第2話 隠匿(かく)された名前
一流の冒険者【アルテミス】であるアグリアス―――と、この度新米冒険者となったリルフィ、そしてアグリアスの罠にかかり危うい処をリルフィに
「その……今、ダーク・エルフのあなた様は、その名を『アグリアス』と? 確かそのお名前は―――……『ネガ・バウム王国』の“姫”様のものですよね?」
「ああ、そうだ―――だがそれが何かな?そんな事はこの界隈……特に冒険者と言った連中の間では周知の事実だ。」
「(うえぇ~~ん、ヤッヴあいよう~~もおーーー勘弁してええ~~!)」
「そんな方と……私の命の恩人様とが、親しくしておられる……って―――」
いえ、一つ訂正を……
「私達は一つの括りとしては『エルフ族』だからな、交流することも少なくはない。」
「あ…っ、そ、そうだったのですか、変な事を聞いたりして申し訳ございません。」
「(くっそおぉ~~こんなハズじゃなかったのにいぃ~~それにアグリアスのヤツぅ~~直前に会う場所を
実は―――アグリアスとリルフィが会う場所は本来マナカクリムではありませんでした。(*本来会う場所に定めていたのはネガ・バウムの首都『オレイア』だった)
しかしそれが……今回アグリアスの方から場所の変更が申請され―――たものの、リルフィは抵抗をしたものでしたが…
『私が今回獲得した素材の換金率が
自分の性格をよろしく
根性の悪い先輩が、底意地の悪そうなニヤついた顔で、自分に詰め寄って来る―――
「で―――聞こうじゃないか、ぬあ~ぜ逃がした。」
「(あ゛~~そこは“横獲り”じゃなくて“逃がした”にしてくれたのね……)
「
「その子……明らかに空腹だったよ、本来のハルピュイアなら不自然に落ちている食べ物は拾わないハズなのに……」
「(ふぅむ)それは本当なのか?」
けれど、ハルピュイアは返事をしませんでした。
返事をしませんでした―――が、逆にその沈黙は何よりも強い肯定を現わしていたのです。
“獣人”や“亜人”は今でこそ平等が謳われていますが、それも『あれから』500年も経った
そう―――『あれから』……一人の奇抜な物の考え方をしたエルフの女性が、自分にもゆかりのある
その昔王女だった者が、自らの国であるエヴァグリムを
それを知ると、リルフィの左手が“ギュッ”と固く握り
「(怒っているのか―――だろうな、お前は……)」
何が気に食わない―――かと言うと、自分はその事を……まだ差別が“ある”と言う事を知らないでいた。
「(そう言えば、お母様が良く話してくれていた……自分達の都合が悪くなるような事を知られない様にと、この耳を塞いでくる人達がいると言う事を。)」
エルフは
「(えっ?)あっ…あの―――……?(泣いて―――いらっしゃる?私の命の恩人様が?なぜ―――?どうして―――?この方は悪い事なんかして……もしかするとこんな私を
バルバリシアは、自分の生命を
ただ―――それだけ……
ですが、本当は身分が卑しい自分の事を
その一方では……
「(まずいな……本来ならここまでの事は、するはずではなかったのだが。)」
【アルテミス】であるアグリアスが、リルフィと合流する場所を急遽マナカクリムに変更したのには理由がありました。
その理由とは難しいモノではなく、ほんのちょっと
それが
それなのに、アグリアスが急遽合流場所を変えたと言うのも、この場所ならば“自白”する可能性が高くなると見たから…そう、リルフィの弱みを握っているのは
その“
そこの処を、アグリアスは判っていた―――アグリアスもダーク・エルフの国ネガ・バウムの姫―――なだけに、国の上に立つ人物の耳に届くのは“総て”の事柄ではないことくらいは周知していました。
けれど……“彼女”は知らない―――なぜなら“彼女”こそは……
「―――どうやら、引き際のようだな。」
そういうと、『隠者の外套』という
〖転移:オレイア〗―――
【アルテミス】が一言そう唱えると、その場にいた3人の姿は掻き消えたのでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アルテミス】の転移魔法によりマナカクリムからオレイアへと飛んできた者達、そしてそこで知る―――自分を
そしてそれは、未だその顔を伏して
「(……)すまなかったな―――私が計画としていたのは誰が私の罠を破壊し、そこにかかっていた獲物を取り逃がしたのか……の、理由を聞きたかっただけなのだが、お前も知ってしまったようにまだ一部では獣人や亜人を卑下する嫌いはある。
それをあなた様の母上は、そうした
『えっ…』―――と、小さく感嘆の声を漏らし、鳥の獣人の女性の目が大きく見開かれました。
自分の危うい処を
彼女の本来の名前こそ―――『リルフィーヤ』……
この
「(そんな大逸れたお方が……こんな私の生命を、
ハルピュイアは、事態の大きさに
だから―――とて……
「ごめん……ね?気付いてあげられなくて―――」
その―――次代を約束された方がその頬を涙で濡らし、謝罪の言葉をかけてくる。
その事に
「い…いいえ―――いいえ!そんな大逸れたことを、何と勿体の無い!!」
「(は・あ…)そんなに畏まることはない、バルバリシア。」
「ですがしかし―――!」
「そんな卑屈な処は、お前達獣人に深く根付いての事なのだろうが……」
「アグリアス!そんな言い方ってない!!」
「感情的になるな、これもまた“事実”なのだから。」
「“事実”……?」
「現在よりも昔―――獣人や亜人と言った者は軽く見られがちだった、これは否定したくとも否定できない“事実”だ、そうしたモノを―――“差別”を無くそうと努力されてきた方こそ、リルフィーヤの母上にして現スゥイルヴァン女王陛下であるシェラザード様なのだ、ただ…隔てた壁を取り払ってもお前達の“根”に深く潜む
「(私は―――知らない内にこの方の事を傷付けていたんだ……ああ……折角この生命を
その瞬間から……“ある者”による
その身を呪いで染めてしまった者により……負の情念が、ハルピュイアの身を取り巻き、堕落へ
「ダメだよ!その
「リルフィー……ヤ 様ぁ―――」
黒き帯―――
超大国の次代を約束され、また高貴な身分であられるにも拘わらず自ら危険に飛び込んでくるなんて……
その、また勇気ある“行動”によりハルピュイアは
しかしそのお蔭もあり“その者”からの呪いはリルフィーヤに取り憑きはした……ものの―――?
「リルフィーヤ様……の、呪い―――が?」
「うん、心配はいらないよ。 私はどうやら呪いが効きにくい体質みたいだからね。」
バルバリシアに
それをリルフィーヤが直接バルバリシアの身体に密着接触し、しかし当然その呪いはリルフィーヤにも作用する―――ものと思われていたのです。
……が、何かしらの作用によりバルバリシア、リルフィーヤ両名に及ぼうとしていた呪いは浄化されて行きました。
「(驚いたな―――まさかこの眼で直接視る事が出来ようとは……)」
アグリアスも、その“噂”だけは耳にしていました。
それに…リルフィーヤが彼女以外の他の
けれど…その歴史が物語っているように、ただ優秀―――ただ有能だけでは次期スゥイルヴァン国王は務まらない。
それは“ただ”有能・優秀だけでは、凡庸とさして変わりない事を証明している様なものだったのです。
ただ……リルフィーヤは、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「亜子様も母体も、無理することなく……また難とする事無く安定しているようですね。」
「君の時には難産中の難産だったからねえ~。」
「それは仰らないでください―――【大天使長】様。」
「それにしても対照的よねえ……母親の方はもう大いびきなのに、この子ったら静やかな寝息を立てているなんて。」
「存外、手のかからぬ子に育つやもしれませんなあ。」
「公主様に“地”の熾天使様も、後で知られでもしたら大変ですよ?」
「それにしても、ようやく“望まれた子”の誕生となったようだ、
「この国―――スゥイルヴァンを
今……【宵闇の魔女】の腕の中に
そしてリルフィーヤは、この世に産み落とされたその瞬間から、母から“あるモノ”を引き継いで生まれてきた……リルフィーヤの
そして、“ある事”を確認し終えると、その場で一番権威のある〖神人〗天使族の長である【大天使長】の宣言により、リルフィーヤが次代のスゥイルヴァン女王と成ることが取り決められたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます