第41話
翌朝リデルが目を覚ますと、心配そうにドロシーがやって来た。
「奥様、お加減はいかがですか?」
「ええ、大丈夫です。迷惑をかけてごめんなさい」
泣きながら寝入ったせいかリデルの目は腫れていた。
「そんな迷惑だなんてとんでもないです。私共が奥様をお守りできなくて申し訳なく思います。奥様、これを目にお当てくださいませ」
ドロシーが冷えたタオルを差し出す。リデルはおとなしくそれを目に当てた。冷たさが心地よい。
「ありがとう。ドロシー。それで、保存食の方はどうなっていますか?」
「それならば、ご心配いりません。二、三日中には十分なたくわえができます」
それから、給仕がリデルのために軽い朝食を運んできた。
食欲はわかないが、とにかく食べなければ彼らが心配する。リデルは温かいスープとサラダに手を付け、パンを半分ほど食べた。
その横で、ドロシーがほんの少しブランデーの入った紅茶を注ぐ。一口飲んだリデルは意を決したように口を開いた。
「それで、旦那様はどちらに?」
「今は来客対応されています」
「もしかして、クルト兄さまがいらしたの?」
リデルは慌てて、身づくろいをしてしようと立ち上がる。
「奥様、落ち着いてくださいませ。どうか旦那様を信用なさってください。絶対に奥様が悲しむようなことはなさらないはずです」
ドロシーが懇願するように言う。
「信用……ですか」
確かに今の彼とリデルの間には絆が存在している。しかし、二人は価値観も性格も全く違う。そのことに不安を抱いているのだ。
結局心労もたたってか、リデルはその日、自室で静養することになった。伯父たちの処分はどうなったのだろう。
日もかげるころ、ノックの音が響いた。返事をするとフリードリヒだった。いつもより、表情が硬い。
「旦那様、本当にご迷惑をおかけしました」
「だから、リデルが詫びるようなことではないと言っているだろう。クルトが至らなかっただけだ」
「クルト兄さまとお話になったのですか?」
「ああ、どういういきさつでこういうことになったのか問いただし、今後のことを話し合ってきた」
「私は同席させてもらえなかったのですね」
リデルはしょんぼりと肩を落とす。フリードリヒがリデルをソファに座らせ自身も横にかける。やさしく彼女の肩を引き寄せた。
「落ち着いて聞いてくれ、まず結論を言う。彼はドリモア男爵家の家督の返還を申し出てきた」
「え?」
「そもそもあの家族が乗り込んできて子供から家督を奪ったのだろう。彼はそれに無関心で父母と合わないからと隣国へ留学してしまった。そのことを深く反省していた。君が不当な目にあわされていたことは知らなかったようだが、あの両親だ予想はつくだろうに。それについて責任を感じているようだ。彼に罪がないとはいえない」
「まあ……」
「それで、父親の減刑をこうてきた」
そりが合わなくともクルトにとっては実の父なのだ。
「伯母様と、従姉は?」
「縛り首でも何でも、好きなように処分してくれてかまわないと言われた」
「え? お兄様がそのようなことを」
信じられない気持ちだった。
「リデル、彼らはクルトが留学している間に財産を食い荒らしていた。そもそも彼の留学にも多額の金がかかっている。それも元をただせばドリモア家の財産だ。君からの知らせを受け急ぎ帰国したときにはあの領地すら存続が危ない状態だったそうだ。そして今も危機を脱していない」
「それで、なぜ伯父様方はこちらの領地に来ることになったのですか? お兄様に追い出されたのですか?」
「それに関しては彼らを領地の僻地の屋敷に閉じ込めたと言っていた。もう二度と王都へ行ったり、派手な生活を送ったりできないようにと。しかし、彼らはクルトには秘密で金を持っていた。ドリモア家の家財を勝手に売りさばいて手に入れた金だが……。私が記憶を失い使い物にならなくなったという噂を聞きつけてここまでやってきた」
「ひどい……」
「まあ、そういう噂が流れたのは私が社交をしなかったせいもあるながな……。それでリデルは、絞首刑は嫌なのだな?」
「はい」
これはリデルのわがままなのだろう。彼には貴族としてのメンツがある。平民に城で好き勝手にされたのだ。許すわけにはいかない。
「怖いんです。私がもっとしっかりしていたらここまで大事にはならなかった」
するとフリードリヒは否定するように首を振る。
「君のせいではない。では被害を申し出て王都の憲兵に引き渡そう」
罪をおかしたのだから、罰をうけて当然だがリデルの手は震えた。
「大丈夫だ。リデル、絞首刑は免れるよう私から口添えしよう」
驚いて夫を見上げる。彼は名誉を傷つけられたのにリデルのために譲歩してくれているのだ。
「旦那様、ありがとう……ございます」
せっかく目の腫れが引いたのに、再び涙にぬれた。
「今日のリデルは泣き虫だな」
そう言ってリデルの髪にやさしく手を触れる。
「とにかく今はしっかり休め」
「いいえ、そんなに甘えるわけにはまいりません。お仕事が残っています」
「いいから、君はしばらく休め。働きすぎだ。そんなことより、今日は君と一緒に食事をとれるかい? 私一人では寂しい」
フリードリヒがやさしく微笑み、そっとリデルを抱きしめた。
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