第3話 主従の契り

リルフィーヤが産み落とされたその瞬間から定められた宿命―――それこそはスゥイルヴァンの次期国王(女王)となることでした。

しかしその決定は現女王であるシェラザードではなく、リルフィーヤの出産に立ち会った権威ある“四人”……


〖神人〗天使族の長である【大天使長】ミカエル

同じく〖神人〗から【“地”の熾天使】ウリエル

〖聖霊〗神仙族【“水の神仙”】竜吉公主

〖昂魔〗黒豹人族【宵闇の魔女】ササラ


この、それぞれ勢力を違わせし者達が“一致”としていた見解こそ―――『【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】の継承』……

バルバリシア、リルフィーヤに取り憑こうとしていた暗冥あんめい―――その負の情念を、呪いをリルフィーヤの内に備わる“光”が浄化させたのです。

それを見せられたからこそ―――


「(驚いたな―――この眼で直接視る事が出来ようとは…)」


例え―――アグリアスが一流の冒険者だったとしても、その身を呪いで染めてしまった者からの呪いの作用を、浄化する手立てや能力スキルは持ち合わせていませんでした。

この強すぎる呪いを浄化出来ていたのは、リルフィーヤだからこそ……そう、母であるシェラザードから継承うけつい権能モノこそ【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】に外ならなかった……

そして、だからこそ“四人”からの強い推奨を受けていた……


          * * * * * * * * * * *


「来たるべきときが来ちゃった―――て訳ね、それで?私に備わってた権能チカラは無くなっちゃったってワケ?」

「こればかりは“前例”―――と言うべきか、記録がなかったのではっきりとした事までは言えないのですが……」

「それより君自身はどうなんだい?これまで所有していた君なら判るんじゃないのかな?」

「ん~~~まあー--これがなんて言っていいやら……『ご都合主義』?」

「え゛っ!ま―――まさか……」

「どうやら、『大人の事情原作者の事情』てんこもりのようですな!」


…うるさいよ、チミたち―――


そう、あまね権能チカラ継承ひきつぎはなされるものだと思っていたのに、シェラザードにもその権能グリマーを行使できる余地は残されていたようです。


それはまあ……さておくとして―――


「この子も……何とも不幸と言っていいのやら、幸福と言っていいのやら、母ながら同情しちゃうわあ~~」

「そんなデリケートな部分、あなたにもあったのねぇ。」

「な~んか言ったカナ~? り・ゅ・う・き・ちぃ。」

「(その“”で呼ぶなってえ!)だってあなたねえ、この子を産んでからと言うものは大爆睡―――大いびき掻いていたのよ?」

「ふあっ?」

「ついで言いますと口からは寝ダレ、鼻ちょうちん―――とくれば、まあちょっと他人には見せられない姿でしたねえ?」

「まあ……完璧すぎるのもなんとやら―――だけど少しばかり欠点あった方が可愛げがあっていいと思うのよ。」

「ヲイりゅうきちぃ~~それ全然フォローなってねえっしいぃ??」

「それにしてもこの子……本当に親の手がかからない子に育つかも―――だって、あなた達の喧噪の中でも全然起きようとすらしないんですよ。」(ムヒ)


この【宵闇の魔女】からの一言が殊の外三人には堪えたようでありまして、三人とも反省した大人しくなったようです。(*まあ……『少しばかり』とツッコむのはこの際ナシで)


「しかし……まあシェラザード君の言い分ももっともだ、この子はこの瞬間からある宿命を背負う事になったのだからね。 それにシェラザード……君がこの国をつくった―――つくろうとした意義、忘れてはいまいよね。」

「―――はい……今は大人しくしているようですけれど、いずれラプラスは、また、来る……あの当時、あちらで最も発言力があった者を討伐しましたが、総ての可能性の芽が摘み取れたとは思っていません。

それに“彼女”も―――……私は、それでも“彼女”は、私達には敵対しないと思っています。 そんなの、あなた達の目から見たら私の独りがり……楽観的思考と思っているかも知れませんが。」

「シェラさん、そこの処は私達には判ろうはずがありません。 “彼女”と一番絆を紡ぎ、例え歩むべき道を違えたとはしても判り合えるまでになったあなたでしか判らない事なのですから……」


リルフィーヤの出産時、本来なら立会人は“あと一人”いました。 いる……はずでした。 けれどその立会人は、その場にはいなかった―――それは母親であるシェラザード自身も強く望んだ事ではあるのですが……

その立会人となるべき存在―――【夜の世界を統べし女王ニュクス】をすべからくその身に……その存在性の内に取り込んでしまった者、その瞬間に“彼女クシナダ”は現世この世の『誰でもなくなった』……


            ―――“誰でもない者”―――

              ―――“謎”―――

               『エニグマ』


そして今回、“とある者”の反応によって活性化させた動き始めた……

恩を仇で報復かえそうと―――報復かえしたと思い惑ってしまったハルピュイアの、負の情念を喰らい尽そうとしていた……


けれど―――……



これは―――“彼女”と同じ感覚……  この私を―――けがれた存在を……  それでも信じるに足ると言い切ってくれた、私の“悪友よきとも”と同じ……感覚……

会ってみたい―――   一目視てみたい―――   触れてみたい―――

“可”とするか“不可”とするか―――   “足る”か“足らぬ”かは―――

私のこの目で見定めてくれよう……

そして見定め終えた後―――   そこで一つの“決断”とするとしよう……



500年前―――その前後、魔界せかいの英雄達は別次元へと渡り、そこで自分達の世界を度々侵略に来た元凶を―――そのもととなった者を断ち切りました。

けれども犠牲も少なくなく、その影響下により英雄の一人が“悪堕ち”をしてしまった……しかしそこを【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】の特性を所有していた者により救われ、“悪堕ち”をしながらも……また巨大すぎる凶悪な権能を我がモノとし一人の不可解な存在……『エニグマ』が降誕してしまった―――

その存在は魔界の住人の身体を持ちながらも、別次元の上位存在の権能を扱えると言う……どちらでもない―――“誰でもない者”と成ってしまった。

それを後世では『エニグマ』と呼び【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】とも心を通わせてしまったがゆえに闇の申し子は自ら『次元のよどみ』なるモノを創造つくりだしそこへ隠れたのです。


しかし―――隠れると同時に、以下も宣下していた……


{私は……【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】と敵対するを好まない―――そしてもし、あなたの魔界せかいが再び侵略されそうになった時、私は誰の同意も求めずこの場所から這い出て来よう……}


では―――だとしたなら……エニグマがバルバリシアを喰らおうしたのも、或いは?


         * * * * * * * * * *


けれど、この異変をいち早く感知した者達は―――


{どうやら活性化させたようじゃな―――ならば予定通り、達も動かねばなるまい。}

{そうですな―――それに、またあなた様と組めるなど光栄の至りと申しておきましょうか。}

{フ・フ―――うぬも言うようになったではないか、なれば精々派手に失態やらかし、注目を集めねばなるまいて―――}

{その辺は抜かりはなく―――それに……フ・フ・フ、この頃では少々病みつきになって参りましてな、ここ最近での“傾向”も研究している次第。}

{フ―――奇遇よな、とて同じじゃ。 では、準備を終えたなら参ろうか―――“笑いの舞台戦場”へ……}


      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


この魔界せかいの上位存在―――“三柱みつはしら”が静かに始動しようとしていた頃、『エニグマ』からの“暗冥あんめい勧誘いざない”を振り払った三者三様は―――


「リルフィーヤ……」

「うん、私なら大丈夫。 それより立てる?」

「あっ、はい。」


ちょっとした“騒動”にはなっていた様でしたが、この国の姫であるアグリアスが一緒にいた事もあり、また彼女の言によってどうにか場を取り繕うことが出来ていました。

それはそれとして、彼女達二人には本来の目的と言うモノがあったわけであり―――


「そ~れにしても、なんだかちょっと大事おおごとになっちゃったわねえ。」

「スミマセン……」

「ああ~~……そんな無闇に謝らないの、なにも今回はあなたが悪いって訳じゃないんだから。」

「ああ~確かにそうだな、それに言ってしまえば私の獲物を横取りし、その事を詰問しようとしたら急に泣き出してバルバリシアに無用の心配をさせてしまったが悪いのだからなあ?」(じとぉ…)

「う゛~~~悪かったわよぅ……」

「それより、どうするのだ?これからの予定は組んでいるのだろう。」

「う~~ん、取り敢えずはここのギルドに登録しといて、そこからぼちぼち実績を上げていく事かしらねえ?」

「あの……何の話をされているのですか?」

「うん?いやほら、こいつはこの度新米の冒険者に成ったばかりだからな、冒険者ならばクエストを遂行し、そこから財を―――また実力を成そう……と、こう言う事だ。 そこでこいつの先輩である私が、こいつの実力が定着するまで面倒を見てやろう……と、こう言う事なのだよ。」

「あの……一つ質問をよろしいでしょうか?」

「なあに?」

「アグリアス様は実績をお持ちだから判るのですが……リルフィーヤ様は―――」

「ああ、その事なんだけどさ。」


この時点でハルピュイアであるバルバリシアには疑問としている点がありました。

それと言うのがアグリアスは既に“二ツ名”が付くまでに冒険者としてその成果・実績共に魔界中に知れ渡っており、例え王国の“姫”たる身分だったとしてもそう驚くほどのモノでもなかったのですが…リルフィーヤは今やこの魔界を代表する大国となっているスゥイルヴァンの次期国王―――そんな身分の人間が常に“死”と言う危険が隣り合わせの冒険者に成るなど、一般庶民の常識に照らし合わせてみてもるいを見ないものだったです。

すると、そんなバルバリシアの疑問を払拭させる(?)、リルフィーヤからの一言が………


「実は私、今、王族じゃないんだなあ~?」(ハッハッハー)

「(……)は?   い?」

「そう言えばまだ話してなかったな。 実はこいつは、早い話し……勘当されたのだよ。」

「は????いいぃぃぃいい??!! えっっ?それどう言う事なんです?????」

「バルバリシア、君は『アンゴルモア戦記』を読んだ事はあるか。」

「はい、その読み物は基礎学校の指定推奨読本に指定されていましたから……読んだ事はあります。」

「ふむ、では『緋鮮の記憶』は?」

「それもです。」

「では、その二冊を読んだ感想は。」

数多あまたの英雄の活躍―――数多あまたの困難を仲間達と切り抜け、ついには大願を成就させた……そう感じました。」

「そうか―――では、それを読んだ後に『冒険者になろう』とは?」

「あ~~~さすがにそこまでは……」(アハハハ…)

「それが、だな、その本に感化され『冒険者になろう』としておバカさんが、こいつだ―――」

「それってちょっとひどくなぁ~い!?だってさあ~あの活躍ぶりを読んじゃったら私の脳内で激しく踊っちゃって♪それを私に投影させた時『私はどんな活躍をするんだろう―――』なんて思っちゃったりして。」

「なあ? おバカさんだろう?」(プ・プ・プ・プ)

「え……っ、いや、あの……そのぅ…………」

「ア~グ~リ~ア~ス~~~!」

「まあ、こう言う事が原因でな、激しく駄々をねたものだからシェラザード様が―――……」


『これ以上私の胃を穴だらけにするんだったら、あんたもううちの子じゃないよッ!!』


「―――てな具合になってしまってな……。」

「へっ?」

「そーゆー事、まあ~私としても王族ってしがらみなんて邪魔でしかないしねえ~けれどこれで大手を振って冒険者できるってもんよお~!!」


「(なんて……言ったらいいんだろう、この方ちょっと付いていけない部分があるなあ―――)」


そうは言ったモノの、確かなる事実としてはバルバリシアは再三再四に亘りリルフィーヤに救われており、その想いの根幹としてはこの人物の『助手たすけて』となってその恩に報酬むくいようとしていたのです。


それに―――……


「それよりさ、バルバリシアはどうするの?」

「私ですか?私―――は……」


「(私はこの方の助手たすけてとなって、この方の助力ちからとなりたい―――けど……)」


「だったらさ、行く宛てにやることがないんだったら、私の“従者”になってみない?」

「えっ、“従者”?」


“従者”―――とは、この魔界に於いての、“奴隷”……ではない、また別の形態の『従う者』、“主”と“従”の契りを交わした者は衣・食・住を共有させ―――“主”は“従”を養い、“従”は“主”にすべからく従う…それは平等にして差別なく一緒に暮らす事と同義と言えました。

しかしバルバリシアにしてみれば、その事は本来自分から言い出すべきだった……それを恩のある人から言われてしまった―――その事に。


「(あ……れ?)わ、私じゃ不服だった―――かな?」

「そんなワケないじゃないですか!もう……本当にあなたって人は―――断る理由なんてどこにありましょう、本当は……私の方から、あなた様のお世話を焼かせて頂きたいと思っていたのに。」

「そう言う事だそうだ―――リルフィ。」

「なんだ……そう言う事だったの、返事してくれないからフラれちゃったもんだと思っていたわ。」

「もぉうっ!」(プンスコ)

「アハハ、そのふくれっ面……可愛いわよ、バルバリシア。 それに、あと私の事は『リルフィ』って呼びなさいね。」

「―――はいっ!」


こうしてエルフとハルピュイアとの間で主従の関係は成立しました。

そしてここからが愈々いよいよ―――彼女達3人……いやバルバリシアは従者の立場だから実質2人PTなワケなのですが……


「ふぅ~~~ん……それよりこれからどうしよう?都合あと2人入れた方がいいよね。」

「まあ―――それがPT構成の基本だからな。」

「あの~~私は?」

「ああ、バルバリシアは私の従者だからね、PTの人数には入れない……と言うか、入ることは出来ないの。」

「ふえええ~~~どうも申し訳ありませぇん!こんな役立たずの従者で……」

「(面倒臭いなあ~)そう言うのじゃなくてね……ああもう、こんな時どうフォローしていいか。」

「まあ“慣れ”るしかないだろう、従者とはそういう者なのだ―――とな。 だからと言って別に役立たずではないぞ、従者は従者で出来る事は沢山あるからな。」


どうやらこのハルピュイアは物事をネガティブに捉えがちになる傾向があるようで、そうした少々厄介なぬんど臭い性格をしていたようです。 そこはリルフィの頭痛の種ともなって来るのですが……

それよりも、『基本』の構成にも満たない彼女達だったので、その“穴”を埋めるべくの構成員を探すことになるのでしたが―――


そこはまた、活動を再開させたもまた……だったのです。



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