】からの返答こたえはありませんでした。


ありませんでした……が―――


「一つ提案がある、君の成長の手伝いをしてやろう―――どうだ?」


リルフィの質問の返答は得られませんでしたが、思いも寄らぬ勧誘の言葉―――だから迷う事すらなく……


「本当にいいんですか?私まだまだ駆け出し……」

「ハハハハーーー皆誰しもがそうだ。 それに君は、君と同じ頃のオレと比べても筋が好い、どうだね?」

「喜んで!よろしくお願いします!」


目立つ存在に目立つ振る舞い―――これが当王国『ネガ・バウム』の王室に届かない訳がありませんでした。

だからか、当国の女王『アウラ』の名代としてアグリアスが現場に足を運ばせてみると……


「リルフィ!それに―――…!」

「おお、殿下。 ご壮健そうで何よりですな。」


リルフィが受けたクエストを遂行する過程で一時的にPTを組み、『乱入者』も片付けてオレイアの街へと帰還した後、フルフェイスの兜を脱いだ黄金の騎士王の素顔―――その面面つらおもてには歴戦を物語る傷痕もちらほら、眼光鋭く、意志の固そうな口元、それによわい数百を経ているはずなのに年齢老いを感じさせない肌の色艶、見れば見る程の色男だった……それに―――


「(うわぁ……アグリアスのあの表情、初めて見たなあ。 でも仕方ないよね、私でも見惚れてしまったもん。)」


この国に於いては母親である女王以上に男勝りで知られている【アルテミス】ことアグリアスの乙女としての一面に、リルフィも思う処となったようですが……士大夫を前に自分ですらもその魅力に抑えきれない気持ちもあったようです。


        * * * * * * * * * *


すると―――この邂逅を受けて、『よどみ』側でも反応がありました。


「(あのひとと―――会ったのですね……  それにあのひとも、“彼女”のむすめに興味を抱いた……  ならば“私”も会いに行きましょう―――じきに……)」


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リルフィの成長を促進させるために、一時的に仲間に加わったギルガメシュ―――ではありましたが、どうみても構成員の不足に、不足分の要員確保を彼に頼んでみた処…


「(う゛え゛え゛え゛…)ま―――またあなた達……」


「よーろーピークーおねぎゃいぎょざいま~~~ぷ☆」

「フッ―――歓喜にむせび返るがいい~!そして運命の輪廻とはかくもいたずらなるべ・き・か!! フッ―――決まった…」


「あ……あのぉ~~~ギルガメシュ様?この人達ぃ……」

「うん?あ……ああ~いや、丁度この人達も仲間を求めていたものでな。」

「いや、そう言う事を言ってるんじゃなくて……あの、この人達どう言う人達なのかは判っているんですよねぇ?」

「うん?う~~~~~~~~~ん…ま、まあ役に立つべき時にはちゃんと役に立つ―――と……オレは少なくともそう思っている。」



{ほっほぉ~~~う、言う様になったじゃないか~い?チミも……}

{そんなにも役に立っている処を見たい―――と言うなら、見せてやっても構わんのだぞぅ~~?}

{は、は―――まあお手柔らかに}



高位の思念のやり取りを交わす者達にとっては、互いの事をよく知っていただけにどこがやり難そうな雰囲気―――だったみたいですが、取り敢えずは……


「(ま、仕方ない、今回はちょっとまじめにやりますか……)この私の動き―――見切れるかしらッ☆ ≪スプラッシュ・スレイター≫」

「(面白い……この私を侮った事、後悔させてやろうではないか?!)怒れる大地よ、その猛威を示せ!≪アース・レクイエム≫」


「(な……なんっ―――だあ~?この人達、ちゃんと真面目にやれば出来るじゃん! けど……妙に鼻に衝くんだよなあ~~~あの『ドヤ顔』。)」

「(全く、あの方達にも困ったものだ。 まあ、あれでも大幅に手を抜いてるんだろうが……)」


彼は知っていました、彼女達が本来何者なのか。 いくら仮初めの人の型をしているとはしても、その正体は自分達の上位存在…自分達がいくら背伸びをしたところで到底到達する事の出来ない高みの存在、今こうして仮初めの姿形をしているのは新たなる継承者に危害が及ぶのを未然に防ぐ為……


とは言え―――


「おいおい、目的は見失わんでくれ。 今回あんた達と組んだのは、飽くまでこの娘の為だ。」

「え~~~つぅまんなぁ~い★ さっき散々私の事を小馬鹿にしてくれたくせにぃ~~★」

「フッ―――生来売られた喧嘩は買う性質で、ね。」

「(うっわぁ~~)あのぉ~ギルガメシュ様は何もあなた達の事を小馬鹿にしたわけじゃないと思うし、それに喧嘩も……」

「ハ~~~ヤダヤダ、可愛い娘を味方に付けちゃってさあ~~★ やぁ~ってられないわぁってゆうかあ~~★★」

「フン!どうせ私達の様なオバサンには興味がないと言うのだろう!その言い分とっくりと聞こうじゃないか!?」


「(うっわあ……面倒臭っ―――て言うより、この人達自分達で言うほど老けてない気がするんだけどなあ?って言うか……ひょっとしてこれが『ひがみ』ってヤツう? そう言えばお母様も言っていたわ……そう言うのに絡まれたらとにかく謝っとけ―――って…)あ、あの~~……わ、私が原因だったなら謝ります―――すみません…」


               「「!!?」」


「えっ?あっ?いや、そう言うつもりでえ~~~って言うか、このクサレイケメンに言ってやっただけなんだけどぉ?」

「そおーーーだよ!なにも君が謝る事なんてないってえ!」


「(は?ナニコノヒトタチ……何言ってるのか意味が分かんない―――)」

「(なぁ~にをやってなさるんだか―――ボロが出かけてるじゃないですか。)あ゛~~~ちょっといいか、先程のオレの言い方がまずかったのなら謝ろう、それよりもだな先程からモブが舞台の袖で出待ちを伺っているみたいなんだが―――…」

「はあ~ん?好きにすればあ~~? だぁいたいこんな状態ヤル気0の私に、一体何を求めてるってぇ……」(ののじののじ)

「フッ……フフフフフフ―――こ、この私が足手纏い……」(どぉんより)


「(あ゛~~~かーなり面倒臭ッ、機嫌損ねた上に更にこじらせちゃったみたいだけど―――)もう……いい加減機嫌直して下さいよ。」

「はぁ~いはい、キタコレ優等生発言~~★ どーーーせ私達は落ちこぼれデスヨ~~★」

「前略、お袋様―――どうやら小生、冒険者としては芽が出なかったようです。 なので実家に帰ったら家業継ぎますので、取り急ぎよろしくお願いします…」


「(私もひどいけど、周りから見たらきっとこんなんだろうなあ……だったらリルフィ様に迷惑かけない様に少し直そう……)」


どうやらヒト族というものは、退廃的になってしまうと加速的に病状が進行してしまうようでして―――?

しかも、『華麗なる勘違い野郎共』がこう言った病状に浸ってしまった時、面倒臭い事この上ない……と、言った状況のようでして―――?


ところが―――…


「ああそうですか!よぉ~く判りました!もうあなた達の手は借りません!!」


こんな人達の手を借りようだなんて、思ってた自分が間違いだった―――と、思い直したかのように、装備していた弓から剣へと換装かえるエルフ。


けれどもうすでに―――常人の目の届かぬ領域で戦闘は始まっていたのでした。



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